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ル・マン24時間レース1-2フィニッシュの中嶋一貴、小林可夢偉選手がトヨタ東京本社で勝利報告

中嶋選手「喜びよりもほっとした気持ち。抜け殻のよう」

2018年6月21日 開催

ル・マン24時間レースで1-2フィニッシュを果たした中嶋一貴選手(左)と小林可夢偉選手(右)

 トヨタ自動車は6月21日、「第86回 ル・マン24時間レース」で1-2フィニッシュを飾った8号車の中嶋一貴選手と7号車の小林可夢偉選手らによる報道陣向けの報告会を開催し、合わせて東京本社に勤める関係者にも勝利を報告した。フランスから帰国したばかりの両選手と同社GRモータースポーツ開発部の小島正清氏が登壇し、レース中の苦労や今の率直な気持ち、これからも続くシリーズ戦に向けての意気込みを語った。

トヨタ自動車 東京本社の受付には、ル・マン24時間レースの勝利を祝う花が各社から届いていた。展示車両は2017年型のTS050-HYBRID
大勢集まった従業員を前にレース結果を報告
「やっと今までの挑戦が実を結びました。これは本当に皆さんの声援、サポートあってこそだと思います」と感謝の気持ちを伝えた中嶋選手
「本当にこのクルマはすごく信頼性が高くて、ドライバーとしても楽しく走れる」と、ル・マン24時間レースを走り抜いたTS050-HYBRIDを評価した小林選手
両選手と関係者の皆さんで記念撮影し、最後にはサイン会も行なわれた

トラブルでダメになることはないと、身体で理解していた

メディア向けの報告会がスタート

 報道陣向けの報告会で、8号車の中嶋一貴選手は「正直なところ、ほっとしたという気持ちが大きくて、相変わらず抜け殻のような状況です」と第一声。2012年のWEC参戦からこれまでの間に「悔しい気持ち、厳しい経験などをたくさんしてきたので、やっとそれを勝利という形で乗り越えることができて本当にほっとしています」と話した。レース終了後には多くの関係者から数百にもおよぶ祝福メッセージを受け取ったとのことで、ひと通り返信するのに2時間以上かかったというエピソードも語った。

 トヨタは、これまでル・マン24時間レースへの挑戦でたびたびアクシデントに見舞われてきた。それに対して今回勝利できた要因を聞かれた中嶋選手は、「アクシデントなど思わぬことがあるのがル・マンだということを嫌というほど感じてきた。それをチームが分かっているぶん、どういう状況になっても対応できるようにしっかりと準備してきたのが一番大きい」とチームを称えた。

 また、チームスタッフだけでなくドライバーである自分たちも、「8号車と7号車の6人が集まったときは、最後まで走るということに対して必要なこと(が何か)をお互いに常に情報交換」しつつ、「チーム内での無用な争いはできるだけないように」といった話をしてきたという。そのような密なコミュニケーションが、24時間集中力を切らさず走り切り、最後に一番前でチェッカーを受ける結果につながったのではないか、とも話した。

レースを振り返る中嶋選手

 また、「トラブルでダメになることはないだろうなと、なんとなく身体で理解していた。どちらかというと自分がミスしてレースを台なしにしないように、という気持ちの方が強かった」と中嶋選手。ゴール直前の最後の1周は、「無線で冗談を言おうかと思っていた。チームの人も期待していたらしいですけど、本当にクルマをチェッカーまで持っていくことだけしか考えられなかった。チェッカーを受けてからの無線でもあまり気の利いたことを言う余裕がなかったですね」と、当時の気持ちを明かした。

 今後に向けては、「1回勝ったからといって、これがゴールではない」と強調。「今の一番の目標はシリーズチャンピオンを獲ること。(ル・マンで勝利できたことで)チームとしても個人としても肩に掛かっている重りが軽くなったと思うので、これからはいい意味でレース自体をもっと楽しんでいけるのかなと期待しています」と言い、それでも「楽しみすぎるとやらかす癖が自分にはあるので、地に足をつけるところはつけて頑張っていきたい」と気を引き締めていた。

帰国後からの体調不良を押しての登壇となった小林選手

 一方、7号車の小林可夢偉選手は、「見ている人にとっては余裕の展開だったんじゃないかと思われるかもしれないけれど、ドライバーである自分たちにとってプレッシャーの大きいレースだった」と述べ、「レースが終わって日本に帰って来たとたんに風邪を引きました(笑)。それだけ相当なプレッシャーがあって、24時間レースのために1年をかけていたんだなあと自分なりに実感しました」と語った。

 2017年との違いについては、「縁石に乗るとすぐ(チームスタッフに)怒られる」ことだったと小林選手。マシンに余計な負荷を与えないよう練習走行から縁石に乗らない走り方をしていたものの、ル・マンのサルト・サーキットが「縁石をまたいで走るとけっこうタイムを稼げるレイアウト」であることから、少しでも縁石に乗ってタイム短縮を図りたくなる気持ちを抑えながらの24時間だったという。

 最後のスティント、7号車はトップの8号車から10周差の2位走行中だったため、「逆転するのはまず不可能だろうなと思っていたので、最後は一貴の後ろで、チェッカーフラッグを記念撮影(カメラ)に収めようというのを目標にマシンに乗り込みました」と小林選手。さらにゴール直前の最終ラップ、2台並んでチェッカーを受けるべく小林選手がスピード調整していたものの、「中嶋さんがゆっくり走ってくれたらいいのに、ポルシェコーナーあたりで(他のマシンが)4台いるところをいきなり抜いていったので、やり過ぎじゃないかと。僕はめちゃめちゃ気を使っていたのに、ここで行くのか」と、無線で文句を言ったエピソードも笑い話として披露した。

最終ラップについて話す小林選手に対して「チェッカー受けたことないので、最後どんな感じかよく分からないんですよ。気を遣ってたのよ一応。あまりガンガン行くと間が空いちゃうし、と思ってはいたんですが、何しろ経験がないもので……」と言い訳する中嶋選手

 また、「(走行中にチームから)8号車とのタイム差を1回も言ってくれませんでした」という事実も打ち明けた。タイム差がどれくらいあるのか、8号車がどこにいるのかも知らされず、「教えてくれたのは、最後に2台で一緒にチェッカー受けるタイミングだけ。レース中は自分との戦いでした」と振り返った。

 シリーズ戦のこれからについては、中嶋選手と同様に「ある意味いろんなプレッシャーから解放された部分がある」としつつも、「今年はスーパーシーズンということでまだまだ長いシーズンになる。チームとさらにいい関係を作って、自分たちに合うクルマをしっかり作って、1つでも多く優勝できるように頑張って走りたい」と話した。

トヨタ自動車株式会社 GRモータースポーツ開発部 部長 小島正清氏

 GRモータースポーツ開発部 部長 小島正清氏は、ル・マン24時間レースでの勝利の要因について、「ネジ1本からの再チェックを行なった」ほどの徹底的な対策が功を奏したと力を込めた。「今年はパワーユニットは壊れないと思って見ていました。それだけ自信をもって臨むことができた。オペレーションも訓練したおかげで、緊張はしていても切迫感はなく、トラブル時の対処パターンを考えられるほどの(余裕のある)気持ちで臨めたのが大きかったのではないか」と語った。

 ル・マン24時間レースの開催中には、レースカーであるTS050-HYBRIDの技術を取り入れた「GRスーパースポーツコンセプト」も発表したトヨタ。これに関連して小島氏は、「基本的に市販車のハイブリッドカーは性能を燃費に振ってしまっているが、ル・マンではそれとは違うハイブリッドのやり方、速くて強いハイブリッドを証明できた」と話し、中嶋選手は「ハイブリッドカーと言うと、エコカーのイメージが強いかもしれない。GRスーパースポーツコンセプトのように、実際に形としてクルマができることで、レースの意義というのも僕らにも明確に伝わってきて、ドライバーとしてもすごく嬉しい」とコメントした。

 一方、小林選手は「例えばガソリンエンジンだけで24時間、これだけのスピードで走ろうと思うと、どれだけの燃料を使うんだと。明らかにハイブリッドの方が効率がいい。(TS050-HYBRIDは)走りやすい、乗りやすい、乗ってて安心。だからこそ24時間、あのスピードで走れる。僕は、この新しいコンセプトカーが発売されたらすぐに買うと言っているんですけど、前回GRヴィッツ(WRC参戦記念モデル)に応募したんですけど見事に落選した。トヨタさんは全然融通を利かせてくれないことが分かったので、次はなんとか融通を利かせてもらえるように頑張りたいと思います」と話し、会場の笑いを誘った。

2018~2019年のWECはスーパーシーズンのため、最終戦は2019年6月開催の第8戦ル・マン24時間レースとなる。今後、そして次回のル・マン24時間での勝利も期待したい