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トヨタ、風力発電で製造したCO2フリー水素をFCフォークリフトで使う実証を開始

神奈川県、横浜市、川崎市、岩谷産業、東芝との共同プロジェクト。2018年度まで実施

2016年3月14日 発表

 トヨタ自動車は3月14日、神奈川県、横浜市、川崎市、岩谷産業、東芝と共同して、風力発電によって製造した「CO2フリー水素」を燃料電池(FC)フォークリフトに供給する実証プロジェクトを開始すると発表した。

 同日には神奈川県横浜市で記者発表会が行なわれ、それぞれの担当者が参加してプロジェクト概要などについて紹介した。

トヨタ自動車株式会社 専務役員 友山茂樹氏

 記者説明会では、プロジェクトの事業代表者を務めるトヨタの専務役員である友山茂樹氏が詳細を解説。環境省からの委託事業となるこのプロジェクトは、2015年度から2018年度の4年間にわたり、再生可能エネルギーを使う「CO2フリー水素の製造」をはじめ、製造したCO2フリー水素の「貯蔵」「輸送」「活用」を連続させる水素サプライチェーンを構築することの実証に加え、将来的な事業化に向けた可能性を検討するというもの。また、神奈川県内の横浜市、川崎市といった今回の対象地域以外での展開についても見据えたものになるという。

 具体的には、横浜港にある風力発電所「ハマウィング」(定格出力1980kW)で生み出されたCO2フリーの電気の一部を使って水を電気分解。水素貯蔵タンクに貯めたのち、このプロジェクトでの使用に向けて4tトラックをベースに開発した簡易水素充填車で横浜市、川崎市に点在する物流倉庫で運用されるFCフォークリフトにCO2フリー水素を供給することになる。現状では簡易水素充填車に日野自動車の小型トラック「デュトロ ハイブリッド」を採用しているため全体で見ると完全にCO2フリーにはなっていないものの、将来的にはこのトラックもFC化する予定もあるとのことだ。

 プロジェクトは2015年度中に設計・製作準備の段階を終え、2016年度からハマウィング内での工事を開始。2017年度に入ってから実証運用が実施される計画となっている。また、FCフォークリフトの導入先としては、横浜市の中央卸売市場(青果部)とキリンビール 横浜工場の2カ所、川崎市のナカムラロジスティクスとニチレイロジグループ 東扇島物流センターの2カ所の計4カ所を予定。

 中央卸売市場では短距離・多頻度使用、キリンビール 横浜工場では重量物運搬、ナカムラロジスティクスでは建屋3階部分にあるフロアでの水素充填、ニチレイロジグループでは低温倉庫内での運用について主に実証が行なわれる。

プロジェクトの概要。「CO2フリー水素のサプライチェーン構築」について実証する
風力発電から生み出されたCO2フリー水素がFCフォークリフトで利用されるまでのフローイメージ
プロジェクトは環境省からの委託事業となっている
水素が再生可能エネルギー由来であることが大きなポイント
ハマウィングでの発電量を示すグラフ。1日のなかでも大きく発電量が上下していることが分かる
電気分解の電力、さらに装置を動かす電力にもハマウィングで発電されたCO2フリーの電気が使われる
水電解装置は東芝が開発。固体高分子型で製造能力は10Nm3/h
水素の製造だけでなく、充填車に積み込むときの圧縮装置でも電気を使うので、発電が止まってしまうと水素を供給できないことが課題として想定された

 活動のポイントについて友山氏は「官民連携のもとで地域が一体になって推進し、日本の弱点と言われている『個々の技術で勝って事業で負ける』とならないように、各社のすばらしい技術を連携させて、最大限の効果を引き出すということが狙い」と解説。また、この地域で実証が行なわれることになった理由については「風力発電所は多くが山間部などの郊外にありますが、ハマウィングはこの会場(ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル)から見ることもできるように、珍しい都市立地型となっております。この電力を利用することで、まさしく『再生可能エネルギーの地産地消』が可能となります」と説明している。

 このほかのポイントでは、「風力発電は風任せで、必ずしも必要なときに必要な電力が得られるとは限りません。この変動の多い、『暴れる電力』とでも言うような電力をいかに最適に使うかがこの実証の大きなポイントの1つ」と語り、水素を安定供給するため2日分の水素を貯蔵できる施設を整えるほか、ハマウィングの施設内で利用する電気や長時間にわたって風力発電が行なえない状況下でも水素を供給できるよう、トヨタタービンアンドシステムが手がける蓄電池システムを設置する。

 この蓄電池システムは2代目プリウスなどに搭載していたニッケル水素バッテリーを回収して利用するものとなっており、すでに2013年からトヨタディーラーの大型店で緊急時の非常用電源などに利用されている製品。使用済み電池の再利用によって環境性に配慮したシステムであるとアピールしている。

 最後に友山氏は「低炭素社会実現という日本の大きな目標に向け、我々はCO2フリー水素のサプライチェーン構築というテーマに取り組みます。新たな取り組みであるからこそ、技術的課題だけではなく、規制緩和や関係者間での調整など、さまざまな困難が予想されます。その1つ1つにていねいに対応し、適切に情報を発信しながら、事業最終年度である平成30年度末にはしっかりした成果を取りまとめ、低炭素社会実現に少しでも寄与できればと考えております」と締めくくった。

2代目プリウスなどに搭載されていたニッケル水素バッテリーを使う蓄電池システムをハマウィングの敷地内に設置。長時間にわたって風力発電が止まってしまう状況下でも安定した水素供給が可能なように配慮された
これまで水素充填車は乗用車などが供給先だったため、圧縮装置を備えた大型車両が中心だったが、今回のプロジェクトでは供給先がFCフォークリフトとなるため、敷地内などに水素充填車が入っていく必要がある。そこで、35MPa仕様のFCフォークリフトに差圧充填する45MPa仕様の簡易充填を採用した
4カ所のFCフォークリフト導入先で、それぞれ異なる実証を行なう
供給先ごとに輸送量を管理することもプロジェクトの目的の1つ
水素のコストは、使い機材などが量産を考えない試作品で供給量も少なく、規制などもあって割高になることを織り込み済み。どこまで下げられるかも検証していく
「再生可能エネルギーの地産地消」が、コストも含めて利用規模の大小でどう変動するかも検討対象となる
CO2削減では、ガソリンフォークリフトからは94%削減、電動フォークリフトからでも86%の削減になる見込み
プロジェクトのロードマップ。実証運用の効果をなるべく長くチェックしたいとの要望から、一部を半年ほど前倒ししてスタートすることが決定しているという
「神奈川県ではエネルギーの地産地消を目指す『神奈川スマートエネルギー計画』を策定しており、2015年3月には水素社会の実現に向けたロードマップを用意して、このなかでFCVについては2020年の時点で県内累計5000台、水素ステーションは県内累計25カ所といった目標を掲げています」と語る神奈川県 エネルギー担当局長 松浦治美氏
「ハマウィングは環境に優しい自然エネルギーの活用に向け、今から9年前に稼働を開始。建設に際しては市民や事業者のみなさんに出資、協賛をいただき、この財源を使って運転を続けている施設です。この横浜のシンボルとも言えるハマウィングで発電した電力が、今回の実証に活用されることをうれしく思います」と語る横浜市 温暖化対策統括本部長 野村宜彦氏
「川崎市では水素戦略として、水素の製造や供給、貯蔵などを行なう『入口戦略』、水素をどのように使い、拡大・拡充していくかを考える『出口戦略』、社会的な認知度を向上させる『ブランド戦略』の3つで取り組んでいます」と語る川崎市 総合企画局長 瀧峠雅介氏
「弊社は水素の製造や販売に1950年代から携わっており、産業分野で多数のお客さまに水素を利用いただいております。これまでに多くの水素実証事業にも取り組んでおり、この3月末までに全国の約20カ所でFCV向けの商用水素ステーションの運用を開始することをはじめとして、今後もさまざまな水素供給インフラの整備に取り組んでいきます」と語る岩谷産業株式会社 取締役産業ガス・機械事業本部副事業本部長 竹本克哉氏
「水素は簡単に、電気と水があれば造れるエネルギーです。また、貯めても長期的に劣化せず、大量に貯められる特徴があります。現在の蓄電池で電力を蓄える方法ではなく、水素で貯められるようになる。再生可能エネルギーの水素貯蔵が可能になるわけです」と語る株式会社東芝 次世代エネルギー事業開発プロジェクトチーム 統括部長 大田裕之氏
「再生可能な低炭素水素の活用は、地球温暖化対策はもちろんですが、地域レベルでは地産地消のエネルギー社会の構築、国レベルではエネルギーセキュリティの確保といった大変重要な課題になっていると思います」と語るトヨタ自動車株式会社 専務役員 友山茂樹氏
FCフォークリフトと簡易水素充填車の車両展示も行なわれた
トヨタ自動織機製のFCフォークリフト
このフォークリフトは福岡で行なわれている実証で使われているもの。従来からある電動フォークリフトをベースに、バッテリーをトヨタ「MIRAI」で使われているFCスタックをベースとしたものに置き換え、金属製タンクにカーボンファイバーで補強したタンクを搭載。システムの置き換えで重量が軽くなるが、フォークリフトは自重を活用して荷物を持ち上げるので、軽くなった分だけウエイトを追加してベースの電動フォークリフトと重量をそろえているとのこと
ボディ右側面に水素の充填口とチャデモ対応の外部給電ポートを備えているが、今回の実証で導入されるFCフォークリフトには外部給電ポートは採用されない予定。水素の充填圧力は35MPa
運転席の右側に100Vのコンセントを設置。こちらは今回の実証でも採用予定とのこと
MIRAIなどの乗用FCVでは車両後方から発電後に発生した水を放出するが、屋内での仕様も多いFCフォークリフトは発生した水をため込む方式を採用。この水は簡易水素充填車で回収され、発電時に使う水に循環される計画。1充填で7Lの水が発生する
日野自動車の小型トラック「デュトロ ハイブリッド」を使った簡易水素充填車。水素搭載量は270Nm3
2代目プリウスなどに搭載されていたニッケル水素バッテリーを再利用する蓄電池システム。この1セットに15台分のバッテリーを使い、12セットを採用予定。合計で180台分のニッケル水素バッテリーが使用される。上側に設置されているのは冷却用のファン。2013年からトヨタディーラーの大型店に導入されている蓄電池システムは、4セット、または10セットで構成され、太陽光発電パネルで発電した電気を蓄える。緊急時の非常用電源などに利用されるほか、夏場など電力使用が増える季節などにも利用されているとのこと

(編集部:佐久間 秀)