インプレッション
日産自動車「デイズ」「デイズ ハイウェイスター」
Text by 岡本幸一郎(2013/7/9 12:02)
スタイリッシュさを直感する外観
2011年の話だが、軽自動車の販売台数が多かったメーカーを上から順に挙げると、1位がダイハツ工業(54万5178台)、2位がスズキ(47万6138台)、そして3位が日産自動車(14万5432台)で、本田技研工業が4位(12万5018台)だった。ご参考まで、5位が三菱自動車工業(9万2662台)、6位がスバル(富士重工業)[8万4896台]、7位がマツダ(4万5488台)、8位がトヨタ自動車(6308台)と続く。なんと自前で軽自動車を生産していない日産が、生産しているホンダを上回ったのだ。
当時の日産は、「モコ」「ルークス」「オッティ」「キックス」「ピノ」「クリッパーバン/トラック」「リオ」といった8車種の軽自動車について、スズキと三菱自動車からOEM供給を受けており、50万台前後を販売したダイハツやスズキとは大きな開きがあるものの、暦年で合計してホンダを2万台超も上回る軽自動車を販売したのだ。さらには、OEMメーカーの姉妹モデルについても、日産ブランド車の方が売れるという現象もいくつかあった。
翌2012年には「N-BOX」の好調によりホンダが定位置である3位に復帰したわけだが、こんなことが起こったのは、ブランドのネームバリューや販売網の充実といった、日産の底力あってのことだろう。
日産としては、軽自動車以上に「マーチ」や「キューブ」を買って欲しいという思いもあっただろうが、平均して毎月1万台を軽く超える軽自動車を販売していることになるのだから、それはもう無視できない。
そんな日産は、そのころすでに軽自動車を今後どうしていくのかを踏まえた新たな策を打っていた。その策が三菱自動車と事業協力を行い、その一環として軽自動車や小型車の開発および生産等を目的として2011年に設立した合弁会社NMKVだ。その成果の第1弾となる新型車が、いよいよお目見えした。三菱自動車はかねてから用いてきた「eK」のネーミングを踏襲し、日産版は従来の「オッティ」を廃して「デイズ(DAYZ)」という新しい車名を立ち上げた。
ボリュームゾーンである軽ハイトワゴンの「ワゴンR」や「ムーヴ」、あるいはやや毛色は違うが「N-ONE」などの人気モデルを相手にすることになる中で、デイズはこちらを振り向かせるための訴求点をいくつか持っている。
まず燃費。発売時点で軽ハイトワゴンでNo.1となる、29.2km/L(JC08モード燃費)をマークしたことは、いずれ抜かれるにせよ名誉なことだし、ユーザーにとっても大きな魅力に違いない。
そして、日産と三菱自動車の両社の協業による内外装デザイン。一目見ても全体のシルエットがキレイだし、ボディーサイドに深く刻まれた3本のキャラクターラインも印象的に映るなど、スタイリッシュだなと感じさせるものがある。
なお、三菱自動車版のeKシリーズとはフロントマスクやホイールなど多くの点で差別化されており、バッヂだけ違うというわけではない。また、「デイズ ハイウェイスター」は日産お得意の「ハイウェイスター」シリーズの末弟という位置づけのモデルであることも、強みの1つだ。
軽自動車初のタッチパネル式オートエアコンとアラウンドビューモニター
インテリアに関しても、N-ONEは別としてワゴンRやムーヴなどキャラクター的にも好敵手である競合車とはだいぶ雰囲気が違う。収納スペースの数や容量をそこそこにとどめ、代わりに乗用セダン的なデザインや質感を追求したという印象。とは言え収納スペースも、これだけあれば十分と思えるレベルは確保されている。
インパネまわりの装備では、軽自動車初となるタッチパネル式のオートエアコンとアラウンドビューモニターが特徴的。ピアノブラック調のセンターパネルに設定されたタッチパネルはスッキリとしていて見た目にも先進的。皮脂の影響を受けにくい処理を施したとのことで、試したところ本当に指紋がつきにくい。
また、最初に見たときはバランス的に表示が大きいように感じたのだが、問題なく使えるよう検討した結果、この大きさが必要と判断したと開発関係者より聞いて納得した。走りながらでも操作する可能性のあるものにタッチパネルを用いるのはどうかなという気もしていたのだが、これなら大丈夫。これだけ表示が明るくて大きいと、視線移動して凝視しなくても情報が認識できるので、ブラインドタッチに近い感覚で操作できるし、誤操作してしまう可能性もあまりないだろう。
もう1つが、日産が得意とするアラウンドビューモニターだ。小さいクルマには不要という考え方もあると思うが、コストはかかるとは言え、あったほうが便利であることには違いない。全グレードで選べるわけではないが、上級グレードには標準装備され、カーナビのモニターではなくルームミラーに表示されるタイプとなる。なお、アラウンドビューモニターの設定があるかどうかは、三菱自動車版のekシリーズとの相違点でもある。
そのほかの快適装備では、エマージェンシーストップシグナル、コンフォートフラッシャー、ドアロック連動自動格納機能付電動格納式リモコンカラードドアミラーなどは全車に、紫外線を99%カットすると言うスーパーUVカット断熱グリーンガラスを採用したフロントドアが、大半のグレードに標準装備されるというのもポイントが高い。
なお、内装色は標準のデイズがアイボリー、ハイウェイスターがエボニーとなり、スエード調クロスのシート地を用いた高級感のあるシートが与えられる。
室内空間は、開放的で見晴らしがよい。後席の居住性も高く、前後スライド機構を備えたリアシートを最後端にすると、足下のスペースは相当に広くなるし、リアピラーにも小窓のある6ライトウインドーも手伝って高い開放感が得られるところもよい。
乗り心地がよく、静粛性が高い
試乗したのは、デイズの最上級グレードである「X」と、デイズ ハイウェイスターの最上級グレードである「G」の自然吸気エンジン搭載モデルだ。タイヤサイズは異なるが、サスペンションセッティングやパワートレーンは共通となる。
第一印象として、かなり快適性に気を配ったことがうかがえる。乗り心地がよく、静粛性も高い。スタビライザーを持たず、ソフトに味付けされたサスペンションは、よほどでなければ路面からの入力による衝撃をほとんど感じさせないほどしなやか。取り回し性に配慮してか、低速域ではやや軽すぎる気もしたが、速度が高まるにつれて手応え感の増していく電動パワステのフィーリングもわるくない。中~高速で巡航した際の直進安定性は、何かで制御されている感覚は小さく、素直に直進状態が維持できる印象だ。
このドライバーにとって優しい乗り味は、競合車に対するデイズのアドバンテージと言える。スタンダードの14インチタイヤのほうが、ハイウェイスターの15インチよりもマッチングがよく、微振動が起こりにくいようだ。
半面、横Gのかかるようなコーナリングでのロール角は深く、何らか制御するものが欲しい気もするところで、実際、ハイウェイスターG ターボの2WD車にはスタビライザーが標準装備されるようだ。取材時は車両の手配が間に合わず試乗することはできなかったが、エンジンフィールだけでなくフットワークの印象も、今回乗ったグレードとはかなり違うものと思われる。
「3B20」という型式で表記されたエンジンは、もとをたどれば三菱自動車「i」に搭載されたものがベースとなる。ターボ付きはハイウェイスターの最上級モデルのみに設定。そのほかのグレードに搭載する自然吸気エンジンには2種類が用意され、発売時点でハイトワゴンクラス最高となる29.2km/Lという低燃費を達成したモデルは、12.0という高圧縮仕様となる。今回は試乗したのは同仕様のみだ。トランスミッションは、全車に副変速機付きCVTを組み合わせる。
走ってみると、やはり低燃費を達成するためにそれ相応の努力をしたようで、変速比をできるだけ高めにして燃費を稼いでいる印象がある。半面、普通に流すぶんにはよいのだが、加速力としては全体的にやや物足りなさを感じたのが正直なところだ。
また、減速時に13km/h以下でアイドリングストップすること自体の制御は概ねよくできているものの、CVTにありがちなブレーキペダルの踏力を一定にしていても途中で減速感が変わる症状に、副変速機が絡んで余計不確実な印象になっているのも否めない。このあたり改善に期待したいところだ。
オススメグレードは、おそらく大半が女性ユーザーとなるであろう標準のデイズなら、よほどでなければ標準装備品の充実度が他グレードに対して圧倒的に充実している最上級の「X」を選ばない手はない。逆に言うと、「X」以外はアラウンドビューモニターやスーパーUVカット断熱グリーンガラス、オートエアコン、チルトステアリングなど、女性ユーザーにとってありがたい装備が選べないのだ。
一方のハイウェイスターは、標準のデイズよりも上級に位置づけられていることから全体的に装備が充実しているので、最廉価の「J」以外であれば「X」と「G」のどちらかを選び、好みのオプションを選択していけば満足できるであろう設定になっている。
ただし、VDC(横滑り防止装置)はターボの2WDのみでしか選べないところが残念だ。ご参考まで、ターボと廉価グレードにはアイドリングストップ機構が付かない。
このクラスの軽自動車の戦いは熾烈となっており、ホンダの躍進に対しムーヴが予定を前倒ししてマイナーチェンジを実施したほど。そんな中に送り込まれた日産と三菱自動車の共同開発車は、スタイリッシュな外観と上質な内装、そして快適性を武器に、三強時代に突入した軽自動車マーケットに一矢報いようという意気込みが伝わってきた。