日下部保雄の悠悠閑閑

ピレリのBEV用タイヤ

ピレリ P-ZERO 245/40R20。大径タイヤだが見慣れてしまったのかあまり大きいとは感じなかった。大径サイズはこのところのトレンドだ

 先日の横浜ゴムの勉強会でも高荷重用のHLC規格や、電気自動車にとって必要なタイヤの要件などを学んだが、ヒョンデのアイオニック 6にピレリ P-ZERO ELECTが装着されていた。電気自動車が多い欧州ではよく使われているようだが、初めて見る電気自動車用タイヤだ。

 タイヤサイズは245/40R20 99Yというワイドサイズ。標準タイヤとは比較できないのが残念。72.6kWhのバッテリーを積むアイオニック 6は2100kgの重量級でタイヤもそれを支える構造と摩耗、それに転がり抵抗を小さくして航続距離を伸ばすという課題がある。

 タイヤパターンは4本のストレートグルーブを使った最近の高性能タイヤのトレンドに則っており、左右非対称のデザイン。アウト側はラージブロックでイン側はスモールブロックで構成されている。

 P-ZEROのハイパフォーマンスカーにフォーカスした硬いイメージからするとしなやかなのが第一印象。ケーシングは高荷重に耐えるようしっかり作り込まれており、深いバンプに入ってもよじれることはない。

 走行中はスポーツタイヤの発する音圧の高い音があまり聞こえない。あれ、コンフォートタイヤだっけ? と思うほどだった。ゴーという音が小さいのだ。市街地のような低速から高速道路までパターンノイズはよく抑えられている。

 BEVは言うまでもないエンジンの発するノイズと振動がなく、モーターとインバーター、風切り音とタイヤノイズが主な騒音源になり、そのなかでタイヤノイズを減らせるのは騒音効果は大きい。

 P-ZEROのサイドウォールを見ると電気自動車用を示すELCTの後ろにPNCSの打刻を発見。なんだろうとピレリジャパン広報担当の宮本さんに問い合わせると「ピレリ・ノイズ・キャンセリング・システム」の略とのこと。パターンノイズ低減のためにパターンのピッチ配列とサイプの形状でノイズの発生を抑えていると理解した。

ピレリの電動車用を示すELECTとピレリ・ノイズ・キャンセリング・システムのPNCSの表示

 この手法はほかメーカーも古くから使っているデザインで、その接地形状やプロファイル設計が年々緻密になっている。

 一方、イン側のパターンはアウト側に比べると半分ほどのサイズで構成され、こちらはサイプの角度やブロック間の連結、ショルダー形状などでデザインを変え排水性などを重視している。

 コンパウンドはシリカの投入量を増やして、ウェットでのトラクション、そしてしなやかなゴムで乗り心地にも貢献する。

 ファーストインプレッションで感じたしなやかさな乗り心地面はゴムからきていることが大きく、ノイズの低減はパターンデザインの効果が大きいようだ。

 BEV用タイヤは航続距離を稼いで充電回数をできるだけ減らすために転がり抵抗の低減努力は計り知れない。かつては転がり抵抗の低減とウェットグリップは両立しないと考えられていたが、シリカの活用はその固定概念を打ち破った。シリカだけでは混ざりにくく、進化した分散剤開発もあってタイヤは急速な進化を遂げている。

 さらに加減速の大きなBEVにとって摩耗は見過ごせない。ELECTがどんな技術でこれらを克服しているのか興味深い。タイヤは奥が深いのです。

 そうそう、ウェットの向上代も大きいようだが、少なくともドライグリップはP-ZEROらしくタイヤ変形の少ないグリップの高さがあり、安定感のあるものでした。

P-ZEROを履くヒョンデ・アイオニック 6。日本導入は未定。もちろんBEVです
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。