試乗インプレッション

BMWの最上級SAV「X7」、世にあるSUVの中でも“究極的な快適性”を誇る

極めて快適な乗り心地と優れた走行性能に「さすが!」の連続

ついに出た!「SAV」のフラグシップ

 思えばドイツのプレミアムブランド御三家でもメルセデス・ベンツとアウディにはすでに「GLS」や「Q7」があるのに対し、これまでBMWにはフルサイズSUVがなかった。あるいは周囲を見わたすと、かつてSUVとは無縁だった高級ブランドが続々と参入を表明しているのは周知のとおりだ。そんな中、BMWも満を持して「X7」を送り出した。これにて「X5」からはじまったBMWのSAV=スポーツ・アクティビティ・ビークルのファミリーも、ついに「1」から「7」まで揃ったことになる。

 威風堂々とした存在感満点のルックスは、X5の兄貴分というよりも、SAVのフラグシップとして異なるアプローチでデザインされた印象を受ける。大きくなった縦長のキドニーグリルはいささかやりすぎな気がするものの、後発モデルを埋没させないようにという意味では分かりやすくてよい。その横につながる斬新なデザインのヘッドライトも印象的だ。

 5165×2000×1835mm(全長×全幅×全高)というスリーサイズはX5と全幅がほぼ同じで、230mm長く、65mm高く、3105mmというホイールベースも130mm長い。これにより3列目まで十分な居住空間を確保している。今ではX5でも3列シート仕様が選べようになったとはいえあくまで非常用であるのに対し、X7は圧倒的に広く、日常的に使える3列シートを実現した点には大きな違いがある。シートアレンジは3列目まですべて電動で行なうことが可能で、特徴の1つである分割式のパワーテールゲート下部も電動で上げ下げできる。

今回の試乗車は2019年6月に発売された3列シート仕様の最上級ラグジュアリーSAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)「X7」。ボディサイズは5165×2000×1835mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3105mm。撮影車は「X7 xDrive35d」で、価格は1099万円
足まわりでは各ホイールに設置したセンサ―で路面状況を感知し、必要に応じて車高を上下それぞれ40mm自動調整する「4輪アダプティブ・エア・サスペンション」、カメラで進行方向の路面状況をチェックし、エアサスペンションに加えてダンパー調整、ロール回避などを最適化する「エグゼクティブ・ドライブ・プロ」を採用する。足下は22インチアルミホイールにピレリ「P ZERO」(275/40R22)の組み合わせ
X7 xDrive35dが搭載する直列6気筒DOHC 3.0リッターディーゼル「B57D30A」型エンジンは、最高出力195kW(265PS)/4000rpm、最大トルク620Nm/2000-2500rpmを発生。WLTCモード燃費は11.4km/L

 インテリアの豪華さも目を見張る。シートには一部モデルを除いて厳選した牛革を使用した「BMW Individualメリノ・レザー」が標準装備となり、6人乗りモデルでは2列目が左右独立したコンフォート・シートとなる。この空間に招き入れられた同乗者は、誰しもが至極ラグジュアリーな雰囲気にひたることができる。

 それはドライバーにとっても同じ。インパネまわりにふんだんに用いられたレザーやウッドのクオリティ感もかなりのもので、透明度の高いクリスタルを採用したセレクトレバーなども、贅沢な気分を高めてくれる。

 BMWの最新モデルらしく、AI技術の活用により音声会話で各種機能や情報にアクセスできる「BMWインテリジェント・パーソナル・アシスタント」ももちろん搭載される。この日は短時間のドライブだったのだが、使い続けることで学習が進み、どんどん便利になっていくことが期待できる。同システムを起動させたいときに呼ぶ「名前」を任意に付けることができる点も特徴だ。

インテリアではシート表皮に厳選した牛革を使用する「BMW Individualメリノ・レザー」をスタンダードモデル以外のグレードで標準装備したほか、シフトセレクターやスタート/ストップボタンなどに透明度の高いクリスタルを採用。セカンドシートは6人乗りのキャプテンシート、7人乗りのベンチシートの2種類が用意される(撮影車はキャプテンシート)。ラゲッジスペースの容量は750Lで、後席を折りたたむと2120Lまで拡大可能

空を飛んでいるかのような乗り心地

 走りの仕上がりも本当に素晴らしくて感心させられた。各輪のセンサ―で感知した路面状況に応じて車高を自動調整するという「4輪アダプティブ・エア・サスペンション」や、路面状況をカメラで詳細に確認し、エアサスとダンパーを最適に調整する「エグゼクティブ・ドライブ・プロ」が、路面の凹凸を感じさせないほど、なめらかで上質な乗り心地を実現している。プレスリリースでも「空を飛んでいるかのような」と謳っているのは、けっして大げさではない。世にあるSUVの中においても究極的な快適性を実現している。

 SAVのフラグシップらしく、これほど大柄なクルマながら、重々しさをまったく感じさせることなく、むしろ軽快ですらあるハンドリングの仕上がりも上々だ。これには、巧みにチューニングされた4輪操舵機構はもちろん、車検証によると2500kgで、前軸重が1150kg、後軸重が1350kgと、前後重量配分がかなりリア寄りであることも効いているに違いない。

 なめらかなのは足まわりだけではない。試乗した「xDrive35d M Sport」の直列6気筒ディーゼルもまた、なめらかなドライブフィールを味わわせてくれる。ディーゼルとは思えないほど静かで振動も小さく、「シルキーシックス」でならしたBMWの片鱗をのぞかせるスムーズな吹け上がりと十分な動力性能により余裕のクルージング性能を実現している。

 これ以外に、最高出力530PS、最大トルク750Nmのガソリン4.4リッターV8ツインターボを搭載し、0-100km/h加速4.7秒の俊足を誇るスポーティな「M50i」という高性能版もあるので、機会があればぜひドライブしてみたい。

 このところBMWが採用を進めている、ADAS系の独自のデバイスも要注目だ。高速道路での渋滞時にステアリングから手を離して走行可能な「ハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援システム」や、低速走行時に直近の50mの軌跡を記憶しておき、同じ軌跡を自動で後退可能な「リバース・アシスト」を含む、最新の運転支援システムが搭載されている。後者はたとえば細い道で対向車とすれ違うのが困難な際に元のルートに簡単に戻ることができるので、X7のように大柄なクルマではなおのこと、ありがたみを感じる機会も増えるに違いない。

 運転する側も乗せてもらう側も、乗る人すべてが至高のラグジュアリーを共有できるクルマ。SAVの最上級モデルとして、威風堂々のルックスに広大な室内空間とラグジュアリーな雰囲気、極めて快適な乗り心地と優れた走行性能、現時点で考えうるすべてを与えた装備の充実ぶりなど、すべてが「さすが!」の連続であった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一