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大自然とモータースポーツが融合!? モビリティリゾートもてぎの“サステナブル”な活動に注目してみた
2023年6月12日 00:00
大自然を生かしながら進化しているモビリティリゾートもてぎ
東京から高速道路を走り、最寄りのICで降りて一般道を走っていくと、胸の中が懐かしさでいっぱいになる田園風景が広がってくる。幼い頃に祖父母と遊んだ記憶や、泥んこになって走りまわった草いきれの香り、裸足でジャブジャブ入った川の水の冷たさ。そんな記憶を呼び覚まし、少年少女にタイムスリップしているうちに、到着するのがモビリティリゾートもてぎのエントランスだ。
この「モビリティリゾート」という名前には、人・自然・モビリティの豊かな関わりを創っていこうという想いが込められている。クルマやバイクをはじめとするモビリティを思いっきり楽しみたいと求める一方で、自然の中でくつろぎたい、癒されたいと願うのもまた人の欲求。それならば、どちらも満たされる場を創ろうというのが、1997年の夏にスタートしたモビリティリゾートもてぎの原点。
そして、当時は人の手を離れ、忘れ去られて荒廃していたもてぎの里山を、少しずつ手入れしていった「ハローウッズプロジェクト」。眠っていた生命を目覚めさせ、時間と手間をかけていきいきとした息吹と活発な営みを取り戻し、今ではすっかり元気で豊かな森となったハローウッズには、多くの人々がその懐に飛び込んでいく。ここにくれば、大人も子供にかえり、子供はもっと子供になって、大自然のパワーを吸収したり本物の生命との関わりに出会ったりできる、貴重な場となっている。
そして今回はハローウッズだけではない、モビリティリゾートもてぎが取り組む数々のSDGsに注目しようと、やってきたのは5月の週末。ちょうど、「2023 Hertz FIMトライアル世界選手権 第3戦 大成ロテック 日本グランプリ」が開催されていたこともあって、朝から多くの人で賑わっていた。巨大な岩がゴロゴロと立ち塞がる山肌を、信じられない角度で超えていくトライアルの競技も気になるところだが、それは後のお楽しみにとっておいて、まずやってきたのは中央エントランスで開催されていた「森と里のつながるマルシェ」。もともと自然豊かな茂木町には今、そこで暮らす人や環境に魅了されて移住してくる人が増えており、作家やクリエイター、新規就農する人やカフェなどをオープンする人が多いのだそう。
そこで、森と農と人がつながり、心も体も喜ぶ食や文化を守り、分かち合いながら、周囲の人たちや次世代につないでいく交流の場にしようということで、もてぎの森のサステナビリティフェスと題して「森と里のつながるマルシェ」が開催されていた。色とりどりの楽しげなテントやのぼりが揺れて、並べられた野菜やくだもの、陶器や革製品などなど、つい手に取ってみたくなるものばかり。
まず最初に惹かれたのは、優しいブルーやグリーンといった色と、陶器のフチにちょこんと乗った小鳥がかわいくてほっこりする作品がたくさん並ぶ、「工房とめ」さん。ご主人は千葉県から、奥さまは東京都から茂木町に移住して工房を構え、子育てや季節の手仕事をしながら、陶芸家の奥さまが「こんな器があったらいいな」という作品を形にし、ご主人がそのサポートをしているという本橋夫妻。どうして茂木町に移住したのですか? と質問すると、「人がみんなすごく優しいんです。子供ができる前から大歓迎してくれてたんですけど、子供ができたらいろんなところで助けてくれたり、本当の孫のように接してくれるので、すごく住みやすいです」とご主人。野の花を摘んで生けたくなるような一輪挿しや、手間ひまかけて漬けた梅干しや漬物などをテーブルに出したくなる壺など、作品にも丁寧な暮らしが溢れ出ているよう。思わず自分でも、小さな器をお土産に購入しちゃいました。
続いて出会ったのは、個性豊かな革製品やブリキの作品が並ぶ「相馬紳二郎(そうましんじろう)」さん。お財布やベルト、ショルダーバッグなどいろいろな手縫い革製品がある中で、棚に展示されていた靴を手に取ってみると、これは……。「そうなんです、トライアルの競技車両のタイヤを靴底にリサイクルしました」と相馬さん。渋なめし革を使った手縫い革製品を注文製作したり、修理を行なううちに、バイクのタイヤが丈夫で歩きやすい靴底にピッタリだと気がつき、製作してみたという。タイヤのパターンやロゴが出ている靴もあり、どれも1点もの。「このタイヤはどんな人が乗っていたバイクのものかな?」なんて想像したり、履く方も愛着が湧きそうだ。相馬さんも千葉県から茂木町に移住したそうで、「田舎度が高いところに住みたかった」というのがその理由。東京からそれほど離れていないのに、きれいな水と豊かな緑がある茂木町は理想的だったという。お米などを作ったり、農業にも精を出しているとのことで、充実した暮らしが伝わってきたのだった。
そして、誰もが分かるいい香りにつられて訪れたのは、なんと茂木町に鎮座する八雲神社の営農部が出店している「壺焼き冷やし焼き芋」のテント。無農薬・無化学肥料栽培で、神社内にある洞窟で保管しているというサステナブルなサツマイモ、ベニハルカを使った焼き芋で、その焼き方が独特。宮司の小堀真洋さんが考案したという「壺焼き芋釜」は、長時間じっくりと焼き上げることで甘味をギュッと凝縮し、焦げ付かないため苦味も酸味もなくねっとりとした美味しさに仕上がるのが特徴だという。暑いときには冷蔵庫でヒンヤリとさせた「冷やし焼き芋」が好評とのことで、試食をひと口いただいたらもう大変。あまりの美味しさに、即購入を決めた取材班だった。冷凍して保存しておくこともでき、解凍して冷たいままでも、冬はトースターで温め直しても美味しいということで、これはリピートしたくなりそうだ。
さらに、焼き芋でねっとりとした喉を潤したくなったところに、お隣りのテント「田中屋」さんでブルーベリーかき氷とブルーベリーソーダ水を販売しており、思わず注文。これは茂木町のブルーベリー畑で仲間たちと育てたブルーベリーを使っているそうで、氷の削り方にもこだわりが。どことなく大根を削いでいるようにも見える細長い氷が、だんだんとカップの中に積み重なっていくという珍しい削り方で、スプーンですくってみるとフワリとしていて、口の中であっという間に溶ける。粒の大きなブルーベリーソースも自然の甘みたっぷりで、一気に身体中が爽やかになる美味しさだった。
このほかにもたくさんのテントで、それぞれに人と農がふれあい、食や文化を通じたコミュニケーションが広がっていた「森と里のつながるマルシェ」。この出会いをきっかけに、自分たちの食事や暮らしを見直したり、就農や移住を考える人がいるかもしれない。出店していた人たちの笑顔からして、茂木町の魅力を物語っているようだった。
そして、こうしたきっかけづくりや体験は、このマルシェだけでなくモビリティリゾートもてぎ全体でも行なわれている。2021年に栃木県から認定を受け、管理・整備された里山での動植物の生態観察、環境保全への興味・関心の促進を目的としたプログラムを実施。地域の小学校などをはじめとする教育の場としても活用されている。このような活動についての想いや、そのためにどんな工夫をしているのかなど、モビリティリゾートもてぎ総支配人の嘉門順也さんにお話を伺ってみた。
嘉門氏:25年前までは、このあたりの里山は荒廃した状態だったのですが、それをしっかりと手入れして元気な森にすることで、希少生物を守ったり、育める環境をつくったり、子供たちが思う存分遊べる場所にしようという想いでここまできました。今では、私どもの施設をあげて茂木町を盛り上げていこうと、子供たちを元気にするのはもちろん、住む人や働く人、私どもの職員たちもこの茂木というフィールドを活用していただいて、町全体を元気にしていこうという取り組みになっています。
マルシェも今回だけでなく、茂木町の魅力を見直して発信していくためのコミュニケーションを取りながら、続けていくことが大事だと考えています。たとえば私どものホテル内のレストラン「MARCHERANT(マルシェラン)」では、普段から地元で採れた旬の野菜などを取り入れているのですが、茂木町の皆さまと情報交換する中で、茂木には地物の柿があることが分かりまして、レストランのコース料理で使わせていただいたり、まだまだ私どもも知らない魅力が茂木町にはあるのだなと実感したところです
まるも:今後もいろいろな可能性が感じられますが、もてぎならではの活用法などはありますでしょうか?
嘉門氏:そうですね。専門の知識を持ったガイドと一緒に森を散策するキャストウォークなどで、この森をSDGsを学ぶ場として活用していただいたり、遠足など学校の教育の場としていただくのはもちろんなのですが、今回のトライアルのようにモータースポーツ観戦でいらしたお客さまにも森や動植物と親しんでいただけるというのは、ほかのサーキットやイベント会場ではなかなか成立しにくいことだと自負しておりまして、今後もそうした特性を生かしていきたいと考えているところです。
まるも:確かに、これだけの規模の手入れされた森が隣接し、さまざまなアクティビティを体験できるサーキットはほかに思い当たりません。今現在、モビリティリゾートもてぎ内ではどのくらいの生物がいて、どんな手入れをしているのでしょうか?
嘉門氏:約5800種類の生物種が確認されています。ハッチョウトンボやホタル、タガメといった希少種も守っていまし、森の番人と呼ばれるフクロウも生息しています。フクロウが生息するということは、餌となる小動物が豊富で、小動物が多いということはその餌となる昆虫などが豊富ということですので、森自体が生命に満ち溢れている証拠です。手入れにはさまざまな手段がありますが、まず枯れそうな木を切ることですね。そのままにしておくと倒木の危険性がありますし、枯れる前であれば木を切ることによって切り株から新しい芽が生まれ、若木が成長してCO2の吸収を高めることにもつながります。どうしても、木を切るという言葉にアレルギーがあって悪いイメージを持たれやすいのですが、正しい知識を持った人が手入れをすることで、森を守っていくことができると考えています。
さて、そろそろトライアル選手権のゆくえが気になってきたため、12のセクションのうち選手の息遣いまで伝わってきそうな間近で観戦できる「プレミアム観戦券 特設観戦エリア」へ移動した私たち。すると、モビリティリゾートもてぎとしてこのトライアル選手権でもたくさんのSDGsの取り組みを行なっていることを実感した。
まず、競技が行なわれるルート選定に関して、動植物の生息環境への影響を最小化し、大会後の緑地の原状回復に努めること。そして使用する電力は実質的に100%再生可能エネルギーとなる「Greenでんき」を導入することで、電力使用によるCO2排出量をゼロにしているという。観戦チケットもペーパーレスで、スマートフォンに表示されるデジタルチケットを提示することで、観戦エリアへの入退場ができるのもスマート。
てくてくと歩いていくと、ハローウッズの象徴としてあちこちに出没する「木人(こびと)」の姿に思わずにっこり。これは森の生命の循環をイメージして作られた、もてぎオリジナルのキャラクターで、トライアル選手権でも一部のセクションでは間伐材を活用したセクション番号の掲示を行なっている。そういえば、森の遊歩道も間伐材のチップが撒かれて歩きやすく整備されていたことを思い出した。
そしていよいよ、世界最高峰の選手たちの競技が目の前でスタート。16年間連続チャンピオンを守っているという絶対王者、トニー・ボウ選手の緻密なラインどりとテクニックに鳥肌がたつ一方で、そのボウ選手の牙城を崩そうと突進する若きハイメ・ブスト選手のキレのあるライディングに思わず「ワオ~!」と絶叫。さらに感動したのは、ジェンダー平等を目指して早くからトライアル選手権に導入されているという、Womenクラスの選手たちの華麗かつガッツあふれるライディングだ。決して大きくはない身体で、果敢に巨大な岩や丸太に挑んでいく姿は、見ているこちらまで熱くなってしまう。とくに、エマ・ブリスト選手はまるでマシンを自分の手足のように自在に操っていて、一瞬で大ファンになったほどだった。
また、未来のカーボンニュートラルな競技を目指し、5年ほど前から参戦しているという電動トライアルバイクのライディングにも興味津々。日本人選手である黒山健一選手は、特性が異なるであろう電動トライアルバイクを見事に乗りこなし、「キュルキュルキュル……」っと、独特な音を響かせて駆け抜けていったのが印象的でした。
こうして1日をモビリティリゾートもてぎで過ごしてみて、心身のバランスがとてもよくなって、心地よい疲れと充実感で満ちていることを実感した。さまざまなSDGsの取り組みが、ここにいるだけで、楽しんでいるだけで、スッと理解できてもっと興味が湧いてくる。森から人へ、人から人へ、そして人からまた森へ。この循環の中で自分にも何かできることがないかなと、探してみたくなる。それがいろんな入り口からアクセスできるのも、モビリティリゾートもてぎの素晴らしさだ。「今度はいつ行こうかな」と思ったら、もうハローウッズの森の一員になっている証拠かもしれない。そんな人が、もっともっと増えていくことを願う。