まるも亜希子の「寄り道日和」

ホンダブースで開発者の想いに触れた「東京オートサロン2023」

ホンダブースのステージ前には、2024年シーズンからSUPER GTへの参戦に向けて開発中の「CIVIC TYPE R-GT CONCEPT」がデーンと鎮座。ひっきりなしに人だかりができる人気でしたが、最終日には東京国際カスタムカーコンテスト2023で、コンセプトカー部門の最優秀賞を受賞! 早くサーキットを走る姿が見たいですね

 3日間の累計参加人数が17万9434人と、2022年を大きく上まわって閉幕した、東京オートサロン2023。日本一のカスタムカーの祭典として、毎年楽しみにしている人も多かったのではないでしょうか? 会場となった幕張メッセ周辺の大渋滞ぶりを見て、活気の方も少しずつコロナ禍前に戻りつつあるのかなと実感しました。

 私もこの業界に入ったペーペーのころから取材で通っているので、かれこれ25年くらい、新年の恒例行事になってますが、ここ2年ほどは感染予防のため自粛していたので、久しぶりのこの熱気! 若い世代や、小さな子ども連れのファミリーがたくさん来場している光景にも嬉しくなりました。

 出展車を見てまわっている時には、若い世代の皆さんがどんな感想を持っているのか、密かに聞き耳を立てていたりするのですが(笑)、今回多く聞こえてきたのは「新型クラウンクロスオーバーがカッコいい」というコメントと、「新型シビック TYPE Rに乗ってみたい」というコメント! どちらも、これからの世代のクルマ好きもちゃんと育っているんだなと、感じさせてくれる言葉で嬉しいですよね。

 さて、今回私はそんな「シビック TYPE R」の開発責任者を務める柿沼秀樹さんと、3年間一緒にレース活動を共にした、フィット開発責任者の奥山貴也さんのトークショー「S耐・Joy耐 〜ものづくりへの想い〜」の司会としてホンダブースに立たせていただきました。

フィット開発責任者・奥山貴也さん(右)と、シビック TYPE R開発責任者・柿沼秀樹さん(中央)のトークショーは、基本的にぶっつけ本番のフリートークだったこともあって、本音のガチトークが炸裂。奥山さんが会場の皆さんへ、「ずっと立ったまま聞いて下さった皆さんのその目を、僕たち開発者は覚えています。その目に応えるために、もっともっと喜んでもらえるクルマづくりに励みますので、今後のホンダに期待してください」とメッセージを送っていて、ステージ上なのに思わずウルっときてしまいました

 柿沼さんは4年ほど前から先代のシビック TYPE RでS耐への参戦をスタート。自らがドライバーとして試行錯誤しながら、レースで得たものを2022年9月に登場した最新の「シビック TYPE R」にフィードバックしています。

 一方、奥山さんも4代目のフィットが登場してすぐの2020年に、2モーターハイブリッド「e:HEV」ならではの走る楽しさを磨くべく、新たなチャレンジとしてJoy耐への参戦をスタート。私がチーム代表を務めるレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」とタッグを組む形で、夏の7時間耐久レース、冬の2時間耐久レースを闘ってきました。その模様は過去のコラムでもレポートしているのですが、まぁ苦難の連続でもあったのです。

 どちらのレース参戦も、特徴はレース専門の部署がやるのではなく、ホンダの市販車の開発業務を行なっている従業員が活動しているというところ。とくにS耐の方は完全なる課外活動で、業務が終わってからの時間を使ってマシンづくりやテストなどを行なうという、とてもハードな活動です。それでもなぜ、やるのか? その目的や意義を問うと、やはり「人材育成」が大きな目的であり、意義だと答えてくれました。

 柿沼さんは「20代・30代前半の若い世代が、自分からやりたいと手を挙げてチームに加入してくれることも嬉しいし、寝る間を惜しんで少しでもマシンをよくしたいと作業している姿は、僕たち世代が逆にやる気をもらうんです」と語ります。その相乗効果で、結果としてホンダのものづくりへの情熱が全体的に高まって、若い世代にも受け継がれて、お客さんに楽しんでもらえるクルマが出せることにつながってほしい、というお話が印象的でした。

 そして奥山さんは、「大人になると、なかなか子どものころみたいに夢中になって何かに打ち込むことって少ないですよね。でもレースをしてみたら、みんなが目をキラキラさせて作業してるんですね。壁にぶち当たっても、なんとかしてそれをクリアできないか、もっと速く走るにはどうすればいいか、悩んで悔しい思いをしてそれを超えた時、涙が出るくらい嬉しいんです。部署のちがう者同士が、同じ目標に向かって一致団結して、協力してくれる多くの人たちとの強いつながりも生まれて、それが今度、ひとりひとりが自分の業務に戻ったときにも生きてくるのだと確信しています」と語ってくれました。

 創始者の本田宗一郎さんのころから、「人間中心」のクルマづくりを受け継いできたホンダとしては、そうした情熱を持った従業員を育てることもまた、大切な財産なのだということかなと、感慨深く聞いていたのでした。

 また実際に、レースに参戦したからこそわかった弱点、新たな気づきなど、いろんなノウハウが市販車のフィットRS、シビック TYPE Rにフィードバックされています。「モーター駆動になったからといって、ホンダは走る楽しさをあきらめないぞ、というところを皆さんに見せたかった」と奥山さんが語るように、フィットRSにしかない「SPORTモード」は一度、試してみてほしいですね〜。Joy耐マシンのような瞬時のレスポンスに加えて、奥山さんが「ハーモニー」と呼ぶ、操作のつながりがとても爽快なんです。

ホンダブースにはGTコンセプトのほかにも、無限仕様、S耐参戦仕様、ホンダアクセス仕様と、たくさんのシビック TYPE Rが展示してありました。こちらはホンダアクセスのSPORTS ACCESSORY CONCEPT。FRP製のテールゲートスポイラーが、ヤンチャだけどどこか大人っぽい雰囲気もあって惹きつけられました

 シビック TYPE Rの方も、試乗したときに首都高をこんなに気持ちよく走れるスポーツカーは久々だなと実感しました。パワフルなのに、バランスがよくて人にも優しくて、「先代は長くサーキットを周回していると、ピットインまだかな? と思っていたのに、新型はあと10周でも20周でも走りたいと思うくらいでした(笑)」と柿沼さんが言っていたのも納得。3月に開幕する2023年シーズンのS耐では、「今までは参戦するのが精一杯という感じだったけど、今年はチャンピオンを獲りに行きます!」と宣言していたので、ぜひサーキットでの勇姿を見に行ってほしいと思います。

 そんなこんなで興味深いお話がたくさん飛び出した、オートサロンでのトークショー。普段はなかなか聞けない、開発者のナマの声をお届けできる機会が今年はもっともっと増えるといいなと思いました。そして個人的には、ルノーブースに最終モデルとなるメガーヌR.Sが展示されていたので、「シビック TYPE Rとの最終決戦をニュルか鈴鹿でやってください!」とリクエストしておきました(笑)。

ついに私たちの29号車が、オートサロンの晴れ舞台に! たくさんの人にカシャカシャと写真を撮ってもらっている光景に、Joy耐で一緒に闘ってきた日々がよみがえり、胸が熱くなりました。e:HEVでもサーキットを攻めること、走る楽しさを磨くこと。それをあきらめなかった開発チームに、あらためて拍手を送りたいです
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSDとスズキ・ジムニー。