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商品改良したマツダ「CX-5」について開発責任者の松岡英樹氏に聞く かつてないキャラクターの特別仕様車を追加した狙いは?

2021年11月8日 受注開始

267万8500円~407万5500円

11月8日に受注を開始した「CX-5」商品改良モデルの特徴について、モータージャーナリストの岡本幸一郎氏(左)が開発責任者の松岡英樹氏(右)に聞いた

 マツダのクロスオーバーSUV商品群のラインアップがゆくゆくは数字が2ケタの車名となることが報じられた矢先、グローバル販売台数の実に約3分の1を占める基幹車種としてその中核をなしてきた「CX-5」に、またしても大がかりな商品改良が施された。

 現行型になって間もなく5年が経過するタイミングながら、デザインとダイナミクスの進化に加えて、2タイプの特別仕様車を追加して3つのテイストの異なるグレードを設定するという新たな戦略を打ち出したのが今回のポイント。中でも現行CX-5がこれまで訴求してきたものとは異質のアウトドアスポーツギアを思わせるデザインと実用性を重視した仕様の「フィールドジャーニー」のようなモデルがどのようないきさつで生まれたのかが気になるところ。そのあたりの事情を開発責任者の松岡英樹氏に聞いた。

それぞれのお客さまに適したグレードの設定をより分かりやすくした

――今回の改良の経緯を教えてください。

松岡氏:2017年の発売から間もなく5年、初代を出した2012年からは10年あまりで、CX-5は若い20代からシニアまでお客さまの層が広がってきました。その間、頻繁に商品改良したり、さまざまなライフステージの方がいて、それぞれライフスタイルも変わっていくのに応えられるように、いろいろな特別仕様車を出したりしてきました。ところが、お客さまがどれを選べばよいのか分かりにくくなってきた気もしていました。そこで、見た目も含めもう少し世界観を分かりやすく表現したいと考え、ここで一度、整理しようということになりました。

――なるほど、よりシンプルにしようということですね。

松岡氏:CX-5が持つ洗練さをもっとも表現した最上級グレードの「Exclusive Mode(エクスクルーシブモード)」は継続して、2020年に導入してご好評いただいている「Black Tone Edition(ブラックトーンエディション)」について「革シートはないのか」という声もいただいたので、その上級グレード的扱いで「Sports Appearance(スポーツアピアランス)」を、さらに2019年にオフロード走破性を高めたときに用品パッケージとして設定した「TOUGH-SPORT STYLE(タフスポーツスタイル)」の延長上として「Field Journey(フィールドジャーニー)」と、より分かりやすく設定して、それぞれの世界観にふさわしく見た目も差別化を図りました。

エクスクルーシブモード
スポーツアピアランス
フィールドジャーニー

――中でも今回の目玉と言えそうなのはフィールドジャーニーでしょうか。

松岡氏:まったく新しいバージョンですからね。初代が出た当時はまだSUVは今ほど主流ではない中で、初代は都市でも使えるクロスオーバー的なSUVでありながら、SUVらしい使い勝手や道具感も兼ね備えていたと思いますが、2代目では洗練方向に振って美しさやスポーティさを追求した結果、初代が持っていたイメージが薄れたのは否めません。きれいなソウルレッドのクルマでは、キャンプなどに出掛けてオフロードを走るとなると気がねするかもしれません。そこで、そういうことをあまり意識せずに使い倒せる、本来CX-5が持っていた価値であるタフさをイメージできそうなモデルを設定しました。

松岡氏はフィールドジャーニーについて「本来CX-5が持っていた価値であるタフさをイメージできそうなモデル」と解説する

――ここへきて新しいことに挑戦するのは大変だったのではないでしょうか?

松岡氏:今までの洗練された方向性から違うことをやるわけで、オンロード主体からオフロードでの走破性も上げないといけないので、今回新たに「OFF-ROAD」モードを採用しました。使い勝手もよくしたいので荷室もいろいろやらないといけないし、汚れていると手でバックドアを開けたくないよね、ということでハンズフリーも必要とか、クルマ全体のパッケージとして価値を提供しようとするといろいろ大変でした。だからこそ、デザインにも手を加える今回のタイミングでようやくできました。本当はTOUGH-SPORT STYLEのときにできればよかったんですけどね。

――フィールドジャーニーは走りについてもだいぶ差別化されているようです。

松岡氏:4WDのみの設定で、コンセプトからして「OFF-ROAD」モードは他のグレードには設定していません。どうせなら付けてもよいのではと思うかもしれませんが、実はコストも上がるんですよ。また、サスペンションセッティングは他グレードと共通ですが、タイヤを標準では初めて17インチのオールシーズンタイヤとしました。タイヤ自体はもともとアメリカ向けに出していたもので、以前もディーラーオプションで用意していました。今回の撮影車に装着したジオランダーはオールテレーンで、オプションではありませんがディーラーで購入可能です。

フィールドジャーニーのデザインは専用外装によりタフさを追求しており、オールシーズンタイヤを標準装備

――新設の「OFF-ROAD」モードは従来とどう違うのでしょうか?

松岡氏:「オフロード・トラクション・アシスト」はスタックして対角輪が滑っているときにブレーキをかけて脱出できるようにするという、非常時に使うことを想定したものでした。今回のモードは、オフロードを通常走行しているときでも路面がわるくても不安なく走れるモードというニュアンスで、アメリカあたりでは国立公園の荒れた道をぶっ飛ばしていくような方も多くて、そうした状況でも快適に安心して運転していただけるようにしたものです。そうでないところでは、今までの4WDでも十分に走れます。

 基本的には制御主体で、低速でブレーキをつまむのではなく、4WDの制御そのものを進化させていて、高速で走っても駆動輪のトルクを常時制御するのが大きな違いです。詳しくは専門の者を交えて、後日実施する予定の試乗会でぜひお試しください。

マツダが新開発した「オフロード・トラクション・アシスト」とは。オフロードで試した

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マツダ「泥の陣」でi-ACTIV AWDの新機能「オフロード・トラクション・アシスト」を体感

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――今回、走り全体に関する改良はいかがでしょうか?

松岡氏:5年の間にいろいろチューニングレベルで熟成させてきて、もうやりきったと思っていたところ、もう一度、「MAZDA3」から始めた車両構造技術「SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE」の構想に立ち戻って、やりきれていないところは本当にないのかというのを再確認しました。その中で、何かできることはないのかというところを検討してみたところ、車体の剛性やシートの取り付け剛性のあたりにまだ余地があるということで、そのあたりを改善しました。

――商品改良レベルで車体にまで手を入れたのですね?

松岡氏:具体的には、ナンバー3クロスメンバー(=リアシート下のリアサスタワー前あたり)の取り付けのブラケットの剛性を上げて車体をしっかりさせて、その車体にしっかりシートを止めるためにシートブラケットのところの剛性を高めて、車体とシートが一体になってきれいに動くようになった特性に合わせて、ダンパーとバネのレートを見直しました。クルマがきちんと動くようになったので、それに合わせて人間がきちんと座れてS字の姿勢がとれるようにシートのバネ特性も変えました。

 そうすると自然に頭が動くようになって、操安も乗り心地も快適になる、というようなことをやっています。新世代で掲げた新しい乗り心地や操安のレベルは十分に達成できていると思っています。オンロードを楽しく快適に走れて、さらにフィールドジャーニーではオフロードでの走破性も引き上げたというわけです。

――パワートレーンの変更はいかがでしょうか?

松岡氏:ハード的には変えていませんが、キャリブレーションで味付けを変えました。前回でもアクセルペダルと走りの質感を向上させましたが、今回スポーツアピアランスのみエンジンとシフトのつながりをより機敏にスパスパとつながるようにしました。要するに、それぞれのお客さまに適したグレードの設定をより分かりやすくしたというのが今回の改良のテーマで、その意味ではファミリーど真ん中である「CX-8」とCX-5の立ち位置の違いはよりはっきりしたと言えるでしょう。

――このタイミングでこれほど大がかりな改良を行なったということは、当面は現役でいくということですね?

松岡氏:2019年の時点で40万台を販売させていただいたクルマなので、まだまだ大丈夫でしょう。コロナの影響で昨今はアウトドアが人気で、それがクルマの販売にも表れていて、SUVの売れ行きが好調で、おかげさまでCX-5も多くの方から選ばれています。新しいモデルがお客さまにどう評価されるかによって、それを見ながらCX-5をどうしていくかというのが今後の課題ですが、もう少し様子を見ないと分かりません(笑)。

――先日いきなり2ケタの話題が出てきて、中にはCX-5の後継のようなクルマもあったようですが……?

松岡氏:それもよく分かりません(笑)。

マツダ、新モデル「CX-50」「CX-60」「CX-70」「CX-80」「CX-90」など2022年以降のSUV商品群の拡充計画

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――今回のCX-5ではいろいろと手が加えられていて、それなりにコストがかかっていそうに見えながらも実質的に価格はあまり上がっていないようです。

松岡氏:やりたいことはまだまだありましたが、あまり感度のないものはオプションにまわすなどして、価格維持を念頭に置いて営業と一緒に考えてきました。ただ、グレードを整理したかったので、今まで素の「20S」や「XD」もありましたが、以前に出した「SMART EDITION(スマートエディション)」が大変好調なので、それをエントリーにして、そのかわり装備を見直してスタート価格を前回同様にしました。Proactive(プロアクティブ)ベースでスポーティな仕様を好む人はBlack Tone Edition(ブラックトーンエディション)、遊びたい方はフィールドジャーニー、L Packageの洗練された方向でさらにスポーティさを求める方はスポーツアピアランスを、同等の価格で検討いただけるようにしました。

エクスクルーシブモード

――実はCar Watchのカメラマンは初代CX-5のオーナーで、今回のフィールドジャーニーに魅力を感じているらしいです。

松岡氏:それは狙い通りです(笑)。社内にも初代に乗っている人は大勢いて、かしこまった感じの2代目に買い替えるのは抵抗があるという声も少なからずありました。特にガソリンモデルはかなり買い求めやすい価格としたこともあり、社内でも買い替えが進みそうです。

――ところで、新しいモデルは名前にもこだわっていますよね?

松岡氏:どういうクルマかイメージしやすいようにと営業サイドも考えたようです。ちょっと難しいですけどね。

――モデルごとの販売比率はどのようにお考えでしょうか?

松岡氏:現状の受注で一番上のエクスクルーシブモードが20%、ブラックトーンエディションが30%に達しています。そこのお客さまはまったく違って、ブラックトーンエディションは圧倒的に若い方が多いです。営業計画上はエクスクルーシブモードが20%、スポーツアピアランスが15%、フィールドジャーニーが15%と見込んでいますが、フィールドジャーニーは個人的にはもっといけそうだと思っています。今までにない方向性なので、新しいお客さまをどれだけ呼び込めるかの勝負ですね。

――たしかにフィールドジャーニーはもっといけそうな気がします。

松岡氏:荷室もあれだけ使い勝手がよく考えられています。アクセサリーを担当している人間の中に荷室のプロがいて、彼は釣りが好きなのですが、それ以外にもゴルフ好きや山好きがいて、週末に集まってそれぞれが荷物を載せて、ああでもないこうでもないと言いながら、どういう機能が必要とされているかをそれぞれ考えて開発しました。荷室のフロアボードは上段、下段、前後2分割を可能にしていますが、フィールドジャーニーだけ床下も含め防水になっているのはその成果です。

商品改良したCX-5では荷室のフラット化を行なうとともに、フィールドジャーニー専用装備として防水加工が施され、使い勝手が向上

――松岡さんとしてのイチオシは、やはりフィールドジャーニーでしょうか?

松岡氏:新しいフィールドジャーニーはもちろんですが、もともと洗練されたSUVとしてがんばってきた身としては、その意味ではスポーツアピアランスも同じくらい“推し”ですね。この2グレードはデザインが固まる前から用品担当にも入ってもらって、コンセプトの狙いなどを共有しながら、アクセサリーでどういう世界観を表現しようかというのを考えてもらいました。ベースのデザインが出来上がってから、さてどうしようかと考えるのが普通のやり方ですが、それだとやはりできることも制約がかかります。そこを早い段階から入ってもらったことで、お客さまにもどういう使い方をしようか本当に楽しみながら選んでもらえるようになったかなと思っています。

フィールドジャーニーにはディーラーオプションとして個性的なスタイリングに仕上げられる「PRO-XROSS STYLE(プロ・クロススタイル)」(手前のモデル)を設定