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商品改良したマツダ「CX-5」についてデザイナーに聞く 「フィールドジャーニー」が生まれたいきさつとは?

2021年11月8日 受注開始

267万8500円~407万5500円

11月8日に受注を開始した「CX-5」商品改良モデルでは、「スポーツアピアランス」「フィールドジャーニー」「エクスクルーシブモード」というテイストの違う3つのグレードが設定される(写真はフィールドジャーニーのオプションパーツ装着車)

 今回の商品改良では視覚的な部分にも大なり小なり変更があった。前後の意匠は商品改良としては異例なほど手が加えられており、「CX-5」らしい都会的なエレガントさを維持しながらも、よりSUVらしい力強さとの融合を図ったとのことで、これまでにも増して存在感のあるものとなったのは見てのとおり。

 また、それぞれ個性の際立った3タイプがラインアップされた中でも、新しい方向を示した「フィールドジャーニー」が生まれたいきさつや、「ジルコンサンド」の名の付く印象的なボディカラーが採用された理由などが興味深いところ。こうした新しいチャレンジの背景にはどのような経緯があったのか、デザイン本部 アシスタントチーフデザイナーの椿貴紀氏、プロダクションデザインスタジオ カラー&トリムデザイングループ デザイナーの狩野梓氏に聞いた。

モータージャーナリストの岡本幸一郎氏(左)が、新型CX-5のデザインについて椿貴紀氏(右)、狩野梓氏(中)に聞いた

フィールドジャーニーは「ガンガン使えるCX-5」「イジりたくなるCX-5」

――今回撮影したフィールドジャーニーの新しいボディカラーがとても印象的です。

椿氏:かなりこだわって作りました(笑)。今日の天気だと見えにくかったかもしれませんが、晴れているとハイライトはシャープに光りながらシェードはしっかり影が落ちることで造形にメリハリが生まれます。

狩野氏:系統でいうと既存のポリメタルグレーに近い質感の色で、ソリッドに若干メタリックも入っています。実は他のグレードでも選べます。

椿氏:着想の元が、ジルコンサンドという鋳型に使われる砂の名前そのもので、こちらの砂型も実際に工場から借りてきたものです。アースカラーの重さや力強さを表現できる色で、初めて触ったときには、ザラザラしているものと思っていたこの砂が艶やかでなめらかなことに驚きました。工業用に使われていますが、もともとは鉱物がゆっくり削られてできた自然の砂なので、鉱物のキラキラした感じのものも混ざっていて、マツダらしいエッセンスが表現できていると思っています。

――フィールドジャーニーに似合うし、新鮮味もあって面白い試みかと思います。

椿氏:他社さんもサンド系のカラーをオフロード車種に展開していますが、この色は少し明るめでベージュがかっていたり、逆に暗くなると緑っぽいカーキになったりと表情に幅がある色で、なにより陰影を表現できるのがマツダらしくてよいと感じています。

ジルコンサンドは鋳型に使われる砂の名前。「ジルコンサンドメタリック」として新色のボディカラーに採用されている

――マツダというメーカーは色に関してもチャレンジングですよね?

椿氏:“色も造形の一部”という考え方がベースにあります。ブランドカラーである「ソウルレッドメタリック」という陰影をうまく表現している色を頂点に、クオリティとしてはあれぐらいの迫力を目指しながらも、違うテイストもあったほうがよいだろうということで、今回はフィールドジャーニーを中心にこの色を訴求していきます。

――内装もこれまでのマツダになかった新感覚の蛍光の挿し色を使っていますね。

椿氏:今まで都会的な洗練されたイメージの強い印象のクルマでしたが、新設定のフィールドジャーニーはチャレンジングなグレードなので、デザイナーとしてはインテリアでもチャレンジングな印象のものを盛り込んでいきたいと考えて、こうしたビビッドなアクセントを思い切って入れてみようということになりました。

「フィールドジャーニーはチャレンジングなグレード」と語る椿氏

――しかもそれがライムグリーンというのも意外でした。

椿氏:他社だとこうしたアクティブ系ではオレンジ系が多いのですが、マツダでは過去にボディカラーを含めオレンジを使ったことが何度かあって、今までにない新しい色ということと、ボディカラーとの組み合わせで、とくに今回はフィールドジャーニーを特徴づけているジルコンサンドとの相性も含めて、イメージを強く出せるのではないかと考えました。

――たしかに、相性バツグンだと思います。

椿氏:フィールドジャーニーはすべてこの色で、スポーツアピアランスでは引き締まった黒地に赤ステッチのアクセントのような、もう少し古典的というか分かりやすい表現をしていて、同じく黒を強調したブラックトーンエディションに対して一段上質なイメージの大人っぽい内装に仕立てています。

フィールドジャーニーではフロントグリルの一部、シートステッチやパイピング、エアコンルーバーにライムグリーンのアクセントが使われる

――赤といえば、スポーツアピアランスはグリルに初代ロードスターのクラシックレッドをあえて使ったそうですね?

椿氏:マツダの中でど真ん中の赤を狙うと、結局クラシックレッドにたどり着くというところがあって、やはりピュアな赤の表現というのは、これが一番適していると思っています。それと、何か商品を購入するときに背景にあるストーリーを大事にされるお客さまが増えていて、これまでもマツダのファンでいていただいた方はもちろん、新しく買っていただく方も、「この赤、実はね」という感じで何か語れるものがあったほうがいいということで、小ネタを盛り込んでみました。

――当時、他のメーカーも赤を使い始めた中で、マツダの赤だけは印象が違いました。

狩野氏:クラシックレッドを選んだのは、今回は黒のグリルの中に赤が入るので、ソウルレッドよりももう少しビビッドで分かりやすいソリッドな色のほうがよいという事情もありました。あの部分がフィールドジャーニーだとライムグリーンになります。何もないように見えるエクスクルーシブモードも、実は黒のピースをはめ込んでいるので、よく見るとそこだけツヤがあります。

ピュアな赤の表現として初代ロードスターのクラシックレッドを用いたと語る狩野氏

――全体のデザインも、もともとスタイリッシュだったところ、よりスタイリッシュさが増した印象を受けました。

狩野氏:ありがとうございます。今回はSUVとして力強さをしっかり強調していくという面と、われわれが「フェイズ2」と呼んでいるマツダの引き算の美学という面を、しっかりキャッチアップしていくことを心がけました。フロントはほぼすべて、人間でいうと目、鼻、口の全部を変えました。リアはランプとバンパーで、細かいことをいうとランプは内側に伸ばして、それに伴い下側のガーニッシュの部分も若干変えています。具体的にはリアのオーナメントが今までは少しかじっていて重なっていたところ、今回は完全に下によけたので、キャラクターラインが若干下がっています。

スポーツアピアランス

――部品としては、新たに型を起こさなければならないものも含め、けっこう細かく変わっていますよね?

狩野氏:鉄板領域は変えずに樹脂の部分を変更しています。シグネーチャーウイングも、正面から見ると線に見えていたものを、しっかり幅をとって面で見せて、グリルの形状もマツダで昔やっていた、いわゆる5ポイントの五角形の下の角を下げて、よりスクエアな形状に変更しました。多角形から角が減って、よりスッキリ見えるようになったと思っています。

――パッと見の第一印象では、ランプの変更も大きいですね。

狩野氏:お客さまがまず気づくのはそこかなと思っています。われわれはずっと“生命感”ということで真円にこだわってきましたが、そこをあえて外して、生命感を保ったまま何か違うことができないかにトライして、4つの楕円をモチーフとしたキャラクターに変えています。円を想起させる形状にしていますが、真円ではなく、ちょっと横長とすることで、車両のワイドさや力強さを強調できると思っています。

前後ランプのデザイン変更も実施

――デザインを進める上でご苦労されたことは何かあるでしょうか?

狩野氏:オプション関連は用品サイドでやっており、私どもはクルマ自体について、どこをどうするかいろいろなパターンを試して検討を重ねたのですが、3倍手間がかかった(今回はスポーツアピアランス、フィールドジャーニー、エクスクルーシブモードの3つの特別仕様車が用意されている)わけで、けっこう大変でした。バンパーなど基本的な部分は同じ形状をしている中で、3つの世界観を表現するためには表面処理や塗装色を変えなければならず、そこをいかにバランスよく賢くまとめるかを決めるのに時間を要しました。

 例えばエクスクルーシブモードでは、フロントバンパーの一番下に黒い部分を少し残しているのですが、全部塗ると厚みが増し過ぎてバランスが崩れるので、あえて一部だけ残しました。逆にこの黒い部分を薄くすると、フィールドジャーニーではシルバーのアンダーガード風の処理が小さくなり、アウトドアのラギッドな感じが薄れてしまうので、そのあたり3つの方向が等しくバランスよくなるように時間をかけて綿密に検討しました。

エクスクルーシブモードのフロントデザイン

――2つでなく3つに分けたのもポイントですよね?

狩野氏:今までの都会的な洗練方向だけでいくと相変わらずアウトドア志向のお客さまに興味を持っていただけないことになり、逆にアウトドア方向に振りすぎると洗練方向のお客さまに見ていただけなくなるという葛藤がありました。そこで、エクスクルーシブモードとスポーツ系は正常進化させながら、変わり種でフィールドジャーニーをということなったわけですが、今までやってきた2つの方向を進化させるという軸足があったからこそ、新しいほうでより思い切ったチャレンジができたように思います。

――たしかに、とてもチャレンジングですよね。

狩野氏:ボディカラーはもちろん、ライムグリーンの加飾もあれだけを見せて「これを次のCX-5で使います」と言っても、おそらく社内的には通らなかったでしょう。こちらは黒と赤で今までもやっていたものがありつつ、今回こういう新しいことをしたいと提案をして「ではやってみよう」ということになり、ここにいたったわけです。それゆえフィールドジャーニーは、今までマツダがやってこなかったことや、ある意味マツダらしくないトライをいっぱいやっています。新しいいろいろなことにチャレンジしなければいけなかったという意味で、開発がもっとも大変だったのはやはりフィールドジャーニーですね。

――フィールドジャーニーへの思い入れが大きいご様子ですね。

狩野氏:ソウルレッドのクルマでオフロードを走るというのはイメージしにくいかもしれませんが、個人的にはガンガン使えるCX-5とか、イジりたくなるCX-5というイメージも持っています。「魂動」デザインを始めてからのマツダ車はアンタッチャブルなイメージがあって、ツルシの状態がベストで、「そこからイジってくれるな」的なオーラを出していて、よくもわるくもお客さまもそう感じていたと思います。今回はそのあたりを打破して、カタログに載せるイメージ写真も「ドロがついていたっていいじゃん!」くらいの勢いで、今までにないところを大いに意識しました。