日下部保雄の悠悠閑閑
鉄道感傷
2022年2月7日 00:00
冬の北海道といえば見渡すばかりの雪原を思い浮かべるが、地域によって降雪量は異なり、本州と同じく留萌など日本海側の量は多い。昨年暮れに訪れた留萌、そしてそこから南に下った増毛にある日本最北端の日本酒メーカー、国稀酒造は今頃は雪に埋もれているのだろうか。
墨色の建屋と純白の世界を想像すると今頃の北海道西海岸にも行ってみたくなる。波が泡立つように暴れる黒い海とその波に削られた海岸線は荒々しい自然を目の当たりにする。厳冬にここに住む厳しさは想像するに余りあるが、人の生活力はたくましく、街のいたるところにその息使いを感じる。そして冬が長く厳しい分、春は格別美しいだろう。
この増毛はかって鰊漁で栄えた街。鰊御殿が軒を連ねて、その富は鉄道を引くまで膨れ上がった。函館本線の深川から留萌(港街で栄えた)までの留萌本線がさらに増毛まで延線されたのだ。その増毛線も2016年に廃線になってしまったが、終点駅だった増毛に駅舎が残っている。名優 高倉健が主演した「駅 STATION」のロケ地だった増毛町を代表する駅舎だ。
今は一部を改築して土地の物産を販売する店舗と増毛線をしのぶ展示が行なわれている。店舗はコジンマリとして食品数もそう多くはなかったが、札幌方面から来る観光客がポツポツと地のものの生鮮食品を購入していた。
増毛線の展示も素朴なもの。今は人気スポットではないが栄華を極めた時代に思いを至らせる。ただせっかくの町の遺産を、歴史を伝える工夫がもう少しほしかった。
留萌本線はディーゼル列車が1両、トコトコと約50kmの道のりを健気に走っている。たまにしか見かけにないのに乗客は数人しか乗っていない。こちらも廃線にならないか心配になってしまう。高速道路が深川から留萌まで延伸されたからだ。
利用したこともない列車に部外者が口を出すのは旅行者の感傷にすぎないが、鉄道が走る風景は心和む。そしてクルマの快適さ利便性は十分に分かっている。それでも北海道を列車で行く旅を何度か思い描いてみた。実現できそうもないが、クルマで踏切を渡る度に、次々と廃線になっていく痕跡を思い出し、いつも同じ夢がよぎる。
例年より雪の少ない旭川で感傷に浸っています。