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“自動運転Awards”SIP自動運転の社会実装を目指した5つの取り組みを表彰

2023年1月26日 発表

 住商アビーム自動車総合研究所は1月26日、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が管理法人を務め、内閣府が実施する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」(SIP自動運転)における各事業について、外部有識者による審査員団(名称:“自動運転Awards”審査委員会)による評価により、各賞の受賞者が決定したと発表した。

 自動運転Awardsは、SIP自動運転における各取り組みについて、外部有識者がユーザー目線や社会的観点に基づき、その意義を評価したもの。これまでの活動実績だけではなく、今後の発展にも期待し、自動運転の社会実装に向けた研究従事者の継続的な取り組みを応援するとともに、社会的受容性の向上を目指していくとした。

 SIP自動運転は、2014年のSIP第1期に始まり、交通事故の低減や交通渋滞の緩和、地方部等における高齢者などの交通制約者の移動手段の確保といった社会課題の解決を目指して研究開発を推進。2018年からの第2期では、自動運転の実用化を高速道路から一般道へ拡張するとともに、自動運転技術を活用した物流・移動サービスを実用化することで、すべての国民が安全・安心に移動できる社会を目指して、取り組んできた。

 審査委員長を務めた室山哲也氏(日本科学技術ジャーナリスト会議会長)は「SIP自動運転は、技術開発だけではなく、人々の暮らしや社会的な課題の視点を大切にしつつ、取り組みを推進してきたと思います。今回のAwardsを通じて、外部からの目線でそうした意義を評価し、自動運転の取り組みに対して、社会からの期待値が高いことをお伝えしたいと考えています。そして、今後さらに各取り組みを発展させていくモチベーションとなることを期待しています」とコメントしている。

 なお、SIP自動運転は、3月7日~8日の2日間、秋葉原UDXで、これまで9年間の集大成となるイベントとして成果発表会およびシンポジウムを行なう予定としている。

受賞事業

「安全貢献」賞

新たなサイバー攻撃手法と対策技術に関する調査研究

・研究内容
 コネクテッドカーおよび自動走行システムでは、高度な地図情報などさまざまな情報が外部ネットワークを介して自動車に送信される。このような状況はサイバーセキュリティ問題を引き起こす要因となる。本研究では、出荷後における新たなサイバー攻撃への対策技術として侵入検知システム(IDS)に着目し、IDS評価ガイドラインを策定した。本年度は実際にインシデントが発生した際の初動対応を支援するための仕組みづくりとして、コネクテッドカーの脅威情報の収集・蓄積方法の検討および、ハニーポット等による収集実験を実施している。

・受賞理由
 情報をやり取りしながら走る自動運転車にとって、サイバーセキュリティは最重要課題の1つ。協調領域として取り組める領域を特定し、サイバーセキュリティに対する業界全体の意識向上に貢献した。

 コネクテッドカーに対する脅威情報の評価手法・ガイドラインの策定や、同情報の収集・共有機能の仕様策定など一定の成果を上げたことを評価。

「人への配慮」賞

自動運転の高度化に則したHMI及び安全教育方法に関する調査研究

・取り組み内容
 自動運転から手動運転への運転交代という従来のクルマにはない場面が生じることで、ドライバーの挙動を的確に捉えることがより重要となっている。運転交代前におけるドライバーの周辺監視状態の評価指標の検討や、HMIによるドライバーのシステム理解への効果の検討等に取り組んだ。レベル3自動運転のシステム主導からの運転交代場面において、運転準備となるドライバーの周辺認識の評価指標や適切な周辺認識に必要となる時間等を明らかにした。また、レベル2使用中のドライバーの注意状態を評価するには視線計測が有効であることや、ドライバーがシステムの機能限界に至る前に適切に応答ができるようにするHMI要件を明らかにした。

 低速走行の自動運転サービス車両では、ドライバーが乗車しないことから、歩行者や他のドライバーなどの周囲交通参加者とのコミュニケーションの課題が存在する。実証実験等では、車両と周辺交通参加者との間で観測されたコミュニケーションの特徴分析、車両からのコミュニケーション方法(車両挙動や外向HMI等)の実験的検討を実施した。

・受賞理由
 すべてを自動運転に任せるのはかなり先の話となるが、そこに達するまでは自動運転と手動運転を「人馬一体」のごとく切り替えることが、安全性を確保するために重要なポイントになる。切替時間を短くできることや、人が安心感を持てる運転支援システムの介入タイミング、手動運転に切り替わる際のパフォーマンスの高い通知方法などを明らかにしたことを評価。

 視野等障がい者を含めたさまざまな人々にとって安全なモビリティ環境を考えるうえで、HMIは必要不可欠な研究である。

 HMIは差別化すべき領域でありつつ、協調がなければ混乱が起きる領域でもあるので、国プロで取り組む妥当性は高かったと言える。

 人間の生物的特徴に沿ったテクノロジー文明が求められる今、HMIは最重要課題の1つ。脳科学などの人間科学 の融合が必要。

「イノベーション」賞

仮想空間における自動走行評価環境整備手法の開発

・取り組み内容
 自動運転はシステムが複雑化する一方で、無数に存在する走行環境に対して高い安全性の確保が求められるが、実環境走行下での網羅的な安全性の検証は膨大なコスト(人・物・金・時間)を要する。また、自然界で起こる物理現象に対しカメラ、レーダ、LiDAR等の外界センサの物理的限界は検証が難しく、システムを構築するうえでどこまでやれば安全性を保証できるのかといった課題がある(How safe is safe enough?)。このような背景を踏まえ、自動運転の安全性評価に必要となる実現象と一致性の高い「走行環境~空間伝搬~センサ」一連のモデルを特徴とした仮想空間シミュレーションでの評価プラットフォームを構築した。また、V-Drive Technologiesとして事業化した。

・受賞理由
 自動運転の開発には再現性の高いシミュレーション技術が欠かせない。本事業では、複数のセンサを同時に評価できる精度の高いシミュレーターの製作に、競合メーカーや大学などが協力して取り組んでおり、単独企業では実現が難しい、SIPならではの成果であると評価。

 世界的に見てもハイレベルなシミュレーターを、産学が協力して開発したこと
(=協調領域でのイノベーション)また、V-Drive Technologiesとして事業化されたこと(社会実装の成果)を併せて、イノベーションを社会実装へとつなげた点として評価。

 今後Software Defined Vehicleが進化する中、機能検証の精度が開発力の鍵になっていく。そのため、仮想空間でデジタルツインを築き、リアルな実験との精度を確保することで、次のイノベーションへつなげていくことを期待。

「社会インパクト」賞

中山間地域における自動運転移動サービス

・取り組み内容
 中山間地域をはじめとした全国的な高齢化の課題に対応するため、各地の道の駅等を拠点とした自動運転移動サービスの実証実験を公道上で実施した。「道路・交通」「地域環境」「コスト」「社会受容性」「地域への効果」の5項目を検証する目的で、約1週間の短期実証実験を全国18か所で実施した。さらに、社会実装を念頭において、技術面(走行空間の確保、運行管理システム)および、ビジネスモデル面(事業実施体制、多目的利用に向けた他業務連携、事業採算性など)の項目を検証する目的で、約1か月の長期実証実験を全国9か所で実施した。

・受賞理由
 地域の課題(少子高齢化、物流促進、観光など)を解決するために、自動運転は有効。その特性を生かす首長の存在が鍵と言える。また今後は、自動運転と連動したその土地ならではの情報社会の形成も重要。

 高齢者でも使いやすい予約管理システムを開発し、生活の足の確保のための自動運転移動サービスの普及に向けて進めていることについて、地に足をつけた実現性の高いプロジェクトとして評価。有人の自動運転という点も中山間地域の実情に合わせてメリットを生んでいる。

 実証実験を多く実施できたことは評価できる。それらを踏まえて、今後はビジネスモデルも含めより普及性の高い自動運転車の新たな提案が、競争領域において活発化することが期待される。

「プロジェクトとしてのサステナビリティ」賞

交通環境情報の構築と活用及び東京臨海部実証実験

・取り組み内容
 自動運転車は、複数種の車載センサで車両周辺の情報を収集しているが、インフラから無線通信等により提供されるさまざまな交通環境情報を利活用することができれば、より複雑な交通環境下での運行を安全かつ円滑に実現できる。このため、協調型自動運転システムについて実交通環境下において実証実験を行なった。

 その際、SIP自動運転が交通環境情報配信設備の設置・運用ならびに、それらの情報を受信する車載機器類を準備し、実証実験の参加者は、実験車両の準備および実験要員などの実験走行に関わる費用を負担するというマッチングファンド方式を採用した。国内外の自動車メーカー、サプライヤー、ベンチャー企業、大学研究機関ほか、合計29の機関が参加した。

・受賞理由
 東京の一般道で自動運転の実証実験が可能な環境を整えたことで、国内外から多くの企業が参画し実験が進んだ。インフラ協調型自動運転実現のために、産学官で取り組むべき技術課題やステップを2040年ごろまでのロードマップとして描いたことを評価した。今後も社会の多くの要素と絡み合いながら、多様な波及効果を持続的に生み続けることが重要。

 個社でできる規模を越えるものであり、SIP自動運転 ならではの取り組み。