イベントレポート

開発コードネームは“ブラックバタフライ”、レクサスの新型デジタルコクピットはバッテリEVならではの体験を提供

レクサス「LF-ZC」「LF-ZL」に搭載されるDigitalized Intelligent Cockpit。開発コードネームはブラックバタフライ

レクサスが2026年導入予定のバッテリEVに搭載する新型デジタルコクピット

 レクサスは、2026年導入予定の次世代バッテリEVのコンセプトモデル「LF-ZC」と、未来のビジョンを示唆するバッテリEVフラグシップコンセプトモデル「LF-ZL」を世界初公開した。

 この「LF-ZC」など新世代のバッテリEVには、新しいコンセプトのコクピットが用意されている。それがDigitalized Intelligent Cockpit(デジタライズド インテリジェント コックピット)。前方の見通しのよいステアバイワイヤの異形ステアリング、ステアリングの少し奥の両脇に配置されたデジタルパッド、そしてメーターパネルも光の回折を使って、実際よりも遠くに見せることで視線移動を最小にしようとしている遠視点メーターであることが分かる。

助手席側にはエンタテイメントスクリーンが広がる

 実際に「LF-ZL」に座ることができ、ステアリングに手を持って行くと、そのすぐ脇にデジタル表示された操作系があるのは使いやすい。左側がシフトやADASなどのパワートレーン系コントロール、右が曲選択などのエンタメ系コントロールができるようになっていた。

 このものすごく未来的なデザインのデジタライズド インテリジェント コックピットだが、トヨタのバッテリEVコンセプトにもシンプル化されたものが搭載されており、一つのポリシーで貫かれているのを感じる。取材を進めるうちに、あちらこちらで“ブラックバタフライ”という開発コードネームが聞こえてきた。

レクサス「NX」から始まっていたブラックバタフライ

 このコクピットデザインの源流となる開発コードネーム“ブラックバタフライ”。実は初代は、レクサス新型「NX」になるという。新型NXは次世代レクサスの先駆けとしてデビュー。レクサス独自の「Tazuna Concept」を実現するクルマとして、デジタルメーターや大型液晶を装備している。

 Tazuna Conceptは自動運転時代も見すえて採り入れられた人間中心の運転環境を実現する思想で、手綱でつながった「人と馬」の関係を実現するものと説明されている。

 人と馬をつなぐ手綱のように操作系を配置し、運転時も自動運転時も使いやすいようデザインされている。「視界は常に前方に置きながら、手元の操作をいかに安全に行なえるか」という思想のもとに作られたコクピットの開発ネームがブラックバタフライだったのだ。

 言われてみると、確かにNXでは手元の操作系が充実している。IVI(In-Vehicle Infotainment)の操作系も近くなり、手の移動量も小さくなっている。ただ、見た目には従来コクピットの改良系と思える部分もあり、ブラックバタフライというコードネームで開発されていることには気がつかなかった。

2世代目のブラックバタフライ

 今回のレクサス「LF-ZC」「LF-ZL」では、全面的にデジタル技術が採り入れられたのが誰にでも分かるようになった。しかも、単にスマートフォンやタブレットのようなスレートディスプレイを2枚(メーターパネルとIVI)並べただけではなく、デザインから思想性を読み取ることができる。

 レクサスのデザインを統括するLEXUSデザイン部 部長の須賀厚一氏によると、今回のブラックバタフライは2世代目になり、ディスプレイをどう配置していくべきかという点から見直してあるという。

 遠視点メーターでは見やすさにこだわっており、それは電子サイドミラーからの情報を表示するディスプレイも同様で、遠視点仕様になっている。

 2世代目のブラックバタフライでは、遠視点メーターが見やすいようにステアバイワイヤの異形ハンドルを採用。ただ、これはメーターだけでなく、実際の風景、遠視点メーター、異形ステアリングといったところが直線に並び、「Eyes on the road(常に路面を注視している状態)」を作り出すためだという。

左側のデジタルパッド。ドライブトレーン系の操作が行なえる
右側のデジタルパッド。エンタメ系の操作が行なえる。ハザードをハードウェアスイッチで操作できる
デジタルパッドの裏側は、操作しやすいようにくぼんでいる
ステアバイワイヤの異形ステアリングの裏側にもシフトスイッチなど、ハードウェアスイッチが意外とある

 異形ステアリングの両脇に配置されたデジタルパッドも同様で、スマートフォンライクな操作を実現し、左側にはドライブトレーン系の、右側にはエンタテインメント系のコントロール画面が表示される。

 プロトタイプの記事では、現在のADAS関連スイッチは右なのに、なぜこれでは左側にADAS系が切り替え式で表示されるのかという点に疑問を呈していたが、今回はそこをすっきり答えてくれる方に出会えた。

 デジタルパッドの左側にドライブトレーン系が表示されていたのは、左ハンドル仕様のため。基本的な思想としては、ボディ外側がドライブコントロール、センター方向がエンタメコントロールになるとのこと。つまり、右ハンドル仕様では、ADAS系のファンクションも従来同様、右に置かれることになる。つまり、記者の懸念は元から解消していたことになる。

 ちなみにデジタルパッド名称の理由は、インタラクティブであるため。単に見るだけでなく、ソフトウェアスイッチやスライダーとしても動作する、双方向のやり取りを行なうことができるためパッドと名付けられたとのこと。

 ブラックバタフライであるならば、チョウの羽のように右がライトウィングパッド、左がレフトウィングパッドなのかと聞いたが、そこはまだ決まっていないとし、右のパッド、左のバッドと呼ばれているようだ。

 このデジタルパッドを支えるアームも左右それぞれ2本出ており、右の上部にはハザードスイッチがある。このハザードについては、緊急時に使うスイッチのため固定したかったとのことで、なにかあったらすぐに押せる位置として固定されている。

 デジタルパッドを支える4本のアームについても名称を聞いてみたが、右のアーム、左のアームとのこと。チョウの羽は、前翅、後翅に別れており、4本のアームもこれに見立ててのものかと聞いたら、そこから来たのではなく、アームそれぞれの中央を抜くことで、コクピット内の見通しをしやすかったとのこと。Eyes on the roadの思想の下に抜けているようだ。

 このスタイリッシュで画期的なDigitalized Intelligent Cockpit(開発コードネーム:ブラックバタフライ)のデビューは、「LF-ZC」搭載のため2026年。これから、法規的な対応、使い勝手の検証などを行なっていく。

 個人的には、ST-Qクラスなど市販車を用いるスーパー耐久レースの場で使い勝手を作り込み、24時間レースでの夜の使い勝手、体の疲労度の差など実使用データがデザインに盛り込まれているとうれしいところ。

 また、各部の名称などもお客さまとのコミュニケーションのためには、短く分かりやすい(そしてかっこよい)とありがたい。「ブラックバタフライの、LWP(Left Wing Pad)って分かりやすいね」など、クルマ談義も弾むに違いない。もちろん記事も書きやすいような気がしている。

 よく上海モーターショーによる中国EVショックと言われることも多いが、その多くの要素はデジタルコクピットと、跳ね上げ式のドアなど、見た目にかかわる部分が多い。

 レクサスが提案する2世代目のブラックバタフライは、見た目はもちろん、裏にTazuna Concept、Eyes on the roadの思想があり、さらにこれから使い勝手も練り込まれていく。クルマ屋が作るバッテリEVの登場を楽しみに待ちたい。

 コクピットを見ているだけで楽しく、思想を感じられ、そしてドライブの際にどのような景色を見せてくれるのか今からワクワクする、レクサス「LF-ZC」「LF-ZL」はそんなクルマだった。

編集部:谷川 潔