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「Honda e」ベースのドラッグレース仕様車「e-DRAG」が走った! 車重700kg台のBEVの実力やいかに
2021年11月24日 13:30
- 2021年11月21日 開催
ホンダ車の純正アクセサリーメーカーであるホンダアクセスは、東京オートサロンに向けて独自に企画したユニークなカスタム車を製作している。そして2021年の東京オートサロンでは、ホンダ「N-ONE RS」の6速MT車をベースにヒルクライムレースへの参加を想定した「K-CLIMB」、BEV(バッテリーEV)である「Honda e」をドラッグレース使用に仕立てた「e-DRAG」の2台を展示する予定だった。
しかし、ご存じのように2021年の東京オートサロンは新型コロウイルス感染症の影響でリアルな開催は中止。そのため、出展予定だった2台のカスタム車はお披露目の場を失ってしまうことになった。
もちろん、これらのクルマは東京オートサロン2021の代替えとして用意された「バーチャルオートサロン」や、一部のカスタム系自動車メディアで紹介されたのだが、その後は情報が途切れていた。
ところが11月の中頃、ホンダアクセスよりe-DRAGがツインリンクもてぎ(2022年3月1日からはモビリティリゾートもてぎに名称変更)で開催される「ストリートシュートアウト」というドラッグレースイベントに参加するという情報が急きょ伝えられた。そう、「展示」ではなくて「参加」だ。これは多いに気になるということでe-DRAGとその走りを取材した。
車重を700kgまで絞り込む軽量化主体のe-DRAGカスタム
東京オートサロン2021への出展にあたり開発チームが意識したのが「スポーツ」だが、もともと速そうなクルマで仕立てても面白みが少ないということから、新たに発売されて間もないN-ONE RSとHonda eを使用したのだ。
そして今回紹介するe-DRAGは、ホンダのBEVであるHonda eをベースにドラッグレース仕様に仕上げたコンセプトモデル。静かでクリーンなイメージのBEVだが、実はエコだけではない「加速力」もあるということで、今後増えていくであろう、BEV時代に向け可能性を探るという思いを込めたクルマとのこと。
このe-DRAGのカスタマイズでは大胆な軽量化が見どころだ。最新技術のカタマリであるHonda eではモーターやバッテリ、制御に関してあとから手を加えることが容易ではないとのことで、まずはパワートレーンはノーマルのままとした。ただ、パワーが上げられない分「軽くする」ことで速さを手に入れることとなった。
使用したのはカーボン繊維と樹脂の複合材であるCFRPを専用の釜で加熱、加圧して製作するドライカーボン。この素材をボディのほぼ全面に使用したのだ。ちなみに外板で元の金属部が残っているのは前後ピラーとリアのクォーターパネルだけ。また、Honda eはルーフに大きめなガラスを採用しているが、これもドライカーボンルーフへと張り替えられているし、テールゲートやリアバンパーもドライカーボン製となっている。これにより、大きなバッテリを積みながら車重はなんと700kg台まで軽くなっている。
サスペンションはレイアウトこそ変更はないが、今後、パワーアップしたときでも対応できるよう手が入っている。ロアアームはジョイント部を動きがよく、かつ正確なセットアップがしやすいピロボール式に変更。ダンパーとスプリングはチューニングパーツメーカーのHKSと協力して作ったワンオフの全長調整式サスペンションキットを装着。本格的なドラッグレース仕様車ではスタート時のトラクション性能や直進安定性などを考慮した設定にすることが多いが、現状はさまざまな走行データが取りたいので特化した仕様ではなく、一般的なスポーツ走行向けサスペンションキットと同等の味つけにしているという。そのほか直進安定性やトラクションの掛かりのよさを重視したアライメントに設定しているとのこと。
また、ドラッグレースらしい装備としてラインロックを装着。これはブレーキの油圧システムを操作して、スイッチオンのときにはフロントブレーキのみをロック。その状態で駆動をかけるとブレーキの効いていない駆動輪(リアタイヤ)を空転させることができるのだ。このような装備をする目的は、スタート前にリアタイヤを空転させてトレッド面を温め、グリップ力を高めるためだ。
インテリアも軽量化のために大幅にパーツが取り払われている。残っているのはステアリング、インパネの一部、スイッチパネルの一部くらいで、エアコンやナビなどはない。それどころか電動パワステユニットも取り外されているので、e-DRAGはいわゆる重ステ仕様となっていた。
シートはフルバケットタイプへ変更し、シートベルトは競技用フルハーネスタイプを装着。助手席、後席は取り外されフロアカーペット、ルーフライニングもない。インテリアで追加されているのはクラッシュ時に乗員を保護するための安全装備である6点式ロールケージのみ。e-DRAGは徹底した軽量化を施しているが、ロールケージだけは安全性優先なので、レースのレギュレーションに合う肉厚のあるスチールパイプを使用している。
念願だったレース参戦、ストリートシュートアウトへのチャレンジ
e-DRAGはショーモデルとして企画されたが、開発メンバーは当初から「走らせることで楽しさや魅力を伝えていきたい」ということにこだわっていた。そのため、ショーモデルと言いながら実際にレースに出ても問題ない作りを施してきた。とはいえ、メンバー全員、本来の仕事も忙しいので進捗はスムーズとはいかなかったようだが、それでも2021年中にレースへのエントリーを実現。以下はその参戦の模様である。
ストリートシュートアウトでは、「タイムスリップセッション」という練習走行兼予選の走行枠が1時間ごとに2枠用意される。この枠では時間内であれば何本走ってもOKだが、今回はエントリー台数が多いためスタート待ちも長くひと枠で走れるのは3本となった。
クラス分けはPRO COMP、EXPERTといった上位クラスのほか、OPEN8、OPEN9、OPEN10、OPEN11、OPEN12、そしてOVER13という分け方で、数字はタイムレンジを表すものだ。つまり「OPEN12」は12秒台が出せるクルマのクラスということだが、もし自分が参加したクラスで設定されているタイムを切ってしまったら、そのとき出たタイムのクラスへ自動的に編入させられるというシステム。つまり、OPEN12でエントリーしていて11秒台が出ると、OPEN11クラス内での順位付けとなるルールである。
e-DRAGは1本目の走行から12秒代前半のタイムを記録していたので、決勝に残れる流れではあった。でも、このクルマは走らせる機会があまりないだけにこの日の走行は、今後の開発に生かすためのデータ取りの場でもあった。そのため走行の合間にはタイヤの空気圧調整などを行なっていたのだが、2枠目の走行時に試した空気圧設定がスタートダッシュ向上に効いたようでタイムが11秒962とわずかだが11秒台に入ってしまった。その結果、自動的にOPEN11クラス内での順位付けになり、11秒台後半のタイムではOPEN11クラス内では下位となる。こうした理由からタイムアップしつつも決勝トーナメントには進めなくなってしまった。
このような結果にはなったが、今回の最大の目的は「レース」にエントラントとして参加することである。また、レースの合間にはほかのエントラントやギャラリーの人がe-DRAGを見に来ていたこともスタッフにとって大きな収穫。東京オートサロン2021の会場でできなかった「クルマ好きな人に実車を見せる」ことも果たせたので、ホンダアクセススタッフは満足そうな笑顔を浮かべていた。
このe-DRAGとK-CLIMBを使う活動は今後も進めていく予定とのことなので、この取り組みに共感する人、興味のある人は「オモスポ」のTwitterアカウントをフォローして活動の状況をチェックして見てはいかがだろう。