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世界の自動車安全評価の担当者が参加するフォーラム「2017 NCAP&Car Safety Forum in Tokyo」レポート(前編)

Euro NCAP、ASEAN NCAP、K NCAP担当者がプレゼン

2017年8月1日~2日 開催

「第4回 2017 NCAP&Car Safety Forum in Tokyo」の模様をレポートする

 現在発売されている新車(国産車/輸入車とも)には、クルマの安全性を0個から5個の星の数で示す制度がある。これは、自動車の安全性を衝突実験や研究を行なうことで検証し、その結果を公表する団体によって提示されているもので、日本ではNASVA(自動車事故対策機構)が主体で行なっているJNCAP(Japan New Car Assessment Program)の評価がそれにあたる。

 このようなクルマの安全性を評価する制度は世界にいくつかあるが、なかでもヨーロッパのEuro NCAPがこの分野でもっとも権威のあるものと認識されている。そのため、日本の自動車業界関係者はもっとも進んだ自動車安全の情報を得るため、それぞれでEuro NCAP関係者と会合を持っていたが、相手が来日しても時間的な制約があるので話ができる団体・企業は限られる。

 そこでEuro NCAP関係者を日本に呼ぶこと、および日本での行動のサポートをしていたサステイナブルコミュニケーションズの代表取締役社長 山本信三氏が「日本の自動車業界のためにも、できるだけ多くの業界関係者に対してプレゼンテーションができる場所を設ける」ことを提案。こうして始まった「NCAP&Car Safety Forum in Tokyo」では、Euro NCAP以外にも複数の国から自動車安全評価の担当者が参加する、内容の濃いフォーラムとして年に1回開催されるようになった。

サステイナブルコミュニケーションズ株式会社 代表取締役社長 山本信三氏

 そして今年も8月1日~2日の2日間にわたり、「第4回 2017 NCAP&Car Safety Forum in Tokyo」が開催された。今回は海外における最新の自動車安全の内容に加え、年々注目度が高まっている自動運転についても議題として取り上げられた。フォーラムの構成は1日目が「NCAP」について、2日目は「自動運転」である。

「第4回 2017 NCAP&Car Safety Forum in Tokyo」のゲストとして招かれたのは、世界の自動車交通業界に影響力を持つキーマンたちで、メンバーはアンドレ・ジーク氏(BASt of Euro NCAP)、エイドリアン・ヘルマン氏(BASt Euro NCAP Active Safety)、カイリル・アンワル氏(ASEAN NCAP Secretary General)、デヴィッド・ズビー氏(IIHS/全米損保協会交通研究所)、ユン・ヨンハン氏(K NCAP)である。

Euro NCAPのプレゼンテーション

Euro NCAPのレーティングチーフであるアンドレ・ジーク氏

 フォーラム1日目のテーマであるNCAPについての内容だが、登壇者の話は技術者や専門家向けの内容がほとんど。そこで本稿では、一般の自動車ユーザーが知っておきたい現在の安全評価の状況についての部分のみ取り上げる。これについてはEuro NCAPのレーティングチーフであるアンドレ・ジーク氏の発言を中心に紹介する。

 ジーク氏からはまず、Euro NCAPについての説明があり、「Euro NCAPはクルマのパッシブセーフティ、アクティブセーフティなどを調査することが中心となっていて、クルマの安全性に関するレーティングに影響を与えています。日本にも同様のものとしてJNCAPがありますが、Euro NCAPとは異なる点があります。JNCAPは国が関わっています。同様にアメリカのNCAPも国が関わっています。それに対して、Euro NCAPは12のメンバーから成るものであり、7つの政府が関わっています。さらに5つのNGOも関わっています。私が所属するBAStとはドイツ交通研究所のことで、これはドイツ政府から分離したものとなっています」と、各国のNCAPの成り立ちの違いについて解説。

Euro NCAPについて。Euro NCAPは12のメンバーから成るものであり、7つの政府、5つのNGOが関わっている

 続けて「ヨーロッパでは自動車事故による犠牲者数は減っていますが、目標値はもっと高いところにあります。これは10年かけて達成する目標ですので、Euro NCAPでは新しい安全技術を市場にもたらすことで交通事故による犠牲者数を下げていかなければなりません。そのためにEuro NCAPではさまざまな試験をするのですが、そもそもクルマには国の機関による型式の認定があり、それを満たしていないとクルマとして販売することはできません。Euro NCAPは、市場ですでに販売されているクルマに対して厳しいテストを行ない、安全性に関してのランク付けを行なって差別化するものなので、型式認定の試験よりも内容が厳しくなっています」。

「ヨーロッパで販売されているクルマのうち、93%はEuro NCAPからスターレーティングを受けています。ちなみにレーティングが成されていないクルマとは、Euro NCAPのカテゴリーで“スーパミニ”に分類されるクルマの一部、大型のオフロード車などの一部です。それから高価なクルマもレーティングがされていないケースもあります」とのこと。

Euro NCAPが調査した安全技術導入の状況とレーティングの状況について
ヨーロッパで販売されているクルマの93%がレーティング済み
レーティングを行なっていない車両の内訳

 続けて「スターレーティングには6年間の期限があり、例えば2017年にレーティングを受けたモデルは2023年までしか適用されないことになります。これは、最新のプロトコルを用いた評価を優先するためで、期限の切れたクルマは再試験を受けることも可能になっています。ただ、クルマの進歩は目覚ましく、新しいプロトコルはその時代の電子的なアーキテクチャにあった評価になるので、古いクルマには非常に厳しいテストになるかもしれませんが、自動車メーカーは最新のプロトコルにアップデートできるようクルマを作っていけば、新たにスターを取り直すことも可能です。また、多くの新車は販売期間途中にフェイスリフトを行ないますが、Euro NCAPとしてはそれを“新しいクルマ”として見るので、そのときの最新のプロトコルで試験をします。ヨーロッパの自動車メーカーのフェイスリフトはそういう考えで行なわれています」。

2009年にレーティングを受けたときには5つ星だったが、プロトコルが変わった2017年の判定では3つ星となった例

 さらに、「Euro NCAPは2年ごとにレーティングシステムを更新しています。ですから、2018年からはまた項目が増えて厳しいテストになります。そのため、自動車メーカーからはレーティングが厳しくなる前の2017年までに取るという動きも多くあり、今はいろいろと忙しい状況になっています。ちなみに2018年には、自転車に対する衝突被害軽減ブレーキ(AEB)の項目が追加されます」とのこと。

 Euro NCAPのレーティングについては、「私たちのレーティングシステムは4つのカテゴリーに分けられます。項目は大人、子供、乗員、そして歩行者です。これに来年からは自転車も加わります。こうしたものに対して、自動車メーカーはどの部分にポイントを置くか? ということを考えていく必要があります。評価を決めるレーティングの方法は非常に複雑なものとなっているので、自動車メーカーの方はこの仕組みを理解することも重要です」と語った。

アンドレ・ジーク氏の解説時に使用されたEuro NCAPの評価例。項目は2年ごとに更新されるとのこと

 次に解説されたのはEuro NCAPの2020年に向けたロードマップで、「2016年には新しいダミーを使うこと、そして歩行者向けのAEB、レーンキーピングの支援が組み込まれました。2018年からは歩行者向けのAEBのアップデートや、自転車向けのAEBが追加。2020年には衝突時の乗員保護試験も変更されます。もう1つ、ドライバーから離れた場所に座っている乗員保護をどのように行なうかということのプロトコルも、多くの自動車メーカーが参加するワーキンググループに支援してもらっています」とのことだった。

2020年に向けたロードマップについて

 Euro NCAPのユーザーに対するコミュニケーションについては、「Euro NCAPはユーザー向けのコミュニケーションツールも使っています。まずは“スターレベル”と呼ばれる星マークで総合点を示す評価があります。そしてもっと深く知りたいという人のために、それぞれの項目ごとに個別の成績が分かるようにしてあります。なので、例えば子供がいないユーザーが選ぶクルマの場合は、子供を対象にした項目の点数は関係ないので、それを見越してスターレベルを評価することもできるのです」とのこと。

 また、Euro NCAPでテストするクルマはオプションパーツを付けていない標準車でレーティングを行なっているが、クルマによっては安全性を向上させる装置がオプションになっていることもあり、これだとAEBなどのアクティブセーフティ機能をオプション装着した場合はレーティングが変わってしまう。そこで、2016年以降はアクティブセーフティ系のオプションを装着した場合のみ、レーティングを分けたデュアルレーティングが採用されたとのこと。ただし、2019年以降はアクティブセーフティのうち、AEB Cityの機能は標準装備していないと評価ポイントは付かなくなるという。

ユーザーに対するコミュニケーションについて
デュアルレーティングについての解説

 このあとはエイドリアン・ヘルマン氏(BASt/Euro NCAP Active Safety)、カイリル・アンワル氏(ASEAN NCAP Secretary General)、デヴィッド・ズビー氏(IIHS/全米損保協会交通研究所)、ユン・ヨンハン氏(K NCAP)と順番に登壇したが、こちらは発言の要点のみを紹介する。

BAStに所属。EuroNCAPではアクティブセーフティを担当するエイドリアン・ヘルマン氏

 まずはエイドリアン・ヘルマン氏からだが、「Euro NCAPが行なう試験はすべて精度が高く、比較ができるものでないといけません。そのため、すべての試験はドライビングロボットを使って行ないます。そのシステムの中身はドライビングロボットに加えて、非常に正確なDGPS-IMUシステムを使います。また、単時間の加速度を測るセンサーにDGPSとあわせて使う衛星ナビゲーションで精度をさらに正確にします。そして、これらの機材を使うアクティブセーフティテストにはAEB(車対車、対自転車を含めたもの)、そしてレーンサポートといったものがあります」とのことだ。

精度の高いテストを行なうために、ドライビングロボットをはじめさまざまな機器を使う。テストドライバーが行なっているのではないのだ
テストはクルマ対クルマ、歩行者保護、レーンサポート。今後は自転車保護用の衝突被害軽減ブレーキが加わる
テストに使用するダミーについて
歩行者との衝突を防ぐには、ブレーキよりステアリング操作によって避けたほうがいい場合もある。Euro NCAPではその実験も行なっていて、40km/hまではブレーキで避けたほうがよく、それ以上ではステアリングで避けたほうがいいというデータもある
歩行者よりスピードレンジの高い自転車に対する衝突被害軽減ブレーキを作動させるには、より視野角が広いセンサーが必要になるとのこと

保険業界から見た車両安全

全米損保協会交通研究所のデヴィッド・ズビー氏

 次は全米損保協会交通研究所のデヴィッド・ズビー氏から、保険業界から見た車両安全について解説があり、「私からはアメリカで販売されているクルマについて、安全性がどのように改善されたかを話していきます。死亡率に関しては2014年までの統計があり、2011年のデータからほぼ同じ数値になっていますが、2008年から比べると事故で命を落とす人が減っているデータがあります。また、クルマのタイプ別に見ていくと、クルマのサイズも乗員保護と関係があると見ています。小型車よりピックアップトラックやSUVのほうが死亡者数が低くなっていました」とのこと。ただ、小型車も年式が新しくなると問題点が改善されており、その証明として2005年の本田技研工業「フィット」と2015年のフィットの試験データが公開された。

 また、装備と事故についてのデータでは、「レーンから外れて事故を起こすことを予防するためのレーンデパーチャーウォーニングでは、実際にシステムが稼働している40km/h以上の状況においてたしかな事故予防の効果がある結果になりました。同様に、BLIS(ブラインドスポットモニター)の効果も確認できています。これらの装着により、結果的に事故になったとしても、その度合いを低く抑える効果があるのではないか」とコメントしていた。

年度とクルマのサイズによる死亡率のデータ
クルマの前突事故に対する改善についても、以前に比べてよい結果になったという。横からの衝突についても年々安全性が高まっているのが分かる
2005年と2015年のフィットでの衝突実験データ。新しくなると安全性も向上しているのが分かる
シートベルトの活用アイデアについて。GM車に採用されている機能として、前席のシートベルトが装着されないとシフトロックが外れないというもの。シートベルトをしないとイグニッションがONにならないというのもあるが、寒い地域では暖気時間も長いので、そこにシートベルト装着が必須になると不便も生じるためシフトロックの方が使い勝手がよく、グループによる長期の使用テストでもシフトロックの機能を使うとシートベルトの装着率が上がったとのこと

ASEAN NCAPの特徴

ASEAN NCAPのカイリル・アンワル氏

 今度はカイリル・アンワル氏(ASEAN NCAP Secretary General)が登壇。アンワル氏からはまずASEAN NCAPの特徴が語られ、「ASEAN NCAPは創立から6年経っています。その間に20ブランドのクルマのうち、69モデルで90のレーティングを行なっています。方法はEuro NCAPが用いているもので、日本のクルマはすべてテストしています。その結果、ASEANマーケットを走るクルマでは95%が4つ星以上のレーティングになっているので、安全なクルマがある市場と言えます。そのうちの80%が日本車であり、10%がフォード、フォルクスワーゲン、そのほかのクルマで、5%が韓国車といった内訳です」。

「安全評価については、衝突実験をはじめさまざまなものを行なっていますが、2017年からは新しいプロトコルも開始します。この新しいプロトコルは成人、子供、安全支援装置に関してで、ASEAN NCAPでは歩行者保護の項目は入れていません。これらのテストには1部に新しい機材が使用されますし、独自の計算法も用いられます。そのため、ASEAN NCAPで5つ星を取るためにはかなりしっかりとした安全装備が必要になっています」とのこと。

 そして「ASEANマーケットはオートバイの数が多いのが特徴で、そのオートバイの事故削減や死亡率を下げるための技術開発も重要です。こういったところは他の国とは異なるものだと思います」との考えを語った。そしてアンワル氏は、2030年という長期を見据えた目標を掲げて、安全評価に関してのワールドリーダーになっていきたいという考えを示した。

ASEAN NCAPについての紹介
レーティングと新しいプロトコルについて
クルマよりもバイクが多い地域なので、バイクの事故が圧倒的に多い。そのことを示すデータ
オートバイの事故削減など、ほかが取り入れていない項目の技術開発を含め、2030年には安全評価のワールドリーダーになることを目標としている

韓国 国土交通部傘下のK NCAP

K NCAPのユン・ヨンハン氏

 次に韓国のK NCAPについてユン・ヨンハン氏が説明を行ない、「韓国には国土交通部という部署があり、K NCAPはここの傘下となっています。韓国に関しては、残念ながらまだ詳細なデータベースがありません。そのため現在は概要を見ています。さらに5年ほど前に小さなパイロットグループを作っていまして、そこでいくつかのデータベースを作り、それらを使っていろいろな予測をしています。このようにK NCAPとして、いま社会に貢献できることを行なっています」とコメント。

 続けて「韓国では自動車の安全傾向を見るための5年計画を立てていて、今年が2年目にあたります。今年はとくに交通事故の死亡者数を40%くらいに下げることが目標です。さらに安全政策として安全な道路の活用、安全な道路環境、先進の安全装備、そして安全管理システムを策定するというものもあります。ここで明確になっているのは、交通事故の死亡者数を減少させることに成功しているということです。これはさまざまなクルマの安全性能が高まったためとみています」とのことだ。

現在韓国では日産やホンダなどの日本車の登録台数が増えているとのこと。安全性の高いクルマが増えたことによって、交通事故の死亡者数も減っていることを示すデータ

 また、「K NCAPとして、以前に作っていたものはEuro NCAPがやっていたことを見てきましたが、今の私どもは国土交通部で制作したマスタープランを用いるようになり、アップデートも重ねております。現在は2023年までのロードマップが作られていますが、これは今月にも発表する予定なので、この場で発言している間にも資料が書き換わっている可能性もあります」と、安全対策の強化に向けて進化していることをアピールした。

韓国の国土交通部で制作したマスタープラン
K NCAPの5年計画について
K NCAPでは、まさにいま2023年までのロードマップが作られている。安全対策の強化を着実に行なっているとのこと
1日目の最後は、登壇者全員にNASVAの森内孝信氏を加えたメンバーでパネルディスカッションが行なわれた。モデレーターは杉本富史氏。これはフォーラム参加者からの質問に答えるものなので、より具体的、専門的なやり取りが行なわれた。このように、各国のNCAPごとの方針や特徴が語られたフォーラム1日目。2日目は自動運転についての内容となる。そちらの内容については別の記事で紹介する