イベントレポート

【東京モーターショー 2019】トヨタの経営会議は「資料なし、アジェンダなし」。豊田章男社長と5人の副社長による経営会議を公開

「(来場者数は)なんとか100万人を本日達成できると思います」

2019年11月2日 開催

豊田章男社長

 トヨタ自動車は11月2日、東京モーターショー 2019のトヨタブースにおいて、豊田章男社長と小林耕士氏、河合満氏、寺師茂樹氏、吉田守孝氏、友山茂樹氏の5人の副社長が参加する経営会議を実施した。

トヨタ経営会議 in 東京モーターショー2019(52分35秒)

 東京モーターショーのトヨタブースという場で経営会議を行なった理由について豊田社長は「先週私がこの場でトークショーを行なったとき、いろんな方から質問をいただきました。その中で『トヨタのマネジメントはどうやってやっているのか?』というご質問を受けたので、出張中のディディエ・ルロワを除く副社長を集め、毎週行なっている経営会議を公開してお見せしようと思いました」と話した。

登壇した5人のトヨタ自動車の副社長

 豊田章男社長と副社長が参加する経営会議は「資料なし、アジェンダなし」がルールだという。その理由は「資料を作るといっても、われわれ自身が作るわけではないので、内容が陳腐化してしまう。またアジェンダを作ると、われわれ以外の者が決めた優先順位で物事が決まる可能性があるから」と豊田社長は説明する。

 そして経営会議は、豊田章男社長から各副社長に質問する形式で進められた。最初の話題は、2019年の株主総会でもっとも話題になったという自動車の事故について。豊田社長が「最近、なぜこんなに事故が増えてしまったのか」と投げかけると、吉田副社長がまず「10年間の日本における交通事故の死者数は5200人ほどから3500人ほどに減ってきている」としつつ、一方で高齢者の死亡事故の割合は横ばいで減っていないと現状を指摘。さらに「死亡率が急に上昇する75歳以上の免許の保有者は、この10年間で約2倍になっていて、今後さらに増えていく。このため高齢者の事故というのが問題」との認識を示した。

吉田守孝副社長

 高齢者の事故で多いのがペダルの踏み間違いである。75歳超の人はそれ以下の年齢層のドライバーと比較し、ペダルの踏み間違いによる事故が約8倍も発生していると吉田副社長は話す。このペダルの踏み間違い事故への対策の1つとして、近接センサーで障害物を検知して自動でブレーキを行なう仕組みがある。これによって事故が7割減っているとしつつ、「この数値を多いとみるかどうかが大きなポイント」だと吉田副社長は述べた。

予防安全システムであるICS(インテリジェントクリアランスソナー)により、踏み間違いによる事故の発生率は約7割低減されているとした

 これを受けて豊田社長は、「われわれは交通事故死をゼロにしたいという思いでずっとやってきている。事故が7割減ったといっても、3割で事故が残っている。これをゼロに近づけるために、われわれメーカーは何をすべきか」と問うと、吉田副社長は「1つは自動運転の技術を使い、システムのレベルを上げることが非常に重要」と語った。

 この自動運転について、寺師副社長は「自動運転は別に難しいことをやっているわけではなく、認知をして判断をして操作をする。この3つの行動をAIと機械を使って自動化するもので、自動運転の技術はこれらの行動すべてをサポートできる。完全にロボットに置き換えるというよりも、ドライバーをサポートして、高齢者になって能力が落ちても上手に運転できることが自動運転の一番の狙い」だとした。

寺師茂樹副社長

 次の話題となったのは、台風などの災害時に自動車はどのように役立つかについて。その一例として紹介されたのが、「プリウス PHV」など一部の車種で最大1500Wの電源を供給できること。寺師副社長は「電子レンジや炊飯器などに使える。みんながすごく助かると思います」と紹介し、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車を所有しているのであれば、コンセントがあるかどうかを確認し、もしあればいざというときに使えるように1度試しておいてほしいと会場に語りかけた。

電動車が提供する電源供給機能が災害時に役立つ自動車の機能として紹介された

 経営会議の話題はビッグデータにも及んだ。豊田社長が「最近ビッグデータってよく聞くけれど、これは災害にも役立つんですか」と問いかけた。これに対し友山副社長は、「役に立ちます。トヨタのコネクティッドカーは日本で100万台ほど走行していて、そこから通行実績が送られてきます。そのビッグデータから“この道が通れるよ”という情報を収集し、通れた道のマップを災害直後から公開しています」と話した。

友山茂樹副社長

 ただ、この情報だけでは道路が冠水しているかどうかまでは判断できない。そこで紹介されたのが、タクシーに搭載した通信型のドライブレコーダーを活用した新たな取り組みである。これは映像と走行データから冠水のレベルが分かるというシステムで、友山副社長は「この情報を通れた道マップに加えようとしています」と、今後の通れた道マップの拡充を説明した。

タクシーに搭載したドライブレコーダーを活用し、道路の冠水状況を把握するシステム

 次の議題は「HV・PHV・EV・FCV トヨタの進む道は?」というもの。まず豊田社長が「何をもって電動車と言っているのか」と問うと、寺師副社長は「HV、PHV、EV、FCVのどれも電池とモーター、そしてモーターを動かすパワーコントロールユニットという3つの部品が載っているので、これらはすべて電気自動車だと言えます」と語った。

寺師副社長が説明した、4つの電動車の違い

 また、豊田社長の「4つある電動車の種類の中で、トヨタはどれをいち押しにして、どういう割合でやろうとしているのか」という問いに対し、「本音で言うと、お客さまがこれを買いたいと思った結果が割合になっていくということになるので、どれを選んでいただいてもいいようにすべてを用意する」と寺師副社長は述べる。

 その後、河合社長が過疎地に行ったときのエピソードを紹介した。そこでは1人乗りの超小型EVである『コムス』がマイカーとして広く使われていたという。その上で「ガソリンスタンドがなかったり、あるいは足がわるくて集会に行けなかったりといったときに、どのクルマを選べばよいのか。そこに対して、作る人や販売する人がもっと丁寧に『こんな安全装置が入っているよ』といったアピールが足りないとすごく思っています」と話した。

 これに続けて「すべてのクルマは万能ではないということでしょうね。お客さまがどういう使い方をするのか、クルマをどういうパートナーにしていただいているのかということで、われわれ自動車関係者、販売店も含めてその人の使い方、ライフスタイルにあったクルマを勧めていくことが大切でしょう」と豊田社長は語った。

河合満副社長

 最後の話題となったのは、運転免許を返納した後のサポートについて。小林副社長は「自動車産業は、免許を取っていただいて、クルマを買っていただくことでここまで来ました。それを考えると、免許を返納した人に対してのサポートをまず私たちがやるべきでしょうと言ったのが社長で、各メーカーに呼びかけたんです」と話す。

 その具体的な取り組みの1つとして紹介されたのが、広島県三次市でマツダが始めた「支えあい交通サービス」である。「JRが廃線になり、電車での移動が難しくなったということで、マツダさんがクルマを提供し、現地のNPOと一緒になってご高齢の方を送り迎えしている」と小林副社長は説明した。

小林耕士副社長

 愛知県豊明市では、部品メーカーであるアイシン精機が「チョイソコ」というサービスを行なっている。「ちょっとそこまで行くのにも足がないのでお金がかかる。そこでドラッグストアなどにスポンサーとなっていただいて活動している取り組みです」と紹介し、「全自動車メーカーの販売店の人が、お客さまに困りごとを聞きに行っている最中で、これをもっと展開することでお客さまが動ける楽しさを提供できるようにやっています」と、免許返納後のサポート、あるいは地域における移動手段の確保に向けた取り組みを説明した。

免許返納後のサポート、あるいは公共交通機関がない地域への支援についても紹介された

 最後に小林副社長が「なんでこんなこと(経営会議の公開)をやったんですか。われわれはえらい迷惑なんですよ」と会場の笑いを誘いつつ豊田社長に尋ねた。これに対して豊田社長は、「モーターショーに来ていただく人の数がどんどん下がってきた。今までと同じやり方では難しいんじゃないのかと考えた」と話し、「トヨタはちょっと違う切り口で、クルマに興味のない方、未来を一緒に創っていきたい、そういう方にアトラクトするブースを用意しました」と説明。その一環として今回の経営会議があったとした。

 さらに「自動車工業会としても100万人のお客さまをお呼びしようとやってきました。なんとか100万人を本日達成できると思います。本当にありがとうございます」と述べつつ、「必ずや次のモーターショーには100万という規模で各社が動き始めますし、ほかのインダストリーも動き始めると思います」と将来に言及する。そして「ぜひとも今後もトヨタ自動車および自動車業界、そして日本のものづくり業界を応援いただきますよう本当にお願いいたしまして、ご来場の御礼に代えさせていただきます」と挨拶し、イベントを締めくくった。

川添貴生