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トヨタ、熱効率40%以上を達成した新2.5リッターエンジンやFF用8速ATを世界初公開したパワートレーン説明会
新エンジンは「レーザークラッドバルブシート」「可変容量オイルポンプ」などの新技術採用
2016年12月7日 11:53
- 2016年12月6日 開催
トヨタ自動車は12月6日、同日に発表した最大熱効率40%(HV専用で41%)を実現する直列4気筒 2.5リッター直噴ガソリンエンジン、FF(前輪駆動)車向けの8速ATなど、「TNGA(Toyota New Global Architecture)」で一新した新開発パワートレーンについて解説する技術説明会を都内で開催。会場で新型エンジンやFF車向けの8速ATなどを世界初公開した。
トヨタ車に搭載されるエンジンは、これまで採用する車両の性格などに合わせてそれぞれに設計し、造り分けを行なってきたが、TNGAの開発思想を採り入れて生み出された新しいエンジンでは高効率化、クリーン化を追求する新技術を多数採用。トヨタが「全方位で大幅に進化した」とするこのエンジンは「コモンアーキテクチャー」として位置付けられ、今後に登場するエンジンもこのコモンアーキテクチャーの構造を受け継ぎつつ、排気量や気筒数、組み合わされるハイブリッドシステムやターボチャージャーなどを変更することで使い分けを行なっていることになる。
これに加え、エンジンを生産する工場の加工や組み付けの行程も統一を推し進め、排気量の異なるエンジンも共通化された加工治具で生産できるようにしていくほか、生産工程や設備などについても仕様を統一。これにより、生産設備をコンパクト化してスペース効率を高め、エンジン生産のエネルギー使用量を削減して環境負荷を抑制する狙いとなっている。
エンジンバリエーションは「気筒容積」と「気筒数」の組み合わせで構成
説明会では最初に、トヨタ自動車 専務役員 パワートレーンカンパニー プレジデントの水島寿之氏が、4月からスタートしたパワートレーンカンパニーでの取り組みについて解説。
水島氏は近年の地球温暖化、大気汚染などに起因する異常気象は日常生活の脅威になっていると語り、世界各国で今後の気温上昇を2℃未満に抑えるための活動が始められてると解説。究極的にはCO2排出量をゼロ以下にしていく必要があり、一刻の猶予も許されないとの現状認識を明かした。現実的に世界各地で燃費規制が強化され、これまで規制がなかった国などでも規制が行なわれるようになるほか、今後は排出ガスの規制についても強化されることが予想されており、トヨタとしては積極的に対応する必要があるとの考えを示した。
これを受け、トヨタでは2015年10月に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表。2050年に向けて「新車CO2ゼロ」「ライフサイクルCO2ゼロ」「向上CO2ゼロ」など6項目の目標を設定し、取り組みを続けることで2010年比で新車CO2排出の90%削減、グローバル工場CO2排出ゼロを2050年に実現することにチャレンジしている。
一方、トヨタでは思いどおりの走りを実現して、ユーザーが安心してクルマの走りを楽しめることも重要な要素として位置付け、あらゆる面で「もっといいクルマ」を提供し続けることも使命としていると水島氏はコメント。「省エネルギー」「燃料多様化への対応」「エコカーは普及してこそ環境に貢献する」という3つの要素と同時に、クルマの楽しさを追求することを両立させていくことをトヨタの基本スタンスとして紹介した。
この具体的な例としてハイブリッドカーの進化について語り、「プリウス」が初代モデルから4代目までのあいだに燃費性能を高めつつ、ハイブリッドシステムにまつわるコストを低減していること、ハイブリッドカーのラインアップを拡充してコンパクトカーからLクラスセダン、ミニバンや商用車などあらゆるカテゴリーに選択しを用意していることなどを解説し、初代プリウスを発売した1997年からの20年弱で累積6700万トンのCO2削減で環境に貢献しているとアピールした。
また、2050年までの将来予測ではFCVやEVなどの普及が促進されながらも、今後種類が増えていくことが見込まれているハイブリッドカー、プラグインハイブリッドカーにはエンジンが搭載されていくことから、この先もエンジンやトランスミッションを進化させていくことがCO2排出量を削減し、環境に貢献することにつながると語った。
トヨタでは4代目プリウスからクルマを骨格から一新して運動性能を高め、基本性能である「走る」「曲がる」「止まる」といった要素をレベルアップさせるTNGAを全面的に採用。このプラットフォーム刷新に加え、今回からエンジンやトランスミッション、ハイブリッドシステムについてもTNGAを導入。購入したユーザーが「いつまでも走っていたい」と感じるような“もっといいクルマづくり”に繋げていくとした。
パワートレーンカンパニーでは新たに開発するパワートレーンについて、「基本骨格」「要素技術」「将来技術」の3つに分け、燃焼効率や軽量・コンパクト化、低重心化などの基本骨格は徹底的に磨き上げつつ使い続け、そこに商品性や販売地域ごとのニーズ、環境変化などに対応する要素技術を組み合わせ、さらに将来の技術革新を採り入れられる構造で構成していると水島氏は解説した。
また、ユーザーにより早く製品を届けられるよう、開発効率の向上、生産スピードのアップを推し進めることも必要だと語り、エンジン開発だけでなく、生産技術や向上の革新、働き方の変革なども同時に実施していくことを目指しているとする。このため、エンジン生産ラインの加工基準や組付基準などを統一。異なるエンジンをすばやくフレキシブルに生産できるラインを新開発し、グローバルで生産工程や設備仕様を統一していることから、今後は年間100万台のスピードで新開発ラインに切り替えて一気に全世界展開とする計画であることも明らかにされた。
製品となるエンジン開発では、従来は車種や用途に合わせてエンジンの構造や組み合わせるデバイスを開発していたが、TNGAではクルマのプラットフォーム刷新と全パワートレーンの刷新を同期させることにより、エンジンの重心や搭載方法などを最適化して構造の統一を実施。合わせてエンジンの燃焼室やシリンダーの設計なども統一して、エンジンバリエーションは「気筒容積」と「気筒数」の組み合わせで構成できるようになった。今後はエンジンの種類を整理。統合し、新型エンジンへの置き換えで約40%の削減が実施されることになっている。
新型エンジンは世界初の「可変容量オイルポンプ」など新技術を搭載
新型パワートレーンの技術解説は、トヨタ自動車 常務役員 パワートレーンカンパニー バイスプレジデントの岸宏尚氏が担当。
岸氏は「優れた走行性能と高い環境性能の両立」「ダイレクト&スムース」という2つのテーマを与えられて開発されたTNGAの新しいパワートレーンについて、新開発した「Dynamic Force Engine」と名付けられた直列4気筒の2.5リッター直噴ガソリンエンジンを、同じく新開発となるFF車向け8速AT「Direct Shift-8AT」、または新型2.5リッターエンジン用に開発されたハイブリッドシステム「THS II」と組み合わせた2種類を紹介。それぞれ燃費を約20%向上させながら、同時に動力性能を約10%高めているとアピールした。
「トヨタは従来よりエンジン、トランスミッションの効率向上を最大限に追求してきました。TNGAでは今までの損失低減技術をさらに進化させたうえに、パワートレーントータルでのシステム効率を最大化し、低回転から高回転まで、幅広く燃費も走りも向上させることを目指しました。そのため、まずエンジンでは熱効率をさらに高め、低回転まで低燃費領域を拡大します。同時にエンジントルクを向上させ、トランスミッションのワイドギヤレンジ化を助けつつ、より高い熱効率領域を活用することを目指しました。さらに制御の高度化により、ワイドギヤレンジ化の変速によるロスを最小限に抑制することも目指しています」と岸氏は解説し、システム効率を高めるポイントを明らかにした。
また、ドライバーの意図に沿った走りを実現するダイレクト&スムースの面では、「発進」「追従」「追い越し」といったシーンを例として挙げ、アクセル開度と前後Gの発生がリンクしていることをグラフとイメージムービーで紹介。また、エンジン回転の上昇とリズミカルな変速でダイナミックに車速が伸びるようセッティングしていることも説明した。
ここで注目したいのは、追従走行などのシーンでアクセルをOFFにしたときの減速G発生もシャープに反応している点。TNGAでは“もっといいクルマづくり”に向けて、コンピュータシミュレーションによるMBD(モデルベース開発)を積極的に活用しており、今回のパワートレーン開発では主にロックアップ領域を拡大する場面で、低回転領域でこもり音や振動を低減する取り組みが行なわれている。これに付随して、従来型のパワートレーンではアクセルOFFの操作をしたときに不快な振動などが発生しないようエンジン回転の低下を制御していたところを、MBDを活用した新型パワートレーンでは構造設計の時点で振動が発生しにくい状態になっていることから、ドライバーのアクセルOFF操作にシャープにリアクションできるようになっているという。
Dynamic Force Engineと名付けられた新型エンジンは、「排気」「冷却」「ポンピングロス」「フリクション」という4つの損失についてトヨタが培ってきた基盤技術を地道に進化させて低減を図り、TNGAの新しい取り組みとしてさらなる高速燃焼の追求による燃焼の質の向上、吸入効率の大幅な向上をベースとして開発が実施された。
新型エンジンでは世界初となる「可変容量オイルポンプ」、新工法の開発で量産化を実現した「レーザークラッドバルブシート」、6つの噴射孔を持つ「マルチホール直噴インジェクター」など数多くの先進技術を採用。このほかにもバルブ挟角の拡大、ボア×ストロークの最適化、ポート端部形状の変更など多彩な設計見直しなどを行なって空気の吸入量増加と強いタンブルの発生を両立。これらの技術と物理量、設計諸元などを「コモンアーキテクチャー」として設定。今後開発される全エンジンでの展開とすることで、開発・生産のスピードアップを図っていく。
この結果、新しい2.5リッター直噴エンジンは高い出力比を持ちながら、コンベンショナルなガソリンエンジンで最大熱効率40%、THS IIと組み合わせるハイブリッドモデルで最大熱効率41%を実現。さらに低回転から高回転まで全域でトルクアップし、排出ガスでもPM(粒子状物質)を60%低減している。
なお、バルブシートに金属粉末の特殊な合金をレーザーで溶射するレーザークラッドバルブシートは、過去のトヨタ車でも採用例が存在するものの、当時は1カ所ずつほぼ手作業で加工を行なう少量生産に限られるものとなっていた。これを今回は通常のラインで加工を行ない、加工後の状態をすばやくチェックできる工法を確立したことで採用が実現した。今後は排気量の大小などに関わらず、新しいエンジンにはすべて採用される予定になっているという。
新型エンジンと合わせて世界初公開されたFF車用の8速ATは、「伝達効率向上」「エンジン高効率領域の活用」「リズミカルな高応答変速」の3点をテーマに、機械損失の低減、ロックアップ領域の拡大、ワイドレンジ化と多段化が行なわれた。伝達効率向上では損失低減を徹底的に取り組み、採用技術の1つとなった「超仕上げ歯面ギヤ」は歯面を鏡面仕上げのように滑らかに加工しつつ、噛み合い時に必要となる潤滑油を保持する凹面を備えた特殊加工を採用する。ロックアップ領域の拡大では前出のMBD活用のほか、ATギヤトレーンの最適慣性配置、高減衰ダンパーや多板式ロックアップクラッチを使う新トルクコンバーターの採用などを行なっている。
今後の予定では、2021年までの5年間で19機種37バリエーションの展開を予定。すでに発売している4代目プリウスのTHS II、レクサス「IS」などに搭載しているFR車用のDirect Shift-8ATに続き、2017年には新開発の2.5リッター Dynamic Force Engineに、FF車用のDirect Shift-8AT、または2.5リッター用THS IIを組み合わせて市場投入すると明らかにされた。この先は既存製品からTNGAのパワートレーンに順次シフトさせていき、2021年には販売する60%以上のモデルで新型パワートレーンを搭載する計画として、パワートレーン分だけで2015年比で15%以上のCO2削減を見込んでいる。