オート上海2013

オートモーティブ事業の開始から30年目を迎えたボーズ

初めてオーディオシステムを搭載したセビルと最新モデルのXTSを展示

ボーズブース
2013年4月20日~29日開催

中国 上海市

Shanghai New International Expo Center

 今年で30年目の節目の年を迎えたこともあり、上海モーターショーに出展したボーズはオートモーティブ事業の起源となるセビルと最新モデルのXTSを展示。実際に両車のサウンドシステムを聞き比べることで、30年間の歴史やオーディオシステムの進化を体感できるブースになっていた。

上海モーターショーのホールE5に設置されたボーズブース
プレスカンファレンスでは、オートモーティブ事業の30年の歴史やGMと共同で行ってきたオーディオシステムの開発などについてのスピーチが行われた
ボーズオートモーティブチャイナのゼネラルルマネージャー、ジョン・マー氏
GM上海のゼネラルマネージャー、ケビン・チャン氏
ブースではオートモーティブ用以外にもホーム用の製品も展示。ノイズキャンセリングヘッドフォンの「QuietComfort」やiPod、iPhoneと接続する「SoundDock 10 Bluetooth」、TV用スピーカー「Solo」など、多彩な製品が並べられていた

 ボーズのオーディオシステムが初採用された1980年代初頭は、新型車両に対して専用設計したオーディオシステムを取り入れている自動車メーカーはなく、組み立てラインの最終段階で音響システムをセットするのが常套手段だった。高音質な音源をクルマで聞きたい場合は、アフターマーケット向けの製品を装着することが一般的で、「OEMのプレミアムオーディオ」という発想がなかったと言う。

 ボーズは1970年代からアフターマーケット向けの製品をラインアップしていたが、車両への取り付けができないことに加え、装着車両のインテリアの材質や形状などが分からないため、製品のパフォーマンスを最大限に引き出せているのか疑問な部分があった。

 そこでキャデラックとの共同開発を始めた。セビルに導入したオーディオシステムは、インテリアの材質や形状に合わせた専用設計とし、運転者や乗員が最適な状況で高音質なサウンドを聞けるように考えられていた。

 このように1983年にセビルにボーズの純正オーディオシステムが初採用され、車両における理想的な音響システムが構築されることになった。OEM製品を自動車メーカーと共同で開発するようになってからは、ボーズはアフターマーケット用の製品を一切リリースしていない。それだけ自動車メーカーと共同開発したオーディオシステムの完成度が高いということだろう。

 ボーズを立ち上げたDr.アマー・G・ボーズ氏は、オートモーティブ事業を始めるきっかけとして「いつの日にか、家よりも車内で聞くサウンドの方がよくなるときがくるだろう」と語ったそうで、その理由として、音の再現には「機器を置く空間」「機器を置く場所」「聞き手の座る位置」という3つの重要な要素があるという。ホーム向けの製品では、その機器がどんな部屋に置かれているのか、またどこに置いてあるのか、そして聞き手がどこに座っているのか、状況は家庭によって異なる。

 だが、クルマという限られた空間で、自動車メーカーとともに一からオーディオシステムを開発することができれば、音の再現に重要な3つの要素がすべてコントロールできる。それゆえ、「家よりも車内で聞くサウンドの方がよくなるときがくる」という言葉になったのだ。

 セビルから始まったボーズのプレミアムサウンドシステムは、30年の時を経て現在ではキャデラックを始め15以上の自動車メーカーとブランドに導入され、名実ともにユーザーやメーカーから評価されるまでに至っている。

OEM製品として初めてボーズが採用されたキャデラック・セビル。展示されていたのは1985年式となるが、初めて採用されたのは1983年式と同様のモデルとなる。
スピーカーの右上には「ボーズ」のロゴが入る。スピーカーやサウンドシステムにブランドロゴを入れたのもボーズが初めてと言う

 ボーズのオートモーティブ事業のあらましに続いては、展示車両のオーディオシステムについて触れてみたい。

 展示された1985年式のセビルは、上海モーターショーのためにアメリカで購入し、レストアを施して運んできたと言う。

 デモンストレーション用にCDデッキが追加された以外は純正のまま。前後に2つのスピーカーがセットされた4スピーカータイプで、アナログのアンプを通して出力される。実際に音楽を聞いてみたが、クリアな音質とともにどことなくレトロな雰囲気が感じ取れ、サウンドが心地よく耳に入ってくる。とても30年前のオーディオシステムとは思えないほどの音だったが、最新モデルのXTSと比べると30年の進化を実感することになる。

 キャデラックXTSは、「Studio Surroundサウンドシステム」や「Centerpoint」テクノロジーといった最新機能に、14個の高性能スピーカーをセットした最新のオーディオシステムを組んでいる。

 Studio SurroundとCenterpointは、擬似的にステレオソースの音源をサラウンド化でき、ライブ感のある音楽を車内で聞くことができる。元々サラウンド化された音源ならばその効果は絶大で、映画館のど真ん中に座っているかのようなサウンドを楽しむことができる。これらのサラウンドシステムに加え「AUDIOPILOT」と呼ばれる機能もある。これは、たとえばトンネルを通過するときや車外が雨などで雑音が入るときに、音量を自動的に調整してくれるシステムだ。

 純粋なオーディオシステムとは異なるが、XTSにはANC(アクティブ・ノイズ・キャンセレーション)やEHC(エンジン・ハーモニックス・キャンセレーション)というパワートレーンのノイズを軽減させる機能も装備されている。ボーズのヘッドフォンのノイズキャンセラーにも使われている技術と似たANCは、スピーカーから逆位相の音を発することによりパワートレーンの不快なこもり音などを打ち消し、キャビンを静かにする効果を持っている。

 またXTSには採用していないが、ボーズではEHCとは逆の効果を求めたEHE(エンジン・ハーモニックス・エンハンスメント)という機能も実用化していて、ハイブリッドやCVT車などでエンジン音を強調させてキャビンに届けるというコントロールも行っている。

 このように現在では、ボーズのサウンドコントロールはオーディオだけではなくエンジンを含めたパワートレーンまで広がっているのだ。

キャデラック最大級のセダンとなるXTSは、2012年から米国や中国で販売されているモデル。国内ではヤナセが輸入販売を行っている
高性能のスピーカーが14個セットされ、Studio Surroundサウンドシステムにより高級感のあるサウンドを表現している。肩口のスピーカーはドライバーの耳に直接に音を届けるのではなく、周辺に音場を作りサラウンド感を演出する。天井には集音スピーカーがセットされキャビン内の音をモニタリングする。合計4つの集音スピーカーは、3つがアクティブ・サウンド・マネージメントに使われ、残りの1つはオーディオパイロットに使われる
キャデラックのブースにもボーズのオートモーティブ事業30周年を記念した展示が行われていた
ボーズブースと同様にXTSによるデモンストレーションが体験できるようになっていた
1983年に初めてGMとボーズが共同で開発し、キャデラック・セビルに組み込んだスピーカー
1986年にキャデラック・シマロンに初採用したアンプ。省スペース化が図られたモデルとなる
1998年にセビルに初採用したデジタル式のアンプ。初めてオーディオパイロットを導入したモデルでもある
2003年にキャデラックXLRに初採用したシート内蔵スピーカー
2005年にキャデラックSTSに初採用したデジタルアンプ。14の出力チャンネルがあり、初めてスタジオサラウンド・サウンドシステムが使われることになった
最新のXTSに採用されているデジタルアンプ。アクティブノイズキャンセレーションやセンターポイント機能を装備している

真鍋裕行

1980年生まれ。大学在学中から自動車雑誌の編集に携わり、その後チューニングやカスタマイズ誌の編集者になる。2008年にフリーランスのライター・エディターとして独立。現在は、編集者時代に培ったアフターマーケットの情報から各国のモーターショーで得た最新事情まで、幅広くリポートしている。また、雑誌、Webサイトのプロデュースにも力を入れていて、誌面を通してクルマの「走る」「触れる」「イジる」楽しさをユーザーの側面から分かりやすく提供中。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。