ルネサス、40nmの車載マイコン製造を台湾TSMCに委託
組込みフラッシュメモリのプロセス技術分野で協業関係を拡大

提携の発表で握手するルネサス エレクトロニクス 執行役員兼MCU事業本部長 岩本伸一氏(右)と、TSMC スペシャルティー・テクノロジー担当 ディクター チェンミン・リン氏(左)

2012年5月28日発表



 半導体メーカーのルネサス エレクトロニクスは5月28日、台湾の半導体委託製造専業メーカーのTSMC(台湾積体電路製造)と、40nmプロセスルール世代のマイコン製造において協業していくことを発表した。ルネサスはすでに90nmプロセスルール世代の製造の一部をTSMCへ製造委託しているが、将来利用される40nmプロセスルール世代においてもパートナーシップを拡大していく。

 従来の90nmプロセスルール世代ではルネサス自身の製造技術を利用して製造を委託していたが、40nmプロセスルール世代ではTSMCの製造技術を利用して製造することで、両社の共同開発の領域を拡大し、デジタル化が進む自動車産業などの強いデマンドにより柔軟に答えることができるようになる。

ルネサス エレクトロニクス 執行役員兼MCU事業本部長 岩本伸一氏

自動車メーカーのニーズも、国内製造から国外製造にシフトしつつある
 ルネサスは日本の半導体メーカーで、マイコンと呼ばれる組み込み向けのプロセッサで大きなシェアを獲得している。ルネサス エレクトロニクス 執行役員兼MCU事業本部長 岩本伸一氏によれば「ルネサスは世界のマイコン(組み込み向けの小型プロセッサのこと)市場で27%のシェアを獲得しており、なかでも自動車向けは42%のシェアを持っている」と語る。近年、自動車には多数のマイコンが利用されており、エンジンの制御や電子サスペンションの制御、アクティブセーフティなどさまざまな目的に利用されるようになっており、マイコンは自動車の製造に不可欠なモノとなりつつある。

 昨年の東日本大震災では、“ルネサスの主力工場である那珂工場が被災し一時生産能力が低下した”というニュースが流れたことはまだ記憶に新しいことだろう。その結果、世界中の自動車メーカーでマイコン不足が発生するという事態になった。このようなことから分かるように、ルネサスが製造する半導体は、自動車メーカーにとって必要不可欠の部品となっている。

 ルネサスの岩本氏は、「国内メーカーが車載向け製品の製造を国内で行うように求めていた状況に変化があったのか」との質問に対し「お客様のマインドは震災を経て変わりつつある。お客様からは日本だけでなく、他の地域から出荷して欲しいという要望をいただいている。我々が海外に工場を作るという選択肢はないと考えており、アウトソースという答えがリーズナブルだと考えている」と述べた。海外の半導体製造ベンダーに製造をアウトソースし、そこからも製品を出荷することが、自動車メーカーなどのニーズに応えるものだという認識を明らかにし、そのためにTSMCとのパートナーシップを結んだのだと説明した。

両社のそれぞれの協業のメリット。TSMCには新しい顧客の獲得、ルネサス側には製造能力の拡充などがある現在のルネサスのマイコン市場におけるポジション。世界市場で27%でシェア1位、車載向けでは42%でシェア1位と大きな地位を占めているルネサスの強みは製品ラインアップの豊富さと品質

 なお、ルネサスは、昨年の震災後に、積極的にアウトソースを利用している。例えば車載向けのマイコンは、TSMCと同じ半導体委託製造のGLOBAL FOUNDRIESへアウトソースしており、すでに出荷も始まっているのだと言う。今後はそうした外部の半導体委託製造ベンダーとの協業を必要に応じて行うという姿勢を明確にした。

 なお、ルネサスに関しては、先週末に国内の工場をTSMCに売却するという新聞報道があったが、冒頭でルネサス広報より「まだ何も決定しておらず本日はそれに関する発表は何もない」との説明があった。今回の発表とそうした報道には関係がないというアナウンスが行われた。

40nmプロセスルール世代では、TSMC側のプロセスルールを利用して製造
 半導体の生産は、プロセス技術と呼ばれる製造技術を利用して行われている。このプロセス技術には世代があり、より新しい世代になればなるほど、チップサイズが小さく消費電力が低い半導体を製造することが可能になる。そのプロセスルールは、90nm、65nm、45nmなどの数字で示されており、基本的に数字が小さくなればなるほどより最先端の製造技術であることを示している。

 ルネサスはフラッシュメモリ混載型のマイコンの製造には、現在90nmプロセスルールと呼ばれる世代の製造技術を利用して製造している。90nmプロセスルールは、PCやスマートフォンなどのデジタル機器に利用されるプロセスルールとしてはかなり旧式のものだが、マイコンの世界ではそこまで最先端を必要としていないため、一般的に利用されているのだ。ルネサスの岩本氏によれば、ルネサスは90nmプロセスルール世代においてもTSMCと協業をしており、40nmプロセスルール世代での協業はそれに次ぐものになるという。

 なお、通常半導体の世界では、90nmプロセスルールの次には65nm、65/55nm世代の次は45/40nmと順々に世代を更新していくのだが、ルネサスはマイコンの製造には65/55nm世代を飛ばして、40nm世代へと一挙にジャンプすると言う。岩本氏は「弊社の40nmプロセスルールの開発は順調で、65/55nm世代を飛ばして40nmを導入する。今年量産出荷を開始する予定で、これは業界他社に対して大きなリードになっている」と述べ、より最先端の製造技術を積極的に採用することで他社との競争での優位性を維持したいと説明した。

すでにルネサスは自社40nmプロセスルールを利用した製品の開発を終了、量産開始予定40nmを採用することでチップサイズの減少や消費電力の削減などの効果があるフラッシュメモリの容量が大容量化が進んでおり、製造技術の進化は必須になりつつある

 そのTSMCとの40nm世代での協業だが、「90nm世代では当社の製造技術をTSMCの工場に持ち込んでの生産委託になっている。しかし、40nm世代ではTSMCのCMOS製造技術を活用しての生産委託になる。これによりTSMC側の様々な技術も利用することが可能になり、両社にとって大きなメリットがある」と述べ、両社の協業がより広がっていくだろうという認識を示した。

 90nm世代40nm世代
設計ルネサスルネサス
プロセスルールルネサスTSMC
製造TSMCTSMC

 分かりにくいかもしれないが、要するに90nm世代では、製造施設こそTSMCのものを利用しているが、製造技術はルネサスが持ち込んだものをそのまま利用している。これに対して、40nm世代では製造技術に関してもTSMC側が用意したプロセスルールを利用し、それを利用してルネサスが設計したチップを製造するという形になる。現在の生産委託ではこの形が一般的であるため、より一般的な形になったとも言える。

 なお、国内の工場でも40nmプロセスルールで製品の製造は行われる。すでにRH850と呼ばれる製品の開発が進んでおり、量産開始が可能な状態にまで開発が進んでいると言う。今後、TSMCでの製造も始まると、国内の工場と、台湾にあるTSMCの工場とで、複数ロケーションの工場から製品を出荷することが可能になり、昨年の大震災のような事態が発生しても、もう一方の工場から出荷を続けることが可能になる。

 岩本氏は「このように、40nm世代ではマルチファブ化を実現することで、サプライチェーンをより柔軟に行うことが可能になる。特に震災後は(ユーザーから)そうした声が多かったので、そうした声に応えていきたい」と述べ、マルチファブ体制は重要なのだと強調した。

 記者会見にはTSMC側の担当者としてTSMC スペシャルティー・テクノロジー担当 ディクター チェンミン・リン氏も登場し、「TSMCにとってもルネサスを顧客として迎えることは実に喜ばしいこと。今後も生産キャパシティを増やしていきたい」と述べた。TSMCは生産キャパシティを増やすことを計画している。顧客が増えることは大歓迎だという姿勢を明確にし、ルネサスが同社の顧客になったことに歓迎の意を表明した。

組み込み向けフラッシュ混在プロセスルールの最先端技術の導入ではルネサスが先頭を走っている那珂工場とTSMCでの工場の2つで生産することで、サプライチェーン(供給体制)をより柔軟に確実にすることができる
両社の協業により、顧客のニーズに応えることがより容易になるTSMCとの協業により、ルネサスのマイコンビジネスのさらなる飛躍を目指す

(笠原一輝)
2012年 5月 29日