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HySUT、FCV(燃料電池車)での水素ステーション間走行会
とよたエコフルタウン~神の倉水素ステーション間をトヨタ FCHV-advで走行
(2013/9/24 10:00)
HySUT(ハイサット、水素供給・利用技術研究組合)技術本部は9月18日~19日、愛知県でFCV試乗会・水素ステーション見学会を報道陣向けに開催した。2013年5月に運用開始したばかりの水素ステーション2施設の詳細を紹介するとともに、その2施設の間を、トヨタ自動車「FCHV-adv」、日産自動車「X-TRAIL FCV」、本田技研工業「FCXクラリティ」の各FCV(燃料電池車)で走行してもらおうというものだ。
始点となった水素ステーションは、愛知県豊田市のとよたエコフルタウン内にある「とよたエコフルタウン水素ステーション」。このとよたエコフルタウン水素ステーションは、施設内でFCVの燃料となる水素を都市ガスから精製するオンサイト型のステーション。都市ガスを供給し水素を精製するのは東邦ガス、精製した水素を圧縮しFCVに供給可能な状態にするのは岩谷産業が担当しており、水素ステーションはこの両社が共同運用している。
このとよたエコフルタウン水素ステーションは、2012年11月に施行された高圧ガス保安法の改正に基づき、水素ステーションの普及が想定される市街地で70MPa(約700気圧、大気圧の約700倍)の施設の設置が可能になったことを受けて作られた。FCVが市販されるときには、70MPaの高圧水素貯蔵タンクを持つ70MPa車が主流になると見られているが、実証実験の段階では、70MPa車、35MPa車いずれも存在する。今回の試乗車だと、トヨタと日産が70MPa車、ホンダが35MPa車となっている。
35MPaの充填コネクターは70MPa車でも使えるため、70MPa車は35MPa/70MPaいずれも利用可能。水素をFCVに充填するユニット(ガソリンスタンドの給油機にあたるもの)は、ディスペンサーもしくは水素充填機と呼ばれており、水素の充填は“5kgを3分”が目安となっている。つまりFCVは3分水素を充填するだけで、500km以上の航続距離を可能とするクルマになり、ガソリン車並の使い勝手を実現するわけだ。EV(電気自動車)だと、30分の急速充電で80%の充電状態となり、その際の航続距離は100km程度。FCV、EVとも電気モーターで駆動するクルマだが、搭載するエネルギー密度の違いから、航続距離には大きな差が出ている。
記者が試乗したのは、トヨタのFCHV-adv。70MPaの高圧水素タンクを4本搭載し、燃料電池には自社開発のトヨタFCスタック(出力90kW)をフロントボンネット内に搭載する。出力90kW(122PS)のモーターで前輪を駆動し、減速エネルギー回生用に出力21kWのバッテリーを搭載する。トヨタのスタッフによると、このFCHV-advのバッテリーは2代目プリウスを転用したもので、ハイブリッド車でのエネルギー回生のノウハウが活かされているとのこと。1回の水素充填での走行距離は、10・15モードで約830km、JC08モードで約760kmを実現している。
このFCHV-advで、とよたエコフルタウン水素ステーションを出発。途中トヨタ自動車本社前を通過し、東海環状自動車道 豊田東IC(インターチェンジ)から高速道路へ。そのまま西進し、伊勢湾岸自動車道の刈谷PA(パーキングエリア)で、もう1人の取材者と交代。刈谷PAを出たFCHV-advは、名古屋南JCT(ジャンクション)で名古屋第二環状自動車道で鳴海ICを下り、とよたエコフルタウン水素ステーションと並ぶ最新水素ステーション「神の倉水素ステーション」(愛知県名古屋市緑区赤松)でゴールした。
記者はFCVで初めて高速道路を走行したが、導入路の加速もモーター特有のトルクが厚いもので、アクセルを踏めば踏んだだけ、必要な加速力が手に入る。音はもちろん静かで、SUVタイプのボディーと相まって、優雅な走りの雰囲気がある。しかしながら、FCスタック、モーター、PCU(パワーコントロールユニット)などの重量物がすべてフロントにあることから、ステアリングの切り始めなどはフロントが重たい感じがあり、重さに対応してパワステを強く効かしていることから、“クルマの動きは鈍いがステアリングが軽い”というセッティングになっていた。
FCHV-advがデビューしたのは2008年。それから5年が経過し、トヨタのFCV開発は着実に進んでいる。2015年の市販車はセダンボディーとなり、FCスタックを高性能化するとともに、シャシー下面に敷き詰めるレイアウトを採る。これにより重量物を低重心配置するほか、FCスタックの高性能化により70MPa対応高圧水素タンクも4本から2本へと減らしながら必要な航続距離を確保する。FCHV-advで開発した要素を盛り込んだまったく別のクルマになるわけで、2015年の市販化を楽しみに待ちたい。2011年の東京モーターショーでは、コンセプトカー「FCV-R」が展示されていたが、今後は市販化を見据えたコンセプトカーに進化していくのだろう。FCEV、FCHV、FCVと、トヨタのFCVの名称は変化してきたが、これに関しても今後はFCVで統一するようだ。
ゴールとなった神の倉水素ステーションは、日本で初めてガソリンスタンド敷地内に作られた水素ステーションで、法改正などにより可能となった型式。エネオスブランドでガソリンスタンドを展開するJX日鉱日石エネルギーが建設・運用する。神の倉水素ステーションも施設内で水素を精製するオンサイト型で、都市ガスではなく、LPガスから高圧水素が作り出されている。
この神の倉水素ステーションで、水素の充填デモを実施。神の倉水素ステーションは70MPa専用水素ステーションとなり、デモ車両にはトヨタFCHV-advが用いられた。ガソリンだと、体積(リットル)で燃料価格を決めているが、水素の充填では重さ(グラム)で計算することになる。空気量の単位である、Nm3(ノルマル立米)での計測も考えられたらしいが、一般に分かりにくい部分もあり、重さで計算することになった。気になる価格については、当初は政策的な補助などもあり、ガソリン同等の価格・メリットを目指すとのことだ。
この神の倉水素ステーションでは、水素を製造・貯蔵するバックヤードの報道公開も行われた。最初にLPガスと水蒸気を反応させ、水素を取り出す。この水素を5段の圧縮機で高圧化、80MPa近辺で蓄圧する。FCVに水素充填するさいは、この蓄圧器から送られた水素を、充填する直前で-40度にプレクール。80MPa近辺の冷やされた高圧水素を、FCVの70MPaとの圧力差によって充填していく。
ガソリンスタンドと併設された神の倉水素ステーションは、特別な施設という雰囲気はなく、まわりの風景になじんでいるように思われた。トヨタ、ホンダが市販開始を明言している2年後(日産は2017年市販開始)には、大規模なガソリンスタンドには、このような施設が併設されているのだろうか。なお、セルフでの水素充填に関しては、法律の問題などもあり2015年までに設置されることはないようだ。水素ステーションの数が増えてきた時点で、法改正を含め検討されていくことになる。
HySUTは、東京モーターショーなど国内のモーターショーへ出展する予定があり、そこでは水素充填の疑似体験ができるような展示を検討しているとのこと。FCVのコンセプトカーの出展も期待でき、エコカーの選択肢の1つとして話題になりそうだ。