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スバル、2024年3月期第1四半期決算は営業利益845億円 大崎新社長の新体制方針も発表
2023年8月3日 00:00
- 2023年8月2日 開催
スバルは8月2日、2024年3月期 第1四半期(2023年4月1日~6月30日)の決算を発表し、東京 恵比寿のエビススバルビルで決算説明会を開催した。
第1四半期の売上高は前年同期(8341億円)から2480億円増となる1兆821億円、営業利益は前年同期(370億円)から475億円増となる845億円、当期純利益は前年同期(272億円)から460億円増となる732億円。前年同期から29.7%増となった売上高の1兆821億円は過去最高の数字になっている。
また、第1四半期累計3か月の国内生産台数は前年同期(13万5000台)から2万4000台増の15万9000台、海外生産台数は前年同期(7万台)から1万3000台増の8万4000台。全世界販売台数は前年同期(19万6000台)から4万台増の23万6000台となった。なお、2024年3月期の通期見通しについては5月の期初発表値から変更していない。
2030年に販売する車両の50%をBEVに。1兆5000億円を投じてBEV計8車種を市場投入
決算説明会ではこれに加え、6月に開催された定時株主総会終了後の取締役会を経て新たに代表取締役社長に就任したSUBARU 代表取締役社長 CEO 大崎篤氏が新体制による方針説明を行なった。
大崎氏は最初に、2018年に策定されたスバルの現中期経営ビジョン「STEP」について振り返りを実施。STEPでは「安心と愉しさ」を不変の提供価値として位置付け、機能価値だけではなく情緒価値を含めたスバルらしさを追求して「笑顔をつくる会社」を会社のありたい姿として取り組みを続けてきた。この目指すべき方向については新しい経営体制でも変わることなく踏襲していくという。
また、STEPでは「品質改革」を中心に据え、社員1人ひとりの意識徹底、体制強化などを推進しており、大崎氏は「着実な手応えを感じております」と評価。さらにカーボンニュートラルの実現に向けた取り組み、提供価値である「安心と愉しさ」の具現化に向けてモノづくり革新を進めてきた。こうした取り組みにより、商品である車両に加えて企業としてのスバルがブランドとして高い評価を得るようになっているという。この評価を得たことはSTEPの取り組みが正しい方向に進んできたことの証であり、会社にとって大切な財産であるとの認識を示した。
その一方で、スバルの主力市場である米国では急速なBEV(バッテリ電気自動車)シフトが進み、それ以外にも自動車業界では大きな変化が起きており、異業種を含めた新興メーカーも台頭してきているなど、スバルの事業を取り巻く環境は非連続かつ急速に変化しているという。大崎氏が中心となる新体制ではさまざまな対応をしており、今回の説明では「電動化計画のアップデート」「2028年に向けた決意」の2点を中心に紹介された。
電動化計画では数値目標を改定。これまでは電動車販売比率として「2030年にHEV(ハイブリッドカー)とBEVを合わせて40%以上」としてきたが、今回からこの目標を「2030年にBEVのみで50%」に引き上げると同時に、2030年の全世界販売台数として設定する120万台+αの半数にあたる60万台のBEV販売を数値目標として明確化した。
生産計画では、国内工場における生産キャパシティを現状の20万台から40万台に増強する計画を5月に発表しているが、これに加えて国内工場で生産を予定しているTHS(トヨタハイブリッドシステム)採用の「次世代e-BOXER車両」とBEVを、米国にある工場でも生産すると明らかにした。
新設する米国でのBEV生産ラインを加えることで、スバルの世界生産キャパシティは120万台レベルまで拡大。電動化シフトの過渡期では各国の規制や市場ごとの動向を注視して、日米にある工場を再編しながら活用して柔軟に対応しつつ、一定の方向性が見えたタイミングで一気に拡張していく計画によって先行きの見通しにくい困難な時代を乗り切っていきたいと意気込みを語った。
このほかBEV関連では、2030年前後までの期間に電動化対応の生産・開発予算として1兆5000億円を投資。これまで2026年末までにSUVのBEV4モデルを市場投入するとのロードマップを示してきたが、この目標に2028年末までに市場投入する4車種のBEVを追加。2028年末までの期間で8車種のBEVをリリースすると公表した。BEVのラインアップ拡充を図ることにより、2028年には米国で販売するスバル車の半数以上となる40万台のBEV販売をターゲットとして設定している。
こうした電動車販売の新たな数値目標、生産体制の大幅な見直しを実現するため、これから2028年までの5年間を非常に重要な期間と位置付け、新体制では「モノづくり革新」「価値づくり」の2点で取り組みを強力に行なっていくと説明。100年に1度の大変革期で埋没することなく乗り切るために、「モノづくり革新」「価値づくり」の2点で世界最先端でありたいとの考えを示した。スバルという会社の舵をBEVに切ったのはこのためであり、BEVに資源を集中して「モノづくり革新」「価値づくり」を早期に実現していく。
「モノづくり革新」では、スバルではこれまで、「小まわりの利く職人集団」という立ち位置から「AWD」「アイサイト」といった革新的な技術を世に送り出してきた歴史を持っているが、現代では時代の変遷を受け、「ユーザーニーズの変化」「自動車技術の複雑化」といった要因から製造、開発、サプライチェーンの分業化が一気に進んだと分析。
しかし、100年に1度の大変革期では従来からの競合他社に加え、異なる価値観を持つ異業種の会社とも競い合って凌駕することが求められており、「モノづくり革新」によってスバルの企業規模を生かして小まわりの利く職人集団に立ち返り、取引先企業まで含めた製造、開発、サプライチェーンを一体化した「ひとつのスバル化」を進めて高密度なもの作りを推進していく。
この考えを軸として、「開発手番」「部品点数」「生産工程」の各領域で半減を実現することで世界最先端のモノづくりを成し遂げると大崎氏はアピール。現在は商品構想、設計、生産がリレー形式で業務を進めているが、今後は各領域の作業をアジャイルに進行。所要時間の半減につなげていき、こうした取り組みを絶え間なく進めていくことで、既存領域での開発日数、生産手番などを抑制して、先行きの見通せない非連続に変化する領域への対応も強化していく。
2つめの柱となる「価値づくり」では、これまでスバルが進めてきた「ユーザーの人生に寄り添うクルマ造り」で生み出してきたクルマたちが購入者との思い出を作り、米国ではユーザーの心に「Love」を生み出していると解説。このLoveをさらに広げていくため、米国にある販売子会社のSOA(スバル・オブ・アメリカ)では、全米の販売店と協力して「Love Promise」という活動を行なっており、スバル車を核として、ユーザーや販売店、スバル、地域社会に住む人々を強固につなげる「Love Promise」がスバルによる社会と未来に対する価値貢献になり、この取り組みを守り、さらに広げていくとした。
また、BEV時代の「価値づくり」としては、まずは不変の提供価値「安心と愉しさ」のさらなる進化に注力。「BEV時代になるとスバルらしさが失われるのではないか?」といった疑問を耳にすることも多いが、長年培ってきたAWD技術はBEV化によってさらに緻密な制御が可能になり、スバル車が持つ安全・安心といった強みをより強化できることが1つの答えになるとの考えを示した。さらにBEVではシームレス、ストレスフリーといった要素で使い勝手を追求し、クルマが持つ魅力を低下させず、長く愛用してもらえるようにする「減価ゼロ」という発想など、テクノロジーの活用で価値を実現していくという。
これに加えて、これからの5年間で「モノづくり革新」と「価値づくり」のチャレンジをやり切る原動力になるのは「人財」であると強調。「人財」の育成が企業競争力の源泉であり、最も力を入れていきたい部分になるという。具体的には、STEPでも重点的に取り組む領域になっている「個の成長」に焦点を当てた活動を加速させ、「個の成長」の先にある「変革をリードする人財」を育んでいく風土を醸成し、活躍の場を作っていくことも経営陣の使命だと位置付けた。「変革をリードする人財」が部門を横断して活躍して社内外で仲間を増やし、新たな時代のスタンダードとなるプロセスや技術を生み出していくことを目指していくと語った。
最後に大崎氏は、「『モノづくり革新』と『価値づくり』を通じて、先の読めない難しい時代に柔軟性と拡張性の視点を使い、これからもお客さまにお求めいただける魅力あるスバルの商品を市場にお届けしてまいります」と述べて説明を締めくくった。
質疑応答
質疑応答では世界最先端を狙うという「モノづくり革新」で、具体的にどのような策を用いることを考えているのかと質問され、これに対して大崎氏は「私どもは群馬県に新しいBEVの専用工場を作るべくすでに工事を始めていますが、更地なのでまったくなんの成約もありません。その工場では生産工程を半減するクルマ作りをして、なんとか収益を大きくゲインしていきたいと考えたときに、どういったクルマ作りをすれば工程を半減できるのか、どういった構造にすればいいのか、それを逆に企画、設計といった段階から戻しながら、行ったり来たりして盛んに検討しているところです。やはりシンプルなモノづくりをすることが一番の近道だということで、そこを目指して全社を挙げてさまざまな検討を進めているところです」と回答した。
BEVでキーになるバッテリの開発についてトヨタ自動車とどのように連携するのかについての質問では、SUBARU 専務執行役員 経営企画本部長 江森朋晃氏が回答。
「BEVの開発でもう1つの軸になるのが、トヨタさんでもやっている角形の全固体バッテリで、そこの進化も平行して取り組んでいます。トヨタさんとは共同開発という形で、車両開発を通してバッテリの調達もやりながらトレンドの対応をしているところです。これから車両にどのような独自領域を載せていくかということはスバルとしても非常に大きな課題で、内容の一部については本日の『価値づくり』というところで発信させていただきましたが、いわゆる協調領域に加えて独自領域を進めるという文脈のなかで、トヨタさんでも“大変革だ”という認識を持っていらっしゃるので、バッテリがどうなるのかといえば『両社で共通の物を持ちながらも技術の幅を広げていくべきじゃないか』というお話しをして、それぞれで違うところも行ってみる。でも、そこから最終的には両社の成長に還ってくるところだという認識で進めています。そういったなかで、いくつかのバッテリの種類を含めて対応できるような関係づくりがトヨタさんとできていますので、いずれはわれわれも搭載する可能性を得られると思っています」とコメントしている。