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【ル・マン24時間 2018】2020年規定Hyper Car GT Prototype発表。ハイブリッド必須でコストは現行の1/4に

予算は2500万~3000万ユーロ

2018年6月15日(現地時間)開催

2020年規定Hyper Car GT Prototype。コストは現行の1/4になり、より多くのチームが参加しやすいものになる

 6月13日~17日(現地時間)、フランス ル・マン市のサルト・サーキットで「第86回 ル・マン24時間レース」が行なわれている。ル・マン24時間レースを主催するACO(Automobile Club de l'Ouest、フランス西部自動車クラブ)は6月15日に記者会見を開催し、懸案となっていた2020年以降のトップカテゴリーの車両規定に関する発表を行なった。

 ル・マン24時間レースおよび、そのシリーズ戦となるWEC(世界耐久選手権)では、トップカテゴリーであるLMP1に参戦していたトヨタ自動車、ポルシェの2つのマニファクチャラーのうち、2017年末にポルシェが撤退を発表し、2018年から始まるスーパーシーズン(2018年5月に行なわれたスパの開幕戦から、2019年のル・マン24時間までの1.5年に渡るシーズンのこと)にはマニファクチャラーはトヨタのみで、他のプライベートチームとの性能調整をトヨタが受け入れることでシリーズとして成立したということもあり、2020年からの新規定がどうなるのかに注目が集まっていた。

 発表されたHyper Car GT Prototype(仮称)と呼ばれる2020年以降のレギュレーション案は、全車ハイブリッドで、コストは従来の1/4と低コスト。2020年から5年間継続して適用されるレギュレーションとなる。今後マニファクチャラーや参加チームなどとの話し合いを経て、11月末までに正式に決定される見通しだ。

発表には、ル・マン24時間に参戦中の多くのチーム関係者も詰めかけた
Hyper Car GT Prototype(仮称)。共通ECUを使用する

新デザインで、全車ハイブリッド。現行LMP1の1/4と低コストで5年間継続性が保証されるレギュレーション

記者会見を行なうACO CEO ピエール・フィヨン氏

 ACO CEO ピエール・フィヨン氏は「マニファクチャラーは新しいクルマに取り組むことができ、すべての車両がハイブリッドになる。その上でコストは現状LMP1の1/4になる。そしてこのルールは2020年から5年間継続して適用される」と述べ、新しいレギュレーションのコンセプトは環境に配慮して全車ハイブリッドにし、従来の1/4と低コストで、かつ5年間の継続性を約束したものになると要点を説明した。フィヨン氏によればこの新しいレギュレーションは「Hyper Car GT Prototype」と仮に呼ばれており、正式名称はファンにより決定してもらう予定だという。

2020年からの新規定の概要(ACO配布の資料)

 ACOが配布した資料によれば、2020年の規定の要点は下記のようになっている。

予算:2500万~3000万ユーロ(1ユーロ=128円換算で、約32億円~38億4万円)、現行のLMP1の約1/4(20~25%程度)
競技対象者:自動車メーカー、GT/スポーツカーメーカー、コンストラクター、プライベートチーム
性能ターゲット:ル・マン サルトサーキットで3分20秒台
コスト制約:性能に関するコストは制約される、例えば対して性能向上に貢献しない部分など
燃費効率:引き続き競争の対象となる
技術:ICE(内燃機関)とハイブリッドシステムはメーカーにより提供され、自動車メーカーやコンストラクターはハイブリッドシステムを引き続き開発できる
導入時期:2020年9月以降に最初のイベントが行なわれる予定
安全性:より安全製を高めたサバイバルセルが導入される
ルールの安定性:5年間は安定して同じルールが継続される予定

費用に関しては現行の1/4を目指す。空力や空気抵抗の性能は固定されるがデザインの自由度を許容する仕組みを導入

 費用に関しては現在のLMP1チームの運営にかかっている費用の1/4にすることを目指すという(逆に言うと、現行のLMP1チームの運営には150億円強がかかっているという計算になる)。この費用には、2カー体制で8レースを戦い、5シーズンを戦うだけのR&D(研究開発費用)、レースやテストに参加するオペレーション費用(メカニックなどの人件費や旅費など)が含まれるという。ただし、含まれないモノとしては、マーケティング費用、自社ビルなどを建築するなどのインフラ費用、ドライバーのギャラなどは別計算だということだ。

費用(ACO配布の資料)

 シャシーに関してはHypercarと呼ばれている、新規定になる。空力と空気抵抗に関しては固定されるが、メーカーにはある程度のデザイン上の自由は与えられる。空力に関しては1シーズンで1回のホモロゲーションで規定され、風洞を利用した測定やボディ形状の測定などにより、性能の均衡が図られる。また、シャシーに関しては2シーターで、コックピットの大きさが今よりも大きくなり、ルーフラインやより大きなフロントスクリーンなどが規定されている。車重は980kgで、重量配分は自由に設定することができる。

シャシー/空力など(ACO配布の資料)

パワートレインはハイブリッドが必須に、プライベートチームも低コストで調達できるような仕組みを導入

 パワートレインに関しては、すべての車両がハイブリッド必須となる。ICE(内燃機関)に関しては、ターボか自然吸気かなどのエンジンの仕様は自由に決定できる。ただし、最高性能と燃料流量は規定されており、最高性能は520kWまでと規定されている。このほか、高価な部材の仕様は禁止、最低サイズ、最低重量、最低重心高などに関して規定予定。

パワートレインのICE部分(ACO配布の資料)

 パワートレインの電動部分に関しては3つの重要な基本的な考え方が示されている。

パワートレインの電動部分(ACO配布の資料)

1.プライベートチームも利用可能なコストであること
2.プライベートチームが利用する場合も高い競争力があること
3.自前のハイブリッドシステムを作りたいマニファクチャラーはそうすることが可能であること

 その上で、ERS(Energy Recovery System)はFIA/ACOにホモロゲーションされる必要があり、かつ作成したERSは、他の競争者に対して提供する義務を負わされることになる。ただし、提供する台数などは今後規定する予定で、際限なく提供されるという訳ではなく、F1でメーカーがエンジンがないプライベートチームに供給する義務を負わされているのと同じようなスキームになる可能性が高い。なお、その際にERSのメーカーは技術サービスやサポートを提供するほか、今後規定される価格上限の範囲内で提供する必要がある。

ERSの仕様(ACO配布の資料)

 ERSは、ERSのハードウェア(モーター、インバーター)、バッテリー/エナジーストア、電気系の3つのコンポーネントから構成される予定で、それらは車両の前方におかれて前輪を駆動して、車両としては4WDとなる。また、ERSのECUに関しては共通のホモロゲートされたソフトウェアを使う必要がある。なお、ERSの出力としては200kWが想定されており、バッテリーとフライホイール型の両方が想定される。

ギアボックス(ACO配布の資料)

 ギアボックスも規定されており、8速でギアセットは1種類のみ、高価な素材は使用禁止。最低重量と最低重心高は規定され、電気と油圧の組み合わせ、あるいはそのどちらかによるデフギアは禁止される。

11月までに最終決定。女性ドライバーが参加しやすい取り組みも行なわれる

今後のロードマップ(ACO配布の資料)

 ACOによれば、この案を元にして、今後マニファクチャラーやチームなどの利害関係者と調整を行ない11月までに決定することを目指しているとのこと。

 今後のテーマとして、女性ドライバーも積極的に参加できるレースとするために、多くのプロジェクトを走らせていくと説明した。また、関連記事(新レギュレーション発表。2024年から水素を利用した燃料電池を利用可能に)で紹介しているとおり、2024年以降は水素燃料電池の導入も検討していくとも説明されている。