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【2015 Honda ミーティング】西村直人のホンダ最先端技術リポート(後編)

「10速AT」「新型FCV」「1.0リッターVTECターボエンジン」「EV SH-AWD」「第2世代i-MMD」を体験

新型FCVにも乗ることができた「2015 Honda ミーティング」

 栃木県にあるホンダR&Dセンターで開催された「2015 Honda ミーティング」。前編では先進安全運転支援と自動運転技術について紹介したが、本稿では「10速AT」「新型FCV」「1.0リッターVTECターボエンジン」「EV SH-AWD」「第2世代i-MMD」について紹介する。

「10速AT」

 トランスミッションの多段化が世界的なトレンドになるなか、本田技研工業では従来の6速ATに代わる世界初のFF用プラネタリー10速ATを開発した。とはいえ、「数こそすべて」という話ではなく、パワートレーンとしての最適化を考えた場合、10速でレシオカバレッジ10:1(従来の6速ATは6:1)がベストであるとの判断から10速の案が採用された。また、これ以上の多段化を行ったとしても、クロス&ワイドレシオによる相乗効果が得られにくくなる(一部の性能は伸びるが、悪化する性能もある)ばかりか、重量やサイズの面でも不利になるという。トピックはトルクコンバーターの小型化と、従来のホンダATが採用していた平行軸歯車式から遊星歯車式(プラネタリー)に変更し、そこに独自の高効率ギヤトレーン技術を用いてコンパクトな設計を実現したことだ。

 レジェンドの北米仕様である「ACURA RXL」(V型6気筒直噴3.5リッターガソリンエンジン)に、開発中の10速ATを搭載したプロトタイプに試乗した。発進時から10速の効果は大きく、スタートギヤとなる1速ではもたつき感の一切ないダイレクトな加速性能が体感できた。また、レシオカバレッジがワイドになったことで、100km/hのエンジン回転数は6速ATの1920rpmから1500rpmへと約22%も低くなり(同一エンジン/同一車種での比較)、静粛性と巡航燃費数値の向上にも一役買っている。

 アクセルを踏み込んだ際のキックダウン動作は素早く、10速→6速など一度に最大「4速飛びダウンシフト制御」が可能。さらに、この「4速飛び」から連続したダウンシフトも受け付けるという。試乗時にはこれを体感するため、8速/80km/h程度で巡航している際に一気にアクセルを踏み込んでみたのだが、瞬く間に3速へと5速分もダウンシフトを行い鋭い加速をみせた。特筆すべきは、こうしたキックダウン動作後にアクセルを戻す際に多発するトランスミッションの“しゃくり”がほぼ皆無であるため、無用なピッチングが発生しないことだ。また、状況によりアップシフトの際も2→4速といった飛びシフトが可能だ。

「新型FCV」

 2014年11月17日に燃料電池車である「Honda FCV CONCEPT」が発表されたが、今回はそれをベースにした市販プロトタイプにも800mほどだが試乗することができた。

 このプロトタイプの特徴は、燃料電池スタックを従来型(2008年発表のFCXクラリティ)から33%の小型化を図りながら、出力100kW以上、出力密度にして3.1kW/Lと、従来比で約60%の向上を実現し、さらにその小型化した燃料電池スタックを含めたパワートレーンを、市販モデルとして世界で初めてセダンタイプのボンネット内に集約し搭載したことにある。

新型FCVのエクステリア。ボディーサイズは4895×1875×1475mm(全長×全幅×全高)。リアフェンダー部の処理やホイールデザインなどは空力性能を意識したもの。タイヤはブリヂストンの新作タイヤであろう「エコピア EP160」を装着
新型FCVの燃料電池スタックは、従来の「FCXクラリティ」で搭載するものと比べ33%小型化することに成功するとともに、コントロールユニットやモーターなどを含めて同社のV6エンジン並みの大きさとなり、エンジンフード下に配置することができた。燃料電池スタックの出力密度は3.1kW/L(ホンダ測定値)、1回あたりの水素充填時間は3分程度。水素タンクの充填圧力は70MPa(700気圧)で、一充填あたりの走行可能距離は参考値で700km以上としている
新型FCVでは5名乗車が可能になっている。トランク部には小窓がついている

 走行フィールでの要確認事項は、なんといっても電気ターボの存在だ。ご存知のように、燃料電池システムは水素と空気中の酸素を化学反応させ、発生した電気によりモーターを動かして走るわけだが、故に加速時には大量の酸素を必要とする。電気ターボはその酸素を燃料電池スタック内に送り込むために用いられた技術なのだ。また、この電動ターボはツインスクロール方式で冷却制御も行う。ちなみに、FCXクラリティはターボではなくリショルム式コンプレッサーを、そしてトヨタ自動車「MIRAI」ではルーツ式コンプレッサーをそれぞれ採用している。

 実際、アクセルをグッと踏み込むと急加速であると判断され、電気ターボの過給圧がターボラグなしにすぐさま高まる。その際、タービンは最大で25万回転/分以上も回るという。ターボといえば独特の過給音が気になるが、電気ターボは金属音ではなく「シューン」というソフトな音色で耳障りには感じられなかった。むしろ、右足のアクセルで燃料スタックを操っているかのようなエモーショナルな感覚があり新鮮だった。

新型FCVのカットモデルも展示された

「1.0リッターVTECターボエンジン」

 ホンダが進めるダウンサイジングVTECターボエンジンの末っ子で、従来の1.8リッター自然吸気エンジンを最大出力/最大トルク/燃費数値とあらゆる面で凌駕する。排気量は小さいが技術的には兄貴分に負けておらず、直噴DOHC VTECに始まり高効率ターボチャージャー&インタークーラー、油中タイミングベルト、可変容量オイルポンプ、クーリングギャラリーピストンなどを採用する。

 この1.0リッターVTECターボエンジンは、2年前に開催された「2013 Honda ミーティング」でも同じく欧州仕様のシビックに搭載されて披露されていた。筆者は2年前にCVT仕様車、そして今回は6速MT仕様車に試乗したのだが、フォードやアウディの1.0リッター3気筒ターボエンジンよりも力強い印象は相変わらず。しかも、この2年の間に改良が加えられ、さらに上質な回転フィールを手に入れた。

直列3気筒DOHC 1.0リッターのVTECターボエンジンは高効率ターボチャージャーと可変動弁機構および直噴により、高出力・高トルクを達成。圧縮比は10.0、最高出力は95kW、最大トルクは200Nmとアナウンスされている

 もっとも1.0リッターVTECターボエンジンは、たとえば中国市場のように排気量による税制区分による課税違いに対処するためであったり、欧州でのCO2規制(≒燃費数値向上)に対応させるためのものであったりと、その使命が動的パフォーマンス以外にも拡がっている。よって開発は急がれるが、コストはそれほど掛けられないというジレンマを抱えるエンジンでもあるのだ。

「EV SH-AWD」

 ホンダの誇るSH-AWD技術をベースに、4つの車輪に独立した駆動モーターを与えたスーパーマシン。この技術を搭載した「Electric SH-AWD with Precision All-Wheel steer」は、2015年の「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」で開発時の目標タイムを約7秒上まわる10分23秒829を記録し、エキシビションクラスで1位、総合11位を達成した。

 ベースはCR-Zだが、ご覧のように中身は別もの。車両重量は約1700kgというが、その半分以上が搭載するリチウムイオンバッテリーだ。ハンドル操作とアクセル&ブレーキによってドライバーが求める走行ラインを演算し、その結果を4つのモーターで独立制御することで、あらゆる路面状況であってもオン・ザ・レールでコーナーを駆け抜ける。ステアリングを切ったら切った分だけ曲がるウルトラニュートラルな特性には驚いた。無理にこじっても4つのモーターが制御するため、アンダーステアやオーバーステアに持ち込むことすら難しいという(装着タイヤは市販のブリヂストン「POTENZA RE-71R」)。残念ながら市販車への搭載計画は今のところないそうだ。

「第2世代i-MMD」

 現行アコードPHEVが搭載する「i-MMD」ユニットを昇華させたパワートレーン。現行の「i-MMD」が搭載する2.0リッターエンジンをダウンサイジング化(1.0リッターVTECターボか?)し、バッテリ容量を大幅に増やすことで、EV走行可能距離を3倍以上(≒100km以上)とし、モーター制御を変更することで100km/hでもEV走行が可能となった。

(Photo:高橋 学/西村直人:NAC)