長期レビュー
伊達淳一のスバル「XV」と過ごすクロスオーバーな日常
第5回「スバル乗るなら付けなきゃ損のEyeSight(アイサイト)」
(2013/2/26 00:00)
XVにEyeSight(アイサイト)を付けたのは正解だった
ボクがスバルXVを購入した決め手は、なんといっても個性的なホイールデザインとオレンジのボディーカラー、エッジの効いたリアフォルム。つまり“見た目”が大きなウエイトを占めているわけだが(笑)、当然のことながら、クルマとしての性能……単なるエンジンパワーだけでなく、クルマのサイズ感(最低地上高200mmのSUVでありながら、多くのタワーパーキングにギリギリ入る)や悪条件における走破性能(シンメトリカルAWD)、安全性なども含む総合的な性能も重視している。
特に、クルマは、自分の命を預ける相棒だけに、安全性は重要だ。人間、歳を取ってくるとどうしても反応速度が鈍ってくるし、1つのことに気を取られると、ほかのことがおろそかになりがちだ。かくいうボクも、若い頃はテレビの内容を聞き流しながら原稿書きができたのだが、最近は原稿書きにフッと集中するとたった今テレビで何を放送していたのか、まったく分からないことが多くなってきた。50歳を超え、身体のあちこちのパーツが老朽化してきているのが自分でも分かる。そういう意味では、“ぶつからないクルマ?”でおなじみの先進の運転支援システム「EyeSight(ver.2)」は、なんとも心強い存在だ。
ただ、問題は購入資金。もともと1500ccクラスのステーションワゴン系を考えていたので、1番下のグレードの2.0iでもすでに予算オーバーだった。しかし、ディーラーオプションはクルマを購入後でも後付けできるが、メーカーオプションは後付けは不可。どうしても、というのなら、クルマを買い換えるしかない。ちなみに、スバルXVのグレードは、2.0i/2.0iL/2.0i-L EyeSightの3種類で、EyeSightが搭載されているのは最上位グレードなのだが、やはり妥協してEyeSightを外したら、後々絶対後悔するに違いない。当初考えていたよりも50万円以上予算オーバーになるので、しばらくカメラやレンズに散財できなくなりそうだが、ここは思い切って決断。毒を食らわば皿まで、ということで、SRSサイドエアバッグ+カーテンエアバッグも装着したのだった。
さて、スバルXVを乗り始めて3カ月が過ぎたが、改めて思うのは、予算的に苦しくても思い切ってEyeSightを付けたのは正解だったということ。EyeSightは、衝突回避のための「プリクラッシュブレーキ」だけでなく、「全車速追従機能付きクルーズコントロール」や「AT誤発進抑制制御」、「警報&お知らせ機能」も備えている。とりわけ全車速追従機能付きクルーズコントロールは、高速道路のロングドライブや渋滞時にはもはやボクにとって欠かせない機能となっている。今回は、このEyeSightを中心にお届けしよう。
●プリクラッシュブレーキ
脇見運転とまではいかなくても、別のことに気を取られ、ブレーキをかけるのが遅れて、前のクルマにぶつかりそうになった経験は誰しもあると思う。そんなとき、ドライバーに代わって、衝突を回避するために自動で緊急ブレーキをかけてくれるのが「プリクラッシュブレーキ」(略してプリクラとも)だ。
EyeSightのプリクラッシュブレーキ動作は3段階あり、まず、衝突の危険があると判断した場合、まず第1段階として「ピピピピ!」という警報音を鳴らすと同時に、マルチファンクションディスプレイに[前方注意]という警告表示を点滅させる。それでもドライバーが危険に気づかず、ブレーキをかけたり回避行動を行わないときには、警報ブレーキ(1次ブレーキ)が軽くかかり、その衝撃によって衝突の危険をドライバーに通知する。
それでもドライバーがブレーキを踏まないときは、「ピーー」という連続した警報音に変わり、衝突を回避、あるいは被害を軽減するために、強力な自動緊急ブレーキ(2次ブレーキ)がゴンと作動する。さすがに、相手との速度差が30km/h以上だったり、タイヤのコンディションや路面状況によっては、自動緊急ブレーキでも止まりきれずにぶつかってしまう可能性もあるが、なにもしないでぶつかってしまうよりは被害が軽減できるはずだ。また、ドライバーが警告音に気づいてブレーキを踏んだ場合には、ブレーキアシストが作動し制動力を高めてくれるという。パニックブレーキを踏み慣れていない人にはありがたい機能だ。
XVを買う前に、ディーラーの敷地内で販促用立て看板でプリクラッシュブレーキを体験してみたが、低速ではなかなかプリクラッシュブレーキが作動しないので、思わず自分でブレーキを踏みたくなったほど。まるでチキンレースのようだが(笑)、じっと我慢して看板に突っ込むと、警告音に続いて軽く警報ブレーキがかかり、最終的には緊急ブレーキがゴンとかかり、あと数十cmというギリギリの車間で停止するのを確認できた。ただ、数秒後には「ピッ、ピッ、ピッ、ピー」という電子音が鳴って自動ブレーキが解除されてしまい、クリープでクルマが動いてしまうため、すぐにブレーキを踏む必要がある。
ちなみに、XVが納車されてまず真っ先にしたのは、プリクラッシュブレーキの作動確認。一般道でプリクラッシュブレーキがちゃんと正常動作するかどうかを試すのは難しいので、クルマを受け取りにいった帰り際にディーラーに例の立て看板を用意してもらい、ぶつからずに停止することを確かめさせてもらった。
実際の道路では、プリクラッシュブレーキの最終段階までいったことはないが、第1段階の警告表示はそれなりにある。というのも、スピードが出ていると制動距離も長くなるので、クルマのスピードが出ているときには早いタイミングで警告が出る。信号が変わっていきなりスピードを落とさないといけないときなど、前方にクルマが停車していると警告表示が出ることが多い。
また、誤動作というほどではないが、ショッピングモールや地下の駐車場、高速道路のIC(インターチェンジ)など、通行路がらせん状になっている場合、ガードレールや壁を障害物と判断して警告音が鳴ることがあるし、出入り口のバーに勢いよく近づくとやはり警告が出ることがある。前方に右左折しかけてまだお尻が残っているクルマがあるときなども警告音が鳴ることがあるが、間違って緊急ブレーキがかかって逆に危ない目に遭うような事態には遭遇していない。
●全車速追従機能付きクルーズコントロール
プリクラッシュブレーキは、ドライバーの不注意による衝突を回避(もしくは衝突被害を軽減)してくれる機能なので、保険と同じでできればこの機能のお世話にならないのが理想だ。一方、日常の運転でありがたみを感じるのが「全車速追従機能付きクルーズコントロール」。いわゆるクルマについていく機能だ。
クルーズコントロール(クルコン)は、高級車なら付いていて当たり前の機能なのだろうが、EyeSightのクルーズコントロールは、アクセルを踏み続けなくても設定した車速を維持して走行できるだけでなく、前方に(設定速度よりも遅い速度で走行している)クルマを認識すると、自動的にスピードを落とし、適度な車間距離を保ったままで走行してくれる。前方のクルマがいなくなれば、自動的に設定したスピードに戻り、走行し続けるのだ。つまり、アクセルもブレーキも踏む必要はなく、ドライバーはステアリング操作だけで済む。車速の設定もステアリングホイールのレバー操作でワンタッチで変えられる。
正直、この機能を体験するまでは、アクセルを踏んで走るのは当たり前のことなので、「別にそんな機能あってもそんなにありがたみはないんじゃないの?」、と思っていたのだが、実際、全車速追従機能付きクルーズコントロールを使って高速道路をロングドライブしてみると、疲労感がまるで違うのだ。微妙な上り坂、下り坂でも、設定した車速で自動的に走ってくれるので、アクセルコントロールに神経を使う必要もない。これが、自分でアクセルを踏むと、知らず知らずのうちにオーバースピードになりやすいのだが、EyeSightのクルーズコントロールにアクセルワークを任せてしまえば、不思議と走行車線をゆったりと走る心の余裕ができてくる。
また、EyeSightのクルーズコントロールがもっとも威力を発揮するのが、高速道路のノロノロとした渋滞。ロングドライブでヘトヘトになり、眠気も襲ってきているときの渋滞は最悪だ。ふとした油断で、ブレーキが遅れ、コツンと先行車にオカマを掘ってしまう危険が高い。そんなときでも、EyeSightのクルーズコントロールは全車速対応なので、ノロノロとした渋滞でも、自動的にアクセルやブレーキをコントロールして、適度な車間距離を保ちながら先行車についていってくれる。これは、非常にありがたい機能だ。ノロノロ渋滞のためだけでもEyeSightを付ける価値があると思う。
ただ、先行車が停止し、自車もクルーズコントロールで完全に停止してしまうと、その2秒後にピッピッピッという電子音がして自動ブレーキが解除、クリープ現象でクルマが動き始めてしまうので、自車が完全に停止した場合にはドライバーがブレーキを踏む必要がある。ちなみに、同じEyeSight(ver.2)でも、レガシィなら自車が完全に止まっても停止状態を維持してくれるという。その点はちょっと悔しいぞ(笑)。
●AT誤発進抑制制御
ブレーキとアクセルを踏み間違えて店舗に突っ込む、といった事故が後を絶たないが、こうしたドライバーの不注意によるミスを未然に防いでくれるのが「AT誤発進抑制制御」。停車中や徐行中に必要以上にアクセルを踏み込んだ場合、EyeSightのカメラが前方に障害物を認識すると、警報音と警告表示でドライバーに知らせると同時に、自動的にエンジン出力を抑えて急発進しないようにする機能だ。
ただし、この機能が動作するのは「前進時」のみ。EyeSightのカメラで障害物を検知するのだから当然といえば当然かもしれないが、セレクターを「D」に戻したつもりで「R」のままアクセルを踏み、焦ってさらにアクセルを踏み込む、といったミスには対応できない。次世代のEyeSightでは、リアカメラかコーナーセンサー等を併用して、後進時の急発進抑止や車庫入れの衝突防止機能が付くとありがたい。
ちなみに、この機能のお世話になったことはないが、信号待ちで先行車がいるときに、信号が青に変わってちょっと急発進気味にアクセルを踏み込むと、警告音や警告表示と同時に、スッと加速のパワーが抜けたことがある。おそらくAT誤発進抑制制御が働いたのだろう。まあ、燃費面でも安全面でも急発進はやめなさい、ということだ。
●警報&お知らせ機能
地図などを見ていて信号が青に変わったのに気づかず、「プッ」とクラクションを鳴らされたことはあると思う。こんなときもEyeSightが付いていれば、先行車が発進して約3m以上離れても自車が発進しない場合には、「先行車が発進しました」という警告表示とピッという警告音で知らせてくれる。ただ、ノロノロ渋滞中に交差点に差し掛かり、ちょうど先行車が交差点に進入したときに、信号が黄色から赤に変わり、自車を停止させた場合でも「先行車が発進しました」と促されるのはご愛敬(笑)。EyeSightのカメラはモノクロらしく、信号の色までは判断できないようだ。
また、約40km/h以上で走行中に、車線を逸脱、または逸脱しそうになると、「はみだし注意」という警告表示と、ピピピピという警告音が鳴る。駐車車両や歩行者・自転車を避けるため、車線をまたいだだけでも警告音が鳴るのでわずらわしく感じるかもしれないが、教習所で習ったとおり、事前にウインカーを点滅させてから車線をまたいだ場合は警告音は鳴らない仕様。こうした機能が余計なお世話に感じるなら、ループランプまわりにある車線逸脱警報OFFスイッチを約2秒長押しすると、車線逸脱警報をOFFにすることも可能だ。
このほか、約50km/h以上で高速走行時に、いねむり運転などで車両の蛇行を検知し警報音と警告表示で注意を喚起してくれる「ふらつき警報」も備わっている。ただ、車線逸脱警報をOFFにした場合には、ふらつき警報もOFFになるので、高速道路のロングドライブ時には、車線逸脱警報はONにしておくのが無難だろう。
EyeSightにも弱点はある
EyeSight(ver.2)は、ステレオカメラで前方の視界を捉え、先行車や歩行者、車線などの情報を3次元的に捉え、必要に応じてアクセルやブレーキを自動制御するシステムだ。ミリ波レーダー等を使ったシステムに比べ、比較的安価なのが特徴で、2.0i-Lと2.0i-L EyeSightの価格差は約10万円。EyeSightの機能と恩恵を考えると、いくつかのディーラーオプションを後付けにしてでも付けなきゃ損だと思う。
ただし、EyeSightにも弱点はある。ステレオカメラからの情報に頼っているので、人間の目と同様、逆光や霧、フロントガラスの結露など前が見えづらいときには、障害物を検知できず、自動的にEyeSightの機能はOFFになる。また、EyeSightの誤認識を避けるため、ダッシュボードにアクセサリー類を設置するのは基本的にNG(ガラスに映り込んでEyeSightの認識に悪影響を及ぼす可能性がある)。ワイドミラーやフロントガラスへのケミカルワイパー(撥水コート)の使用もメーカー的にはNGだ。フロントウインドーにドライブレコーダーを設置しようと思っても、ルームミラー裏はNGなので、EyeSightのカメラユニットの左右しか設置する場所がない。
ただ、このあたりは、あくまでメーカーの立場としてはNGであり、実際にはステレオカメラの視界を妨げないように十分配慮すれば、ワイドミラーやルームミラー裏へのドライブレコーダーの設置は決して不可能ではないし、ケミカルワイパーもワイパーを併用して大きな水滴が視界を妨げないようにすれば特に問題はないようだ。ただし、メーカー推奨外の使い方なので、こうしたことが原因でEyeSightに不具合が起きても、それはユーザーの自己責任、というスタンス。当然、設置するのもユーザー自身の手で、ということになる。そうした不自由さは多少あるが、そのあたりは実際にディーラーと相談して、EyeSightへの影響がありそうかどうか確認してみるといいだろう。
伊達淳一
1962年生まれ。作例写真家。学研「CAPA」、Impress Watch「デジカメWatch」等でデジタルカメラ評価記事を執筆。レビューする機材の自腹購入が多いヒトバシラーだ。これまで乗ってきたクルマはトヨタコルサ、三菱ランサー、日産ウイングロードと、すべて1.5リッターの2WD。都内を走ることが多く、どちらかといえば小回りが効き、できるだけたくさん荷物を積めるというのがクルマ選びのポイント。今回、自身初となる2.0リッタークラスAWD(4WD)の「スバルXV」を新しい相棒として選んだことで、果たして行動範囲はどう広がるのか? クロスオーバーな日常がスタートした。