試乗記

フォルクスワーゲン「ティグアン」が3代目に進化 DCC Pro搭載でこれまでとは次元の違う走りに

フルモデルチェンジした新型ティグアンに試乗

DCCがDCC Proに

 世界で760万台もの売り上げを誇るフォルクスワーゲンのヒット作、「ティグアン」が7年ぶりのモデルチェンジで3代目となった。フォルクスワーゲンらしい安定したティグアンのフォルムは新型でも継承されている。

 モジュールプラットフォームとして展開して久しい汎用性の高いMQBはMQBevoに進化した。この流れは第8世代の「ゴルフ」から始まった軽量・高剛性のプラットフォームで、フォルクスワーゲン車ではフルモデルチェンジのタイミングで順次切り替わっている。ティグアンもその一例だ。

 画期的なのはアダプティブシャシーコントロール(DCC)がこのクラスで初めてDCC Proになったことが挙げられる。ステアリングや路面状況をセンシングしてショックアブソーバーの伸び側と縮み側を独立調整することで最適な接地状態を得られる。乗り心地、ハンドリングともに格段に向上するDCC Proは、ティグアンではグレード別で装備される。

 パワートレーンはティグアンとして初の1.5リッターターボ+48Vマイルドハイブリッド+7速DCTを組み合わせる。また少し遅れて2.0リッターディーゼルターボも発売され、前者はFFで後者は4WDとなる。

 ボディは滑らかだが、ボンネットが高くCピラーがすっきりした力強いデザインになった。空力特性はディテールにもこだわった結果、Cd値は0.33から0.28に低減された。

今回試乗したのは11月に発売された新型「ティグアン」。1.5リッター「eTSI」マイルドハイブリッドシステムの2WD(FF)仕様と、2.0リッター「TDI」クリーンディーゼルエンジンの4MOTION(4WD)仕様を設定し、それぞれ「アクティブ」「エレガンス」「R-Line」の3グレードを展開。今回はeTSI仕様のR-Line(588万9000円)に乗った。ボディサイズは4545×1840×1655mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2680mm
新型ティグアンのエレガンスおよびR-Lineでは片側1万9200個の高精細なマルチピクセルLEDを搭載し、従来よりも細かい制御が可能になったLEDマトリックスヘッドライト“IQ. LIGHT” HD(ダイナミックターンインジケーター付)を標準装備。R-Lineでは専用エクステリアを採用するとともに、シリーズで唯一20インチアルミホイール(255/40R20)を装着

 インテリアもフォルクスワーゲンらしいシンプルで使いやすく広い室内だ。サイズは従来型より少し大きく、全長は25mm長い4540mm、ホイールベースは2680mmと少し長く、これに伴って室内も広くなっている。

R-Lineのインテリア。新型ティグアンでは15インチティスプレイを採用する“Discover Pro Max”(エレガンス/R-Line)を搭載し、センターコンソールにはオーディオの音量調整やドライブモードの選択が行なえる「ドライビング・エクスペリエンス・コントロール」を備えた
R-Lineでは専用ファブリックシートが標準となるが、オプションで座面長調整機能やシートベンチレーション(運転席/助手席)機能が備わる「レザーシートパッケージ」を設定。エレガンスとR-Lineは空気圧式リラクゼーション機能(運転席/助手席)も付く
インパネの加飾はアンビエントライト(カラー調整機能付)の一部として機能
ラゲッジスペースは先代モデルから37L拡大して652Lとなった

舐めるように走る感触はこれまでティグアンとは次元の違うもの

新型ティグアンの実力やいかに?

 試乗車はR-Line、ドアサイドにRの文字をあしらったエンブレムが付く。タイヤはR-Line専用の255/40R20で、ピレリのSUV用タイヤ「SCORPION」を履く。

 48Vマイルドハイブリッドはスタート直後にEV走行が可能で滑らかに走り出す。DCTのショックもほとんどなく加速もスムーズ。気を付けていると変速時のタイミングが分かるがトルコンATとの大きな差はない。かつてのDCTは明確な変速感があって、マニュアルシフトに近いものがあったが市場の要求から変速感を感じさせないトランスミッションになっている。

 出力は110kW(150PS)/250Nmで1640kgの車両重量を走らせる。限られた低速トルクはマイルドハイブリッドのモーター出力(13.5kW/56Nm)のサポートで力強く滑らかな加速を感じる。WLTCモードでは18.3km/L、市街地では15.6km/Lが公表値だ。4気筒エンジンは走行中、2気筒を頻繁に休止するシ気筒中止システムも組み込まれ、燃費改善に凝って設計がなされる。そして48Vのマイルドハイブリッドとの組み合わせは絶妙だ。

48Vマイルドハイブリッドを組み合わせた「1.5eTSI」では直列4気筒DOHC 1.5リッターターボエンジンを搭載。最高出力は110kW(150PS)/5000-6000rpm、最大トルクは250Nm(25.5kgfm)/1500-3500rpmを発生

 着座ポイントも高く視界は広く、ボンネットも目に入るので、クルマの位置が分かりやすい。広い室内はフォルクスワーゲンらしい明るさに溢れている。リアシートのレッグルームも適度で、ストロークの大きなシートクッションは腰があって心地よい。

DCC Proの仕上がりはどうか?

 注目のDCC Proはショックアブソーバーの伸び側と縮み側を0.1秒単位で変化させることで常に最適な姿勢を得られるのが特徴だ。このシステムがあれば小さい凸でも縮み側を下げて、すぐに伸び側を高くするとバネ上をフラットな姿勢で走らせることができる。凹側でも素早く切り替わり接地力が高い。

 またエコ、コンフォート、スポーツ、カスタムの4つのドライビングプロファイルを選択できる。これは減衰力を固定するものではなく目標値を設定するもので、この範囲内で路面条件によって減衰力を可変させる。またカスタムを選ぶと減衰力をさらにソフトからハードまで15段階で選択でき、自分にあった乗り心地とハンドリングを選定できる。

 この場合も減衰力を固定するものではなく設定範囲内で減衰力可変を行なう。さらにヴィークルダイナミクスではXDS(電子制御ディファレンシャルロック)とDCC Proが連携し、トラクションとハンドリングを両立させる。

ショックアブソーバーの伸び側と縮み側を0.1秒単位で変化させることで、常に最適な姿勢を得られる

 市街地で乗るとその効果はテキメンだ。荒れた舗装路での接地性が高く、舐めるように走る感触はこれまでティグアンとは次元の違うものだ。フォルクスワーゲンのガッチリした足まわりの感触に加えて、バネ上の動きが少なくショックが小さい。また上屋の大きなSUVにもかかわらずロールがよく抑えられ、安定性の高いハンドリングとなっている。条件のわるい路面ではさらにXDSの効果が加わるので悪路走破性にも期待がかかる。

 直進性はステアリングのスワリがもう少しドッシリしていた方が好ましいが、外乱による乱れが少ないのが好ましい。上物の大きなSUVとしてはハンドリングも軽快だ。ロール変化も速度域にかかわらず自然で、走りやすい。前述のように乗り心地も路面を舐めるようにサスペンションの追従性が高く、バネ上はフラットな姿勢に保たれハンドリングの高さと快適な乗り心地が高いレベルでバランスしている。

 ドライビングプロファイルはコンフォートがデフォルトだが、フワフワした動きが全くないのがすばらしい。ちなみスポーツを選択すると少し硬めになるが接地力は高く、乗り心地も含めてドライブフィールは快適だ。

 ADAS系も前車追随機能やレーンキープに任せて安心の完成度があり、車間距離を保ちつつクルージングもリラックスできる。明るいキャビンに心も平がるSUVがティグアンだ。

3代目へと進化した新型ティグアン。中でも走行性能の魅力がグッと高まった
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一