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スバル、トヨタ「86」を含む9車種で行なわれた燃費・排出ガスデータ不正書き換えに関する緊急会見

「会社を“真に正しい会社”に生まれ変わらせることが経営責任の取り方」と吉永社長

2018年4月27日 開催

4月27日に行なわれた会見には、株式会社SUBARU 代表取締役社長の吉永泰之氏(中央)に加え、株式会社SUBARU 取締役専務執行役員 加藤洋一氏(左)、株式会社SUBARU 常務取締役員 品質保証本部長 大崎篤氏(右)の3人が登壇

 スバルは4月27日、国土交通省から要請されて実施してきた「群馬製作所における完成検査時の燃費・排出ガス測定に関する調査」を取りまとめ、国交省に報告。同日に東京 恵比寿にある本社で緊急会見を実施した。

 なお、報告内容の詳細は、関連記事の「スバル、完成検査工程における燃費・排出ガスの抜き取り検査で903台の測定値を不正書き換え」を参照していただきたい。

 会見には、6月付けでSUBARU 代表取締役会長に就任する予定となっている現代表取締役社長の吉永泰之氏、SUBARU 取締役専務執行役員 加藤洋一氏、SUBARU 常務取締役員 品質保証本部長 大崎篤氏の3人が登壇。最初にユーザーや関係者、各ステークホルダーなどに対して多大な心配や迷惑をかけたことを3人で改めて謝罪した。

株式会社SUBARU 代表取締役社長 吉永泰之氏

 会見では最初に吉永氏から、2017年10月に発覚した「完成検査に関わる不適切な取り扱い」についての調査過程で、同社の従業員に対するヒアリングの過程で「燃費の抜き取り検査を実施する際、測定値の一部を変更した可能性がある」との発言が確認されたため、2017年12月下旬から事実関係の調査を実施。4カ月に渡って行なわれた調査で判明した事実関係、これに則した再発防止策を国交省に報告したと説明。

 調査報告書の詳しい内容は後ほど加藤氏、大崎氏から解説するとしつつ、吉永氏は今回の問題について「群馬製作所の完成検査工程に属する燃費・排出ガスの抜き取り検査において、測定値を書き換え、実際の測定結果として記載すべき数値と異なる数値を報告書に記載する不正行為が行なわれていた」「不正行為には複数の検査員が関与しており、長年にわたって行なわれてきた」「問題の背景には、全社的に完成検査業務の公共性、重要性に対する自覚が乏しく、批判意識が欠如している」「測定装置に保存されていたデータなどを元に再検証した結果、不正行為があった全ての車種について、燃費・排出ガスに関する当社の品質管理基準を満たしている」「今回明らかになった不正行為はコンプライアンス上で極めて重大な問題だと真摯に反省しており、今後は全役員、全従業員が一丸となって完成検査問題と合わせた再発防止策を徹底的に遂行していく」という5つがポイントになるとコメント。

 今回の問題を受けた経営責任の考え方では、すでに3月2日に発表した役員体制の変更でも明らかにしているように、取締役会長の近藤潤氏、代表取締役専務の日月丈志氏、取締役専務の笠井雅博氏の3人が退任するほか、吉永氏も6月の株主総会をもって代表取締役社長を退任。完成検査問題と燃費・排出ガスデータの書き換えといった問題は“スバルの企業風土から生じたもの”としており、企業風土を変えることの難しさを痛感していると吉永氏は語り、「私は本件に真摯に向き合い、当社を“真に正しい会社”に生まれ変わらせるための改革を全うすることが経営責任の取り方」との考えを示した。

 さらに吉永氏は「失われた信頼の回復には一刻の猶予もなく、改革を成し遂げる必要があります。それには強いリーダーシップのもと、短期間の内に具体的な再発防止策を遂行すると共に、全役員と従業員の意識や行動を根本から変える必要があると考えた結果、私が代表取締役会長 CEOに就任して、全力を注いでこの課題に取り組むことを選択いたしました」と語り、具体策として「正しい会社推進部」と「コンプライアンス室」を吉永氏の直轄部門として新設したことを紹介。信頼回復に向けて全力で取り組んでいくとの意気込みを口にした。

「『ULEV』『SULEV』の規制値や保安基準の規制値も満たしている」と大崎氏

株式会社SUBARU 常務取締役員 品質保証本部長 大崎篤氏

 吉永氏に続き、品質保証本部長の大崎氏から報告書の内容について説明が行なわれた。大崎氏は問題となった燃費・排出ガスの測定方法について解説され、測定はライン完成検査で把握できない品質の特性、品質水準などを把握することを目的に、全数検査ではなく抜き取り検査として実施。具体的にはラインから抜き取った試験車をシャシーダイナモに設置して、JC08モードの基準に従って走行。ここで車両のマフラーから出た排出ガスを使って燃費と排出ガスの計測が実施されるという。なお、燃費は使った燃料の量ではなく、排出ガスに含まれるCO(一酸化炭素)、THC(全炭化水素)、CO2(二酸化炭素)の濃度から計算で燃費を算出している。

 排出ガスは高い精度で測定できるよう大気を模した「希釈空気」と合わせて「CVS装置」に送られ、成分濃度を分析計を使って測定する。ここで得られた測定結果、計算結果がデータとして保存されることになり、測定結果についてはエクセルファイルとして出力されている。

 データの書き換えは、測定結果が入った「エクセルファイル」と、データを「月次報告書」にまとめる「集計システム端末」の2カ所で行なわれており、これについて大崎氏は「社員が結果を書き換えるという前提を持ち得ず、性善説でシステムを組んでいたということに尽きる」と表現。再発防止策の中ですでに書き換えができないシステムに変更していることも明らかにしている。

 このほかに大崎氏は、燃費・排出ガスの測定値が不正に書き換えられていたことを前提にしつつ、保安基準とスバルの品質管理基準に照らし合わせた検証結果についても説明。書き換えが行なわれた燃費・排出ガスの測定値について、書き換え前の数値が「考え得る最もわるい数値」だったことを想定して置き換えて再計算を実施。燃費、排出ガスの共にいずれの車種でもスバルの品質管理基準を満たし、「ULEV」「SULEV」の適用規制値も満たしているほか、保安基準の規制値も満たしているとの調査結果を紹介。

 しかし、大崎氏は最後に「検証結果は以上になりますが、今回の調査により判明した測定値の書き換え行為は、完成検査業務の公益性と重要性に対する自覚の乏しさ、規範意識の欠如などコンプライアンス上あってはならない原因に端を発する不正な行為であります。当社としては、燃費・排出ガス性能の検証結果に関わらず、極めて重大な問題であると強く認識しております」と結んだ。

大崎氏の解説で使用されたスライド資料。調査報告書の全文と別添資料などは同日発表のニュースリリース内からPDF型式でダウンロードできる
株式会社SUBARU 取締役専務執行役員 加藤洋一氏

 今回の調査責任者を務めた加藤氏はプレスリリースの記載内容と調査報告書の内容について補足と再確認を行なったあと、再発防止策について紹介。「測定値の書き換えを不可能とするシステムへの変更」「測定データの取扱状況についての監視員による確認」といった対応策をすでに実施しているほか、「抜本的なコンプライアンス活動推進体制の拡充・強化」「品質方針の抜本的見直し」「燃費・排出ガス測定業務に従事する者への教育・研修」「燃費・排出ガス測定業務に関わる社内規定の適正化」「現場とのコミュニケーションの強化」「監査機能の強化」という6点を今後実施していくと紹介。

「企業体質に由来する問題でございますので、コンプライアンス活動の拡充・強化、教育や研修、社内規定の適正化などにつきまして、1つひとつていねいに、地道に、着実に対応していくことが大切だと考えております。そしてこれを、社長を筆頭にした『正しい会社推進部』『コンプライアンス室』を推進母体として、しっかりとやりきることで信頼を回復していく以外に道はないと不退転の決意で、全役員、従業員が一丸となって取り組んでまいります」と加藤氏はコメントした。

質疑応答で回答する吉永氏

 後半に行なわれた質疑応答では、今回の燃費・排出ガスのデータ書き換えが行なわれた車種として、群馬製作所の本工場と矢島工場で生産されている「レガシィ」「インプレッサ」「フォレスター」「レヴォーグ」「XV」「エクシーガ」「WRX」「BRZ」とトヨタ自動車にOEM供給している「86」の9車種であると解説。

 データの測定値にばらつきが出る理由については、加藤氏が「このように機械を使って計測する場合は当然ばらつきが出るのですが、前回の完成検査のときも『技量重視の社風がある』との整理をしました。ばらつきがどのような要因で発生するかで、その1つに計測ではシャシーダイナモに車両を乗せて排出ガスを計測することを冒頭で説明していますが、そのときに計測員がアクセル操作をコントロールするので、その踏み加減によって数値が多少ばらつくことがあります。その踏み方の巧拙で数値が変わりますので、そこを気にするような風潮があったと考えられます」との分析を語った。

 また、6月以降の新体制について吉永氏は「次の社長になる中村(知美)さんが全体を見ていくわけですけど、今回の件に関してはきちんと最後まで私が責任を持ってやり抜くということが正しい方向、やり方なのではないかと思っておりまして、その意味で、今後も本件に関しては私が責任をもってやり抜く考えです」とコメントした。