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「7年前にやり残したことがある」、ホンダF1記者会見リポート

伊東社長、F1総責任者 新井氏、ロン・デニスCEO、アロンソ&バトン選手らが意気込みを語る

2015年2月10日開催

 2013年にパワーユニットサプライヤーとしてF1復帰を発表した本田技研工業と、そのパートナーであるマクラーレン・テクノロジー・グループは2月10日、東京 青山のホンダ本社で記者会見を行い、3月半ばに予定されているF1開幕戦オーストラリアGPに向けての意気込みなどを語った。

 この中で本田技研工業 代表取締役 社長執行役員 伊東孝伸氏は「環境技術の追求、人材育成といった目標を元にF1に再挑戦する」と述べ、F1参戦に向けた意気込みを詰めかけた報道陣に語りかけた。また、記者会見にはマクラーレン・テクノロジー・グループ CEOのロン・デニス氏、ドライバーとなるフェルナンド・アロンソ選手、ジェンソン・バトン選手、本田技術研究所 専務執行役員 F1プロジェクト総責任者 新井康久氏が参加しており、新井氏は「レースに参加する以上は、最初のレースからメルセデスと対等に戦えるというところをターゲットに置いている」と述べ、マクラーレン・ホンダのターゲットが最初のレースから優勝との目標設定を明らかにした。

マクラーレン・ホンダの新型マシン「MP4‐30」

F1がハイブリッド技術のような魅力的なレギュレーションを作ったので参戦を決めた

本田技研工業 代表取締役 社長執行役員 伊東孝伸氏

 冒頭で挨拶に立ったのはマクラーレン・ホンダの両巨頭。まずは記者会見を主催したホンダの伊東社長が挨拶に立ち、「開幕まで1カ月となり、先週行われたヘレステストでは多くの課題が見つかったため、ホンダのさくら研究所とミルトンキーンズのマクラーレンのファクトリーで現在対応を進めている。ホンダは創業時より挑戦し続けることをアイデンティティにしており、F1には四輪自動車に参入する前の1964年から挑戦し、F1で四輪メーカーとしての技術力を磨いてきた」と述べ、F1などにチャレンジし続けていくことが、ホンダの創業からのアイデンティティだと強調した。

 その上でF1に参戦する意義として、「F1のレギュレーションがハイブリッド技術の追求に向かっているためホンダは復帰を決めた。F1という場を利用して“究極のエネルギー回生システム”を作りあげていきたい。また、それを開発するプロフェッショナルな人材を育てる場としても利用して、それによりイノベーションを起こしていきたい」と説明し、フェルナンド・アロンソ(2005年、2006年のチャンピオン)、ジェンソン・バトン(2009年のチャンピオン)という2人のチャンピオンドライバーを迎えるとともに、結果を残すことで新しい歴史の扉を開きたいとまとめた。

マクラーレン・テクノロジー・グループ CEOのロン・デニス氏

 その伊東氏のスピーチの後に登場したのは、マクラーレン・テクノロジー・グループ(マクラーレンF1チームなどを傘下に持つ企業体)のCEOとなるロン・デニス氏だ。デニス氏は、マクラーレンが16戦15勝という不朽の記録を打ち立てたマクラーレン・ホンダ時代にチームオーナー兼監督を務めており、2014年からマクラーレンF1チームの指揮を再び執るようになっている。そのデニス氏は、「1988年にマクラーレンとホンダは16戦15勝という記録を打ち立てた。今年から再び一緒に仕事をできるようになったのは光栄なことだ。大事なことは、異なる文化が混じり合い、それによりチャレンジをしていくことだ。現在F1のレギュレーションは非常に複雑なことになっているが、シャシーとパワーユニットがしっかり連動して動くことが大事になっている。間もなく初戦を迎えることになるが、スポンサー、ファン、関係者からの期待の高まりを実感しており、必ず近い将来にワールドチャンピオンを獲得し、お祝いをしたいと考えている。そのためにまずはレースに勝つことから始めていきたい」と述べ、ホンダとマクラーレンの組み合わせが必ずワールドチャンピオンをとれる組み合わせであると強調した。

フェルナンド・アロンソ選手
ジェンソン・バトン選手

 両巨頭のスピーチのあと、実際に今年のマクラーレン・ホンダをドライブする2人のドライバー、フェルナンド・アロンソ選手、ジェンソン・バトン選手が紹介され。それぞれ簡単なスピーチを行った。アロンソ選手は「新しいマクラーレン・ホンダの挑戦に加わることができて嬉しい。実際に先週のテストでドライブできて、テスト自体は大変だったけど、マクラーレン・ホンダのファミリーになれたことが実感できて嬉しかった。僕はこれまで長い間F1をやってきたけど、こうした新しい挑戦をすることがモチベーションになっている。ファン、チーム、スポンサーなど皆と楽しみたいし、早く勝ちたいと思っている」と、新しいチャレンジとなるマクラーレン・ホンダに加入したことで、やる気十分になっていると述べた。

 また、バトン選手は「ふたたびホンダと一緒に仕事ができるようになったことは非常に嬉しい。最初のテストは大変だったけど、クルマの方向性は間違っていないと確認できたし、パッケージングはわるくない。次の2つのテストでより改善を加えて、最初のレースで結果を出していきたい」と述べ、最後に日本語で“楽しみです”と述べて挨拶を締めくくった。

目標は最初のレースからメルセデスと同等に戦えるという高い所に置いている

伊東社長、デニスCEO、アロンソ選手、バトン選手に、F1活動の現場責任者である新井氏が加わって質疑応答が行われた

 そうした挨拶の後、伊東社長、デニスCEO、アロンソ選手、バトン選手にホンダのF1活動の現場責任者である本田技術研究所の新井康久氏も加わり、報道関係者からの質疑応答が行われた。さらに、記者会見終了後にもバトン選手、アロンソ選手、新井氏への囲み会見も行われたので、その模様を以下Q&A型式で紹介していく。

──人材育成、市販車へのフィードバックというのは具体的にはどのようなものか? また、現在のF1は新興国でのGPが増えているが、そうした新興国対策ということもあるのか?

伊東氏:今回F1に復帰を決めて大きなモチベーションになったのは、レギュレーションでハイブリッドの技術が定められていること。我々ホンダは、ハイブリッドが環境対策ということだけでなく、クルマの楽しさを作り出していくべきだと考えている。そう考えていたところにF1がレギュレーションに取り込んでくれたので、参戦することにした。そうした技術的なチャレンジは市販車にもつながっていくと考えている。新興国市場対策という意味では、期待しているかといわれれば期待している。

──F1の世界では1000馬力のパワーユニットという話が出ていて、エネルギー回生量が減ってしまうのではないかといわれている。それはホンダの考えるハイブリッドとは話が違ってきてしまうのでは?

伊東氏:私は内燃機関の出力を上げたからハイブリッドの出力が減る、ということはないと思う。ただ、内燃機関の進化はこれからも続いていく、その観点では意味があると考える。

──他のエンジンサプライヤーと比べて1年遅れの参入になる。これまで開発は順調であると説明されてきたが、先週ヘレスで行われたテストは散々たる結果だったと理解しているが、その現状を踏まえてもメルセデスと戦えると今でも考えているか?

新井氏:目標をどこに置くかという点だが、レースに参加する以上、トップであるメルセデスと対等に戦えるところをターゲットに置かなければ意味がない。確かに、昨年のアブダビテスト、そして先週のヘレスのテストでは十分に走れていないのは事実。初めて車体とドッキングしたので小さなトラブルが発生しているという現状だ。次回バルセロナで行われる2回目のテストまでには問題を解決して、開幕戦ではよいレースをしたいと考えている。

──ドライバーとしてはどうか?

アロンソ選手:テストそのものはよかった。現時点ではシャシーとエンジンを初めてドッキングしたので、非常に難しいチャレンジングなテストになった。僕はぜひともこのチームで3つ目のタイトルを獲りたいと考えている、そのためにここにいるのだから。

──マクラーレンの視点からは?

デニス氏:大事なことは開幕戦でどうなのかであって、テストはテストに過ぎない。確かに先週のテストではパフォーマンスに関しては分からなかったもしれないが、我々が想定していた空力やエンジンに関するさまざまなデータを得ることができる有益なテストだった。現在のF1は進化しており、パワーユニットにも求められているのは出力だけでなく、効率が重要になっている。いきなり頂点というのは難しいかもしれないが、パワーユニットとシャシーの統合が上手くいけば、ポテンシャルはあると考えている。ただ、非常に複雑なパワーユニットであるのも事実なので、若干の時間がかかる可能性はある。

──バトン選手は昨年メルセデスのパワーユニットを利用していた。今年のホンダとの違いは?

バトン選手:シャシーも違うし、異なるパワーユニットを比較するのは難しい。ただ、ホンダとマクラーレンは非常に密接にやりとりしており、そこに僕とフェルナンドが加わることで1つのパッケージとして機能すれば進化は早まると思う。

──アロンソ選手は、昨年まで走らせていたフェラーリのパワーユニットとホンダの違いは?

アロンソ選手:シャシーが全然違うし、何よりも現在の我々は開発の初期段階だから比較することは難しい。ただ、フェラーリとの契約は実はあと2年あったのにマクラーレンと契約したのは、そこにホンダという存在があったからだ。

──先週のテストで思い切り走らせられなかったのはなぜか?

新井氏:細かなことまで説明する時間はないが、大きくいえば熱害のトラブルだった。今回のマクラーレン・ホンダではタイトなパッケージングを選択しており、その中でいくつかのパーツで熱害が発生した。それが原因で水圧が下がったりなどの問題が発生したため、それ以上の走行を断念した。ただ、問題はすでに判明しており、次のテストに向けてさくらの研究所でその対策をした新しいエンジンを組み立てている。

──ホンダは前回の休止から7年ぶりの復帰になる。伊東社長は、前回の休止を決めたときの取締役会の1人でもあったので、いろいろな想いがあると思うが?

伊東氏:ホンダにとってF1という舞台は、ホンダのアイデンティティであるチャレンジ精神を示す場。技術の高さや志の高さを象徴する場所として世界最高峰のF1に参戦したい。これからもそこを継続していきたいと考えている。その一方、2008年末に休止を決めたときには、世の中がリーマンショックで会社が明日にも危ないかもしれないというギリギリの中での苦渋の決断だった。今後は継続的にF1やモータースポーツに貢献し、技術力や人材を高めていきたい、そういう想いで復帰を決断した。

──マクラーレンから見て、ホンダと前回組んだ時と今回の違いは?

デニス氏:さくら市のファクトリーは見せてもらったが、確かに施設も素晴らしかったが、それよりも重要なことはエンジニア達の物事への取り組みだ。すでに7年前にF1に参戦していた人材はほかの部門に移ってキャリアを構築しており、彼等が戻ってくるということは難しいだろうが、現在F1の開発にかかわってくれているエンジニアは意識が非常に高いと感じた。

 我々のパートナーシップは挑戦という意味でさまざまな側面があるし、お互いに違いを理解して、その上で信頼を構築していくことが大事だ。現在のF1用パワーユニットは従来のエンジンとは大きく異なっており、単なる内燃機関ではなく、KERSなどとうまく整合性をとる必要がある。かつて本田宗一郎氏がF1に挑戦したとき世界に対してメッセージを発信し、モータースポーツを通じて人材を育成してきた。両社には勝ちたいという強い意思があり、それがうまく展開していけばモータースポーツの世界で強い地位を確立することができると考えており、時間はかかるかもしれないのが成功は確実だと信じている。

──その成功にはどれだけ時間がかかるのだろうか?

デニス氏:どれだけ時間がかかったとしても私はかかり過ぎだというだろう。もちろん初戦から勝ちたいと思っているし、その後のレースもすべて勝ちたいと思っている。もちろんレギュレーションは複雑だし、ライバルは2014年から開発を続けており楽なチャレンジではないが、それに立ち向かっていく所存だ。

──バトン選手は第3期ホンダF1をよく知る1人だが、その時と今を比べての違いは?

バトン選手:現在のクルマは本当に初期段階なので、当時と比較するのは難しい。しかし、我々が正しい方向性に向かっているのかと問われれば、答えはイエスだ。もちろんF1での競争は激しくなっているし簡単ではないのは事実だ。しかし、マクラーレン・ホンダは文化的な違いなども乗り越えて、1つのチームとして機能するようになっている。2003年~2008年までの経験と比較するのは難しいけれど、ホンダは欧米のチーム、特にイギリスのチームとの関係をどうしたらいいかをよく知っており、マクラーレン側からもホンダ側からもオープンに意見をいい合う環境ができており、うまく統合することができている。

──9月27日決勝のF1日本GPでは、2人にとって第2のホームレースになると思うが、そこへの意気込みを

アロンソ選手:もちろんエキサイティングなレースになると思うよ。鈴鹿に向けよいパフォーマンスを整えて、ファンの期待に応えたい。ただ、今のところはやらないといけないことが山積みで、今はそのことで頭がいっぱいだ。ただ、9月になれば日本GPは僕たちにとって特別なレースになるから、110%の走りで取り組みたいと思う。

バトン選手:フェルナンドもいったように、鈴鹿に行くまでにやるべきことはいっぱいある。まずはそれをこなすことだ。ホンダにとっても、そして僕の妻にとっても特別な年になると思う。

7年前にやり残したことが、ホンダにも自分にもあるとバトン選手

──マクラーレン・ホンダという響きはあなたにとってどんな意味がありますか?

バトン選手:僕がまだ小さかったころ、大人になってF1ドライバーになったら乗りたいチームは3つあった。それがウィリアムズ、フェラーリ、そしてマクラーレンだよ。ちょうど僕が子供だったときには、まさにマクラーレン・ホンダが無敵だったころで、セナ、プロストという2人の最強ドライバーがドライブしており、憧れの存在だったよ。そのマクラーレン・ホンダの新時代に加入できたというのは誇りに思っているし、フェルナンドのような強いチームメートと一緒に、よりハードな仕事をしてよりよいマシンを作りあげていきたい。

──ホンダはよくご存じだと思いますが、パワーユニットとしての評価は?

バトン選手:ホンダは非常によい仕事をしていると思う。現代のF1のパワーユニットは非常に複雑で、一言で表現するのは難しいけれど、ドライバビリティやパッケージが重要だ。さくら市の開発拠点にも行ってきたけど、施設も最高だし、やる気に溢れたエンジニア達が沢山いた。それこそが重要なことだと思っている。いずれにせよ、またホンダファミリーになれたのは嬉しいし、新しい時代に相応しい記録を残していきたい。

──新しいチームメイトのアロンソ選手との関係は? 2人のチャンピオンが1つのチームにいることになるが?

バトン選手:フェルナンドは僕にとって3人目になるチャンピオンのチームメート(筆者注:1人目はBARホンダ時代のジャック・ビルニューブ、2人目はマクラーレン・メルセデス時代のルイス・ハミルトン)だ。その中でも彼はもっとも経験があるし、大変優れたチームメイトだよ。彼も僕と同じでハードに働くし、何よりもドライバビリティなどの感想をエンジニアに伝える能力が優れている。彼のような競争力のあるチームメートを持つことはよいことだと考えているよ。

──先週のヘレステストではかなり苦労したと聞いているが、それでもポジティブにいられるのはなぜか?

バトン選手:去年のテストでは2つのパワーユニットメーカーがもっと苦労していた。僕等のヘレステストでの目的は問題出しであって、周回数を稼ぐことでも、速いタイムを刻むことでもなかった。あくまでパッケージとして機能しているか、それを確認することが最大の目的だった。もちろん、ご存じの通りテストはスムーズではなかったけど多くを学ぶことができたし、次のテストではその問題を解決する目途も立っている。去年までと大きく違うのは、今シーズンからパワーユニットは4ユニットまでという制限もあるので、それに対応すべく今は信頼性を確認する段階。その後で性能をあげていくという段階になるし、それらを克服していけば優勝というところが見えてくると思っている。

──第3期ホンダの最後にホンダエンジンでは勝てず、2009年にメルセデスにエンジンを変更したらチャンピオンを獲れた。それはエンジンがよかったということか? それから大きな期待を寄せている日本のファンにメッセージを

バトン選手:確かに不幸にしてホンダではチャンピオンを獲れなかったけれど、あの時期のホンダはエンジンだけでなくシャシーへの開発も多数行っていた。特に厳しい2007年シーズンの後、2008年シーズンに多くの開発を行って、それが2009年のブラウンのクルマに採用されているんだ。例えばダブルディフューザーなどがその端的な例で、あれには多くのホンダエンジニアの貢献があった。

 多くの日本のファンがマクラーレン・ホンダに期待してくれていることは理解している。もちろん最初のレースから勝ちたいと思って努力はしているけど、他のメーカーだって世界最高のチームとメーカーの組み合わせなんだから、そんな最初から勝たせてくれるほど甘い世界じゃない。開発にはもう少し時間がかかるかもしれないけれど、勝利を目指してホンダもマクラーレンもハードワークを続けているので応援して欲しい。

──バトン選手は、ホンダのチームに長い間在籍していたし、奥様も日本人と日本との縁が深い。フェルナンドに日本人とうまく付き合う方法を教えたか?

バトン選手:フェルナンドは高い知性を備えているのでそんなことを教えてあげる必要はないよ。それに、日本の人達とコミニケーションをとるのは難しいことではない。ホンダの人達もマクラーレンの人達も、同じくF1を愛している人達だからね。もちろん、ホンダがF1を休止していたことは日本のモータースポーツにとっては残念なことだったと思うけれど、ホンダがF1に帰ってくることで日本でのモータースポーツへの注目度が上がるといいなと思っている。7年前にやり残したことがホンダにはあるはずだし、それは僕も同じだ。だから新しいチャレンジがとても楽しみだ。

ワールドチャンピオンを獲得したいと思ったからマクラーレン・ホンダにきたとアロンソ選手

──フェラーリをやめて、マクラーレン・ホンダにきたのはなぜか?

アロンソ選手:僕は5年間フェラーリに在籍し、あと2年の契約を残していたのだが、ホンダがマクラーレンに帰ってくるというオプションを考えていたときに、ここで勝てる可能性がより高いのではないかと感じたからだ。フェラーリで3回目の王座を狙っていたのだけど、結局5年間で2度の2位を獲得しただけだった。ホンダとのプロジェクトでは、それが実現できるだろうと考えたのでホンダロゴのついたシャツを着ることにしたんだ。

──ホンダロゴのついたシャツを着てみた感想は?

アロンソ選手:僕が子供のころ、まさにマクラーレン・ホンダがF1を席巻していた。僕が3歳の時に父親がそのレプリカのゴーカートを与えくれたんだ、もっとも僕は覚えていなくて後で写真で見たんだけど(笑)。そのマクラーレン・ホンダに乗るというのは、僕や父、そして家族の夢だった。それがかなったのは嬉しいし、3度目のワールドチャンピオンのタイトルをこのマクラーレン・ホンダで獲得したいと思っている。

──アロンソ選手は日本の文化や歴史が好きだといわれていますが、実際に日本人と働いて武士道的な感覚を感じることがあるか?

アロンソ選手:もちろんそうだよ。僕は日本を本当に愛しているし、日本の方々と働くのは今回が初めてだけど、大きな感銘を受けている。すごく規律正しく、目的に向かって同じ方向を向いて努力できることに共感を覚えている。また、さくらの施設も見せてもらったけれど、そこにいるエンジニアもみなプロフェッショナルで、技術のレベルがものすごく高いのは感心している。

──かつてマクラーレン・ホンダで走っていたアイルトン・セナは、本田宗一郎氏と精神的なつながりがあるとされていたが、アロンソ選手にとって本田宗一郎氏はどのような存在か?

アロンソ選手:非常に尊敬している。モータースポーツの歴史を変えた人というのはそんなに多くないが、本田氏はその1人だ。ホンダのモータースポーツの歴史というのは彼有ればこそということは理解しているし、ホンダのエンジニアも、ドライバーも、関係者も、そうした本田氏の情熱みたいなものを理解して働いていると思う。

──マクラーレンには2007年に一度在籍しており、この5年間はフェラーリに在籍していた。2007年のマクラーレンと今の違い、またフェラーリとの違いを教えてほしい。また、新しくチームメイトになるバトン選手について、やはり彼を成績で上回ることができると考えているか?

アロンソ選手:2007年のマクラーレンと今のマクラーレンはまったく違っている。2007年の時はもう少しイギリス色が強いチームだったけど、今は半分はホンダだし、もっとインターナショナルなチームになっている。フェラーリはやはりイタリアのチームだし、マクラーレンとは全然違う。もちろんフェラーリも情熱を持って働いていたし、ポテンシャルはあると思うよ。

 僕らのゴールはクルマのポテンシャルをすべて発揮できるようにすることだ。今はまだ学習の段階だし課題も多いが、それを改善していくプロセスの途上にいる。今シーズン中にも多少細かな問題は出てくるだろうけど、それを改善して、最終的にはワールドチャンピオンを獲得することが目標であり、そのために僕はここにいる。問題を解決するのが数カ月なのか、半年なのか、1年なのか、どれくらい時間がかかるのかは今は分からないけれど、チームやチームメートと協力して開発をしていきたい。

 ジェンソンとはうまくやっているし、クルマを解決していく上で彼のような経験豊富なドライバーがチームメートであることはよいこと。彼のコメントは100%信用できるしね。もちろん、これまで僕はどんなチームメートにも負けたことはないし、今年も負けたくないね(笑)。

リアのスリム化が他チームに対するアドバンテージになるとホンダの新井氏

 本田技術研究所 専務執行役員 F1プロジェクト総責任者 新井康久氏の囲み会見。

──シーズン中の開発用のトークン(筆者注:シーズン中に部品などをアップグレードできる権利のようなもの)が他チームのあまり分だけ、具体的には他チームのあまりの平均のトークンがホンダにも認められるようになった。そもそもそのことについてどのように考えているか?

新井氏:最初は開発ができないというテクニカルディレクションという方向性が打ち出されていた。それが交渉の結果、昨年からやっている3社が開幕後に残しているトークンの平均値ということで、リーズナブルな裁定になったと考えている。ホンダとしては公平性と透明性を確保して欲しいと訴えてきたので、公平という意味では4社で合意できるレベルに収まったと理解している。

──現時点では開幕時に他メーカーがどれだけのトークンを残しているか分からず、開幕後にどれだけのアップデートができるのか分からない状態。それはやりにくくないのか?

新井氏:例えばこう考えて欲しい。2014年から新規定のエンジンを作っている3メーカーも、開幕時点で凍結されている訳ですが、開発・研究は自由にできる。その開発の成果を、どのようにホロモゲーションされたエンジンに反映するかを規定するのがトークン。それはどのメーカーも同じ条件なので不利という訳ではない。

──パワーユニットにはこれまで見たことがないような技術が入っているのか?

新井氏:まだ多くの周回数が重ねられていない段階で、多くのことはいえないが、パッケージングには非常に力を入れてやっています。エアロと主力のバランスが重要だと我々は考えていて、パワーユニットをコンパクトにしても出力が落ちない、そういう考え方で設計している。段々とそれがどういうことなのか明らかになっていくと思うが、マクラーレンとの共同作業の中で徐々に成果が出つつあると考えている。

──今回のマクラーレンのクルマを確認すると、リアが絞り込まれているのがよく分かる。その狙いは? また、先週のヘレスのテストでは周回がこなせなかったようだが、その影響は?

新井氏:パワーユニットとシャシーを組み合わせたパッケージとして大きなポテンシャルがあると考えている。リアを見ていただければ分かるように、これ以上小さくすることができないぐらい小さくなっている。皆さんの期待としては、いきなりトップチームと同じぐらいのラップタイムで走れるというところにあったんだと思いますが、先ほども述べたように熱害が出た。ただ、我々の初期の予想ではラップタイムもヘレスではこんなもんだろうと思っていたところは出たし、そもそもヘレステストではラップタイムは目標には置いていなかった。

──熱害の詳細についてもう少し教えて欲しい

新井氏:熱害については、熱を害にするのか、それともうまくそれを活用するのかというマネージメントが大事だと考えている。熱をエネルギーに変換したり、排熱を回収したりとさまざまな方法があるが、熱をマネージメントして内燃機関の出力を上げるというのが大事だと考えている。F1でもっとも厳しいのが空力で、空力側の都合からいえば、エンジンがもっと小さくならないのかという部分がある。そうなるとタイトになる部分があり、そこがパワーユニットと車体側のせめぎ合いになるが、その経験はレースカーだけでなく、将来の市販車にも活かすことができると思う。

──さくら市の新しい研究所の稼働状況について教えて欲しい

新井氏:引越を始めたのが2014年1月で、まだ100%稼働には至っていない。さくらの方に軸足は移っているが、栃木の研究所にもまだいくつか施設は残っている。

──昨年国内レースでも熱害に苦しむという状況があったが、それと同じようなことが起こっているのか? 国内レースとのそうした情報交換みたいなことは行われているのか?

新井氏:F1とカテゴリーが違うレースは同時進行でやっている。攻めた開発をすれば必ず問題が起きるので、それは心配していない。確かに昨年の国内レースは厳しい状態で始まったのは事実だが、シーズンの途中でリカバリーはできている。F1でもそれは同じで、昨年のチャンピオンチームと同じレベルにならなければレースができない。それがどれだけ高い壁であるのかは最初のテストで実感したところ。

 今の時点で心配いらないといえば、“また大口叩いて”と記事に書かれてしまうと思うのでいいませんが、もちろん克服できると考えて仕事をしている。開幕戦にどの程度のものを持っていくことができるのかを見据えて仕事をしている段階だ。

──新井氏は2014年のF1のシーズンオフテストを何度か視察していたと思うが、その時と実際に自分でテストを行ってみた時の違いなどを含めた感想は?

新井氏:昨年のオフシーズンテストでは、ヘレスのグランドスタンドに座って視察していたが、初日はガレージがシャッター通りのようになっていて、ほとんど走ることはなかった。我々の今年の周回数はそれよりも全然多い。もちろん些細なトラブルがあって、初日、2日目とほどんど走れなかったのは事実だが、昨年のそうした他チームの様子を観察して色々と想定して対策したのが功を奏した部分もある。もちろん、今年の他チームとの比較でいえば周回数も少なく、ファンを不安にする部分があったかもしれないが、この2週間で色々と対策して次のバルセロナテストに備える予定だ。

──他チームはリアをちょっと膨らまして熱的に余裕を持たせたデザインを採用しているところもあるが、マクラーレン・ホンダは今年の方がリアがスリムになっている

新井氏:他のパッケージがどうなのかを手元に置いて確認した訳ではないが、我々のパッケージについては自信がある。パートナーからもこれで十分いけるといわれており、真上から見ていただければ分かるようにリアが非常にスリムになっている。実は見えないところもスリムになっており、熱に対しての対処法はすでに見えている。そこを太らすのは簡単なのだが、そうするとパワーユニットと空力のせめぎ合いの部分がなくなってしまい、よいクルマにならない。

──第3期のチームと比較して、今のマクラーレン・ホンダは2つの違う文化が融合できているのだろうか?

新井氏:第3期のチーム構成と比較するわけにはいかないが、今のマクラーレン・ホンダは1つのチームとして動いている。私はモノカルチャーになるのがよいかといえば、そうではないと考えている。色々な考え方があって、その中からイノベーションが出てくる。今の状態は非常によく、いかにオープンにいい合うか、そこが大事だと考えている。

──将来的には複数チームにエンジンを供給するというのはあり得るのか?

新井氏:もちろんお声がけをいただければ前向きに検討したい。ただ、ヘレステストの結果を見て、F1のパドックではホンダに対する評価が定まっていないようで、“謎が深まる”ということになっている(笑)。その意味では早く結果を出して、他のパワーユニットサプライヤーと同じように、複数チームでやっていけるようにしたい。ただ、まずは結果を出さないといけないので、今シーズンはマクラーレン・ホンダに集中してやっていきたい。

会見会場に展示されたホンダの歴代F1マシン。こちらは「ホンダ RA272」で、1965年の最終戦にメキシコGPでリッチー・ギンサーのドライブで初優勝を飾ったメモリアルな1台
1988年~1992年にマクラーレンにホンダがエンジンを供給していた時代のマクラーレン・ホンダの5台
1988年の「マクラーレン・ホンダ MP4/4」。この年まではターボエンジン規定で、ホンダV6ターボを搭載している。ドライバーはA.プロスト、A.セナの2人で、16戦して15勝と圧倒的なシーズンとなった。チャンピオンはセナで、コンストラクターズチャンピオンも獲得している
1989年の「マクラーレン・ホンダ MP4/5」。この年からエンジンは自然吸気のみとなり、V10へと変更されている。鈴鹿のシケインでプロストとセナが接触し、セナがシケイン不通過で失格になったことでチャンピオンはプロストのモノになった。コンストラクターズチャンピオンも獲得
1990年の「マクラーレン・ホンダMP4/5B」。1989年型MP4/5の発展版。セナがフェラーリのアラン・プロストと、鈴鹿の1コーナーで激突しながらチャンピオンを獲得した年。コンストラクターズチャンピオンも獲得している
1991年の「マクラーレン・ホンダ MP4/6」。この年からエンジンはV12に変更され、セナがチャンピオンを獲得するとともに、コンストラクターズチャンピオンも獲得している
1992年の「マクラーレン・ホンダMP4/7」は、アイルトン・セナとゲルハルト・ベルガーがドライブしたマシン。モナコGPでこの年独走を続けてきたナイジェル・マンセルのウィリアムズ・ルノーがパンクで後退すると、セナがトップに浮上し、最終ラップまでセナとマンセルの激しい戦いが繰り広げられたのを記憶しているファンも多いだろう
「ホンダ RA106」は、2006年型の第3期ワークスホンダ初年度のシャシー。このクルマを駆って、ジェンソン・バトン選手は第13戦ハンガリーGPで初優勝を記録した。なお、この1勝が第3期F1の唯一の優勝
「マクラーレンMP4-29H/1X1」は、2014年の最終戦アブダビGP後にアブダビで行われたテストにおいて、2014年のメルセデス用シャシーである「MP4-29」にホンダエンジンを搭載したテストバージョン

(笠原一輝/Photo:安田 剛)