インプレッション

マツダ「ロードスター(ND)」

ロードスターは僕の恩師

「ロードスター」がなければ今の僕はいない。そこまで言えるほどロードスターにはいままでかなり世話になってきた。初めての愛車として選んだ初代の1600ccのNAロードスターは、ドラテクがまだまだ未熟だった僕に、クルマの走らせ方を教えてくれた。後に雑誌の企画で乗ることになったNBロードスターでは、レースのあらゆる進め方を教えられた。

 そして直近ではNCロードスターを同業の先輩方と共同所有。スライドコントロールの練習に励み、車両コントロールのイロハをふたたび学び直し、結果としてメディア対抗レースでは5回も勝たせて頂くことができたのだった。すなわち、ロードスターは僕の恩師。タイヤテストだのレースだのとやっていられるのも、ロードスターというクルマが初代の登場以来、途切れることなく続いてくれたおかげだったといっても過言じゃない。

ロードスターの歴代モデル

 だからこそ新型ロードスターの誕生はかなり楽しみだった。それも、拡大傾向だったロードスターを初代のテイストに戻すために徹底した軽量化を行い、衝突安全や予防安全技術を盛り込みながらも、1t以下に収めるグレードまで用意したというのだから……。はじめて選んだあのロードスターのテイストが戻って来るなんて思いもしなかっただけに、期待は高まるばかりである。

 期待を強めたのは、2014年にお披露目されたシャシーを見た時だ。エンジンとトランスミッションを繋ぐベルハウジングには、外側に当然のように存在していたリブを持たせず、ツルンとした形状を展開。リアサスペンションは、メンバー上部が閉ざされていないことが伺えた。あるはずのものがない=軽量という図式が見えてくる。

 聞けばすべては車体側とトータルで剛性を持たせるという考えらしく、ベルハウジング単体で剛性を持たせるという考えをやめ、エンジン、トランスミッション、パワープラントフレームといったトータルで剛性を確保する考えに至ったというのだ。サスペンションメンバーだけに剛性を持たせず、ボディーと一体となった時に閉断面になるように設計されたことも、それと同様だ。クルマトータルで完成系となるように目指した結果が軽量化に繋がっている。

新型ロードスターはグレードは「S」「S Special Package」「S Leather Package」の3グレードを設定。撮影車は最上級グレードの「S Leather Package」(6速MTは303万4800円、6速ATは314万2800円)。ボディーサイズは3915×1735×1235mm(全長×全福×全高)、ホイールベース2310mm。車重は1020kg〜1060kg
ダークガンメタリック塗装の16インチアルミホイール(16×6 1/2J)を全車装着。タイヤサイズは195/50 R16 84V
アルミホイールは従来の5穴から4穴に。これも軽量化の一環
トランク容量は130L(DIN方式)
直列4気筒DOHC 1.5リッター「SKYACTIV-G 1.5」エンジンは最高出力96kW(131PS)/7000rpm、最大トルク150Nm/4800rpmを発生。JC08モード燃費は17.2km/L〜18.6km/L

 さらに搭載されるエンジンを1.5リッターとしたことも軽さへの回答なのだろう。アメリカ市場のリクエストに応えるかのように、1.8リッター、1.8リッターターボ、そして最終的には2.0リッターまで拡大してしまったロードスター。それを引き戻し、初代よりも小さい排気量で登場したところに潔さを感じる。結果としてパワーもトルクも大人しくなったが、あらゆる部分に容量が必要となくなり、ホイールも5穴から4穴へと縮小することができた。これもまた軽量化へ繋がっている。

 このほか、アルミの採用部分の拡大も見どころの1つ。バンパー内部のリーンフォースメント、フロントフェンダー、ロールケージ、さらにはフロントナックルやロールバー、幌の骨組みまでもがアルミ化されている。軽さに対する追及をここまでしなければ、初代のように1t未満に抑え込むことはできなかったというわけだ。先代のNC型でも“グラム作戦”と名付けられた軽量化に対する取り組みがクローズアップされたが、それ以上にあらゆる部分に拘った形跡が見られること、これぞ新型NDロードスターの凄さだと感じる。

手前が車両重量が990kgとなる「S」グレード、奥が「S Leather Package」

本命はS Special Package以上?

 そんなNDはどう走るのか? 今回は横浜の街中から首都高速までを走ることが許された。日常的な走りでどうよさを伝えてくるのかが楽しみだ。いざドライバーズシートに滑り込めば、これまでのロードスターとは違う空間がそこには存在していた。それはメーターの配列の仕方に始まり、パワーウインドーのスイッチがセンターではなくドアに配置されたこと、そして何よりドア内側にあるボディー同色に塗られたインナーパネルが、そのままフロントフェンダーへと繋がっているような感覚にさせてくれるから面白い。もうそこに馴染みのテイストは存在しない。

6速MTモデルのみを用意する「S」グレード

 さらに特徴的だったと感じたのは、ペダル配置がかなりセンター寄りに改められたことだ。これまでの3世代はベルハウジングの張り出しのせいでペダルが右側にずれ、真っ直ぐ座っているにもかかわらず、足だけは右に寄せて乗らなければならない、窮屈な感覚があった。新型でもその傾向がやや感じられるが、他のマツダ車と同様に自然に乗ることを目指していることはハッキリと感じられる。同様に、前述した新鮮さを感じたコクピットの造りも、他のマツダ車との共通性を重要視した結果だと山本修弘主査から伺った。ロードスターだけ特別なことをするわけにはいかない。ロードスターもまたマツダの一員だという思いが開発陣にはあるようだ。

パワーウインドーのスイッチがセンターではなくドアに配置された
ドライビングポジションは従来モデルよりリアタイヤに近い設定とされた
ペダル配置はセンター寄りに改められた

 まずは軽量化をとことん追求したモデルではなく、シリーズ最高峰のレザーパッケージの6速ATモデルから乗り始めた。すると1.5リッターを意識することなく、街中では過不足なくスピードを重ねてくれる印象があった。低回転の不満もとりあえずナシ。ビートが効いたエキゾーストノートも好感触だ。

 ただ、若干いつもと違う感覚が僕にはあった。それは自分が座っている位置が、今までとは明らかに違っているということだった。感覚としてはリアタイヤの上に自分がいるかのようなところがあり、フロントタイヤは遥か前方で操舵をしている。BMW「Z4」やホンダ「S2000」のようだと言えばいいだろうか。クルマの回転軸にそのまま座り、自分がやじろべえの上に座って自在に操っているような感覚が薄くなったように感じる。

 聞けばこれは制動時のドライバーの目線を安定化させることが目的で、ピッチングセンターをドライバー位置へ設定したのだとか。より正確に挙動を操れるようにという考えがその答えになっている。従来より人間はリアタイヤへ50mm近く、フロントタイヤは35mm前へと移動しているというから、今まで通りの感覚とはならないことは当然の流れといえるだろう。

6速MTモデルオンリーの「Sグレード」

 後に軽量の大本命である「S」グレードに試乗した。MTオンリー、しかもカーナビも装備されないというスパルタンなこの仕様こそ、唯一の1t切りを達成した1台。車両重量は990kgとなる。走ればやはり軽快さは上。カチッとしたシフトを繰り返し、加速を重ねて行くと、やっぱりこのクルマはFRオープンスポーツの王道を行くモデルなのだと再確認できる。エンジンは決してパワフルというわけではないが、7500rpmまで爽快感ある伸びを示し、絶対速度よりも音や風を感じさせることで歓びを与えてくれるのだ。

 ただ、前述したドライバーの位置設定はまだまだ馴染むことはできない。明らかによいクルマに変化していることは理解できるのだが、リアがめくれ上がるような感覚と相談しながら走っていたロードスターの世界とは明らかに変化したことが伺える。それでいて、リアは簡単に巻き込むような感覚があり、そのすぐそばに座らされているから、ちょっとの挙動で大きく動いたように感じるところが違和感だった。後にその印象を伝えると、Sグレードのみリアのスタビライザーが装備されておらず、ダンパーセットも違うという。さらにLSDもなく、トンネルメンバーも装備されていないことを教えられた。きっと、こうして意図的にリアを動かすような方向にセットされたことが違和感に繋がったのだと思う。新型ロードスターとしての本命は重さばかりにとらわれず、効率的に走りを追い求めたS Special Package以上かもしれない。

 かつて3世代に渡って乗ってきた馴染みの姿がNDロードスターにはもう存在していなかった。それは正直に言えば少し残念に感じる。だが、きっとそれは新たなる世界の幕開けということではないだろうか。効率的にすべてを進めることができたこの新型なら、これから新たなる走りの領域を展開し、きっと僕に次のステージを教えてくれる存在となると信じている。4世代目になり、ようやく新たなる走りの質を出し始めた、それがNDロードスターという1台なのだといまは感じている。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 Racingとエルグランド。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学