【インプレッション・リポート】 ポルシェ「911 カレラ/カレラS クーペ」 |
ポルシェが渾身の力を込めた一作――まさにそう紹介したくなるのがコードネーム991、すなわちこれまでの997型後継となる最新の「911」だ。
すでに「カブリオレ」も発表されているものの、現時点でデリバリーが始まっているのはカレラ・クーペとカレラS・クーペの2タイプ。待望のテストドライブはカレラS・クーペのみで実現。「まずは新型911の高度なパフォーマンスを体験して欲しい」と、アメリカ・カリフォルニアで開催された国際試乗会には、こちらのみが用意されたのだ。
■従来型と“ウリふたつ”のルックス、でも中身は……
「991型開発のコアは、第1に911らしいプロポーションを実現させる事にあった」という開発担当者のコメントを裏付けるように、特にフロントセクションを一瞥した限りでは、印象は従来型に“ウリふたつ”とも思える新しい911クーペのスタイリング。
しかし、そんなこのモデルが実は冒頭述べたように「渾身の力を込めた作品」であることは、その内容をチェックしてみればたちどころに明らかになる。
何しろ、パーツ数にして95%が新しいというのがこの991型というモデル。具体的には、従来型のモデルライフ半ばで刷新されたエンジンと、「PDK」を名乗るデュアルクラッチ式2ペダル・トランスミッションを除けば、「すべてが変わったと表現しても決して大袈裟ではない」というのが今度の911だというのだ。
「48年に及ぶ911の歴史の中で、これほどまでに白紙からの開発が許されたことはなかった」とも紹介されるこの新型の、従来型からの変わりようは完全に一新されたボディー骨格構造に象徴されている。ポルシェ自身が「アルミ/スチール製」と呼ぶ991型のボディーは、フロントセクションの多くの部分に軽量化を狙いとしたアルミ材を採用。
一方で、オールアルミ化も考えはしたものの「それでは911特有のリアフェンダーまわりのボリューム感を表現することが不可能だった」ともされる。大幅な進化を図りつつも、まずはあくまでも“911らしいルックス”を実現させることが最優先されたのが、今度の911でもあるというわけだ。
■乗ってすぐ分かる、乗り味の違い
かくして、「ボディー部分だけでおよそ80kgの軽量化を実現」という991型の走りのテイストには、テストドライブをスタートしてすぐの第一印象の段階から予想を超える変貌ぶりが感じられた。
走り出しの力強さが従来のカレラSを凌ぐことは、重量がより軽くなったうえでエンジン出力が増したというスペックからも、当然予想できた事柄。しかし、そうした動力性能面以上に変わり映えが大きく感じられたのは、実はその“乗り味”に関してだった。
先に紹介したように、フロントセクションを中心にアルミ材が多用された991型には、アウディ「R8」やジャガー「XK」、あるいはメルセデス・ベンツ「SLS AMG」など、オールアルミ製のモデルとも一脈通じるテイストが認められる。より具体的には「路面凹凸を拾った際の振動波形が、従来型より尖ったものになった」と、そう表現すればよいだろうか。
ただし、だからといって快適性が低下したわけではないということは、ここで明確にしておきたい。それどころか、「20インチのシューズを履く割には」などという断り書きを加えずとも、そのコンフォート性能は「従来の997型をも上回る、予想以上の素晴らしさ」と表現をしてよいもの。
そう述べることができる要因の1つは、ホイールベース100mmの延長効果を含めて、ピッチング挙動が抑えられたフラットライド感がより一層強まっていること。そしてもう1つは、前述シャープな波形の振動感も一瞬にして減衰されるため、それが不快感には繋がっていないことなどが考えられる。
もっとも、歴代モデルを乗り継いできた911フリークの中からは、すでに日常シーンから感じられるそうした大きく変わった乗り味を「911らしくない……」と受け取る人も現れかねないとは思う。フロントフェイスを中心に見た目はあくまで「らしい」のに、乗ってみると走り始めの瞬間からそのテイストが大激変──まずはそれが、991型の走りの第一印象と言ってよいだろう。
■快適性が向上しつつ、熱い走りのポテンシャルも
“踏んだ際”のフラット6ユニットならではの迫力はキープしつつも、クルージング・シーンでは静粛性も向上。こうして、静かさにも磨きがかかった991型は、だから「快適性がより向上した911でもある」と最初に多くの人にそう捉えられるはず。が、だからと言ってそんな新しい911というのは「走りの刺激性が薄れてよりマイルドになった911」などではもちろんない。
ポルシェ試乗会のいつもの流儀のとおり「そこまで乗って来た試乗車そのもので、そのまま一切の手を加えることなくコースイン」というパターンで行われたクローズドコースでのホットな走行セッションでは、これもまた、従来の997型に輪をかけて熱い走りのポテンシャルを秘めていることを教えてくれた。
「スポーツクロノ・パッケージ」にアクティブ・スタビライザー「PDCC」等と、走りに関わるさまざまなオプション群をフル装備としたカレラSのテスト車は、カリフォルニアのローカル空港敷地内に特設されたトリッキーなコースを、こともなげに駆け抜けた。
傍目には、さしたるロールもせずに次々とコーナーをクリアして行くその姿は、さほど緊迫感のないものと映ったかも知れない。が、当のドライバー本人はその瞬間、次々と自らを襲うとんでもない横G縦Gと格闘していたのだ。そして、そうした状況の中でも的確なコントロールを行わせてくれるのは、このモデルがとんでもなく濃厚な“人とクルマの対話性”の持ち主でもあるから。
991型は単に飛び切りの速さを実現してくれるだけでなく、こうして生粋のスポーツカーとしての適性を備えたモデルでもあるということだ。
■ポルシェ初のEPSは会心の出来
ところでそんな991型というのは、実は歴代911シリーズの中にあっても、最も燃費性能の高さを意識したモデルでもある。
先述のごとく軽量化が徹底されたのももちろん主たる目的はそこにあったと推測できるし、アイドリング・ストップメカやPDKのコースティング機能、7速MTや電動式パワーステアリングなど様々な新機軸が採用されたのも、ひとえに「そうした目的に“全身”で取り組んだ結果」と考えられる。
ただしポルシェ車たるもの、そうした事柄が“走り”のポテンシャルやドライブ・フィールの低下に少しでも繋がることは絶対に許されない。それゆえ、個人的にはポルシェ初採用となるEPS(フル電動式パワーステアリング)とPDKのコースティング機能がもたらすフィーリングには、試乗以前に多くの期待と不安が入り混じった。
果たして、そうしたニューアイテムの仕上がりぶりはいかなるものであったか? まずEPSに関しては「予想と期待通りだった」というのが結論。妙に軽くて路面とのコンタクト感に欠けたり、不自然な抵抗感をもたらしたりするのではないか? というEPSに対する過去の経験がもたらす不安は、すべて杞憂に終わったということができた。
それどころか、通常の油圧式に比べるとエネルギーセーブが行えることに加え、不快なキックバックを回避すると同時に“切り足し”“切り戻し”方向の補助的トルクを発する操安制御が可能になるなど、より多機能であることのメリットの方が映えてくる。実はポルシェは、EPSに関しては「我々の満足できるフィーリングが得られないから」という理由で以前は否定派だったもの。それだけに、満を持してのデビューとなった991型のそれは、まさに会心の出来栄えと実感をさせてくれるものだったのだ。
■バリエーションにも期待できるベースモデルの仕上がりぶり
一方のPDKのコースティング機能も、「まずはドライバーの意思を尊重」という作り手の思いが感じられる仕上がりだった。7速クルージング中のアクセルOFF操作で、エンジンとトランスミッションを切り離しアイドリング状態にまでエンジン回転を下げることで燃料を節約する、というのがこの機能。ただし、エンジンブレーキを必要とするシーンでは制御を行わないなど“特例”もあり、無闇な介入を感じさせないのはポルシェ車ならではだ。
それでも、MT車のドライブに長年親しんで来たようなドライバーにとっては「速度が落ちないまま空走距離が大幅に伸びる」という感覚は、多少なりとも違和感と映るかも知れない。何しろ「アクセルを早いタイミングで戻させる事で燃料を節約しよう」という発想によるアイテムだけに実はそれは当然なのだが、中には「エンジンブレーキが効きづらくて気持ち悪い……」といった印象を抱く人も居るかもしれないということだ。
ちなみに、そんなコースティング機能をMT仕様車に採用しなかったのは、「こちらでは、ドライバーの意思でコースティング走行を行うのが容易であるため」と言う。かくもドライビングの自在度が人間任せにされているという点に関しては、今でも2ペダルより3ペダルのトランスミッションの方に軍配が上がるのかも知れない。
そのルックスを目にした段階では、多くの人が「余り代わり映えしないじゃない……」と、そんな第一声を発するかも知れない新しいポルシェ911。しかし、その内容はかくも大胆で大幅な進化を遂げている。そして、そんなベースモデルの仕上がりぶりを知れば知るほどに、今後続々と登場するはずの「ターボ」や「GT3」といったより“走り志向”のバリエーションの出来栄えにもいよいよ期待が高まるというものだ。
911 〈〉内はPDK仕様の数値 | カレラ | カレラS |
全長×全幅×全高[mm] | 4,491×1,808×1,303 | 4,491×1,808×1,295 |
ホイールベース[mm] | 2,450 | |
前/後トレッド[mm] | 1,532/1,518 | 1,538/1,516 |
重量[kg] | 1,380〈1,400〉 | 1,395〈1,415〉 |
エンジン | 水平対向6気筒DOHC3.4リッター | 水平対向6気筒DOHC3.8リッター |
ボア×ストローク[mm] | 97×77.5 | 102×77.5 |
最高出力[kW(PS)/rpm] | 257(350)/7,400 | 294(400)/7,400 |
最大トルク[Nm/rpm] | 390/5,600 | 440/5,600 |
トランスミッション | 7速MT/7速PDK | |
NEDC燃費:市街地(L/100km) | 12.8〈11.2〉 | 13.8〈12.2〉 |
NEDC燃費:高速道路(L/100km) | 6.8〈6.5〉 | 7.1〈6.7〉 |
NEDC燃費:総合(L/100km) | 9.0〈8.2〉 | 9.5〈8.7〉 |
CO2排出量[g/km] | 212〈194〉 | 224〈205〉 |
駆動方式 | RR | |
ステアリング | 電動機械式 | |
前/後サスペンション | マクファーソンストラット/マルチリンク | |
前/後ブレーキ | ベンチレーテッドディスク(330mm) | ベンチレーテッドディスク(340/330mm) |
前/後タイヤ | 235/40 ZR19 / 285/35 ZR19 | 245/40 ZR20 / 295/30 ZR20 |
前/後ホイール | 8.5J×19/11J×19 | 8.5J×20/11J×20 |
定員[名] | 4 |
■インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2012年 1月 27日