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「34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3」応援レポート。上り調子で迎えた第8戦もてぎ、2018年最後の戦い

Round8 MOTEGI GT250km RACE

2018年11月10日~11日 開催

 SUPER GTに参戦する34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3は、11月10日~11日にツインリンクもてぎで開催された2018年度の最終戦となる「SUPER GT 第8戦 MOTEGI GT250km RACE」に出場。Q1は7位で通過し、Q2は9位。決勝はブレーキの制動力低下とタイヤの消耗、さらにエンジンパワーダウンという3重苦に悩まされ、14位でチェッカーとなった。

シーズン終盤で調子がよかった34号車だけに最終戦への期待も大きかったが、SUPER GTは甘くない。今回は苦戦で終わった
道上龍選手、大津弘樹選手と、SUGOから調子のいい走行順で挑んだが、今回は両選手とも見せ場を作れなかった

 これにより、日本初登場のNSX GT3で戦った2018年のシリーズ成績は15位。ドライバーランキングは14位でシーズンを終えた。

 Car Watchでは今シーズン、開幕戦から34号車のレポートをしてきたが、このチームではNSX使いの道上龍選手のドライバー復帰&キャリア初のGT300クラス参戦、NSX GT3の日本初登場、それにF3からステップアップしてきた期待の新人である大津弘樹選手の加入などシーズン前から話題が多かっただけに、当初から大きな注目を集めていた。

NSX GT3デビュー戦は岡山国際サーキット。ここでは前走車に追突してリタイアとなった(Photo:高橋学)
第2戦は富士スピードウェイ。大津選手が初めて決勝でドライブ。決勝は8位でゴール(Photo:安田剛)
第3戦は鈴鹿サーキット。タイヤトラブルが発生し、決勝は26位でゴール(Photo:高橋学)
第4戦タイではピット作戦が成功して9位に入賞(Photo:堤晋一)

 シーズン序盤でも十分に注目度は高かったが、流れが大きく変わったのは、衝撃的なクラッシュでマシンを失うことになった第5戦の富士スピードウェイ。

 練習走行でピットアウトした直後の34号車に、メインストレート終盤でブレーキトラブルが発生したGT500クラスの車両がほぼ減速なしで追突。1コーナーの奥まで吹き飛ばされた34号車は修理不能なほど壊れてしまった。ただ、ドライブしていた道上選手と追突したGT500クラスのドライバーに大きなケガがなかったのは不幸中の幸いだった。

第5戦のクラッシュは映像で捉えられていたが、ゾッとするほどの規模。ドライバーが無事で本当によかった(Photo:佐藤安孝[Burner Images])

 しかし、このアクシデントで第5戦のリタイアはもちろん、マシンを失ってそれ以降のレース活動が続けられるかどうかというところまでチームは追い込まれた。

 そんな状況でも、道上選手は相手選手と相手チームを気遣った。そのやりとりをしたGT500クラス 7号車(LEXUS TEAM LEMANS WAKO'S)の脇阪寿一監督は道上選手の態度に感銘を受け、2人のSNSでのやりとりを公開。それが拡散されたことで、道上選手の人としての対応のよさが多くのSUPER GTファンに広まり、応援してくれる人が一気に増えた。

 そんな声に応えてチームとスポンサーも奮起。なんと20日後に開催されたSUZUKA 10 HOURSには、NSX GT3の新車を投入して劇的な復活を遂げた。

クラッシュからたった20日という短期間でニューマシンをサーキットに持ち込んだModulo Drago CORSE。SUZUKA 10 HOURSでシェイクダウンを行なった(Photo:奥川浩彦)

 大勢のファンとニューマシンを手に入れて一気に流れを掴んだ後半戦では、第6戦のスポーツランドSUGOで大津選手がSUPER GTの歴史に残るようなオーバーテイクショーを披露して4位に入る。さらに第7戦のオートポリスでも、道上選手の好判断によるピットインから再び大津選手のオーバーテイクショーが始まり、参戦初年度ながら3位表彰台を獲得!

新生34号車のSUPER GTデビューはSUGO。大津選手のオーバーテイクショーで4位をゲット(Photo:高橋学)
オートポリスはなんと3位! 参戦初年度で表彰台を獲得した(Photo:高橋学)

 そんな上り調子で迎えた最終戦もてぎだが、SUPER GTはとても難しいレース。今回は冒頭に書いたとおり14位という結果だったが、チーム、ドライバーはもちろん全力で挑んだ。そんなレースの舞台裏を含め、改めて34号車の2018年最終戦をお伝えしていこう。

SUGO以来の安定した速さで「Q1突破は当たり前」という雰囲気

 毎年11月に行なわれる最終戦だけに、気温もグッと下がって……。と言いたいところだが、最終戦が行なわれた週末のツインリンクもてぎは気温が高めで、昼間はTシャツ1枚で過ごせるくらいの気候となった。ただ、予選日である土曜日は夜から早朝にかけて雨が降ったようで、午前の公式練習の路面はウェット。レインタイヤを履いての走り出しとなった。

道上選手が乗り込み、レインタイヤで数周走る。いつもならここからさらに走り込むのだが、週末の天気は晴れ予報なので、ドライタイヤで走り込みがしたいところ。そこで路面が乾くまで、34号車はピットで待機となった。練習時間の半分を過ぎたあたりでドライタイヤを装着してピットアウト

 道上選手、大津選手と交代でドライブするが、今回はチームが施してきた初期のセットアップ(持ち込みセットアップと呼んでいた)が的を射ていたようで、両ドライバーの評価も高く、練習走行時の順位も3番手と予選が期待できる内容になった。

 NSX GT3ともてぎの相性はわるくないというのがチームの見解。もてぎはNSX GT3があまり得意としない低速コーナーも多いが、パワーを生かせるストレートも多いのがその理由。

 このことについてチーフメカニックの新保氏は「ここにきても調子いいのは1年走った結果かなと思います。でも、それだけに富士で走れなかったことがシリーズランキング的には痛いですね」と語った。

ドライブした道上、大津の両ドライバーとも、もてぎでの事前テストの結果を踏まえた“持ち込みセットアップ”の調子がいいという評価
もてぎに持ち込んだタイヤはソフトとミディアムだが、今回のソフトタイヤは前回のオートポリスで使ったソフトよりさらに柔らかいもの
検討した結果、予選はソフトタイヤを使用することになった

 土曜日の14時から始まる予選1回目(Q1)は道上選手が担当。練習走行はあまり走っていないが、持ち込みセットアップの完成度が高かったので、予選にあたってもほぼ調整する必要はなかった。

 走行開始の5分ほど前にマシンに乗り込んだ道上選手だが、開始になってもすぐにはピットアウトせず、落ち着いてまわりを見ながらタイミングを図ってコースイン。4周目にアタックを行ない、これでQ1の7番手を獲得。SUGO以来安定した速さをみせている34号車なので、ピットではQ1突破は「当たり前」と思えるような雰囲気すらある。

11月だが、Tシャツで過ごせるくらいの気温となった予選日
具合のいい持ち込みセットアップだったが、ドライバーから少しの修正依頼があったので、チョン監督はセットアップをアジャストした
Q1は道上選手が担当。ソフトタイヤということで、一発勝負をかけて7位のポジション

 GT500のQ1を挟んでGT300の予選2回目(Q2)となる。ここは大津選手の出番。Q2でさらに上の順位を狙う大津選手は気合いを入れて装備を付けるが、乗り込む前に気負いすぎないようチョン監督が声を掛ける。

 そしてピットアウトした大津選手。最初は3位ぐらいのタイムを出すが、そこからドンドン順位が下がる。モニターを見ていた道上選手は「失敗しちゃったかな」とひと言。そのまま順位は上がらず9位でQ2が終了。決勝は9番手グリッドからスタートすることになった。

最終戦でのQ2担当ということで、大津選手は少し緊張した様子だった
チョン監督からマシンに乗り込む前に「気負いすぎるなよ」と声を掛けられる
大津選手のアタックをモニターで見守る道上選手。Q2は9位となった
ピッチには「必勝」と書かれた皿が飾られていた
予選後の夕方はチョン監督がPCに向かう時間。データロガーで記録した走行データを元に決勝のセットアップを考えている
決勝に備え、タイヤについたタイヤカスをホットガンで温めて剥がしていく
ツインリンクもてぎはブレーキに厳しいコースでもあるので、今回はブレーキ面でも対策を施してきたという
予選終了後もピットは稼動。決勝へ向けたセットアップ作業が進む
作業が終わってからは作業エリアにマシンを出してピットワークの練習を行なう。このときは2人のドライバーも装備を付けて参加。ドライバー交代の練習を行なう
予選後の会見の様子。Q2で順位を上げられなかった大津選手は悔しがっていたが、それでも9位からのスタート。ここ最近は追い上げ展開のレースをしているので、チームの雰囲気はさほど暗くない
道上選手のコメント

 予選後に行なわれた会見では、道上選手が「今回持ち込んだタイヤはソフト、ミディアムですが、オートポリスで使ったソフトタイヤとツインリンクもてぎ用のミディアムは同等のもので、もてぎ用のソフトタイヤはさらに柔らかいものになります。練習走行で比べてみると0.5秒くらいのマージンが取れたので、予選はソフトタイヤでいこうということになりました。結果、予選(Q1)ではタイムが上がったので7番手になりました。予選で走った後のタイヤを見ても状態はいいので、そのままイケるのではないかという予想です。スタートタイヤもソフトのほうになったので、どっちしてもこれでいくしかないですね」と語った。

大津選手のコメント

 大津選手は「今年最後の予選でQ2を担当させてもらって、ポール……、3位くらいは狙っていました。タイヤもクルマも乗った感じはよかったのですが、今ひとつタイムが伸びませんでした。タイヤの限界、クルマの限界を引き出そうと思いすぎてしまったというか、タイムにつながる走らせ方ができなかったという感じです」と、悔しさが見える表情で語った。

チョン監督のコメント

 チョン監督からは「午前中のフリー走行で道上さんからダメ出しがちょっとありましたが、事前のもてぎテストで色々と試した結果をもとにした持ち込みセットアップがそれほど外れていなかったようで、少しアジャストしたらよい評価をもらえました。大津選手はフリー走行でミディアムタイヤしか試していないので、ソフトでいった予選では緊張しているようでしたね」と語った。

11月らしからぬ気温上昇が34号車から戦闘力を奪う

 迎えたレース決勝日。この日は朝から快晴となった。また、SUPER GT最終戦ということで、早朝から大勢のファンが来場。8時過ぎのイベントエリアは人を避けながらでなければ歩けないほど賑わった。

 SUPER GTの車両が走り出すのは11時55分に始まるウォームアップ走行から。それまではピット内で作業をできるが、セットアップがほぼ決まっていた34号車はとくにやることがない。土曜日の夕方に、チョン監督は練習走行と予選の走行データを分析して、変更点をチーフメカニックの新保氏へ伝えているが、そこで渡された数値が書かれた紙は小さいメモ用紙1枚。このあたりからも「あまり触るところがない」ということが分かった。

ウォームアップ走行前のチェックを行なっているシーン。大きなセットアップ変更がないので、いつもより落ち着いた雰囲気
ウォームアップ走行前には、航空自衛隊の「F-2B」がツインリンクもてぎ上空を飛ぶプログラムが設けられていた。34号車のメンバーも空を見上げる

 ウォームアップ走行がスタートして、最初に乗り込んだ道上選手のタイムは10番手。道上選手のコメントでは「そんなにわるいバランスではない」とのこと。ただ、バランスはいいがスピードが上がらないような印象を受けたという。道上選手は「今のNSX GT3らしからぬことなのでこれは気になることだったが、とくに問題はないかなと判断しました」と語った。

最初に乗るのはいつもどおり道上選手
大津選手も準備を進める。ヘルメットを念入りに拭いていた
クルマのバランスはいいが、なぜかストレートの伸びがない。しかし、クルマ全体で見るとわるくないのでこのままいくことになった
SUGO、オートポリスではグリッドウォークの時間も使ってセットアップ変更をしていたが、今回はメカニックものんびり? チームとしても安定感が出てきた印象だった
本田技研工業の代表取締役社長 八郷隆弘氏とモータースポーツ部長 山本雅史氏がスターティンググリッドを訪れ、大津選手を激励
リラックスムードの道上選手とチョン監督
34号車をサポートするホンダアクセスが最終戦に呼んだビッグゲストが「はっくるべあ~ くるタム」。“レッツカスタム”のCポーズがたまらない
グリッド上にも「くるタム」登場。グリッドでも人気で、34号車よりカメラを向けられていたかもしれない……

 もてぎは250kmといつもより短いレースとなる。サーキットのレイアウト的にはNSX GT3にとって苦手な低速コーナーと得意のストレートが混じったものだが、ここまでの走行では得意なほうが勝っている印象。スタートタイヤは予選で具合がよかったソフトコンパウンドなので、苦手はこれでフォロー。9番手のポジションからどこまで追い上げできるか? そんな期待があった。

 スタートドライバーの道上選手はスタートを成功。しかし、序盤はスタート順位あたりをキープしていたが、7号車のGULF NAC PORSCHE 911(久保凛太郎/石川京侍組)や10号車のGAINER TANAX triple a GT-R(星野一樹/吉田広樹組)に抜かれて徐々に順位を下げていく。

 そして大津選手と交代するころには13位前後まで順位を落としてしまった。この理由について道上選手から「途中でブレーキがフェード気味になり、コーナー進入で無理がきかなくなった」というコメントだった。

序盤は快調に走る34号車。数台とバトルしているうちにブレーキがフェード気味になってきた
最終戦ということで、ピットにはいつもより多くの関係者が足を運んでいた。レースが始まるとアチコチにあるモニター前に大勢の人が集まった
交換前のタイヤを日なたに置くことで少しでも温度を上げておく。ソフトタイヤとミディアムタイヤの両方が用意されている

 今回の作戦では、道上選手から大津選手に交代するときにタイヤをリアのみ交換するというプランもあったが、このレースに限ってはフロントタイヤの消耗が早くなっていたので、ピット作業では4本交換となった。また、気温が高くなったせいかソフトタイヤではゴールまでもたないということから、急きょミディアムタイヤを使用することになった。

大津選手が装備を調えてピットロードへ出る。するとチョン監督が駆け寄り、肩をポンと叩いてひと声掛けた
大津選手はメカニック1人ずつとグータッチ。印象的な光景だった
道上選手が戻るのを全員で待つ。今シーズン最後のピットワーク。いつも以上に気合いが入っている

 大津選手は26位あたりでコースに復帰。そこから追い上げをかけようとするが、ミディアムタイヤのグリップが低いことに加え、途中からエンジンパワーのダウンという症状に見舞われてペースを上げることができない。早めのピットインだったので他チームがピットに入るたびモニター表示の順位が上がるが、実際は前にいけていない。今回は手も足も出ない状態で、結果として14位でチェッカーを受けた。

ミディアムタイヤに換えたことでコーナリングも厳しくなる。さらにエンジンのパワーダウン(夏場にも出た、エンジンまわりが高温になったことによるセーフティ制御らしい)も発生。そんな状況下でもベストな走りをみせる大津選手
大津選手のゴールを見届けるため、プラットフォームへ向かう道上選手
メカニックもプラットフォームに集まる。34号車の最終戦は14位でのチェッカーとなった
毎戦、自身の走りに厳しく向き合っている大津選手は、ゴール後に1人ピットで走行データをチェック。この人はきっともっと強くなる
最終戦ではドライバー全員が登場するグランドフィナーレがあり、ファンに1年間の感謝を込めて挨拶とプレゼントの投げ込みを行なう。34号車の2人も準備をして待機
ファンへのプレゼントはチームグッズのタオルだった
走行を終えた各マシンがストレートに並べられる。ファンもストレートに降りてきてOKなので、戦い終えたばかりで汚れも傷もあるレーシングカーらしいマシンの姿を間近で見ることができる
同時にピットでは片付けが始まっている。2018年シーズンが本当に終わってしまった

2018年シーズン最後となる34号車の記者会見

グランドフィナーレ終了後、暗くなってからシーズン最後の会見が始まった

 決勝終了後の会見。まずは道上選手だが「ソフトタイヤでのレースとなったので、最初の5周くらいは抜いたり抜かれたりしながらもペースはよかったのですが、5周を過ぎたあたりから、ブレーキがフェード気味というか効きがあまくなってきました。そのためコーナーへ飛び込めない状況が続いて、そこからさらに悪化するような不安もあり、ポルシェやJAF-GTマシンと競っていましたが、厳しくなって順位を落としてしまいました。その後、単独走行になってからは、万全ではないにしろブレーキを労りつつ乗れました。でも、最初のペースからは2秒ほど遅くなってしまいました。そうしているうちにタイヤも厳しくなってきたのですが、いつもだとリアが先に限界になるところ、今回はフロントタイヤから先に違和感を覚えました。当初の作戦ではリアのみのタイヤ交換を考えていましたが、この状況にはそぐわないということから4輪交換としました。また、ソフトタイヤでは持たないと思ったので、ミディアムタイヤを選んで安全にいく作戦に切り替えました」と語り、苦戦していた内情を説明した。

道上龍選手

「ミディアムタイヤでスタートをしましたが、走り始めからあまりいいグリップ感は感じられませんでした。その後も9号車のポルシェに追われる展開になりましたが、コーナーでは明らかに相手のほうが速かったです。そして残り周回が半分くらいになったころからエンジンのパワー感がなくなってきてしまい、タイムが全然出なくなってしまいました。そこからピットと無線でやり取りをして、エンジン制御のマップを切り替えたりもしましたが改善されず、かなり厳しい展開になってしまいました。もちろん、その中でもベストを尽くしましたが順位を上げることができず、悔しい結果に終わってしまいました」と大津選手は述べ、こちらも苦戦状況の報告となった。

大津弘樹選手

 エンジニアとしてはどうだったのか?とチョン監督に質問すると「ブレーキに関しては、もてぎでの事前テストでも兆候があったので対策はしていました。その結果を午前のフリー走行で確認しましたが、そこではとくに問題が出ず、そのままスタートしたのですが、レースのようなロングランでは心配していたことが起きてしまいました。大津選手が言っていたエンジンのパワーダウンは夏にも起きていましたが、11月にそれが起こるとは思っていませんでした。まだデータの分析はできていませんが、原因を調べて来年に生かしたいと思います。これはかなり大きな宿題になる気がします」と語った。

チョン・ヨンフン監督

 また、会見の終わりに「1年戦ってきたNSX GT3についての印象」を、道上選手、大津選手、チョン監督に聞いてみた。

 GT500時代からのNSX使いである道上選手からは「自分としてはシャープに動くような、以前乗っていたGT500を連想していましたが、NSX GT3はそういうクルマではなかったというのがいちばんの印象です。エンジンパワーはあるのですが、クルマが重い感じです。そのためリアが1回滑り出すと重さの影響から滑りがなかなか止まらない。だからセットアップはリアの挙動を安定させる方向で進めてきましたが、そうしていくことで成績もドンドン上がってきたので、決勝での戦いを考えるとリア寄りのバランスがよいのではないかと思います。ただ、NSXなのでもっとバシッと動いてそれにリアが着いてくるのが理想です。そのためにもメカニカルグリップはもっと欲しいなという印象です。来年のNSX GT3用“エボキット”がそうなっていればいいんですけどね」というコメント。

 大津選手は「箱車でのレース自体が初めてなので比較するものがないのですが、1年間とおして速く走るために“欲しい”と感じていたのがオーバーステアを直すことでした。シーズン後半になるとチームのおかげでその部分はかなり直ってきました。こうしたデータをもとに、来年の“エボ”が今年の欠点を補った状態になっていればいいなと思います。そうなればもっとレベルアップできると思っています。NSX GT3はストレートが速いので、コーナーがよくなればそのメリットをもっと生かせるようになるので」と語った。

 チョン監督は「1年をつうじて考えてみると、第1戦の岡山と比べてポテンシャルはかなり上がったと思います。とはいえ、岡山以降はライバルがウエイトを積んでいたので、それに助けられていたのも事実です。だから、ウエイトを降ろした状態で戦うもてぎでは順位が落ちるだろうなという予想もありました。でも、そのライバルと近いところまでは来ているという気持ちもあります。とはいえ、もちろん満足はしていませんので、来年はもっと色々なことを試して成長しなければいけないと思ってます。とくに物に対する考え方をもっとシンプルにして、クルマ作りのいろんなことをスムーズに動かしていければと思います」と、クルマを仕上げる立場からの回答となった。

 1年間追いかけてきたModulo Drago CORSEのModulo KENWOOD NSX GT3。本文にも書いたように、初年度ながら波瀾万丈のシーズンを過ごしたが、終わってみるといいことわるいことすべてが実のあるものと思える。今回のパワーダウンも来シーズンまでたっぷりある時間で対策されてくるだろうし、選手たちのコメントにもあったNSX GT3の“エボキット”を組み込むことで戦闘力がアップすることは間違いない。初年度の2018年で問題点を洗い出した改良版というだけでなく、強化キットも装備する2019年がNSX GT3としての本番とも言える。

 34号車のModulo KENWOOD NSX GT3は2019年もSUPER GTに参戦予定なので、読者の皆さんは来年の開幕戦を楽しみに待っていていただきたい。きっと今年以上の感動や興奮を味わわせてくれるはずだ。

34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3 2018年シーズンリザルト

Round1「OKAYAMA GT300km RACE」
Q1:16位/大津弘樹選手
Q2:----
決勝:リタイア

Round2「FUJI GT500km RACE」
予選:11位/道上龍選手
決勝:8位
ZFアワード受賞

Round3「SUZUKA GT300km」
Q1:7位/大津弘樹選手
Q2:10位/道上龍選手
決勝:26位

Round4「Chang SUPER GT RACE」
Q1:12位/大津弘樹選手
Q2:8位/道上龍選手
決勝:9位

Round5「FUJI GT500MILE RACE」
Q1:----
決勝:出走せず

SUZUKA 10 HOURS
Q1:18位/道上龍選手
Q2:タイム抹消 予選23位/小暮卓史選手
決勝:21位
メディア賞受賞

Round6「SUGO GT300km RACE」
Q1:A組4位/大津弘樹選手
Q2:11位/道上龍選手
決勝:4位

Round7「AUTOPOLIS GT300km RACE」
Q1:5位/道上龍選手
Q2:7位/大津弘樹選手
決勝:3位
J SPORTSベストパフォーマンス賞受賞

Round8「MOTEGI GT250km RACE」
Q1:7位/道上龍選手
Q2:9位/大津弘樹選手
決勝:14位

2018年シリーズランキング:15位
2018年ドライバーランキング:14位

ホンダブースなどで行なわれるイベントもシーズンの締めくくり

 さて、レースのレポートは以上で終わりだが、ここからはサーキットで行なわれているホンダアクセス(モデューロ)のイベントなどを紹介していこう。

 まずはイベント広場にあるホンダブース内のステージイベントだ。土曜日、日曜日ともモデューロのステージが開催された。順番に紹介していくと、土曜日は「Modulo Xトークショー」から始まる。

 このステージでは、「S660 Modulo X」などを開発しているホンダアクセスのModulo開発責任者 福田正剛氏とModulo開発アドバイザーの土屋圭市氏が参加。Moduloとは、Modulo Xとは何かについて、開発秘話を含めて語っている。

イベント広場にあるホンダのテントでは、Modulo XシリーズやModuloパーツ装着車を展示するほか、新型NSXへの乗り込みコーナーも毎回開催。ステージではModulo関係、およびホンダレーシングのトークイベントなどを開催する
軽商用車「N-VAN」を使った物販コーナーも特徴の1つ。ホンダアクセスのキャラクター「はっくるべあ~ くるタム」のご当地バージョンイラストが入った特製トートバッグも購入特典として用意。もてぎは栃木県のイチゴ「とちおとめ」から「とちタム」
Modulo Xトークショーでは、Modulo開発責任者の福田正剛氏とModulo開発アドバイザーの土屋圭市氏が登壇する。司会はModuloスマイルの水村リアさん
ホンダアクセス Modulo開発責任者の福田正剛氏
Modulo開発アドバイザーの土屋圭市氏

 次はModuloステージならではの企画「GT300を盛り上げよう!! Let's Enjoy GT300!!」ステージだ。ここではモータージャーナリストや雑誌編集者など、日ごろからSUPER GTと仕事で接している人が出演して、初心者にも分かりやすく興味を持ってくれるようなトークを聞かせている。Moduloの34号車を応援するのではなく、GT300クラス自体をもっと盛り上げていこうと行なわれていたステージ。

「GT300を盛り上げよう!! Let's Enjoy GT300!!」ステージは土曜日、日曜日の両方で開催。最終戦は土曜日(左)がモータージャーナリストの矢田部明子氏と月刊自家用車の清水謙一氏。日曜日(右)はクリッカー編集長の小林和久氏、三栄書房の長野正和氏、オプション編集部の太田朗生氏が登壇した

 ステージイベントでもとくに人気があるのが、決勝日の朝イチに行なわれる「Modulo Drago CORSEトークショー」だ。34号車の道上選手と大津選手、それに加えてGT300で競い合っている他のチームからドライバーをゲストに呼ぶもの。最終戦は来場者アンケートで要望が多かったチョン・ヨンフン監督がゲスト(?)で登場。明るく頭の回転も早いチョン監督だけにトークも冴え渡り、来場者の反応も非常によかった。

毎回、人気が高いのがModulo Drago CORSEトークショー。道上選手が登壇する
大津選手のファンもかなり増えてきたようだ
過去の来場者アンケートで「呼んでほしいゲスト」の上位にいたチョン監督。決勝に向けて忙しい中、トークショーにゲスト参加
このメンバーだけに、話題はこの1年の34号車の思い出話になる。それを聞いていた水村リアさんもチームと一緒に動いているので思い出も多く、感極まって泣き出すというハプニングもあった
ステージでは毎回ジャンケン大会を開催。勝てばドライバーやModuloスマイル、Moduloプリティ、KENWOODレディのサインが入ったくるタムトートバッグがもらえる
もう1つの人気ステージが「Moduloスマイル on STAGE」だ。このメンバーがそろってステージに立つのは最後なので、今回はとくに混み合っていた
最後に全員で記念撮影。右からModuloスマイルの水村リアさん、Moduloプリティの生田ちむさん、同じくはるまさん、KENWOODレディの石橋あこさん、同じく前田真実果さん、そしてModuloスマイルの安藤麻貴さん

 サーキットでは土曜日と日曜日にピットウォークが開催される。もてぎではチームグッズの無料配布やドライバーサイン会が行なわれていた。34号車のピットは開幕戦から訪れる人が多かったが、回を重ねるごとに人が増えていき、最終的にはGT500チーム並み(?)と思えるほど人の波が切れない状態になった。さらに最終戦ではくるタムも登場したので、34号車のピット前はより盛り上がった。

ModuloスマイルやModuloプリティからチームグッズが手渡される。撮影もOKだ
これは新作のステッカー。他にもオリジナルのスケッチブックやクリアファイルなどがある
ドライバーサイン会も開催。時間が限られているので、サインが欲しい人はスタッフに開催時間を確認しておくことをお勧め
なんか来た
と思ったら、くるタム登場!
そしてこのかわいさ。登場と同時に大人気となっていた
そのほかにも今回レースでは、栃木県警の「NSXパトカー」と「GT-Rパトカー」がパレードラップを先導した。とくにNSXはパトカーになると、現実味がないというかコミックや特撮の世界にいる存在のような雰囲気
GT-Rパトカーは、ルーフの回点灯があるとリアスポイラーの効果はどうなるんだろう?と思いながらシャッター切っていた