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「34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3」応援レポート。上り調子で迎えた第8戦もてぎ、2018年最後の戦い
Round8 MOTEGI GT250km RACE
- 提供:
- 株式会社ホンダアクセス
2018年11月20日 00:00
- 2018年11月10日~11日 開催
SUPER GTに参戦する34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3は、11月10日~11日にツインリンクもてぎで開催された2018年度の最終戦となる「SUPER GT 第8戦 MOTEGI GT250km RACE」に出場。Q1は7位で通過し、Q2は9位。決勝はブレーキの制動力低下とタイヤの消耗、さらにエンジンパワーダウンという3重苦に悩まされ、14位でチェッカーとなった。
これにより、日本初登場のNSX GT3で戦った2018年のシリーズ成績は15位。ドライバーランキングは14位でシーズンを終えた。
Car Watchでは今シーズン、開幕戦から34号車のレポートをしてきたが、このチームではNSX使いの道上龍選手のドライバー復帰&キャリア初のGT300クラス参戦、NSX GT3の日本初登場、それにF3からステップアップしてきた期待の新人である大津弘樹選手の加入などシーズン前から話題が多かっただけに、当初から大きな注目を集めていた。
「34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3」応援レポート 記事一覧
シーズン序盤でも十分に注目度は高かったが、流れが大きく変わったのは、衝撃的なクラッシュでマシンを失うことになった第5戦の富士スピードウェイ。
練習走行でピットアウトした直後の34号車に、メインストレート終盤でブレーキトラブルが発生したGT500クラスの車両がほぼ減速なしで追突。1コーナーの奥まで吹き飛ばされた34号車は修理不能なほど壊れてしまった。ただ、ドライブしていた道上選手と追突したGT500クラスのドライバーに大きなケガがなかったのは不幸中の幸いだった。
しかし、このアクシデントで第5戦のリタイアはもちろん、マシンを失ってそれ以降のレース活動が続けられるかどうかというところまでチームは追い込まれた。
そんな状況でも、道上選手は相手選手と相手チームを気遣った。そのやりとりをしたGT500クラス 7号車(LEXUS TEAM LEMANS WAKO'S)の脇阪寿一監督は道上選手の態度に感銘を受け、2人のSNSでのやりとりを公開。それが拡散されたことで、道上選手の人としての対応のよさが多くのSUPER GTファンに広まり、応援してくれる人が一気に増えた。
そんな声に応えてチームとスポンサーも奮起。なんと20日後に開催されたSUZUKA 10 HOURSには、NSX GT3の新車を投入して劇的な復活を遂げた。
大勢のファンとニューマシンを手に入れて一気に流れを掴んだ後半戦では、第6戦のスポーツランドSUGOで大津選手がSUPER GTの歴史に残るようなオーバーテイクショーを披露して4位に入る。さらに第7戦のオートポリスでも、道上選手の好判断によるピットインから再び大津選手のオーバーテイクショーが始まり、参戦初年度ながら3位表彰台を獲得!
そんな上り調子で迎えた最終戦もてぎだが、SUPER GTはとても難しいレース。今回は冒頭に書いたとおり14位という結果だったが、チーム、ドライバーはもちろん全力で挑んだ。そんなレースの舞台裏を含め、改めて34号車の2018年最終戦をお伝えしていこう。
SUGO以来の安定した速さで「Q1突破は当たり前」という雰囲気
毎年11月に行なわれる最終戦だけに、気温もグッと下がって……。と言いたいところだが、最終戦が行なわれた週末のツインリンクもてぎは気温が高めで、昼間はTシャツ1枚で過ごせるくらいの気候となった。ただ、予選日である土曜日は夜から早朝にかけて雨が降ったようで、午前の公式練習の路面はウェット。レインタイヤを履いての走り出しとなった。
道上選手、大津選手と交代でドライブするが、今回はチームが施してきた初期のセットアップ(持ち込みセットアップと呼んでいた)が的を射ていたようで、両ドライバーの評価も高く、練習走行時の順位も3番手と予選が期待できる内容になった。
NSX GT3ともてぎの相性はわるくないというのがチームの見解。もてぎはNSX GT3があまり得意としない低速コーナーも多いが、パワーを生かせるストレートも多いのがその理由。
このことについてチーフメカニックの新保氏は「ここにきても調子いいのは1年走った結果かなと思います。でも、それだけに富士で走れなかったことがシリーズランキング的には痛いですね」と語った。
土曜日の14時から始まる予選1回目(Q1)は道上選手が担当。練習走行はあまり走っていないが、持ち込みセットアップの完成度が高かったので、予選にあたってもほぼ調整する必要はなかった。
走行開始の5分ほど前にマシンに乗り込んだ道上選手だが、開始になってもすぐにはピットアウトせず、落ち着いてまわりを見ながらタイミングを図ってコースイン。4周目にアタックを行ない、これでQ1の7番手を獲得。SUGO以来安定した速さをみせている34号車なので、ピットではQ1突破は「当たり前」と思えるような雰囲気すらある。
GT500のQ1を挟んでGT300の予選2回目(Q2)となる。ここは大津選手の出番。Q2でさらに上の順位を狙う大津選手は気合いを入れて装備を付けるが、乗り込む前に気負いすぎないようチョン監督が声を掛ける。
そしてピットアウトした大津選手。最初は3位ぐらいのタイムを出すが、そこからドンドン順位が下がる。モニターを見ていた道上選手は「失敗しちゃったかな」とひと言。そのまま順位は上がらず9位でQ2が終了。決勝は9番手グリッドからスタートすることになった。
道上選手のコメント
予選後に行なわれた会見では、道上選手が「今回持ち込んだタイヤはソフト、ミディアムですが、オートポリスで使ったソフトタイヤとツインリンクもてぎ用のミディアムは同等のもので、もてぎ用のソフトタイヤはさらに柔らかいものになります。練習走行で比べてみると0.5秒くらいのマージンが取れたので、予選はソフトタイヤでいこうということになりました。結果、予選(Q1)ではタイムが上がったので7番手になりました。予選で走った後のタイヤを見ても状態はいいので、そのままイケるのではないかという予想です。スタートタイヤもソフトのほうになったので、どっちしてもこれでいくしかないですね」と語った。
大津選手のコメント
大津選手は「今年最後の予選でQ2を担当させてもらって、ポール……、3位くらいは狙っていました。タイヤもクルマも乗った感じはよかったのですが、今ひとつタイムが伸びませんでした。タイヤの限界、クルマの限界を引き出そうと思いすぎてしまったというか、タイムにつながる走らせ方ができなかったという感じです」と、悔しさが見える表情で語った。
チョン監督のコメント
チョン監督からは「午前中のフリー走行で道上さんからダメ出しがちょっとありましたが、事前のもてぎテストで色々と試した結果をもとにした持ち込みセットアップがそれほど外れていなかったようで、少しアジャストしたらよい評価をもらえました。大津選手はフリー走行でミディアムタイヤしか試していないので、ソフトでいった予選では緊張しているようでしたね」と語った。
11月らしからぬ気温上昇が34号車から戦闘力を奪う
迎えたレース決勝日。この日は朝から快晴となった。また、SUPER GT最終戦ということで、早朝から大勢のファンが来場。8時過ぎのイベントエリアは人を避けながらでなければ歩けないほど賑わった。
SUPER GTの車両が走り出すのは11時55分に始まるウォームアップ走行から。それまではピット内で作業をできるが、セットアップがほぼ決まっていた34号車はとくにやることがない。土曜日の夕方に、チョン監督は練習走行と予選の走行データを分析して、変更点をチーフメカニックの新保氏へ伝えているが、そこで渡された数値が書かれた紙は小さいメモ用紙1枚。このあたりからも「あまり触るところがない」ということが分かった。
ウォームアップ走行がスタートして、最初に乗り込んだ道上選手のタイムは10番手。道上選手のコメントでは「そんなにわるいバランスではない」とのこと。ただ、バランスはいいがスピードが上がらないような印象を受けたという。道上選手は「今のNSX GT3らしからぬことなのでこれは気になることだったが、とくに問題はないかなと判断しました」と語った。
もてぎは250kmといつもより短いレースとなる。サーキットのレイアウト的にはNSX GT3にとって苦手な低速コーナーと得意のストレートが混じったものだが、ここまでの走行では得意なほうが勝っている印象。スタートタイヤは予選で具合がよかったソフトコンパウンドなので、苦手はこれでフォロー。9番手のポジションからどこまで追い上げできるか? そんな期待があった。
スタートドライバーの道上選手はスタートを成功。しかし、序盤はスタート順位あたりをキープしていたが、7号車のGULF NAC PORSCHE 911(久保凛太郎/石川京侍組)や10号車のGAINER TANAX triple a GT-R(星野一樹/吉田広樹組)に抜かれて徐々に順位を下げていく。
そして大津選手と交代するころには13位前後まで順位を落としてしまった。この理由について道上選手から「途中でブレーキがフェード気味になり、コーナー進入で無理がきかなくなった」というコメントだった。
今回の作戦では、道上選手から大津選手に交代するときにタイヤをリアのみ交換するというプランもあったが、このレースに限ってはフロントタイヤの消耗が早くなっていたので、ピット作業では4本交換となった。また、気温が高くなったせいかソフトタイヤではゴールまでもたないということから、急きょミディアムタイヤを使用することになった。
大津選手は26位あたりでコースに復帰。そこから追い上げをかけようとするが、ミディアムタイヤのグリップが低いことに加え、途中からエンジンパワーのダウンという症状に見舞われてペースを上げることができない。早めのピットインだったので他チームがピットに入るたびモニター表示の順位が上がるが、実際は前にいけていない。今回は手も足も出ない状態で、結果として14位でチェッカーを受けた。
2018年シーズン最後となる34号車の記者会見
決勝終了後の会見。まずは道上選手だが「ソフトタイヤでのレースとなったので、最初の5周くらいは抜いたり抜かれたりしながらもペースはよかったのですが、5周を過ぎたあたりから、ブレーキがフェード気味というか効きがあまくなってきました。そのためコーナーへ飛び込めない状況が続いて、そこからさらに悪化するような不安もあり、ポルシェやJAF-GTマシンと競っていましたが、厳しくなって順位を落としてしまいました。その後、単独走行になってからは、万全ではないにしろブレーキを労りつつ乗れました。でも、最初のペースからは2秒ほど遅くなってしまいました。そうしているうちにタイヤも厳しくなってきたのですが、いつもだとリアが先に限界になるところ、今回はフロントタイヤから先に違和感を覚えました。当初の作戦ではリアのみのタイヤ交換を考えていましたが、この状況にはそぐわないということから4輪交換としました。また、ソフトタイヤでは持たないと思ったので、ミディアムタイヤを選んで安全にいく作戦に切り替えました」と語り、苦戦していた内情を説明した。
「ミディアムタイヤでスタートをしましたが、走り始めからあまりいいグリップ感は感じられませんでした。その後も9号車のポルシェに追われる展開になりましたが、コーナーでは明らかに相手のほうが速かったです。そして残り周回が半分くらいになったころからエンジンのパワー感がなくなってきてしまい、タイムが全然出なくなってしまいました。そこからピットと無線でやり取りをして、エンジン制御のマップを切り替えたりもしましたが改善されず、かなり厳しい展開になってしまいました。もちろん、その中でもベストを尽くしましたが順位を上げることができず、悔しい結果に終わってしまいました」と大津選手は述べ、こちらも苦戦状況の報告となった。
エンジニアとしてはどうだったのか?とチョン監督に質問すると「ブレーキに関しては、もてぎでの事前テストでも兆候があったので対策はしていました。その結果を午前のフリー走行で確認しましたが、そこではとくに問題が出ず、そのままスタートしたのですが、レースのようなロングランでは心配していたことが起きてしまいました。大津選手が言っていたエンジンのパワーダウンは夏にも起きていましたが、11月にそれが起こるとは思っていませんでした。まだデータの分析はできていませんが、原因を調べて来年に生かしたいと思います。これはかなり大きな宿題になる気がします」と語った。
また、会見の終わりに「1年戦ってきたNSX GT3についての印象」を、道上選手、大津選手、チョン監督に聞いてみた。
GT500時代からのNSX使いである道上選手からは「自分としてはシャープに動くような、以前乗っていたGT500を連想していましたが、NSX GT3はそういうクルマではなかったというのがいちばんの印象です。エンジンパワーはあるのですが、クルマが重い感じです。そのためリアが1回滑り出すと重さの影響から滑りがなかなか止まらない。だからセットアップはリアの挙動を安定させる方向で進めてきましたが、そうしていくことで成績もドンドン上がってきたので、決勝での戦いを考えるとリア寄りのバランスがよいのではないかと思います。ただ、NSXなのでもっとバシッと動いてそれにリアが着いてくるのが理想です。そのためにもメカニカルグリップはもっと欲しいなという印象です。来年のNSX GT3用“エボキット”がそうなっていればいいんですけどね」というコメント。
大津選手は「箱車でのレース自体が初めてなので比較するものがないのですが、1年間とおして速く走るために“欲しい”と感じていたのがオーバーステアを直すことでした。シーズン後半になるとチームのおかげでその部分はかなり直ってきました。こうしたデータをもとに、来年の“エボ”が今年の欠点を補った状態になっていればいいなと思います。そうなればもっとレベルアップできると思っています。NSX GT3はストレートが速いので、コーナーがよくなればそのメリットをもっと生かせるようになるので」と語った。
チョン監督は「1年をつうじて考えてみると、第1戦の岡山と比べてポテンシャルはかなり上がったと思います。とはいえ、岡山以降はライバルがウエイトを積んでいたので、それに助けられていたのも事実です。だから、ウエイトを降ろした状態で戦うもてぎでは順位が落ちるだろうなという予想もありました。でも、そのライバルと近いところまでは来ているという気持ちもあります。とはいえ、もちろん満足はしていませんので、来年はもっと色々なことを試して成長しなければいけないと思ってます。とくに物に対する考え方をもっとシンプルにして、クルマ作りのいろんなことをスムーズに動かしていければと思います」と、クルマを仕上げる立場からの回答となった。
1年間追いかけてきたModulo Drago CORSEのModulo KENWOOD NSX GT3。本文にも書いたように、初年度ながら波瀾万丈のシーズンを過ごしたが、終わってみるといいことわるいことすべてが実のあるものと思える。今回のパワーダウンも来シーズンまでたっぷりある時間で対策されてくるだろうし、選手たちのコメントにもあったNSX GT3の“エボキット”を組み込むことで戦闘力がアップすることは間違いない。初年度の2018年で問題点を洗い出した改良版というだけでなく、強化キットも装備する2019年がNSX GT3としての本番とも言える。
34号車のModulo KENWOOD NSX GT3は2019年もSUPER GTに参戦予定なので、読者の皆さんは来年の開幕戦を楽しみに待っていていただきたい。きっと今年以上の感動や興奮を味わわせてくれるはずだ。
34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3 2018年シーズンリザルト
Round1「OKAYAMA GT300km RACE」
Q1:16位/大津弘樹選手
Q2:----
決勝:リタイア
Round2「FUJI GT500km RACE」
予選:11位/道上龍選手
決勝:8位
ZFアワード受賞
Round3「SUZUKA GT300km」
Q1:7位/大津弘樹選手
Q2:10位/道上龍選手
決勝:26位
Round4「Chang SUPER GT RACE」
Q1:12位/大津弘樹選手
Q2:8位/道上龍選手
決勝:9位
Round5「FUJI GT500MILE RACE」
Q1:----
決勝:出走せず
SUZUKA 10 HOURS
Q1:18位/道上龍選手
Q2:タイム抹消 予選23位/小暮卓史選手
決勝:21位
メディア賞受賞
Round6「SUGO GT300km RACE」
Q1:A組4位/大津弘樹選手
Q2:11位/道上龍選手
決勝:4位
Round7「AUTOPOLIS GT300km RACE」
Q1:5位/道上龍選手
Q2:7位/大津弘樹選手
決勝:3位
J SPORTSベストパフォーマンス賞受賞
Round8「MOTEGI GT250km RACE」
Q1:7位/道上龍選手
Q2:9位/大津弘樹選手
決勝:14位
2018年シリーズランキング:15位
2018年ドライバーランキング:14位
ホンダブースなどで行なわれるイベントもシーズンの締めくくり
さて、レースのレポートは以上で終わりだが、ここからはサーキットで行なわれているホンダアクセス(モデューロ)のイベントなどを紹介していこう。
まずはイベント広場にあるホンダブース内のステージイベントだ。土曜日、日曜日ともモデューロのステージが開催された。順番に紹介していくと、土曜日は「Modulo Xトークショー」から始まる。
このステージでは、「S660 Modulo X」などを開発しているホンダアクセスのModulo開発責任者 福田正剛氏とModulo開発アドバイザーの土屋圭市氏が参加。Moduloとは、Modulo Xとは何かについて、開発秘話を含めて語っている。
次はModuloステージならではの企画「GT300を盛り上げよう!! Let's Enjoy GT300!!」ステージだ。ここではモータージャーナリストや雑誌編集者など、日ごろからSUPER GTと仕事で接している人が出演して、初心者にも分かりやすく興味を持ってくれるようなトークを聞かせている。Moduloの34号車を応援するのではなく、GT300クラス自体をもっと盛り上げていこうと行なわれていたステージ。
ステージイベントでもとくに人気があるのが、決勝日の朝イチに行なわれる「Modulo Drago CORSEトークショー」だ。34号車の道上選手と大津選手、それに加えてGT300で競い合っている他のチームからドライバーをゲストに呼ぶもの。最終戦は来場者アンケートで要望が多かったチョン・ヨンフン監督がゲスト(?)で登場。明るく頭の回転も早いチョン監督だけにトークも冴え渡り、来場者の反応も非常によかった。
サーキットでは土曜日と日曜日にピットウォークが開催される。もてぎではチームグッズの無料配布やドライバーサイン会が行なわれていた。34号車のピットは開幕戦から訪れる人が多かったが、回を重ねるごとに人が増えていき、最終的にはGT500チーム並み(?)と思えるほど人の波が切れない状態になった。さらに最終戦ではくるタムも登場したので、34号車のピット前はより盛り上がった。