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ヤマハ、前2輪の新型LMW「NIKEN」に試乗

2018年9月26日 開催

前2輪を採用する新型LMW(Leaning Multi Wheel)「NIKEN」

 ヤマハ発動機は9月26日、前2輪を採用する新型LMW(Leaning Multi Wheel)「NIKEN」の報道関係者向け試乗会を日本サイクルスポーツセンター(静岡県伊豆市)の5kmコースにおいて開催した。

 NIKENは同社が展開するLMWの新製品で、最高出力85kW(116PS)/10000rpm、最大トルク87Nm(8.9kgfm)/8500rpmを発生する水冷直列3気筒 845cm3エンジンを搭載。フロント2輪のタイヤサイズは120/70 R15、リアは190/55 R17。燃費は60km/h定地燃費値で26.2km/L(2名乗車時)、WMTCモード値は18.1km/L(クラス3 サブクラス3-2 1名乗車時)、ロングツーリングを実現する航続距離約300kmに向けて燃料タンク容量18Lを採用している。車両重量は263kg。価格は178万2000円。

最高出力85kW(116PS)/10000rpm、最大トルク87Nm(8.9kgfm)/8500rpmを発生する水冷直列3気筒 845cm3エンジン搭載
フロント2輪のタイヤサイズは120/70 R15
灯火類

 同試乗会には、商品企画を担当した商品企画部の加藤新氏、プロジェクトリーダーの鈴木貴博氏、デザインを担当した安田将啓氏ら開発メンバーが参加して、NIKENの商品特徴を紹介する説明会が実施された。

コーナリングを楽しむためにLMWを最大限活用

ヤマハ発動機株式会社 NPM事業 事業統括部長の花村直己氏

 今回試乗するNIKENは、ヤマハが2014年に市場投入した前2輪のモーターサイクル「TRICITY」に続くLMWの新製品。

 試乗会であいさつをしたNPM事業 事業統括部長の花村直己氏は「NIKENは、中期経営計画で掲げている4つの成長戦略にある“広がるモビリティの世界”への取り組みの1つとして、LMWに取り組んでおります。広がるモビリティの世界とは、今までにないカタチ、価値を持つモビリティを提案して、ヤマハらしいユニークな乗り物や移動の世界を広げていこうという取り組みです。私たちはLMWの技術の方向性として、“目指せ転ばないバイク”という言葉で表現しております。人と一体となる爽快感を1人でも多くの人に感じてもらいたい、そんな思いから始まったのがこのLMWテクノロジーになります。転びにくさを追求して、外的変化に強く、安定感、接地感の強いLMW機構の特徴を、コーナリングを十分に楽しんでいただくために最大限活用したのがこのNIKEN」と開発の背景を話した。

ターゲットカスタマーは45歳前後のベテランライダー

商品企画を担当した加藤新氏

 NIKENの商品企画を担当した商品企画部の加藤新氏は、「Alpen Master by LMW」という商品コンセプトを示すとともに、「45歳前後のベテランライダー」をターゲットカスタマーとし、1000cc前後のスーパースポーツ、スポーツなどのセグメントからの買い替えを想定していることが語られた。

NIKENの商品コンセプトを示すスライド

 加藤氏は「実際にどんな人を想定したかというと、ツーリングに月に1回行くか行かないかという人です。実際に大型バイクに乗られる人の平均年齢が47歳ぐらいで、走行距離も年間5000kmに行かないくらいなのが実情です。そういった人は、たまに行くツーリングでも、せっかくなら新しい場所に行きたい、毎回新しいところに行きたい、といった悩みを持っています。つまり、あまりバイクに乗るのが上手ではなくても、その時は最高に楽しみたい、そういった非常に高い要求に応えたいという思いで作ったのが、このNIKENです」と話した。

自然なハンドリングを生む新ステアリング機構「LMWアッカーマン・ジオメトリ」

プロジェクトリーダーの鈴木貴博氏

 NIKENのプロジェクトリーダーである鈴木貴博氏は、採用技術など商品特徴について説明。フロントを前2輪とすることで、コーナリング時の安定性、滑りやすい状況、横風のある状況、ブレーキング時、段差の乗り越え時に転倒のリスクを軽減する強みがあることを解説。鈴木氏は「コーナリング進入時に、前2輪とすることでタイヤの性能を引き出すことができるので、狙ったリーン角に持っていきやすく、狙ったラインを走りやすい、そういった強みがあります。また、旋回中にやむを得ずブレーキをかけた際にも、穏やかで車体をコントロールしやすい特徴があります」と、そのメリットを話した。

NIKENの技術的特徴を示すスライド
開発メンバーも参加

 また、NIKENに採用された新ステアリング機構「LMWアッカーマン・ジオメトリ」について鈴木氏が解説。深くリーンするほどトーアウトとなる従来のアッカーマン・ジオメトリに対して、LMWアッカーマン・ジオメトリでは、深いリーン時も左右輪が同心円を描くことにより滑らかな旋回を可能にするという。

 鈴木氏は「リーン(傾き)軸と操舵軸をオフセットするオフセットジョイントを採用することにより、リーンした時にも正確なタイヤ方向のコントロールができ、深いバンク角でもスムーズな旋回ができる」とその特徴を話した。

深いリーン時も左右輪が同心円を描くLMWアッカーマン・ジオメトリ
LMWアッカーマン・ジオメトリを採用するステアリング機構
リーン(傾き)軸と操舵軸をオフセットするオフセットジョイントを採用する新ステアリング機構「LMWアッカーマン・ジオメトリ」

誰も体験したことのない走りを予感させるデザイン

NIKENのデザインを担当した安田将啓氏

 NIKENのデザインについては、デザインを担当した安田将啓氏が説明。安田氏は「今までにない構造を活かしながら、誰も体験したことのない走りを予感させるデザイン、ぱっと見で感じていただける圧倒的な存在感を目指して開発してきました。“New Type of Agility & Controllability”をデザインコンセプトに、LMWの特徴を活かした新しいライディングFUNを想像する意図を込めました」と話した。

NIKENのデザインコンセプトなどを紹介するスライド

初心者ライダーが試乗した

ヤマハ、前2輪のモーターサイクル「NIKEN」に試乗

 説明会の後はいよいよ試乗時間となる。試乗会場は1周5kmの自転車競技用サーキットとなっており、コース幅をいっぱいに使って限界走行を試すという試乗もあるが、ここは自分の運転技量に合わせて、一般公道を走行するシーンをイメージして、コース中央にセンターラインが引いてあると想定してできる限りコースの左側を走行。速度についても一般公道にある制限速度を意識して走行してみた。コースはアップダウンが激しく、高速コーナーから、タイトなコーナーまで、さまざまなコーナーが待ち構えており、初心者にとっては非常にレベルの高いコースという印象。

 記者は大型二輪免許は取得したものの、年に1回ツーリングに行くぐらいのペーパーライダー。ゆえに運転技量としては教習所を出たての初心者レベル。

操作スイッチやメーター
左側のステップまわり
右側のステップまわり

 実際に試乗する時間がやってくると、初心者で最初の心配事は立ちゴケ。前2輪を採用する欧州ブランドの3輪バイクで、停車時に車体を自立させるロック機構を採用するモデルもあるが、NIKENは通常の2輪車と同じようにバランスを崩すと転倒するというので注意が必要となる。

 実際に走り出してみると、発進時など低速域ではしっかりバランスを取らないといけないのは2輪車と同じ感覚。また、コーナリング時には3輪独特の乗車感覚があるのかと想像していたが、印象としては2輪車の乗車感覚と変わらず、これまで2輪車で行なっていた自分のライディングスタイルで、イメージするラインを走行することができた。

 特に印象に残ったのはフロントブレーキをかけた時の安心感。試乗中は雨が降り出していて路面はウェットであったが、下り坂のコーナー手前で強めのブレーキングが必要といったシーンにおいても、転倒の恐怖を感じさせるハンドルのふらつきを感じることもなく安心してブレーキをかけることができる。

 周回を重ねてマシンに慣れてくると、このNIKENはコーナリングにおける安定感が高く、リーンすることへの恐怖心が少ないことを感じた。安心感ばかりかというと、試乗会場がサーキットとあって、ついつい初心者であることをうっかり忘れて、限界の領域を試してみたい衝動を抑えるのに必死。3輪モデルではあるが“乗りなれていない2輪車を運転している”ということを強く自分に言い聞かせることが必要で、そういった人をワクワクさせるモデルであると感じた。