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トヨタとTOYOTA GAZOO Racing、WRCシーズン報告会レポート

2017年は学びの年、来シーズンはチャンピオンを目指す

2017年11月23日 開催

東京都内のトヨタ自動車東京本社で行なわれたWRCシーズン報告会。ヤリス(日本名:ヴィッツ)WRCを囲んで記念撮影

 トヨタ自動車とTOYOTA GAZOO Racingは11月23日、東京都内にあるトヨタ自動車東京本社で「WRCシーズン報告会」を開催した。このWRCシーズン報告会には報道関係者および1000人を超える応募の中から選ばれた約30名のファンが参加する形で行なわれ、トヨタ自動車 専務役員 兼 GAZOO Racing Company プレジデント 友山茂樹氏、トミ・マキネン監督、ドライバーのヤリ-マティ・ラトバラ選手、エサペッカ・ラッピ選手などTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamの関係者が参加して、2017年シーズンの振り返りや来期に向けた意気込みなどについて説明した。

 また、来シーズンよりTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamに加わることが決定しているドライバーのオット・タナック選手とコ・ドライバーのマルティン・ヤルヴェオヤ選手がサプライズゲストとして登場し、タナック選手が2015年にM-Sportで走っている時代に、ラリー・メキシコで池にマシンを水没させたという“古事”にちなみ、GAZOO Racingのロゴ入りの潜水キットがプレゼントされた。

「2017年は学びの年と位置づけたが望外の結果を得た」とGAZOO Racing Company プレジデント 友山茂樹氏

 冒頭で挨拶に立ったトヨタ自動車 専務役員 兼 GAZOO Racing Company プレジデント 友山茂樹氏は「2014年にトミ・マキネンが作った車両を、モリゾーこと弊社社長の豊田章男がドライブした。そこで、問題があるとその場ですぐに直して道とともにクルマ造りをしていく姿を見て、トヨタが忘れていた何かを思い出した。フィンランドから帰国した豊田はWRC参戦を決定し、2015年に参戦を発表した。今だから言えるが、実はその時点では開発はトヨタ側がやるのか、マキネン側がやるのか、何も決まっていなかった。トヨタ側は自分たちがイニシアチブを取ると考えていたし、マキネンは自分が開発すると考えていた。正直これでラリーができるどころか、参戦できるのかと頭を抱えた。しかし、そのときに豊田が『マキネンを信頼せよ、マキネンに学べ』と言って、マキネンをチーム代表にして車両開発はマキネンに任せ、トヨタはエンジン開発にという分担ができあがった。その時点で残りは1年で、クルマを壊しながら改善して走り、マキネンからはエンジン開発にこれではダメだとやり直しを求められ……というプロセスを経て、一心同体になってやってきた。最初ぶつかり合ったことは無駄ではなく、1つになるための重要なプロセスだった」と述べ、実は2015年に参戦を発表した段階ではどちらがイニシアチブを持って開発をしていくのかなどが決まっておらず、トヨタ側とマキネン側で綱引きがあったことを明らかにした。そして、そうしたぶつかり合いを経て、トヨタ側とマキネン側が1つのチームとして機能するようになったと述べた。

トヨタ自動車株式会社 専務役員 兼 GAZOO Racing Company プレジデント 友山茂樹氏
3者の協力体制が確立できた

 続いて友山氏は「2017年の開幕戦を迎えて今年の目標はと聞かれ、今年は学びの年であり鍛える年であると述べたが、実際にはここに示したような13戦して2勝という結果を残すことができた。とくに開幕戦での表彰台、第2戦スウェーデンでの優勝、そして第9戦フィンランドでも君が代が流れた。私もポディウムに登ったが、WRCの1プレイヤーとして認めてもらえたと涙した。シーズンをとおしては優勝が2回、2位が2回、マニュファクチャラーズ部門では3位、ドライバー部門ではラトバラが4位という結果になった。また、チャレンジプログラムでは勝田選手、新井選手も成長をみせており、来年も成長を目指して励んでもらいたい。来シーズンは新たにタナック選手を迎えることを発表し、3台体制で臨んでいくことになり、年間タイトルも狙っていきたい」と述べ、チームメンバー、ファン、関係者などに謝意を表明し、新たに来シーズンから加入が予定されているタナック選手を加えて3台体制で臨み、シリーズチャンピオンを目指したいと述べた。

今シーズンの各ラリーの結果
フィンランドラリーでラッピ選手が初優勝
表彰台に立つ友山氏
シリーズをとおしての結果
TOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジプログラムは来シーズンも継続される
来シーズンの体制

 その上で友山氏は「WRCは市販車を使ったモータースポーツとしては最高峰の世界選手権。13戦で平均20のステージを戦い、毎ステージ車両をいじり改善していく。13×20の実戦評価を繰り返しているようなものだ。そうした経験はGAZOO Racingの商品にも生かされている。我々にとってGAZOOは大企業トヨタではできないことを、小さなカンパニーだからこそやるという意味合いがある。WEC参戦から生じる人材文化はトヨタを変えていくと信じており、またTOYOTA GAZOO Racingを応援するファンが増えていくように、来年はさらなる飛躍を目指していきたい」と、WRCの活動がトヨタが新しくスポーツカーのブランドとして立ち上げたGAZOO Racingにフィードバックされ、GAZOO Racingが出すスポーツカーによい影響を与えていると説明した。

「今年はよかったが、来年はもっと競争力を高められるように準備中」とマキネン氏

 その後、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamのメンバーが登壇し、トークショーやファンからの質問コーナーなどが行なわれた。登壇したのは、チーム代表のトミ・マキネン氏、ドライバーのヤリ-マティ・ラトバラ選手、エサペッカ・ラッピ選手、そしてそれぞれのコ・ドライバーとなるミーカ・アンティラ選手、ヤンネ・フェルム選手の5名。以下はその模様だ。

――今年1年を振り返っていかがか?

マキネン氏:今年1年は学びの年だった。情報を集めて分析し、将来のクルマをよくすることに注力してきた。モンテカルロ、スウェーデン、フィンランドでよい結果を残したのがハイライトで、ドライバー達もニコニコしてくれるぐらいよい結果を残したと思っている。

TOYOTA GAZOO Racing WRT チーム代表 トミ・マキネン氏

ラトバラ選手:学習の年だと考えていたので、シーズン前に勝利できるとは予想していなかった。それまで6日間雪でテストして高速のイベントには自信があったけど、まさか勝てるとは思っていなかった。スウェーデンで勝ったときには最終日には神経質になったけど、トミがもっと行けと言うし、背中を押してくれたのがよかった。勝てたときは本当にうれしかった。

ヤリ-マティ・ラトバラ選手

アンティラ選手:今年は学びの年だと思っていたので、最初の2レースで表彰台を獲れたことはよかった。メキシコではいくつかの問題があって、エンジンの熱害とか高地への対応などに課題が残っていた。だが、シーズン後半に同じようなところに行ったら後半にはそれが解決されていた。それがこのチームの強みであり、チームやエンジニアは非常によい仕事をしたと思っている。

ミーカ・アンティラ選手

――フィンランドではWRC4戦目のラッピ選手が初優勝した。

ラッピ選手:WRCドライバーになったときの目標は地元で優勝することだったので、特別な感覚だった。でも正直に言えば、日曜日に向かうときにはミスをしてしまって、そこで緊張したけど、チームがすぐに対処してくれて事なきを得たんだ。

エサペッカ・ラッピ選手

フェルム選手:チームはみな同じゴールに向かって動いており、非常によい仕事をしてきた。2018年にはさらによくなると思う。

ヤンネ・フェルム選手

――来年の目標は?

マキネン氏:今年は非常によかったけど、長い時間が残されているわけではない。モンテカルロに向けて準備を進め、来年はもっと競争力を高めたい。大事なことはコンスタントに結果を出すことで、それに向けてチームの誰もが準備を進めている。ヤリ-マティもエサペッカも準備ができており、モンテカルロに向けて全力で取り組んでいきたい。

ラトバラ選手:トミが言ったようにコンスタントさが大事だ。クルマ、ドライバーもよくなっているので、来年はマニュファクチャラーズタイトルやドライバータイトルを狙っていきたい。

ラッピ選手:もちろんフィンランドラリーで2連勝を狙いたい。でも、来年は今年よりもコンスタントに結果を出していきたい。ヤリ-マティから学ぶことは多い。

「池ポチャ」にちなんだ潜水キットを豊田社長からタナック選手にプレゼント

 引き続き、サプライズゲストとして呼ばれ、来シーズンからTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamに加入することが決まっているドライバーのオット・タナック選手とコ・ドライバーのマルティン・ヤルヴェオヤ選手が登壇し、来シーズンの意気込みなどを語った。タナック選手は、今シーズンはM-Sport(フォード)に所属して、イタリアとドイツで優勝。ドライバーズランキングは3位で、M-Sportのマニュファクチャラーズタイトル獲得にも大きく貢献した。いずれもWRCのファンが選ぶドライバーオブザイヤー、コ・ドライバーオブザイヤーに選ばれるなど期待の新鋭で、これによりトヨタのドライバーラインアップは強力な布陣となる。

来シーズンからTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamに加入することが決まっているドライバーのオット・タナック選手(右)とコ・ドライバーのマルティン・ヤルヴェオヤ選手(左)

 タナック選手は「新しいチームに加入できてうれしい。トミとはずっと話し合ってきたので、自分が加入することでより強いチームにできればうれしい。チャンピオンを目指しているので、このチームに加入することを決めた。勝利を目指して頑張っていきたい」と述べた。

オット・タナック選手
マルティン・ヤルヴェオヤ選手

 その後、タナック選手に豊田章男社長からTOYOTA GAZOO Racingのロゴが入った潜水キットがプレゼントされると、会場は笑いの渦となった。というのも、2015年のラリーメキシコで、タナック選手とヤルヴェオヤ選手はM-Sportのフォードをドライブしているときに池に落ちてしまい、クルマは見事に水没。2人は岸までクロールで泳いで難を避けたという有名なアクシデントの当事者だったのだ(そのときの模様はWRCのYouTubeビデオに残っている)。それをネタにしての皮肉なプレゼントに、タナック選手も笑っていいのやら、怒っていいのやら……。苦笑しながらタナック選手が「サルディニアで勝ったとき(筆者注:サルディニアのラリーでは勝者が海に入るという伝統がある)にチームは海に入ったけど、僕は入らなかったので、トヨタで勝ってこれを使いたい」と言うと、再び会場は笑いに包まれた。

有名なタナック組の池ポチャ事件の映像が流されると、苦笑のタナック選手。続きはYouTubeで見ることができる
当時の自虐的なギャグ
2015年にメキシコで起きた水没アクシデント(1分36秒)
タナック選手は池ポチャ事件を逆手にとった豊田社長のプレゼントを苦笑しながら受け取って記念撮影

 その後、2名のファン代表からの質問コーナーになり、マキネン氏に「自分もラリーをやっているがまだ優勝できていない。勝てるチームの作り方を教えてほしい」という質問が飛ぶと「大事なことはチームの精神だ。経験があるプロを引っ張ってきて、投資を行ないチームをプロフェッショナルにしていく必要がある。大事なことは学習していくことだ」とアドバイスを送った。

ファンからの質問に答えるラトバラ選手

 ラトバラ選手には「市販車とWRC車の違い」が質問され、「市販車とラリーカーの大きな違いは、ラリーカーはハードな状況やジャンプ、雪、氷などさまざまな状況に対応しないといけないこと。サスペンションがまったく違うしエンジンの性能も高い。ギヤボックスもパドルで、クイックシフトになっている。ただ1つだけ言えるのは、市販車をラリーカーのように走らせることだけはやめておいた方がいいと思う」とラトバラ選手は答えていた。

 その後、ファンの女性とそのお子さんにより、来季の活躍を祈願しただるまの進呈が行なわれ、ラトバラ選手がチームを代表して受け取り、記念撮影を行ない、来季の健闘を誓い合って報告会は終了した。

ファン代表の女性とそのお子さんからだるまが進呈された。お子さんはちょっと怖いのか腰が引けている……
ラトバラ選手と記念撮影
お礼にラトバラ選手からサイン入りの帽子をプレゼント

チーム内だけでなく、テクニカルパートナーのMicrosoftとの協力も進展

 報告会の終了後には、詰めかけた報道陣からの質疑応答が行なわれた。以下はその模様だ。

――今年1年を学びの年としていたが、何を学んだのか?

友山氏:学んだものはチームワーク。マキネン、ドライバー、メカニックのチームワークはもちろんだが、TMG(トヨタの欧州でのモータースポーツ拠点)とマキネン、トヨタのチームワーク、これをきちっとできるようになったことが強さの根底にあった。ラトバラ選手もコンスタントにという話をしていたが、今シーズンは本当に初めてで、データも何もない状態から走った。今年きっちりデータを集めたので、来年は期待してほしい。

マキネン氏:今年はデータなく多くのイベントを走った。重要なことはチームだけでなくパートナーとの協力が進展したこと。例えば、Microsoftのようなハイテクパートナーからのサポートは重要で、データの解析に大いに役立った。それが将来の発展に繋がっていくと思う。

――ラトバラ選手、ラッピ選手、それぞれにどう思っているか教えてほしい。

ラトバラ選手:最初のラリーであるポルトガルからいい走りをしていた。サルディニアで4位、ポーランドでのリタイアを挟んで4戦目で優勝なんてすごいと思っている。こんな短い間で勝てるのは彼が常に改善しようと努力しているからだ。

ラッピ選手:ヤリ-マティはとってもいい人だね(笑)。いつもジョークが面白くて、移動途中も笑ってばかりだ。彼は本当に経験があって、ペースもとても速い。誰もが彼のことを好きだし、尊敬している。

――マキネン監督に今年抱えていた課題と来年の見通しを語ってほしい。

マキネン氏:我々のクルマは強力だったが、サスペンションに課題があったり、電装系に問題があったりした。それが解決できれば、もっと速くなると思う。ただ、このクルマはコンパクトなパッケージで、コンセプトは間違っていない。さらなる課題は……ドライバーに聞いてみてほしい(笑)。もちろん全力で改善しており、来年はいいところにいけると思う。