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「34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3」応援レポート。灼熱の第4戦 タイではフロント2輪無交換作戦で9位入賞
Round4 Chang SUPER GT RACE
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- 株式会社ホンダアクセス
2018年8月3日 17:54
- 2018年6月30日~7月1日 開催
4月に岡山国際サーキットで開幕したSUPER GTも、6月30日~7月1日にタイ・ブリーラム市にあるチャン・インターナショナル・サーキットで行なわれた「2018 AUTOBACS SUPER GT Round4 Chang SUPER GT RACE」で第4戦を迎え、全8戦で行なわれるシーズンの折り返しを迎えることになった。
GT300に参戦しているModulo Drago CORSEの34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3も、初参戦から4レースを経て徐々にステップアップし、レースごとにチーム力が増加。初参戦のシーズンでの表彰台、そして優勝という目標に向けて確実に前進し続けている。
第4戦タイでは、スコールによる混乱の予選1回目を大津選手が12位という成績で予選2回目へとコマを進め、予選2回目では道上選手が10番手のタイムを出し、上位2台のタイム抹消により最終的に予選8位を獲得した。
決勝レースでは課題となっていた、ピットストップ時のロスタイムを最小限にするフロントタイヤの無交換作戦に出て、ピットアウト後は11位以下へと下がったものの後半スティントを担当した大津選手が追い上げて9位入賞を実現した。
「34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3」応援レポート 記事一覧
6月30日予選:午前中のフリー走行で持ち込みセットやタイヤを確認、チーム一丸となって予選/決勝に向けた準備を行なう
SUPER GTは土曜日の午前中にフリー走行、午後に予選、日曜日の午後にレースという大きくいうと3つの走行セッションから構成されている。このため、フリー走行で持ち込んだセッティングが正しかったどうかの確認を行ない、正しくなければ修正を加えるという作業を行ない、予選・決勝に備えるというプロセスで週末を過ごすことになる。
特にタイ戦の場合は、国内のレースではなくフライアウェイのレースになるため、1年に1度、このレースでしか走らないコースになる。このため、このコースの特性に合わせたセッティングなどが重要になるし、今シーズンからGT300に参戦しているドラゴチームにとっても、ここのコースは初めて走るレースになる。従って、しっかり走り込むことが何より重要になる。
このタイ戦に限らずSUPER GTの練習走行はGT500とGT300の混走から始まり、GT300の占有走行、GT500占有走行と進んでいく。タイ戦の練習走行では道上選手がまずセッティングを出す走行を行ない、持ってきたタイヤの具合などを確認していく。今回のタイ戦に向けてチームは、ミディアムとミディアムハードという2種類のタイヤを持ち込んでおり、道上選手がその2つの種類のタイヤをつけてタイムの比較を行なっていく。
この間、クルマがピットに戻る度にピットクルーはタイヤを変えるなど忙しい作業をこなして、クルマはピットを離れていく。メカニックは戻ってきたタイヤのホイールを磨いたり、タイヤの空気圧を調整したりということを忙しく行なっている。また、タイヤ交後は、横浜ゴムのエンジニアがタイヤの温度を測ったりと、ピットは忙しい。
忙しいのはピットクルーだけではない。チーム・マネージャーもドライバーがピットインする度にドリンクボトルを手渡したり、クルマが走行している間には、フリー走行終了後のお昼ご飯に向け用意したりと大忙しだ。
その横では、ModuloスマイルのMC担当水村リアさんが、チームのSNSを更新している。余談だが、チームに用意されていたお昼ご飯はおにぎりだった、もちろんサーキットにはキッチンなどは用意されていないし、今回はフライアウェイのレースでチームモーターホームなどもないので、ケータリングとなるのだが、チャン・インターナショナル・サーキットがあるブリーラム市は、日本で言えば地方の小さな街というイメージで、日本食レストランなどもないと思われるので、そうしたケータリングの手配も大変そうだ。
練習走行の後半は大津選手に交代し、まずはユーズドタイヤで出していく。2018年からGT300にデビューした大津選手は、このサーキットを走るのが初めてで、まずはコースに慣れる時間が必要なはずだが、コンスタントなタイムを刻みながらロングランをこなしていく。そしてニュータイヤに交換し、1'33.178という11位に相当するタイムを出し、この日の走行は終了。チームも、ドライバーも、初めてのコースとしては上々の結果と言え、予選、そして決勝に期待が持てる結果となった。
灼熱のタイに舞い降りた浴衣の天使達に、タイの老若男女がメロメロに
タイ・ブリーラムで行なわれているタイ戦は、SUPER GTの中でも唯一のフライアウェイのレースとなるため、国内のレースならあるはずのモーターホームなどはなく、ドライバーが待機するチームのオフィスもブリーラム側が用意しているプレハブが利用されている。持ってくる機材も、船便であらかじめ送ることになるので、日本国内のレースとは微妙に異なっている。もちろん給油装置など基本的な設備は全部送られてきている。
そして何よりの特徴は、暑いということにつきる。30度を超える気温はもちろん、それよりもつらいのは湿度。南国の特徴である高い湿度のために、日陰にいても非常に暑いというのが特徴だ。ただ立っているだけでも暑いのに、さらにつらいのは後ろにエンジンという熱源があるコックピットでドライブしているドライバーだろう。もちろんクルースーツと呼ばれるドライバーのレーシングスーツ内を冷却するシステムは用意されているが、それがあっても暑いものは暑い。実際両ドライバーとも降りてくると汗だくという状況だった。
そうした「暑い」を吹き飛ばしてくれたのが、土曜日のお昼に行なわれたピットウォーク。Drago Moduloチームのレースクィーンの4名はみな涼しげな浴衣姿に。Moduloスマイルの安藤麻貴さん(@hello_makitty_3)、Moduloプリティの生田ちむさん(@1224Chimu)とはるまさん(@XxHlm)、KENWOODレディの前田真実果さん(@mamilium)の4人が、それぞれModulo、KENWOODのロゴがつけられた浴衣姿になり、タイのお客さんに大好評を得ていた。
実は今回のレースでは、フライアウェイのレースということもあり、レースクィーン全員が登場していたチームはあまり多くなく、Drago Moduloのように4人全員が登場したチームはめずらしかった。
Modulo/KENWOODの場合は、タイにも法人があり、タイにもユーザーが多くおり、タイでのプロモーションも重視している。4人全員が勢揃い、そして全員が浴衣でModuloとKENWOODのロゴ入り。これはタイで大好評となり、一緒にセルフィーというお客さんがひっきりなし。なお、翌日の決勝日に行なわれたピットウォーク、グリッドウォークは日本のレースと同じコスチュームに変身。もちろんこちらもタイのお客さんには大好評だった。
予選ではウェットのQ1を大津選手が12位で突破、ドライなりかけ路面のQ2を道上選手がまとめて8位グリッド獲得
そうして迎えた予選だが、予選1回目(Q1)は大津選手が、予選2回目(Q2)は道上選手が担当することになった。タイ戦の予選は、Q1の前にスコールが襲来し、予選までには雨は上がったものの、GT300のQ1はウェットから徐々に乾いていくというコンディションの中で行なわれ、非常に難しい中でのQ1となった。
Q1を担当した大津選手はミディアム、ハードという2つのコンパウンドがあるウェットタイヤのうち、まずはミディアムを履いてコースに出るが、途中でハードタイヤに変えてタイムアタックを行なった。大津選手は「クルマの状態はわるくなかったが、タイヤの暖まりに課題があった。リアはすぐに熱が入るのだが、フロントがなかなか入らず苦労した。特にハードではそれが顕著だった」と述べ、交換した後のハードタイヤのフロントタイヤの暖めに苦労していたのだ。しかし、それでもなんとか熱を入れることができ、最終的に12位で無事に予選Q1を通過し、道上選手がタイヤアタックをするQ2へとつなげることができた。
道上選手がアタックしたQ2では、大津選手のQ1ではハードのウェットタイヤのフロントタイヤの暖まりで苦労したことから、リアはハード、フロントはミディアムという変則的な構成で対応することも検討した。しかしGT500のQ1が行なわれている間に路面はどんどん乾いていく方向に。そこで、作戦を変更して持ち込んだスリックのうちミディアムハードをチョイスしてQ2のアタックに入った。
道上選手は「レインを引き続き履いている車両もあったが、ドライでいけると判断して、ミディアムハードのスリックタイヤを選択してQ2に臨んだ。路面が乾いていくという局面では、暖まりに不安はあったが、セクター2/3がライン1本分乾いていて、そこで熱を入れることができてタイムを出すことができた」と、タイムとして10番手に相当するタイムをマークすることができた。
だが、予選終了後の再車検でトップタイムをマークした88号車 マネパ ランボルギーニ GT3、3位のタイムをマークした10号車 GAINER TANAX triple a GT-Rのタイムが抹消されるということもあり、8位に繰り上がり。翌日の決勝レースは8番グリッドからスタートすることになった。
予選後の記者会見
予選後の記者会見で。チョン・ヨンフン監督は「今回このサーキットに来るのは初めてでデータもなく、国内のサーキットいに比較すると路面がわるい。国内のデータを元に持ち込みセットを練習走行で試したが、わるくないということが確認できた。Q1ではタイヤの暖まりに課題があったが、ドライバーがカバーしてくれてQ2へ進むことができた。Q2ではタイヤ選択を含めてこれしかないという形で選んでタイムアタックしたが、もう少しいけたのではないかという課題が残った。明日の(決勝)レースに向けてデータを見直して行きたい」と述べ、タイヤの暖まりが課題として残っているが、そこはドライバー2人がテクニックなどでカバーしてくれたと評価した。
なお、34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3は、開幕戦の予選は16位、第2戦は11位、第3戦は10位、そして2台の予選後タイム抹消ということはあったがこの第4戦では8位と徐々に予選順位を上げてきている。
そして何よりも重要なことは、この3戦コンスタントにQ1を突破してQ2へと進出していることだ。現在のGT300は、トップチームと呼べるチームが十数チームあり、Q1を突破するのもチームの実力がなければ不可能だ。その意味で、チーム結成からまだ4戦目でこれだけの結果を出せるようになってきていることは、チームのポテンシャルが徐々に上がってきていることの裏返しだろう。
7月1日決勝:課題となっていたピット作業時間を少しでも削り、9位でポイントを獲得
日曜日の15時から行なわれた決勝レースでは、スコールが懸念されたが、結局1日雨は降らず、快晴の中での好レースが展開されることになった。34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3は8番グリッドからのスタート。レースは道上選手がスタートドライバーを務め、後半を大津選手が担当する。2人ともグリッドでは落ち着いており、SUPER GTを運営するGTアソシエイション 代表取締役 坂東正明氏の激励などを受けながら、レーススタートへと臨んだ。
このレースのスタートで道上選手は前車との間を大きく取ってスタートした。というのも、34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3が走る8番手という付近は、近くに実力者揃いのグリッドで、広い1コーナーはよいのだが、狭くなる3コーナーでは混乱があることが予想されたからだ。道上選手は「ガソリンが重いときに無理をしてもよいことは少ないし、接触したりしてレースを台無しにしたくなった」と述べ、慎重にスタートに臨んだとレース後明らかにした。
それでも若干の混乱には巻き込まれたそうだが、序盤のガソリンが沢山残っていて重たい状態の時にはクルマの状態もあまりよくないため慎重に走り、タイヤを温存するドライブに徹したという。しかし、ガソリンがなくなってきて軽くなってきたら、タイムを出せるようになってきて徐々にタイムを上げてきた。
29周目にピットに入りタイヤ交換と給油を行なった。ここでチームはレース前から決めていた作戦を敢行する、それがリアタイヤのみを交換し、フロントタイヤは交換しないという作戦だ。というのも、NSX GT3は他のFIA-GT3の車両に比べて燃費が不利となっていて、給油時間が約10秒ほど余計にかかってしまうのだ。しかも、今のGT300は非常に競争がタイトになっているので、4輪ともタイヤ無交換作戦を行なってくるチームもある。
SUPER GTでは規則によりチームクルーの数も制限されているので、タイヤ交換は2輪ずつしか行なうことができない。2輪の交換に数秒で、4輪で10秒程度、それに給油時間でプラス10秒となると、タイヤ無交換作戦を行なうほかのチームに比べて1回のピットストップで20秒近いハンデがある状態でレースをしているというのが現状なのだ。そこで今回チームでは、フロントタイヤは交換せず、ミッドシップのエンジンの重量と駆動の負荷がかかっているリアタイヤだけの交換を行なうことで、数秒の節約、これでハンデを少し軽減しようという訳だ。
しかし、当然ながらタイヤを交換しないとなれば、その分後半スティントの選手は厳しくなる。そこで重要になってくるのが前半スティントのドライバーがタイヤをいたわること、そして後半のドライバーが同じようにタイヤに負荷をかけないような走りを行なうことだ。今回2人のドライバーはその難しいミッションを完璧にやってのけた、特に後半の大津選手は、無交換のフロント2輪と新品のリア2輪という微妙なバランスの状態でしっかりとレースを走りきり、34号車の順位を上げていった。
そしてレースの大詰めには、9位にまで順位を上げて前を走る7号車 D'station Porscheに追いつき、何度もオーバーテイクを仕掛ける白熱の展開に。大津選手によれば「満タンの時は走りづらい状況だったが、だんだん軽くなっていくに従ってクルマの状態はよくなっていった。そこで、何度かオーバーテイクを仕掛けたのだが、抜いてもGT500が来るタイミングで抜き返されたりしてしまった」という状況で、残念ながらオーバーテイクするまでには至らずチェッカー、それでもピットイン時の不利を考えれば9位という成績はまずまずだと言えるだろう。
4戦中、トラブルなく走れた2レースでポイント獲得、第5戦 富士では表彰台を争うレースに期待
冒頭でも述べたとおり、今回のタイ戦は第4戦。全8戦で行なわれるSUPER GTのシーズンは折り返しを迎えている。その中で、34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3は開幕戦はリタイアに終わったものの、第2戦で8位、第3戦はトラブルに見舞われて2週遅れの26位、そして第4戦では9位と、完走すれば確実にポイントが取れるレベルのチームになってきている。
SUPER GTのGT300は、世界でも類を見ないぐらい激しい選手権になっており、ポイントを獲得するのですら、かなり大変なレースだ。何年もGT300を戦っており、コンスタントに成績を出しているトップチームと呼ばれるチームだけでも軽く十数チームあるので、それらがすべてノートラブルで走れば、10位までに入るのがいかに大変かということは筆者が繰り返すまでもないだろう。
そうした中で34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3はトラブルなく完走できればきちんとポイントが取れるチームになってきており、参戦初年度ということを考えれば、これは上々の結果だと思う。
ただし、課題もある。チームの目標である今シーズン中の優勝を目指すには、ポイントを取れるチームから表彰台が常に狙えるチームに脱皮する必要がある。そのためには、度々課題として上がっている燃費の問題など車両側の課題にも取り組んで行かなければいけないし、今回のタイ戦では両ドライバーから暑い時のブレーキの冷却についても対処が必要だという声が上がっていた。
これらの課題について次戦となる「2018 AUTOBACS SUPER GT Round 5 FUJI GT 500mile Race」(第5戦富士500マイル・レース)に向けて解決していかなければならないだろう。ただ、車両は今回のフライウェイ戦となるタイのチャン・インターナショナル・サーキットから船便で送られるため(全チームの車両、装備などは船便で日本に送り返される)、チームのガレージに戻ってくるのは富士戦の直前になるという。そうした短い期間でチームがどのように対処してくるのかに、期待したいところだ。
チームにとって期待が持てるのは、次戦の富士500マイル・レースの会場となる富士スピードウェイは、すでに第2戦で走っており、データが豊富にあるということだ。そして道上選手が「富士はNSX GT3に相性がいいサーキット。長丁場でピットインの回数は増えるが、それを補えるスピードを発揮して上位入賞をしたい」と語れば、大津選手も「富士は自分の中での得意なサーキット。前回はピット作業時にミスがあり後退したが、それでも8位に入れた。ミス無く走ることができれば上位入賞、表彰台を争うことも可能だと考えている」と、両ドライバーともに好感触を持っている。
チームを率いるチョン監督も「800kmと長丁場のレースになる。そのため耐久性も含めてデータを見直してクルマを作っていきたい」と述べ、チームが得意としている富士に向けた取り組みを強化していきたいと説明した。
次戦第5戦 富士500マイル・レースは、8月4日に予選、5日に決勝レースが行なわれる。800kmと2018年シーズンのSUPER GTでは最長のレースで、ポイントも通常よりも増えるこのレース、34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3の活躍に期待だ。