インプレッション

ランボルギーニ「アヴェンタドール S」(フィリップアイランドサーキット試乗)

オーストラリアで最新のアヴェンタドールに試乗

 ランボルギーニのフラグシップ「アヴェンタドール」の次世代モデル、「アヴェンタドール S」の試乗会がオーストラリアのフィリップアイランドサーキットで開催された。

 アヴェンタドール Sそのものは2月に発表され、欧州で試乗会が開催されているのだが、今回はアジア向けということもありメルボルン(オーストラリア)で、しかも一般公道での試乗はなくサーキット走行に特化したものだ。フィリップアイランドサーキットは、メルボルン市内からはバスで2時間ほど。そこで主催者が用意してくれたのは、ヘリコプターでの移動。ランボルギーニ・オーナーのセレブなライフスタイルを体験するところから始まる予定だった。しかし、朝一番はあいにく天気がわるくヘリはキャンセルされ、バスでの移動となったのだ。

 時折、強い雨が降ったり止んだりのあいにくの天候。まずは、アヴェンタドール Sの車両解説(プレゼンテーション)を聞く。アヴェンタドール S一番のトピックは、後輪ステア(操舵)のLRS(Lamborghini Rear-wheel Steering)が採用されたことだ。つまり4輪駆動+4輪操舵になったということ。後輪ステアとは、文字どおり前輪に対応して後輪がわずかに左右に切れること。これによって、低速域では前輪とは逆位相(反対)に切れることで、最小回転半径が小さくなり小回りが利くようになる。そして、高速域では前輪と同位相(同じ方向)に切れることで安定性を増すのが技術目的。このような後輪ステアは、レクサス(トヨタ自動車)やポルシェにも採用されている技術だ。

 そして、V型12気筒6.5リッターエンジンはレブリミットが+150rpmの8500rpmとなり、最高出力は40PS増の740PSにパワーアップ。最大トルクはそのままの690Nmだ。もちろん、ハルデックス電子制御式の4WDシステムを採用し、0-100km/h加速はなんと2.9秒。プレゼンテーションでは、これらに加えサスペンションやエクステリアデザイン、さらに2016年のランボルギーニの販売台数は、日本がアメリカに次ぐ世界第2位だということが説明された。ま、延々とスペックがなんちゃらかんちゃらと続くのはこの辺にして、ここからは走りながらその印象を話そう。

2016年12月に発表された最新の「アヴェンタドール S」にオーストラリアのフィリップアイランドサーキットで試乗する機会を得た。ボディサイズは4797×2030×1136mm(全長×全幅×全高。全幅はミラー部のぞく)、ホイールベースは2700mm。日本での販売価格は4490万4433円となっている
新しいエクステリアデザインが与えられたアヴェンタドール Sではフロントスプリッターの長さを延長し、空気の流れを変えることによって空力効率、エンジン&ラジエーター冷却面を向上。リアではブラックのディフューザーに垂直フィンを設定したほか、可動式のアクティブリアウイングは車速などに応じて3つの位置のいずれかに設定される。これらにより、現行のアヴェンタドールと比べてフロントのダウンフォースが130%増加、ウイングが最適な位置にある状態ではダウンフォースの全体効率が50%増加したという
パワートレーンは最高出力544kW(740HP)/8400rpm、最大トルク690Nm/5500rpmを発生する自然吸気のV型12気筒6.5リッターエンジンにシーケンシャルトランスミッションの7速ISRを組み合わせ、駆動方式はフルタイム4WD。最高速は350km/h以上、0-100km/h加速は2.9秒とアナウンスされている
アヴェンタドール Sでは、ドライビングモードに既存の「ストラーダ」「スポルト」「コルサ」に加え「エゴ」を追加。トラクション、ステアリング、サスペンションの挙動をドライバーの好みによってカスタマイズできる

後輪ステアの実力

 試乗会場となるサーキットの現場では、インストラクターとして欧州版SUPER GTドライバーなどが担当する。実は、私がインディレース等の経験者と知り、少しだけ特別扱いされ、先導車の速度を上げてくれるという。本来なら単独での走行を希望したいところだが、他のジャーナリストの目があるのでそこまでは特別扱いできないだろうと踏んでいた時に、1人のインストラクターが私に声をかけ「こっちにこい」と言っている。もしやこれは! と思いきや、連れて行かれたのは細かくパイロンが並べられたピット裏のスペース。なーんだ、ジムカーナか! 決してジムカーナをバカにしているのではない。ちょっとがっかりしただけ。

 パイロンで仕切られたコースを走るのだが、これがとても狭くコーナーは110度以上曲がり込んでいる。つまり、ここで後輪ステアを体験してもらおうというわけだ。さっそく走り出してみると、ステアリングはフルロックまで切り込まなくては曲がり切れない。曲がり始め、「これは無理だろう」と思うほどきついコーナーでもなんなくクリアして行ける。慣れてくるとどんどん速度が上げられる。しかも路面は完全ウェット。使用するギヤは1速か2速。アクセルを蹴飛ばすようにフルパワーを掛けても、スタビリティコントロールが作動して、安心して狙ったラインをクリアできる。

 この後輪ステア、基本的に60km/hまで後輪は逆位相(前輪とは逆方向/最大3度)に切れて小回りをサポートする。そして90km/h以上では同位相(前輪と同じ方向/最大1.5度)に切るので、リアの安定性をサポートするのだ。では、60-90km/hまではというと、同位相と逆位相の中間で制御するのだが、「ストラーダ」「スポルト」「コルサ」「エゴ」と4種類ある走行モードによって異なるとのこと。このシステム、逆位相時には前後輪が逆に切れることでホイールベースが最大-500mm、同位相時には最大+700mmに相当する効果が得られる。また、ダイレクトステアリングリングのレシオも逆位相時にはよりクイックになり、同位相時には少し緩慢になるようにセットされる。つまり、中低速ではよりアジリティのあるハンドリングにして、高速域では安定感を重視しているのだ。

V12の咆哮に酔う

アヴェンタドール S フィリップアイランドサーキット試乗動画(5分58秒)

 そして、いよいよ私のサーキット走行の時がやってきた。逆位相を多用するパイロンジムカーナ走行ではフロントが切れ込む感覚で、軽快でアジリティのあるハンドリングだった。しかし、速度が高いサーキット走行では同位相となる。これまで、このシステムを採用する数々のスポーツモデルに試乗してきたが、そのほとんどが車両のスタビリティ(安定性)向上を目指しての採用だった。

 例えば、高速でのレーンチェンジでどんなに乱暴なステアリング操作を行なっても、クルマは安定して目指すレーンに移動する。これはこれで素晴らしいことだが、サーキットでコーナリングを楽しむというプロセスには向いていない。軽快感がスポイルされるからだ。そんなことを考えながらピットアウトした。まずはドライブモードをスポルト(スポーツモード)に設定して、インストラクターがドライブする「ウラカン」の後に続く。スポルトは4WDの前後トルク配分を最大90%リアに配分する。つまり、コーナリング中にステアリングだけでなく、アクセル操作でリアホイールをコントロールするのに向いているドライブモードだ。

 ウラカンは1周目からある程度速い速度レベルのペース。いくつかのコーナーでは「もうちょっとペースを上げてよ!」と独り言が出たが、私自身、初めてのコース。無理は禁物だ。各ドライブモードに合わせて、メーター内のディスプレイデザインも変化する。ストラーダとスポルトは、少しノスタルジックな円形エンジン回転計となり、センターに選択しているギヤが表示される。素晴らしいのは740PSを発生するV12の咆哮だ。8500rpmからレッドゾーンとなるV12は、7500rpmを超えた最後の1000rpmのサウンドが素晴らしい。12気筒が完全に調和したハーモニーに聞き惚れる。やはりアヴェンタドールにはあの「クンタッチ(カウンタック)」のDNAが脈動していると感じる瞬間だ。アヴェンタドール Sの排気システムは従来から20%軽量化されていて、3本にまとめられた排気管をさらにデルタ形状に集合させて、リアディフューザーの間からセンター出しにしている。このデザインがかなりレーシーだ。そして、ハンドリングはブレーキングからコーナーへのターンイン時に、前輪に移動する4WDのトルク配分を小さくしているので駆動が後輪に残り、スムーズに狙ったラインをトレースする。スポルトモードはドリフトもしやすくなるとのことだが、残念ながらそのようなトライは許されなかった。

 そして、いよいよサーキット用ドライブモードとなるコルサを試す。コルサモードはスポルトよりトルク配分がフロント寄り。意外と感じるかもしれないが、これほどのパワーがあるモデルではサーキットで速く走るには後輪だけに頼っていたのでは限界がある。コルサモードでは、スポルトに比べて10%フロント寄りの最大フロント20:リア80という前後トルク配分になる。そのため、ヘアピンなどのタイトコーナー進入ではきちんと速度を落とさないと若干アンダーステア気味になるが、コーナー脱出のトラクションは素晴らしく、カーボンファイバー・モノコックによる1570㎏という軽量な車体はパワーウェイトレシオ2.13kg/PSによって0-100km/h加速2.9秒という異次元の加速が堪能できる。

 そのエンジンフィールについて付け加えると、VVT(可変バルブタイミング)とVIS(可変インテークシステム)を最適化して、エンジン回転数をベースモデルより150rpm高い8500rpmとしながらも、トルクカーブをよりフラットにしている。最大トルクは豊満な690Nm/5500rpmだが、それ以下の低中速域から非常に力強い。だから、ヘアピン立ち上がりではアクセルに右足を乗せた瞬間から身体がグッとシートに押し付けられるのだ。ターボパワーでは味わえないピックアップもアヴェンタドール Sの魅力といえる。

 ここフィリップアイランドのレーシングコースはアップダウンと中高速コーナーがあり、アヴェンタドール Sには打ってつけのコースだ。アヴェンタドールの日本国内試乗会(袖ヶ浦フォレストレースウェイ)でベースモデルに試乗したとき、しなやかなサスペンションに感動したが、やはり速度域の高いサーキットでの試乗はダウンフォースバランスなどさまざまなことが確認できる。もともとアヴェンタドールはプッシュロッド式ダブルウィッシュボーンサスペンションを採用している。これはサスペンションの構成パーツが空力に悪影響を与えないために考案されたシステムで、スプリングダンパーユニットを車体内部に格納してホイールキャリア(アップライト)からの動きを1本のプッシュロッドで伝えるシステム。F1もほとんどがプッシュ式かプル式のどちらかを採用している高級なシステムだ。

 そして、アヴェンタドール Sでは空力バランスに大きく手が加えられている。前後の空力パーツがデザイン変更され、可動式のリアウイングが装備されている。このリアウイングは速度やドライブモードに対応して3段階に可変する。フロントのダウンフォースが130%増加したことへの対応だが、速度が高い高ダウンフォース時には全体効率が50%増加しているという。とはいえ、サイドビューはベースモデルの流れるような美しいデザイン。特に、リアフェンダーのカットデザインはクンタッチ(カウンタック)のデザインフィロソフィーを踏襲しているのだ。

 さて、もう一度走りに話を戻そう。高ダウンフォースにより、高速コーナーはとても安定している。試乗中の最高速は264km/hに達したが、標準装備のブレンボ製カーボンセラミックブレーキとアヴェンタドール S用に専用開発されたピレリタイヤによって力強く安定したブレーキング。さらに、ダンパーにはマグネティックライドシステムが採用されていて、速度域とドライブスタイルに応じてリニアに可変する。磁性体流動オイルを電磁石のオリフィスでコントロールするこのダンパーアイテムは、GM傘下時だったデルファイが当時(1990年代)キャデラック用に開発したシステム。その後、コルベットに採用され、進化を重ねて今ではフェラーリやアウディも採用している。利点は、減衰調整が非常にクイックであること。だから高速域でのハンドリングがとても安定感に満ちていた。高ダウンフォースゆえに、ダンパーの反応に課される役割の重要性に今回の試乗を通して改めて気付かされたのだ。

 いわゆるコンフォートモードとなるドライブモードのストラーダでは、このダンパーの制御が柔らかくなり乗り心地をサポート。そして、エンジンはアイドリングストップも標準装備。また、低負荷時には12気筒を6気筒にして無駄な燃料消費を抑えている。ドライブモードのエゴは、ストラーダ、スポルト、コルサのモードの中から、各デバイスモードを好みのものにアレンジできるもの。言い忘れたが、トランスミッションは7速シングルクラッチを採用するISR(インディペンデンス・シフティングロッド)。最新版デュアルクラッチほど速くはないが、それでも十分に速い。それよりも、軽量であることとしっかりとギヤチェンジした感触が味わえ、ダイレクト感がある。

 帰路は天気も回復し、予定どおりメルボルンのホテルまでをヘリコプターで30分の旅。アヴェンタドール Sのイタリアンらしいインテリアの高級感を思い出しながら、眼下の広大なオーストラリアの大地を見てプチセレブになった1日だった。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在62歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

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