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ホンダ「NSX」誕生30周年記念トークショー 開発陣と佐藤琢磨選手がNSXの歩みを振り返る
2020年11月24日 14:48
- 2020年11月21日 実施
本田技研工業は11月21日、誕生30周年を迎えたスーパースポーツ「NSX」のファンへの感謝の気持ちを込めて、「NSX30周年記念トークショー」を開催。“最高への挑戦、夢=引き継がれるチャレンジ”をトークテーマとして行なわれた。
イベントはTVやラジオでおなじみのサッシャ氏が司会進行を務め、全3部構成でスタート。会場はホンダ青山本社1階(東京都港区)にある「ウエルカムプラザ青山」を特別に貸し切って、30周年にちなんで事前抽選に当選した30名のNSXファンを招待しつつ、オンラインでも同時配信された。
初代NSXの開発について語られた第1部。スペシャルゲスト佐藤琢磨選手が登場
第1部は「初代NSXの開発」と題し、初代NSXの開発責任者である上原繁氏が登場。開口一番「この30年は長いようで短かった」と振り返り、今でも当時の苦労を鮮明に覚えているとあいさつ。初代NSXは研究開発から実車開発まで6年かかっていて、当時は4年くらいが普通だったのでかなり時間がかかったことで、発売したときは「やっと出せた」と安堵したという。当時はF1の第2期活動が絶頂期のころだったので、それもあり「快適F1」というコンセプトを掲げて開発がスタートしたという。特に“誰でも運転できるように”することに2~3年を費やしたとのこと。
たくさんある苦労の中でも特にエアバッグについてを挙げ、当時はレジェンドに世界で初めて採用したが、スーパースポーツカーのステアリングの中心部分は小さいため、エアバッグを格納することが大変だったという。また、当時4WSの研究も進めていたが、NSXにはまだ採用しなかったと秘話を明かした。また、ホンダが昔から掲げている「人間中心」という哲学に基づき、一般の人が乗れる究極の性能を持つスポーツカーを目指したという。
「エアコンやエアバッグといった快適・安全機能を装備すれば当然車体は重くなるので、アルミ製のボディになったのは必須の流れで、このアルミがNSXの基本コンセプトを成立させている素材でもある」と上原氏。こうして量産車世界初のオールアルミボディが誕生したという。またアルミは軽いだけでなく鉄よりも強度があり、長く乗ってもやれにくい特性も持ち合わせていると語った。
さらに開発当時、鈴鹿サーキットにマクラーレンF1チームがテストに来ていた際、開発中のNSXをアイルトン・セナに試乗してもらったところ「剛性がない」と厳しい指摘を受けたことを吐露。それを受けニュルブルクリンクに持ち込み鍛え上げていったという。
さらにイベントには特別ゲストとして、2017年モデルのNSXオーナーでもあり、インディ500で2度目の優勝を成し遂げた佐藤琢磨選手も登場。中学生のころにスーパースポーツカーである初代NSXが登場したことを、当時ワクワクして見ていたこと、当時父親の知り合いがAT車のNSXを持っていて、助手席に乗らせてもらったら「あれ?意外と普通のクルマだな」と感じたこと、今でも一般市販車の中でこれだけ一体感を味わえるクルマは他にないと語った。さらにNSX タイプRは、よりドライバーの意思に応えてくれる1台で、所有する喜びも与えてくれるとともに、レーシングカーのフィーリングを味わわせてくれるクルマだという。
第2部は2代目NSXの開発について。オーナーに話を聞いて理解していったNSXの本質
第2部では「2代目NSXの開発」と題し、2代目NSX(2017年モデル)開発責任者のテッド・クラウス氏がアメリカからオンラインで登場。続いて2019年モデルの開発責任者である水上聡氏も登場した。
クラウス氏は、当時アメリカの自動車メーカーに勤務していたが、デトロイトショーで初代NSXを見たときに「ホンダの開発の考え方を知りたい」と思い、翌年ホンダへ転職。栃木の研究所で「人間中心」というホンダの哲学、ホンダのクルマ作り、同時に日本語も学んだという努力家。水上氏は当時ダイナミクスマイスターとしてNSXの開発に携わっていて、クラウス氏のことを「コミュニケーションを取りやすいアメリカ人は初めてで、開発当時はいろいろなことを毎晩遅くまで語り明かした」と当時を振り返った。
クラウス氏は「NSXはコンセプトがしっかりしていたので、上原さんの思想、水上さんの考えなどを頑張って取り込んだ」と語った。また、実際にNSXオーナーにも話を聞くなどして、技術とドライバーのためのクルマがNSXであると理解していったという。また、当時は電子的な機構を取り入れることはスタッフの半分以上に反対されてしまったが、試作して全員で試乗しながら、モーターのレスポンスのよさがNSXのよさを磨き上げると納得して、途中からSH-AWD(Super Handling All-Wheel-Drive=四輪駆動力自在制御システム)を採用する方向へと軌道修正したと明かした。水上氏も「あれは本当の技術的にとても難しい機構だった思います」と語った。
そして佐藤琢磨選手は、2代目NSXの開発中期にアメリカにおけるテストドライブを担当していたこともあり、関りも深いという。会場では2019年モデルと2017年モデルとの比較試乗を行なったというテストドライブの映像が流れ、ボディの大型化に伴う重量増をいかに感じさせないか、“意のままに”というのが本当に難しいが、一旦すべての電子制御を解除してドライブし、できる限り制御を少なく、素のNSXを味わえるように仕上げていったと明かした。
水上氏も2019年モデルを開発するにあたり、特に「クルマとの一体感」を掲げ、クルマの走った軌跡をイメージして開発していたという。フロントをより低く見えるようにボディと同じ色のグリルにしたり、中身と一緒に外観も機能が見えるように目指したという。
第3部はQ&Aセッション。MTモデルの追加は……?
第3部はオーナーやファンからの質問にゲスト全員で回答する形式で進行。NSXを復活させようとした理由や、初代のようにR、S、TYPE-Rといったグレード展開は2代目では行なわないのか? NSXでワンメイクレースをやってほしい、などさまざまな質問が寄せられた。
中でも初代と2代目に共通のゆずれないこだわりに関して聞かれると、上原氏は「人間中心という点はホンダのフィロソフィーそのものなので、絶対に譲れないですね」と回答。クラウス氏は「NSXという言葉自体がすでに上原さんのコンセプトであって、例えばAピラーを細くして視界をよくしたりなど技術が人間中心となっている」と紹介。水上氏も「人間中心のスーパースポーツにつきる。それがあるから新しい技術の電気技術を含めても、血の通った制御にしたいと考えて開発している」と回答した。
また、「マニュアルトランスミッションは出ないのでしょうか?」という質問に対して水上氏は「スーパースポーツをあらゆるシーンで乗ることを考えて、今回DCT(デュアルクラッチトランスミッション)を選択しているのですが、これはこれでものすごく奥が深くて、まさにここにいる佐藤琢磨選手が中に入っているかのようなシフトチェンジをクルマがやってくれるわけです。また、自分で動かしたいと思えばパドルシフトも付いている。レスポンスも素晴らしいですから、今はDCTをもっと育てていきたいと思っています」と述べた。