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タイヤセンサーで摩耗や路面を予測。横浜ゴム 取締役常務 野呂政樹氏に「インテリジェント タイヤ コンセプト」について聞く

アルプスアルパインと共同開発

横浜ゴム株式会社 取締役常務執行役員 野呂政樹氏(技術統括兼研究先行開発本部長兼MB生産・技術担当)。横浜ゴムの技術を統括する

 横浜ゴムが「第46回東京モーターショー2019」で発表した「Intelligent Tire Concept(インテリジェント タイヤ コンセプト)」。タイヤの内部に取り付けられた特殊なセンサーでデータを収集し、それをクラウドに送信。送られてきたデータをAI(人工知能)などを使って解析し、タイヤの摩耗状態などを推定することで、タイヤのローテーションや寿命を管理するとともに、パンクなど万が一のときにレスキューサービスにつないでいこうとするもの。タイヤのデータを解析することで路面の状態を推定できるともしており、安心・安全なクルマ利用を期待できる技術になる。

 また、今は人が主に運転しているため、乗る前にタイヤの摩耗をチェックするなどタイヤの変化は容易に分かる。ところが将来自動運転が普及してくると、運転者がいないクルマなどではタイヤの正確な状況把握をできるシステムは必須となってくる。タイヤが摩耗してバーストが起きてしまえば、どんなよいサスペンションを持っているクルマでも、対応しようがないためだ。

 そのような将来を見すえて作られたのが横浜ゴムのインテリジェント タイヤ コンセプトになる。

 この横浜ゴムのインテリジェント タイヤ コンセプトの特筆すべき点は、横浜ゴムとアルプスアルパインが共同で開発ことだ。アルプスアルパインは、電子部品などを手がけるアルプス電気と、車載情報機器などを手がけるアルパインが経営統合したもので、各種センサーなども多数開発している。

 横浜ゴムは、なぜアルプスアルパインと協業したのだろうか? そしてインテリジェント タイヤ コンセプトの技術的可能性は? 横浜ゴムの取締役常務執行役員であり、技術統括兼研究先行開発本部長兼MB生産・技術担当と、同社の技術を統括する野呂政樹氏に聞いてみた。


インテリジェント タイヤ コンセプトは、横浜ゴムとアルプスアルパインが共同開発している

──アルプスアルパインと一緒にクラウドに進もうと思ったのはいつごろからですか?

野呂常務:クラウドというより、センサーが先にありました。ただ、いつごろ始めたかな。結構前になります。

 まずセンサー開発そのものは、アルプスアルパインさんが得意な部分があります。私たちはタイヤの技術が得意です。その両方の技術がないとセンサー開発ができないということがありました。自分たち単独では難しかった部分があります。ちょうどアルプスアルパインさんとそういうタイミングがあり、「じゃあ、一緒になってやろうか」ということになりました。

 スタートはあくまでも、センサー開発にあります。摩耗検知だったり、路面検知だったりということにどうやって取り組んでいこうかという部分です。実際に仕事を始めてみると、アルプスさんが得意ないろいろな分野がありました。今後、それについて取り組んでいけるのではないかというところです。

──センサーを扱う会社は数多くあると思うのですが、横浜ゴムがアルプスアルパインと組む決め手はなんだったのでしょうか?

野呂常務:まず、センサーもあるのですが、自動車メーカーに信頼されているメーカーであるというのがあります。(アルプスアルパインさんは)国内の自動車メーカーだけでなく、海外の自動車メーカーとも取り引きされているので、非常に現場力があります。一緒になってやっていくときに、海外の自動車メーカーさんも視野に入れられることになります。運よくお話をいただけたこともあります。

──タイヤに取り付けられるセンサーというと、タイヤの空気圧を計測するTPMS(Tire Pressure Monitoring System)が実用化されており、一般には分かりやすいと思います。今回の取り組みは、タイヤの摩耗を計るであるとか、路面検知であるとか技術的なハードルが高そうに思えます。現時点で、どこまでできているのでしょうか?

野呂常務:どこまでできている……。

──タイヤ摩耗や路面検知は、タイヤの内側に取り付けられているセンサーから、逆の面を予測することになります。難しいと思うのですが。

野呂常務:タイヤが摩耗してくると、タイヤに入力されるものが変わります。そのデータの傾向を過去のデータと分析して、ある程度目処を付けている状態です。これで行こうかい、行くまいかい、という状況です。最終的には、実践的に世の中で検証していかなければならないので、大量の確認データが必要になります。現時点では今まで自分たちがやってきた知見とタイヤの特徴をというところです。トレッドが減ると振動特性が変わります。路面の1箇所だけだとデータは増えませんけど、連続的に入ってくるデータを拾うことによって、「これは減ってきている」ということを見られるのではないかと。

──路面検知も、摩耗と同様難しい技術だと思うのですが?

野呂常務:路面検知も、連続データの傾向から判断しています。実際には、データと今のAI技術を駆使して探していくことになると思います。

──アルプスアルパインだと、地図データなどのノウハウもあると思うのですが。その地図データと、センサーで取得した連続データを突き合わせていくのですか?

野呂常務:それと今まで私たちが持っているものを融合しながらです。現時点は私たちが結構持っているデータを主体にやっています。

──ミシュランは、サーキットのタイムアップのためにスマホと連携するセンサー入りタイヤシステム「TRACK CONNECT(トラック コネクト)」を発表しています。横浜ゴムとしては、タイムアタックとかスポーツ方向の用途は考えなかったのですか?

野呂常務:考えていないわけではないですよ(笑) 他社の動向はきちんと見ています。ただ、我々はこちらの方向をしっかり進めたいということで、アルプスアルパインさんとお話をしています。

──連続データの解析はすでに始まっていると思うのですが、データを解析してタイヤの摩耗検知とか路面検知とかはいけそうですか?

野呂常務:いけます。いけると確信をしています。もう少し進めていくと、ここまでいくかなと思っています。

──東京モーターショーというタイミングで発表した理由は?

野呂常務:タイミング的には、ものが完全にできあがってから発表するという考え方と、途中で発表するという考え方があると思います。ものができあがるタイミングより、もう少し前で、どこかで説明したいと考えていました。

 どのタイミングがよいかというと、世の中に私たちがプレゼンテーションする機会がよいと思っていました。東京オートサロン、海外のモーターショーとかありますが、私たちの関係から東京モーターショーというのが一番よいのではないかと。タイミング的にもよいのではないかと。私たちが考えているコンセプト、そして世の中の流れ、今の時代のクルマの流れなどを考慮してこのタイミングとしました。


 野呂常務は、この技術の実用化がすでに視野に入っているという。これからの問題は、この技術をどのように実装していくかにあるだろう。店頭で購入できる市販タイヤで始めるのか、もしくは自動車メーカーと協業することで、標準装着タイヤで始めるのか。野呂常務は「クルマ側に一体化されているほうがユーザーは楽なので」と、標準装着タイヤでの実施にユーザーメリットがあるとし、すでにいくつかの自動車メーカーと話に入っていることを示唆してくれた。

 タイヤの摩耗や路面検知ができるだけでも、これまでにないクルマの楽しみが広がっていく気がするが、クラウド管理が進めば経済的なメリット出てくるほか、より安全・安心にタイヤを使っていくこともできるようになる。横浜ゴムとアルプスアルパインのチャレンジがどのようなタイヤの世界を切り開いていくのか、その実用化を楽しみに待ちたい。