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「34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3」応援レポート。第3戦 鈴鹿は初の予選Q1突破で勢いをつけるがトラブルに見舞われた不運なレース
Round3 SUZUKA GT300km RACE
- 提供:
- 株式会社ホンダアクセス
2018年6月4日 00:00
- 2018年5月19日~20日 開催
SUPER GTのGT300クラスに参戦する「Modulo Drago CORSE」の密着レポートも早くも3回目。今回は第3戦の鈴鹿 GT 300kmレースを、「予選」「ホンダブース」「決勝」「決勝後のブース会見」についてお伝えする。
Modulo Drago CORSEはレーシングドライバーの道上龍選手とホンダ車の純正アクセサリーを開発、販売するホンダアクセスがパートナーシップを組むチームで、マシンは話題のNSX GT3を使用。ゼッケンは34番を付ける。
ドライバーはチーム代表でもある道上選手と期待の若手である大津弘樹選手のペア。第2戦では8位入賞で6ポイントを得ているので、第3戦 鈴鹿からは6kgのウェイトハンデを積んだ状態でレースを戦うことになる。
「34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3」応援レポート 記事一覧
5月19日予選:レースで使うタイヤを何にするか? ここから戦いは始まっている
今シーズンのSUPER GTは、第1戦の岡山では低気温&雪、第2戦の富士では雨&濃霧と予選日の天候が荒れる展開が続いたが、ここ鈴鹿でもその流れは継続。朝から強風が吹き荒れるという状況で、GT500クラスの公式練習走行では風の影響を受けてスピンをするクルマが続出した。
そんな状況のなか、34号車はまずは道上選手のドライブでピットアウト。ここでは事前テストの結果を踏まえたセットアップ変更の結果と、鈴鹿に持ち込んだ2種類のタイヤのマッチングのチェックなどを行なった。
SUPER GTではレースごとに持ち込めるタイヤの本数が24本、つまり6セットのみと決められている。そのためチームは事前テスト結果やレースデータなどからレースで使うタイヤの種類を決め、それを大会事務局に登録している。
さて、34号車だが、6セットのうち4セットを「ミディアム」で登録。そして2セットをコンパウンドが若干硬めな「ミディアムハード」としたのだが、土曜日の午前中にある練習走行で両方のタイヤを試してみると、この日のコンディションではミディアムハードのほうがマッチングがよかったのである。
これはチームにとって誤算。ミディアムハードは2セットしかなく、練習ですでに1セット使っているので残りは1セットだ。
そこで、予選1回目のQ1(大津選手担当)では練習で使ったミディアムハードを使ってとにかくQ1突破を狙い、Q2(道上選手担当)に進出できたらミディアムハードはユーズド、新品ともに温存。あえてミディアムを使うという作戦が立てられた。
結果は大津選手が7位のタイムでQ1を突破。チームとしてはこれが初のQ1突破となった。しかし、Q2は道上選手のドライブながらタイムを更新できず、決勝は10位グリッドからのスタートになった。とはいえ、岡山では12位、富士では11位、そして鈴鹿の10位と着実にスタートグリッドが上がっており、「上向きの流れ」が途切れず続いていることを感じる。
34号車予選結果
Q1アタックドライバー:大津弘樹選手
Q1タイム:1分57秒367
Q2アタックドライバー:道上龍選手
Q2タイム:1分57秒494
予選順位:10位
では、予選後に行なわれたチーム会見の模様を紹介しよう。
大津選手:Q1では道上さんがチョイスしたミディアムハードのタイヤを使用しました。自分としてはハード目のタイヤで本当にグリップ感があるのか不安もありましたが、走ってみるとすごいグリップ感がありました。その結果、公式練習と比べてタイムも大幅にアップし、7位という成績でQ1を突破することができました。今回のQ1ではタイヤの選択が一番のキモでした。
道上選手:ミディアムコンパウンドのタイヤを多めに持ってきたのですが、走ってみるとミディアムハードのほうがフィーリングがいいということになりました。このタイヤは2セットしか持ってきていませんので、ボクが担当するQ2はミディアムを使うことになりました。そのため、他のチームがタイムを伸ばすなかで付いていけない状態でした。決勝に向けて気になることは、Q1とQ2で違うタイヤを使っているので、大会事務局がどちらをスタートタイヤに指定するかです。ミディアムハードが選ばれてほしいですね。
チョン監督:事前テストで問題になった点を修正してきました。方向性としてはよくなっています。先ほどからタイヤの話が出ていますが、他のコースと比べると鈴鹿は路面のμも低いので、タイヤはミディアムコンパウンドがいいだろうと判断しました。また、週末はそれほど気温も上がらない予報だったので持ちもいいのでは考えましたが、それらの読みは外れてしまいました。明日のタイヤがどちらになるかの結果を待ってセットアップを行なう予定です。ただ、サーキットサファリのときに燃料を満タンにして本番を想定した走行もしましたが、ミディアムでは車重が重いときのタレも早かったので、ミディアムが選択された場合はピット作業を含めた作戦変更が必要になります。
SUPER GTの観戦に行ったらぜひ寄りたいホンダブース
鈴鹿サーキットのGPスクエア(イベント広場)にはホンダブースが設けられていた。ブースでは車両の展示やグッズ販売の他に、特設ステージを使って色々なテーマ、登壇者によるトークショーが開催された。その中から34号車に関係するステージの模様を紹介しよう。
土曜日のSUPER GT公式練習後に行なわれるのが「Modulo Xトークショー」だ。登壇者はModulo開発アドバイザーの土屋圭市氏とホンダアクセス Modulo開発責任者の福田正剛氏。内容はステップワゴンやフリードで好評を得ているModulo Xシリーズの開発にまつわる話が中心。今回は「ステップワゴン Modulo X」「フリード Modulo X」の乗り味のよさを詰めていくことについてのトークだった。また、レース開催時点では発売日が未発表だった「S660 Modulo X」のことも少し触れていた。
チームを支えるスタッフに聞く。「レースメカニックのやりがい」とは
このレポートでは34号車を支えるチームスタッフにスポットを当ててその仕事を紹介している。ということで、前回のチョン監督に続いて紹介するのは、34号車のチーフメカニックを務める新保貴章氏。
この新保氏はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、レースの世界で13年のキャリアを持つメカニックだ。
そんな新保氏に、まず「レースメカニックのやりがい」を伺ってみた。それに対して新保氏は「やりがいは色々あります。例えば自分が手がけたクルマが結果を出してくれれば、自分の仕事が役に立ったと思えるので、そこにもやりがいを感じます」とのこと。また「道上さんと大津さんは、われわれがやったことに対して『これはいいね』とか『全然ダメ』ときちんと言ってくれるのでとても励みになります」と言う。
次にNSX GT3の感想だが「新しいクルマだけに、分からないところがあっても誰にも聞けません。でも、そこを自分の力で乗り越えていくことはとても楽しいです。規定が厳しいGT3といっても触れるところは少なからずあるので、その部分をこれまでの経験と技術を生かして突き詰めていくことにも面白さを感じます。実際、徐々にですが、第1戦以降はクルマがよくなってきているのでモチベーションが上がっています」ということだ。
最後に今回のレースに向けて行なった変更点を伺ってみたところ、「実は前回までは納車時から大きく変えない状態でレースをしていましたが、今回はNSX GT3の特徴であるMRという特性をより生かせるよう、前後の重量配分を変える作業をレギュレーションで許可されている範囲で施してきています」とのこと。
メカニックの働きはピットインのわずかな時間でしか見ることができないが、次にレースを見るときは、ピットインのタイミングでメカニックさんたちの動きにも注目していただきたい。ちなみに新保さんは右リアタイヤの交換を担当している。
5月20日決勝:観覧をお勧めしたい「Modulo Drago CORSEトークショー」
さて、決勝日となる日曜日だが、サーキットに到着した朝一番は、コース上ではなくホンダブースのステージで開催される「Modulo Drago CORSEトークショー」から見ていただきたい。
このトークショーには道上選手と大津選手のほかに他チームのドライバーがゲストとして登場するのだが、GT300クラスのドライバーに関してはメディアを通じた発言は聞いたことあっても、その人なりの言葉を聞く機会があまりなかったりする。そのため、ドライバーの顔と名前は知っていても「どんな感じの人なのか?」がいまひとつ分からない。
でも、このステージではチームやクルマの状況、そして自身のドライブなどについて自分の言葉で語ってくれるので、それを通して人柄や魅力が見えてくる。気になるドライバーが増えればレースがより面白くなるはずだ。
燃費差を補う起死回生のタイヤ無交換作戦! ライバル勢と異なる戦略で臨んだレースの結果は!?
前回の富士スピードウェイでは大津選手がスタートドライバーを務めたが、今回は道上選手が最初に乗る。タイヤは予選で使ったミディアムハードなので、いいレースペースが期待できる。
そしてスタート。34号車は11位のポジションで周回を重ねるが、実はNSX GT3はライバル車と比べて燃費がよくないことから、序盤は多少ペースを抑える走りをしていたようだ。
その後、13周目には39号車のクラッシュによりセーフティカーが出る展開になった。このタイミングで燃料補給とタイヤ交換のため早めのピットインをするチームも出たが、34号車はピットインせずにそのまま走り続けた。
28周目という長い周回まで引っ張ったあと、39号車はようやくピットインしてドライバーが大津選手に変わる。ピットにはラスト1セットのミディアムハードのタイヤが用意されていたが、チームが取った作戦はなんと4本ともタイヤ無交換。燃料補給のみを行なって34号車はピットアウトしていった。
このレースは300kmなので、すでに半分以上は消化済み。あとは大津選手の攻めで順位を上げていくだけ……。のはずだったが、ピットアウトして数周目にピット内に置かれた無線機から「ヤバイ、ヤバイ!」という大津選手の叫び声が聞こえてきた。
原因はタイヤのトラブルだった。発生したのがデグナーカーブだったので、そこからは慎重に走ってそのままピットイン。タイヤ交換を行なったが、300kmのレースで2度のピットインではもう勝負権はない。27位まで順位を下げ、最後は26位でゴール。完走はできたが、監督、道上選手とも早々にミーティングルームがあるトレーラーに移動。ピットに戻ってきた大津選手の顔も険しかった。
ということで第3戦の鈴鹿は、予選では初めてQ2に進出するいい面もあったが、決勝は非常に残念な結果に終わってしまった。次戦は6月30日~7月1日にタイのチャン・インターナショナル・サーキットで開催される第4戦「Chang SUPER GT RACE」だ。海外のSUPER GTファンの前で34号車がどんな走りを見せてくれるのか、開催を楽しみに待ちたい。
決勝レース終了後のチーム会見:「燃費とタイヤ無交換の関係とは?」
道上選手:燃費が厳しいクルマなので、後半の追い上げのために最初のスティントはできるだけ引っ張る作戦でした。ところが途中でセーフティカーが入り、そのタイミングでいくつかのチームはピットに入りました。自分たちも入りたいところですが、現状の燃費性能だとあのタイミングで満タンにしても最後まで走りきれないので……。そのへんの戦略的な幅が足りない状態です。
タイヤ無交換作戦は燃費のわるさを補うためと、今後に向けたデータ取りが目的でした。ところが自分のときは問題はなかったんですが、大津に交代した直後にトレッドが剥がれるというトラブルが出てしまいました。原因はまだ不明です。今回、タイヤ無交換を実行したチームはありましたが、後半はかなりきつそうだったので、タイヤにトラブルが出なかったとしても交換する作戦のほうがよかったのかとも思います。また、タイヤ無交換作戦だったとはいえ、ボクのペースがもうちょっと速ければとも思っています。
大津選手:ピットアウトしたときは燃料が満タンということで、ちょっとオーバーステアが強い印象でした。アウトラップでは後ろからプリウスが来ていたので、ここは順位を守りたいなと思いましたが、ペースを上げすぎると残り周回が厳しくなるので、どうしようかと考えていたらデグナーで唐突にリアが流れてスピンしかけました。その後はストレートでも真っ直ぐ走らない状態になり、そのままピットに入りました。タイヤを交換してからのペースはいいとは言えませんが、ドンドン前に追いついていったので、リア2輪交換をした結果は今後に生きるデータになったと思います。
現在、クルマが抱えている問題はコーナー進入のオーバーステアです。これがあるとどうしても攻めきれません。そこを改善できれば自分たちの走りの幅も広がるので、この部分の対策が一番ほしいところです。
チョン監督:前回の富士スピードウェイでのタイヤの状況から、300kmならタイヤ無交換でも持ちそうだったので今回は無交換の作戦でしたが、原因が何かは不明ですが想定外のトラブルがタイヤに出てしまいました。
燃費に関しては、鈴鹿サーキットがとくに燃費で厳しいということではなく、どのサーキットでも一緒です。また、ウチのクルマがとくにわるいということではないようで、同じNSX GT3を使う777号車を見てもほかの車種と比べて早めにピットに入っています。この燃費の面を救済するため給油装置にもBOPがあり、NSX GT3は岡山のときよりホース内径が大きくなっています。そのため燃料を送れる量が増えて給油時間は短縮できるのですが、燃費がよくない点をカバーできるほどのものではありません。燃費については今後の課題でもあります。