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日産とホンダ、三菱自動車が経営統合に関する記者会見 実現すると売上高30兆円、営業利益3兆円を超える世界トップレベルのモビリティカンパニーに

2024年12月23日 開催

日産、ホンダ、三菱自動車による記者会見

 日産自動車と本田技研工業は12月23日、両社の経営統合に向けた協議・検討を開始することについて合意し、同日、共同持株会社設立による経営統合に向けた検討に関する基本合意書を締結したと発表。その記者会見を東京コンベンションホール&Hybridスタジオ(東京都中央区京橋)において開催した。

 この日産とホンダの発表に合わせ、日産、ホンダ、三菱自動車工業の3社は日産とホンダが基本合意した共同持株会社設立による経営統合に向けた検討に対して、三菱自動車が参画・関与およびシナジー享受する可能性について検討することに合意し、同日、3社で覚書を締結した。三菱自動車は、2025年1月末をめどに日産とホンダによる経営統合への参画・関与の可能性に関する検討結果を出すことを目指す。

 日産とホンダの経営統合については協議・検討を開始することについて合意した段階であるものの、これが実現した場合、全体で売上高30兆円、営業利益3兆円を超える世界トップレベルのモビリティカンパニーを目指すことがアナウンスされた。

 また、経営統合の実現によるシナジー効果についても発表され、「車両プラットフォームの共通化によるスケールメリットの獲得」「研究開発機能の統合による開発力向上とコストシナジーの実現」「生産体制・拠点の最適化」「購買機能の統合によるサプライチェーン全体での競争力強化」「業務効率化によるコストシナジーの実現」「販売金融機能の統合に伴うスケールメリットの獲得」「知能化・電動化に向けた人財基盤の確立」の7点が想定されるという。

 以下、記者会見に参加した本田技研工業 取締役 代表執行役社長の三部敏宏氏、日産自動車 取締役 代表執行役社長 兼 最高経営責任者の内田誠氏、三菱自動車工業 取締役 代表執行役社長 兼 最高経営責任者の加藤隆雄氏のコメントを記す。

ホンダ 三部敏宏社長

本田技研工業株式会社 取締役 代表執行役社長の三部敏宏氏

 本日、日産自動車とホンダは、経営統合に向けた協議を正式に開始することについて合意に達し、両者、取締役会の決議を経て基本合意書を締結いたしました。また、三菱自動車については、この経営統合の協議に加わるかの検討を開始し、2025年1月末をめどに判断するという基本合意書を3社で締結いたしました。

 本基本合意書は機密情報のやり取りも発生することを踏まえ、まずは検討を開始することおよび、その枠組みについて決めたものであり、経営統合そのものを決定したものではありません。三菱自動車が判断する来年1月末をめどに、経営統合の可能性について方向性を出すことを目指し、本日以降議論を深めてまいります。

 本日は、まず私から基本合意に関する内容と今後のスケジュールを中心にご説明をいたします。その後、内田社長、加藤社長から今回の基本合意に関する思いのお話をさせていただきたいと思います。

 日産とホンダの協業については、すでにご承知のとおり、今年3月に協業検討していくことを発表し、8月には正式に協業に取り組むという両者の合意のもと、ソフトウェアプラットフォームの研究開発に関する共同開発契約の締結や、EVの基幹部品、車両の相互補完など複数の領域で検討を進めること、そして協業の枠組みに三菱自動車も加わるということをお知らせしました。

 現在、各協業プロジェクトは引き続き順調に検討を進めています。自動車業界を取り巻く環境がグローバルで劇的に変化する中で、協業とは別枠で両社間で議論を行なってきましたが、両社が統合することであらゆる領域で化学反応が生まれることによるシナジー効果の可能性は想定以上に大きいことが再確認できました。

経営統合検討に至った背景

 一方、両者のトップマネージメントの間では、現在すでに顕在化しつつある自動車産業の地殻変動を将来にわたって見通したときに、これからのモビリティは従来のハードウェアの差別化ではなく、それに加えて知能化、電動化を中心に、そのありさまが大きく変わっていくだろうという認識をさらに深めることができました。両社間で議論を重ねるにつれて、より大局的視点での認識が両社の間で共有できるようになりました。

 具体的には過去の産業革命がモビリティ、エネルギー、コミュニケーションのありさまを大きく変えてきたことに鑑みると、電動化はエネルギー、知能化はコミュニケーションと置き換えることができますが、これからのモビリティにおいては、このエネルギーとコミュニケーションの相乗により新しい移動の価値を生み出していくことが重要だということ、そして、両社がこうしたモビリティの変革をリードする存在となるには、特定分野の協業ではなく、もっと大胆に踏み込んだ変革が必要ではないか。このような認識を両社の間で共有するに至りました。

 こうした議論の結果、その実現方法としては両社の経営統合の検討を行なうことがもっとも合理的ではないかと考え、それに向けた検討を正式に開始するという本日の基本合意に至った次第です。

過去の産業革命がモビリティ、エネルギー、コミュニケーションのありさまを大きく変えてきた

 では、今回の合意に至った背景、目的について少しお話をします。今回検討するにあたり、日産とホンダは両社の英知を持ち寄り、築き上げてきたブランドを相互に尊重し合うことを基本理念としました。そして、それぞれが有する人材や技術などの経営資源を融合させ、シナジーを生み出すことにより、モビリティ社会を取り巻く知能化や電動化といった市場環境の変化に対応し、中長期的な企業価値の向上が期待できます。

 その実現に向けては、経営統合という大きく踏み込んだ関係を前提とすることで、現在の両社の供給の枠組みでは成し得ない、真の競争力強化を実現できるのではないかと。そして、経営統合により単に両社の四輪事業が手を結ぶということだけにとどまらず、ホンダの大きな強みでもある世界一の二輪事業、さらにはパワープロダクツや航空機事業といった幅広いモビリティ事業も融合させることで多くの顧客接点を持つことができるようになります。

 さらには知能化、電動化技術の知見を融合することで、先ほど申し上げたエネルギー、コミュニケーションを含めた新しい価値創造もチャレンジできます。例えばクルマの電動化で普及が進む大容量・高出力のバッテリで、バッテリはクルマのパワーユニットとしてだけではなく、家庭や系統とつながることで電力の調整機能としての価値を持つようになります。また、クルマに使われる高度な計算処理能力を持つソフトウェアも、走行しないときにはクルマ本体とは別の用途にも活用できる可能性があります。

知能化、電動化技術の知見を融合

 こうした新しい取り組みは、ある程度スケールがあって初めて価値が生み出せるものであり、両社が力を合わせて取り組んでいくにふさわしいイノベーションのチャレンジと考えています。こうした幅広いモビリティの事業を生かし、新たな価値創造に挑む。いわばモビリティの新価値を創造するリーディングカンパニーとなること、これこそが私たち両社が目指す姿であり、経営統合を検討する目的となります。

モビリティの新価値を創造するリーディングカンパニーとなることが両社が目指す姿であり、経営統合を検討する目的

 本日は、検討を正式に開始するということについて基本合意に至った段階であり、具体的な内容については今後詳細を検討していくことになりますが、経営統合により期待されるシナジー効果の代表例としては、ご覧のような点が挙げられると考えています。

シナジー効果の代表例

 これらを通じて、人的基盤の確立と高度化を合わせて狙っていくとともに、系統ごと速やかにシナジー効果を生み出していくことで、全体で売上高が30兆円以上、営業利益3兆円を超える世界トップレベルのモビリティの新価値を創造するリーディングカンパニーとなることが可能であると考えています。

シナジー効果を生み出していくことで売上高が30兆円以上、営業利益3兆円を超える世界トップレベルのリーディングカンパニーに

 ただし、この構造の実現に向けて重要なことは、両社が現状のまま単に持株会社体制に移行するのではなく、日産とホンダの両社が現在取り組んでいる事業を着実に進め、強固な事業体質をそれぞれが築き上げていくことが不可欠であるということです。お互い自立した強い企業が、さらにイノベーションによる成長を目指す中で経営統合していく必要があります。そして、系統合後には速やかにシナジー効果を発揮させ、製品、技術、モビリティの利用形態、ユーザーのライフスタイルなど、さまざまな観点でこれまでにない新たな価値を創造できる会社となることが期待できます。

強固な事業体質をそれぞれが築き上げていくことが不可欠

 続いて、統合後に想定している会社形態の方向性についてご説明をいたします。今回の経営統合は、共同株式移転の方法により、日産、ホンダが共同持株会社を設立し、両社を共同持株会社の完全子会社として存続させるとともに、それぞれのブランドも等しく育成、発展させていく方向で検討していきます。また、先ほど触れたような機能を中心に、共同持株会社のもとで統合を進めていく予定です。

 なお、共同持株会社の設立時点においては、その取締役の過半数をホンダが指名するとともに、代表取締役または代表執行役社長はホンダが指名する取締役の中から選定する予定ですが、経営統合後の事業運営においては、出自に関わらず、経営統合の目的に即して最適な人選を進めていく予定です。

両社を共同持株会社の完全子会社として存続させるとともに、それぞれのブランドも等しく育成、発展させていく方向で検討

 当初はホンダがリードしながらこの枠組みを進めていくことになりますが、両者の理念やブランドは変わることなく引き続き残していきますし、今後三菱自動車も加わることになれば3社が個々のブランドをしっかり輝かせながら、最大効果を発揮していけるように取り組んでいく予定です。

 今後のスケジュールについては、基本合意した内容をベースに2025年6月の正式契約締結を目標に協議を進めていき、最終契約の締結に至った場合には当局への申請、承認などの取得や、両社の株主総会での決議などを経た上で、2026年8月をめどに東証プライム市場の上場会社として共同持株会社を設立する予定です。

 本株式移転における株式移転比率は、合意書の公表日前の一定期間における両社それぞれの株式の終値の平均値も参照しつつ、デューデリジェンスの結果および、第三者算定機関による株式移転比率の算定結果などに基づき、経営統合に関する最終契約締結時までに決定していく予定です。

 日産、ホンダの両社は共同持株会社の完全子会社となり、その後上場廃止となる予定ですが、現在の両社の株主の皆さまは引き続き東京証券取引所において、株式券によって交付された共同持株会社の株式を取引することが可能となりますので、ご安心いただければと思います。

 また、三菱自動車については日産、ホンダが進める経営統合検討に関与するか否かの判断を2025年1月末をめどに行ないます。参加する場合は新たな基本合意書を締結することとなりますが、その場合でも上記日程を極力順守し、スピード感を持って進めていきたいと考えています。

日産 内田誠社長

日産自動車株式会社 取締役 代表執行役社長 兼 最高経営責任者の内田誠氏

 私たちを取り巻く事業環境は、大きく、そして想定を上まわるスピードで変化し続けています。

 こうした時代においては、どんな大企業であってもこれまでの常識にとらわれて判断が遅れたり、変化を恐れたりしていては決して未来を切り開くことはできません。この認識は、私たちよりも事業規模の大きいホンダの皆さんも全く同じでした。そのことが今年3月の協業検討の開始につながりました。その思いはその後、さまざまなプロジェクトを進める中でさらに強くなっていったと感じています。

 そして本日、私たちはこれまでの協業の枠を超え、経営統合に向けた協議を開始するという、将来を見据えた重要な一歩を踏み出す決断をいたしました。単純計算となりますが、両社の売り上げ規模は合計30兆円以上、四輪車の合計台数は750万台。経営統合が実現した場合は、グローバルの自動車メーカーの中ではトップクラスに入る規模感となります。車両の電動化、知能化を進めるには巨額の投資が必要となりますし、新たなプレーヤーが次々と登場し、勢力図が次々と塗り替わっている中、スケールメリットはこれまで以上に大きな武器となります。また、両社が力を合わせることでさまざまな市場で大きな相乗効果が期待できます。

 しかしながら、販売台数のシェアを伸ばすことを目的としてしまっては、この100年に一度と言われる変革期において勝ち残っていくことはできません。グローバル全体の社会課題である環境問題への対応や、自由で安全な移動をより多くの方に提供していくためには、モビリティを進化させるだけではなく、バリューチェーン全体を捉えた価値の創出、ビジネスイノベーションの実現が不可欠である。それなしでは、カーボニュートラルや交通事故のない安全な社会の実現も叶わず、サステナブルな事業運営は継続できません。

 私は両社の強みを組み合わせることでこうした課題に対応し、これまでにない新たな、そして大きな価値を見いだすことができると確信しています。三部さんも先ほどおっしゃったように、今回の経営統合を成功させるにはそれぞれの会社がしっかりと自立し、より強くなっていくことが不可欠です。どちらか片方に依存するのではなく、互いに成長することでそれが掛け算となり、より大きな力に変わっていきます。そのためにも、現在進めているターンアラウンドの取り組みを着実に実行し、1日も早く成果を形にしていくことが当社の大きな責任であると認識しております。

 本件の進捗状況については今後、早い時期に決算発表の場などを通じて適宜ご説明させていただきますが、現在順調に進んでおり、具体的な活動も数多く始まっています。引き続き従業員一丸となって取り組みを進め、その先の未来の実現につなげていきたいと考えています。

 一方、ともに長い歴史があり、高い技術力を有する両者が経営統合を目指す上にあたり、その検討過程で今後さまざまな課題が出てくることもあると思います。しかし、同じ目標に向かってともに進んでいく仲間とし、困難を1つずつ乗り越えていくことで、私たちは必ず強固なチームになれると信じています。両者の強みを持ち寄り、さまざまな化学反応を次々と起こしていくことで、1社だけでは成し得ない、これまでにないクルマの楽しみと新たな価値を、長年それぞれのブランドをご愛顧いただいてきたお客さまに提供することができると確信しております。

 最後になりますが、ホンダさんも日産も、世界中のさまざまなステークホルダーの皆さまに支えられています。そして何よりも、世界中のホンダファン、日産ファンが私たちのクルマやブランドを愛してくださっています。それだけに、本日の発表についてさまざまな感想、ご意見が出てくるであろうこと、また両者の従業員の中にはさまざまな思いが出てくると思います。しかし、どちらが上、どちらが下ではなく、ともに未来を切り開く仲間として、互いの立場や違いを尊重し、透明性を持って議論を重ね、信頼関係を構築していくことで5年後、10年後に今回の決断は正しかったねと、両社の従業員をはじめとする多くのステークホルダーの皆さまに言っていただくことが私の一番の願いです。そのために今後も全力を尽くしてまいります。引き続き皆さまのご支援をいただきますよう、よろしくお願いいたします。

三菱自動車 加藤社長

三菱自動車工業株式会社 取締役 代表執行役社長 兼 最高経営責任者の加藤隆雄氏

 まずは今回、日産自動車とホンダが経営統合に向けた協議を開始する決定をされたことを当社としても歓迎するとともに、この方向性については前向きに捉えております。

 ともに協業検討を進める当社もさらなる関係強化が必要と認識をしており、両社が経営統合に向けて検討を進める中、3社の関係をどのような体制とすることがもっとも効果を高められるのか。これを考えるために、今回の枠組みに参画、関与する可能性を検討することといたしました。

 変革期にある自動車業界においては、電動化や知能化などさまざまな分野で高い技術力が求められています。そのために要する多額の投資や開発リソースを単独で確保するのは困難であり、当社にとって日産自動車とホンダとの協業は将来の競争力の源泉となる極めて重要なものと考えております。

 当社の事業規模や得意とするマーケットは日産自動車やホンダとは多少異なります。両社がSDV、ソフトウェアなどの先端技術の開発に注力し、その分野をリードいただく一方で、当社の得意とするASEAN事業、小型ピックアップトラックをはじめとするフレーム車の技術と当社の強みを発揮して、2社のグローバルでの事業をサポートできるものと考えております。このような考えのもと、3社のシナジーを深化、最大化していくためにどのような参画の仕方がベストかを検討し、25年1月末をめどに結論を出したいと考えております。

 引き続き皆さまのご支援をいただきますよう、よろしくお願いいたします。