日下部保雄の悠悠閑閑
ピレリのBEV用タイヤ
2023年7月3日 00:00
先日の横浜ゴムの勉強会でも高荷重用のHLC規格や、電気自動車にとって必要なタイヤの要件などを学んだが、ヒョンデのアイオニック 6にピレリ P-ZERO ELECTが装着されていた。電気自動車が多い欧州ではよく使われているようだが、初めて見る電気自動車用タイヤだ。
タイヤサイズは245/40R20 99Yというワイドサイズ。標準タイヤとは比較できないのが残念。72.6kWhのバッテリーを積むアイオニック 6は2100kgの重量級でタイヤもそれを支える構造と摩耗、それに転がり抵抗を小さくして航続距離を伸ばすという課題がある。
タイヤパターンは4本のストレートグルーブを使った最近の高性能タイヤのトレンドに則っており、左右非対称のデザイン。アウト側はラージブロックでイン側はスモールブロックで構成されている。
P-ZEROのハイパフォーマンスカーにフォーカスした硬いイメージからするとしなやかなのが第一印象。ケーシングは高荷重に耐えるようしっかり作り込まれており、深いバンプに入ってもよじれることはない。
走行中はスポーツタイヤの発する音圧の高い音があまり聞こえない。あれ、コンフォートタイヤだっけ? と思うほどだった。ゴーという音が小さいのだ。市街地のような低速から高速道路までパターンノイズはよく抑えられている。
BEVは言うまでもないエンジンの発するノイズと振動がなく、モーターとインバーター、風切り音とタイヤノイズが主な騒音源になり、そのなかでタイヤノイズを減らせるのは騒音効果は大きい。
P-ZEROのサイドウォールを見ると電気自動車用を示すELCTの後ろにPNCSの打刻を発見。なんだろうとピレリジャパン広報担当の宮本さんに問い合わせると「ピレリ・ノイズ・キャンセリング・システム」の略とのこと。パターンノイズ低減のためにパターンのピッチ配列とサイプの形状でノイズの発生を抑えていると理解した。
この手法はほかメーカーも古くから使っているデザインで、その接地形状やプロファイル設計が年々緻密になっている。
一方、イン側のパターンはアウト側に比べると半分ほどのサイズで構成され、こちらはサイプの角度やブロック間の連結、ショルダー形状などでデザインを変え排水性などを重視している。
コンパウンドはシリカの投入量を増やして、ウェットでのトラクション、そしてしなやかなゴムで乗り心地にも貢献する。
ファーストインプレッションで感じたしなやかさな乗り心地面はゴムからきていることが大きく、ノイズの低減はパターンデザインの効果が大きいようだ。
BEV用タイヤは航続距離を稼いで充電回数をできるだけ減らすために転がり抵抗の低減努力は計り知れない。かつては転がり抵抗の低減とウェットグリップは両立しないと考えられていたが、シリカの活用はその固定概念を打ち破った。シリカだけでは混ざりにくく、進化した分散剤開発もあってタイヤは急速な進化を遂げている。
さらに加減速の大きなBEVにとって摩耗は見過ごせない。ELECTがどんな技術でこれらを克服しているのか興味深い。タイヤは奥が深いのです。
そうそう、ウェットの向上代も大きいようだが、少なくともドライグリップはP-ZEROらしくタイヤ変形の少ないグリップの高さがあり、安定感のあるものでした。