インプレッション

ボルボ「V40 D4 R-DESIGN Edition」(公道試乗)

D4にR-DESIGNとPolestarを併す

 ボルボの最量販車種はグローバルでは「XC60」だが、日本と欧州では「V40」となっている。とくに日本ではボルボ車全体の販売における実に半分以上を占めるほどの売れ行きという。そのV40は、2013年春の導入からこれまで毎年のように改良を実施してきた中でも、「ドライブE」と呼ぶ次世代パワートレーンを世に先駆けて展開していることも何度かお伝えしているとおり。とりわけ、クリーンディーゼルの注目度が高いのはご存知のことだろう。2016年7月には内外装デザインや走りなど全面的に大がかりなマイナーチェンジを行なった。

 一方で、さまざまなバリエーションの限定車をたびたび送り出してきたのも特徴。その最新のV40 D4をベースに、パフォーマンスを際立たせたモデルとして2017年の初めに日本では150台限定で発売されたのが「V40 D4 R-DESIGN Edition」だ。

 V40のD4には設定のなかった「R-DESIGN」のスポーティな内外装と専用サスペンションに、「ポールスター・パフォーマンス・ソフトウェア」および「ポールスター・パフォーマンス・エキゾーストセット」を組み込んだという仕様だ。写真のR-DESIGN専用色の「バースティングブルーメタリック」がよく似合う。

 ポイントは、なんといっても希少なチューンドディーゼルを搭載することだ。ソフトウェアの書き換えにより、もともと直列4気筒2.0リッターディーゼルとしては最高レベルにある190PSの最高出力を200PSに高め、最大トルクを440Nmまで引き上げている。ボルボのエンジニアとの密接な連携により、ポールスターが新たに開発したステンレススチール製のエキゾーストシステムは、スポーツ・エアフィルターの組み合わせによって優れたエンジンレスポンスとスポーティなサウンドを演出するというから楽しみだ。

150台限定として1月に発売された特別限定車「V40 D4 R-DESIGN Polestar Edition」。ボディカラーはR-Design専用色となるバースティングブルーメタリック。価格は449万円
エクステリアではテールゲートに「R-DESIGN」「Polestar」のバッヂが備わるほか、ステンレススチール製のエキゾーストシステム(デュアルテール)によりスポーティなサウンドを楽しめる「ポールスター・パフォーマンス・エキゾーストセット」を装備。同セットにはスポーツエアフィルターやリアディフューザーも含まれる
V40 D4 R-DESIGN Editionでは「ポールスター・パフォーマンス・ソフトウェア」を装着し、搭載する直列4気筒 2.0リッター直噴ターボディーゼルエンジンは最高出力147kW(200PS)、最大トルク440Nm(44.9kgm)を発生
インテリア

チューンドディーゼルの醍醐味

 実際にもその刺激的なドライブフィールは、ディーゼルの既成概念とはまったくかけ離れたものだ。低く響くスポーティなサウンドは、ディーゼルとは思えないほどのキレのある音質。ディーゼル特有の音と振動を感じるのは、低速のごくわずかの領域にとどまる。俊敏なアクセルレスポンスや、踏み込んだときに素早く立ち上がる力強いパワー感、いかにもヌケのよさそうな吹け上がりには、チューンドディーゼルの醍醐味を感じさせる、とても気持ちのよいエンジンフィールに仕上がっている。そしてそれをパドルシフトの付く8速ATがあますところなく引き出してくれる。

 専用サスペンションによりロールやピッチングはよく抑えられているが、乗り心地も適度に締まった印象で不快には感じない程よいバランス。ディーゼルはフロントヘビーになりがちなところ、そんな印象もあまりなくキビキビとしているので、ワインディングを走らせても存分に楽しめる。

 近年、Cセグメントの各社におけるトップエンドモデルの高性能化が著しいことはご存知のことだろうが、ボルボが送り出した今回の限定車も、コンパクトなサイズながら特別なクルマに乗っているという雰囲気を大いに味わわせてくれる1台である。それら競合ブランドの上級機種を見わたすと、このクルマの449万円という車両価格がずいぶんバーゲンプライスに思えてくる。すでに完売のようだが、次作にも大いに期待したい。

より熟成された最新モデル

V40シリーズは2016年7月にマイナーチェンジ

 なお、2016年7月のマイナーチェンジについても整理してお伝えすると、内容としてはエクステリアデザインの一新、トールハンマー型LEDヘッドライトの採用、グレード体系の見直し、歩行者エアバッグの全車標準装備化が挙げられる。

 エクステリアについては、最新のスカンジナビアンデザインを採り入れた新世代ボルボの象徴である90シリーズに通じるスタイリングとされたことは、実車を見てもご理解いただけよう。ボルボマークも新デザインとなった。

 インンテリアでは、シートにアンバーなど新色が設定された。なお、このセグメントで本革シートが標準装備されるのはまだあまり一般的でないところ、ボルボには設定がある点も特筆できる。また、インテリアパネルにクリーンでモダンなスカンジナビアンデザインを表現したという新デザインのアルミパネル3種類が新たに用意された。そのほかインフォテイメント系も新しくなった。

 同マイナーチェンジにおける走行性能面での変更は伝えられていないが、乗ると見えざる改良が少なくないことが分かる。売れ筋のD4は、1000rpm台のピックアップ向上によりパーシャルでの速度のコントロール性が改善し、より運転しやすくなった。それにともない飛び出し感も抑えられている。ディーゼル特有の音も静かになり、いわば“ガラガラ”が“カラカラ”になったような感じで、上級モデルの60シリーズに近づいたように思える。一方で、ガソリンのT3は動力性能が全体的に向上しており、印象としてはT3とD4が接近したように感じられる。また、ステアリングやサスペンションなど走り全般も洗練されて、剛性感も高まっている。

 ボルボが誇る先進安全技術についても、「歩行者エアバッグ」「歩行者・サイクリスト検知機能付追突回避・軽減フルオートブレーキ・システム」など11種類以上の機能が標準装備される。このセグメントでここまで充実している例というのは心当たりがない。

 思えば、世に出た当初のV40というのは、往年のボルボにあったあまり好ましくないイメージを払拭する狙いもあってか、いささか性格がスポーティすぎてヤンチャな面もあったところ、短期間でずいぶんと洗練され、熟成されたものだ。ドイツ勢にはない北欧生まれならでは持ち味に惹かれる人も少なくないだろう。多くの競合がしのぎを削る中でも、V40は異彩を放つ存在である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:原田 淳