日下部保雄の悠悠閑閑

クルマ選びの妄想

シャルマンのラリー車。5速MTの重ステで、年に1~2回ペースの出動です

 次に選ぶクルマは何にする? と、ちょっと妄想してみるのも楽しい。現在の自分に当てはめてみると、「ND型ロードスター」とラリー車の「シャルマン」という2台のMT車があるものの、シャルマンは小西重幸くんのガレージ「A/m/s」に預けっぱなしなので、手元にあるのは「ND」だけとなる。NDはサイズもちょうどよく、身のまわり品を置ける十分なトランクもあって重宝しており、かれこれ1年半ほどの付き合いになっている。家人も最初は抵抗していたが、昔取った何とやらで、MTのシフト操作も感覚を取り戻し、たまにブンブン(本人談)と走らせているようだ。ま、お手柔らかに頼んますよ。

 ただ、気楽に乗れる実用性のあるクルマも便利だなと思うことがある。実は事務所にはボルボ「V60」があって、荷物の収納力やスウェーデンならではのデザイン、パイロットアシストなど随分と贅沢させてもらっているが、ウチで誰もが使えるクルマはなに? と考えてみる。サイズは幅が1800mmぐらいを限度として、それほど大きくないクルマがいい。そして乗り心地のいいクルマで、全車速付きACCも1度使ってしまうとラクチンに慣れてしまい、こちらもあると便利だ。

日常的に使っている「ND型ロードスター」。なんだかんだ気に入ってます

 ボディ形状は多目的にはワゴンタイプが便利だ。個人的にはセダン好きで、ボディ剛性やトランクと客室が分かれているところなど、節度があって好ましい。私、保守的なんです。

 こんな条件を出して考えてみていると、なんとなくシトロエン「C3」が頭に浮かんだ。その昔、まだグループAに乗っている時にシトロエン「BXブレーク」を持っていたことがある。日本車では考えられないようなエンジントラブルを起こしたり、リッターカーの方が速いのでは? と思わせたりで、戸惑うようなことも多かったが、ハイドロニューマチックの不思議なしぐさとフランス車らしい安っぽさに惹かれて気に入っていた。もっとも、家人にとっては独特なブレーキフィールとインテリアのプラスチックの臭いにやられて、すこぶる評判がわるかった。今のシトロエンはそんなことはなく、シンプルでモダンなデザインで、印象はよかった。乗った感じも意外なほどあっさりとしていたが、シートの心地よさは覚えている。

シトロエン「C3 エアロクロス SUV」。C3一族の後発です

 フランス車ではシトロエンの前、ルノー「シュペールサンク」にも乗っていたことがあるが、コンパクトカーなのにたっぷりとしたシートと明るいヘッドライトに感動した。もっともそのころの日本車のヘッドライトが異常に暗く、シートも腰痛の原因とされるくらいのものだったせいもあって、シュペールサンクのそれは余計に際立った。乗り心地もたっぷりしたサスペンションストロークで快適だった。

 自分の中では、この頃に“フランス車は快適”と刷り込まれた気がする。そう、もしかしたら今は快適な乗り心地を求めているのかもしれない。

 考えてみれば家にいることが長くなり、机を前にしてポンコツの椅子に長時間座っていた結果が快適なクルマ願望に表れたのかもしれない。

 妄想はどんどん膨らんでいくが、合理性だけでクルマを選ぶと大抵は後悔する。過去そういう経験をして、手放したことが何度かある。肩ひじ張らずに適当に妥協して選んだ方が、ボクのクルマ選びには合っているようだ。

 クルマ選びは大変だが楽しい。夢と現実の挟間で揺れながら、いろいろ思いを馳せてみよう。

 あ。そういえば、C3は全車速ACCがなかったような気が……。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。