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34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3は、驚異の追い上げで第6戦 SUGOは4位に
Round6「SUGO GT 300km RACE」
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- 株式会社ホンダアクセス
2018年9月25日 00:00
- 2018年9月15日~16日開催
SUPER GT 2018シリーズのGT300クラスに参戦している「Modulo Drago CORSE」の密着レポート。今回は9月15日~16日に宮城県にあるスポーツランドSUGOで開催された第6戦に関しての報告だが、結果を真っ先にお伝えしたい。
道上龍選手がスタートを担当し、大津弘樹選手へとつないだ34号車は残り5周となったところで猛スパート! 1周ごとに1台を抜くという驚異の追い上げを見せてなんと4位に入賞! 第5戦の富士スピードウェイでマシンが全損するという悪夢からの復帰戦でこの戦い、そしてこの成績……。わるいことがあってもはね除け、さらに飛躍できる強運も身に付けて34号車はSUPER GTに帰ってきた!
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さて、そんな劇的な戦いを見せた34号車だが、富士でのアクシデントによりスポーツランドSUGOで予定されていた合同テストには不参加となったので、このコースのデータがまるでない状態で菅生入り。それだけにこの週末はセットアップに苦しむ展開だった。
9月15日土曜日 公式練習
土曜日の朝に行なわれた公式練習は、走り始めからウエット宣言が出された。しかし、コースのほとんどは濡れていない状態なので34号車はスリックでスタート。ドライバーはいつものように道上選手だ。
数周してピットイン。普段の公式練習ではここでタイヤ交換や燃料補給をして再スタートするのだが、今回はクルマをガレージに戻したあと、タイヤを外してリアサスペンションまわりをメカニックが作業する。
クルマを降りた道上選手はすぐにエンジニアと会話をするが表情は固い。どうやらリアの動きに問題があるようで、リアのセットアップを変更。その後ピットアウトするも雨の降りが強くなったので、すぐに戻ってきてレインタイヤへ交換したため、セットアップの確認は不十分のまま練習走行を終えた。
9月15日土曜日 公式予選
そして迎えた予選。このSUGOでは台数の多いGT300クラスはQ1を2組に分けて走行するというやり方で、34号車は先に走る予選A組となった。
最初に乗り込むのは大津選手。直前までサスペンションのセットアップを修正して挑んだアタックだが、まだリアの挙動が安定しないという状態。それでも14台の出走中、4位のタイムを記録して堂々Q2へ進出となった。
Q2は道上選手が担当。コースはところどころが濡れている難しい状態だったが、道上選手いわく「路面コンディションはそんなにわるくなかったのかな」ということで、タイムもQ1の1分19秒367に対して、1分19秒185を記録。Q1で問題になったリアサスペンションも、チョン監督の指示によりメカニックが短時間でアジャストしたこともタイムアップに貢献した。ところが、他のチームもタイムを伸ばしてきたので結果的に11位というポジションになってしまう。
この結果について道上選手は「18秒とか17秒とか狙っていこうと思ったらクルマがもっとシャープに動くようにならないといけないのですが、今の自分たちのクルマはそういうふうに動かそうとするとどこかで弊害が起きてしまうので、そういった部分とのバランスをどう取っていくかの中で、最大限の走りはできたかなと思っています」と語った。
予選後の会見で、決勝に向けてのセットアップについてチョン監督に聞いてみると、予選終了時の天気予報では雨予報だったが、降る時間の予想がコロコロ変わる状況。監督としてどこにポイントを合わせたらいいのか悩んでいる最中だということだった。インタビューへの返答も、状況を説明したあとにこれからのことを語るところで「……どうしましょう」と、いつもキチンと答えているチョン監督としては珍しく言葉に詰まる場面もあった。
なお、初めて走るSUGOに向けてのセットアップは、鈴鹿サーキットを基準したものとしていた。さらに、Q1の前にキャンバーを増やす変更をしたが、結果から見るとそれがわるさをしたようなところがあったので、Q2で道上選手が走るときには戻したとのこと。このようにクルマは徐々にSUGO向きになっているが、詰め切れていない部分もあり、さらに決勝日の天気がどうなるか予想するのが難しいようで、Q1を担当した大津選手からも「結果的に4位でしたけどトップとの差は異次元なくらいにあるので、そこをもっと詰めていかないと」という発言もあった。
9月16日日曜日 決勝
決勝の朝、雨の確率が時間を追うごとに減り、レース中の降雨の可能性はほぼなくなった。ただ、そのぶん気温が上がっているのでタイヤのチョイスが難しくなっていた。とはいえ、34号車がSUPER GTの決勝を再び走る。これだけでも価値があること。毎回ドラマが起こるSUGOだけに、ここまで来る間、色々な伏線(?)を張ってきた34号車に何かが……。そんな予感もするスタート前だ。
12時を過ぎるとSUPER GTは決勝へ向けてのスタート準備の時間となる。12時30分から始まるウォームアップ走行に向けて、ピットガレージではメカニックによるマシンの整備が行なわれるが、ここでもリアまわりをチェックする様子が見られた。
ウォームアップ走行は道上選手から乗り、そのあと大津選手へ交代。走り終えた両ドライバーと監督が話し合う光景はいつものことだが、今回はちょっと雰囲気が違った。実は、決勝スタート前にリアのスプリングを硬いものに交換していたのだが、そのフィーリングがよくなかったらしく、そのことについて議論していた。
結果として、グリッドに着いてからリアサスペンションごと土曜日の仕様に交換することになった。時間いっぱいまで使って、少しでもいい方向へと努力する34号車。この諦めない気持ちが、最終的に魔物が住むと言われるSUGOで生き残り、結果を出す力になったのだ。
14時、SUPER GT 第6戦 SUGO GT 300km RACEがスタートした。スタートドライバーは道上選手だ。中段からのスタートだったので接触なども心配されたが、道上選手はトラブルに巻き込まれることもなく走行。順位もスタート時と同じ11位をキープしていたが、5周目にすぐ後に付けていた88号車 マネパ ランボルギーニ GT3にパスされて12位へ。しかし、その後は抜かれることなく走行し、ライバルの脱落やピットインなどもあり、30周過ぎのドライバー交代前には、GT300クラスで7位まで順位を上げていた。
34号車から降りてきた道上選手の話を聞いていると、ストレートは速いもののヘアピンとSPコーナーでアンダーステアが強く、曲がりにくい状態。そのため、ストレートの速さを生かしきれていないとのこと。また、気温、路面温度も高かったようで、タイヤも内圧が上がりすぎて、パフォーマンスが落ちるタイミングが早かったようだ。なお、心配のタネでもあったパーコレーションはまったく出なかったということなので、チームが施した対策は万全だったという。
ピットアウト後はいったん順位を下げるが、上位陣が全車ピットインを済ませた後は再び11位あたりをキープ。そして、45周目からは少しずつポジションを上げていくが、なんとその後コースアウト。幸いクルマにダメージはなかったが、数台に抜かれて大きく順位を落としてしまう。
しかし、これで別のスイッチが入った大津選手は、ここから驚異の追い上げに入る。コースアウト後は急激に順位を上げて、およそ9周ほどすると元のポジションまで挽回。それからは96号車 K-tunes RC F GT3、60号車 SYNTIUM LMcorsa RC F GT3としばらく競り合うが、終盤に向けてさらにペースアップ!
そのあとはコースアウトしたクルマの処理のためSC先導走行が続き、残り周回が6周というあたりでレース再開。ここから34号車は1周ごとに1つずつ順位を上げ、最後は0号車、88号車と競り合いながら最終ラップへ。そして接戦のまま最終コーナーを回る。
ここからフィニッシュラインまでは上り坂なので34号車のパワーが生かせるのだが、最終ラップでこの順位にいる他の2台も同じように速く、とくにいいラインで立ち上がった0号車が少しだけ前に出る。続けて34号車と88号車はほぼ並走して坂を駆け上がっていく。
この映像が映されると、プラットフォームスタンドに集まったチームクルーから大きな歓声が上がり、モニターを凝視する人、ネットの隙間から最終コーナー側をのぞき込む人と、それぞれ34号車が駆け上がってくるのを待つ。
チェッカーと同時にひと際大きい歓声、ガッツポーズ、そして満面の笑顔でプラットフォームは湧いた。4位である。3位との差は0.057秒、5位とは0.008秒という超接戦は、34号車スタッフだけでなく、満員のスタンドをこのレースで一番盛り上げた。
表彰台は惜しくも逃したが、チームは初めて走行するサーキットで、今できる範囲で最大限のパフォーマンスを発揮。粘り強く戦って最後はサーキットを最も湧かせるバトルを繰り広げ「34号車復活!」を誰の目にも分かる強いインパクトで見せつけたのだった。
9月16日日曜日 決勝後記者会見
決勝レース後の記者会見にもその効果は現れていて、会見が行なわれる部屋にはいつも以上のメディアが詰めかけた。そして監督、ドライバーが入室するとメディアからも拍手が湧く。こういう感じ、今後も続いてほしい。
ということで、最後は決勝レースの模様を語ってくれた会見の内容を紹介して、今回のレポートを締めさせてもらう。次戦は10月20日~21日に大分県日田市のオートポリスで開催される第7戦。SUGOでの勢いをさらに加速させてもらい、表彰台を期待したい。
まずは驚異の追い上げを見せた大津選手のコメントから。「後半の展開ですが、実はどこでどう抜いたのか覚えていなくて、話したくてもなにも言えないんですが、一番のキーだったと思うのが、セーフティカーが入ったことと、ボクが乗るときのピットインで道上さんがタイヤを4本とも交換すると判断してくれたことだったと思います。恐らくですが、まわりのクルマは2輪交換が多かったのか、けっこうフラフラしているのが多かったように見えて、ボクのほうがペースはいいのですが、なかなか抜きにくい感じでした。そのため、追いついては離れてという展開が続きました。GT500クラスを上手く使えばよかったんですが、それもできなかったので、仕留めるのに時間を掛けてしまいました」と語った。
途中、順位を落とした件については「25号車と一緒になったとき、後からGT500クラスの車両が来ました。そのときは譲るのもすごく難しいタイミングで、結果的にラインを外したときにタイヤカスを拾ってしまい、全然曲がらなくなってコースアウトしてしまいました」とのこと。
後半はコースのあちこちでイエローフラッグが出ていたし、ペナルティを受けているクルマもいたので非常に混乱した状況だったが、大津選手は冷静に状況を判断して混乱を切り抜けた。
そして、最後の最後までメカニックが合わせ込んだリアのセットアップだが、これも大きな武器となり「最終コーナー立ち上がりをトラクションよく加速できるように努めた」という走りができるクルマになっていた。
最終周の最終コーナーからのバトルについては「ボクとしては0号車も抜き切っていたように思えていたし、無線から道上さんの歓声が聞こえていたので表彰台かな、と思っていたのですが、戻ってきたら0.05秒負けていてガッカリでした」とのことだった。
続いて道上選手のコメントを紹介しよう。「昨日の練習から予選の結果を踏まえて、クルマのセットをどうするか悩んでいて、監督と夜にも話をしていました。NSXは今回クルマの動きが暴れていたので、それを抑えるために今まで試したことがないくらいレートの高いスプリングを前後に組み込んでみました。NSXはリアの重量が重いので、最終コーナーでは硬めのスプリングを入れたほうがシックリくるのではないかということでもあります。ただ、このチョイスには不安もあったのでウォームアップ走行で様子を見て、ダメだったらグリッド上で戻そうということになりました。結果としては余計にリアが跳ねやすかったり、ブレーキングでリアタイヤの安定度がいまひとつになったりでした。ただフロントに関しては硬いスプリングでも大丈夫そうだったので、グリッドではリアだけ換えてもらいました」とまずはセットアップについて教えてくれた。
続いて「それでレーススタートしたらリアは落ち着いてくれて、むしろフロントが逃げるようなフィーリングでした。SUGOは右コーナーが多いのでとくに左のフロントが厳しいコースです。そこで、当初は左側2輪のみの交換も考えていましたが、決勝ではSPコーナーなどの左コーナーでアンダー傾向になっていました。そこで他のクルマに詰められたり、追いついたクルマに離されたりしていたので、4本交換に切り替えました。最終コーナーはもともと速くストレートも伸びるクルマになっていたので、その手前のSPコーナーを上手く回ることがポイントだったのです」と戦略についても語った。
チョン監督は「SUZUKA 10 HOURSは自分にとっていろいろと刺激のあったレースで、その刺激を元に初めて走るSUGOはどうしていけばいいのかを分析してきました。そこで、今まで試したことがないセットアップで持ち込んでみたのです。走り出してみるとわるくはなかったのですが、SUGOに持ってきたタイヤと土曜日の路面があまりにも合わなかったので、決勝はどうなるか不安もありました。今日は天気にも恵まれてこういう結果になったのかなと思います」と語った。
決勝のセットアップについては「道上さんが話していたように、NSXはリアが重いのでそこを対策する方法を考えました。そして、スプリングを固めるということを今日の朝に行なっていました。もしダメでも30分もあれば交換作業は楽に行なえるので“そのときはグリッドでやる”ということになりました」とコメント。
ここで道上選手が「結局、最後のフリー走行でもフィーリングがあまりよくなくて、そのときのチョンさんは頭を抱えるくらい悩んでいましたよ」と状況をバラすと、監督も「運転できないよね、無理だよね、と、ものすごくテンションが下がっちゃいました」と付け足し、会見の場は大きな笑いに包まれた。