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三菱ふそう、クレイモデル作成工程などデザイン作業も紹介する「デザイン・エッセンシャルズ」開催

2021年4月14日 開催

三菱ふそうトラック・バスの本社にあるデザインセンターを公開

 三菱ふそうトラック・バスは4月14日、川崎市の本社にあるデザインセンターにおいて、“ふそうデザイン”についてのイベント「デザイン・エッセンシャルズ」を開催した。ふそうデザインの3つの原則を紹介しながらブランドのデザインの今と未来を紹介。さらに、クレイモデル作成工程などデザインの作業の一部を公開した。

3つの原則に沿ってデザインを進めている

デザイン・エッセンシャルズ を開催

 イベントでは、ダイムラートラック・アジア デザイン部 部長のベノワ・タレック氏がふそうデザインについて説明した。タレック氏は三菱ふそうはダイムラー・グループのいち部門であるが、各ブランドが独自性を持ち、尊重されているとして「これまでの伝統もあり、その機能性も強化していかねばならない」と述べた。

ダイムラートラック・アジア デザイン部 部長 ベノワ・タレック氏

 また、タレック氏は商用車について「プロに使われる専門道具、使いやすく安全でなければならず、清潔で効率的、修理しやすい」とし、「トラックとバスは至るところにあり、トラックとバスで社会に貢献したい」と述べた。

 デザインについて「美しくするだけのデザインではなく、デザインのアイデンティティを備えている」とし、デザイン部門ではクルマの内外装のほか、スマートフォンアプリのデザインや、社員の制服、社内スペースのレイアウトもデザインし、ふそう全体をデザインしているとした。

ふそうデザイン
3つの原則
3つの原則の詳細
シンプルさの追求
明確なアイデンティティ
確かな品質

 そして、ふそうのデザインの3つの原則は、シンプルさの追求、明確なアイデンティティ、確かな品質。シンプルさの追求では時代に左右されないシンプルな造形とし、明確なアイデンティティではふそうブラックベルトの採用、確かな品質という点では、見る角度を変えるとデザインが変わる、意図的に細部にこだわってデザインを採用していると説明した。

 ブラックベルトについては「エアロクイーンのエレガントなかたちから、キャンターのようにパワフルなイメージも必要」とし、同じブラックベルトをフロントに持ちながら、車種やサイズに合わせて割合を変化させていることを紹介した。

デザインによる効果を示した「Power of Design」

 イベントではブースに分けて紹介。「Power of Design」では、デザインの工程とデザインによって生み出される効果を紹介した。デザインは格好よさの追求だけでなく、快適性、効率、経済性などをバランスさせる効果があるとして、インテリアでは、デザインのちからによって導かれるような操作性を実現することや、カラーや素材、仕上げによってドライバーの感情に与える影響を検討、安全にもつなげているとした。

Power of Designのブースにはキャンターが並ぶ
デザインを追求することで、格好だけでなく効率や経済性もバランスできるという展示
同じヘッドライトとブラックベルトデザインながら、固有のキャラクターが与えられる
突起要件や組立性など多くの要求をデザインに盛り込んでいく
操作性に直結する機能面でもデザインには役割がある
カラーや素材、仕上げによってドライバーの感情への影響なども検討している

 また、ふそうブラックベルトを採用した上で、大型バスの「エアロクイーン」、マイクロバスの「ローザ」、小型トラックの「キャンター」ではブラックベルトデザインと同じヘッドライトのパーツを採用するが、ラインアップの統一感をとりながら、固有のキャラクターを表現しているとした。

小型トラック「キャンター」の標準キャブとワイドキャブ。幅が違うだけのように見えて、それぞれ細部をデザインし直している

 標準キャブとワイドキャブのモデルが展示され、一見、幅が違うだけのデザインのように見えるが、ブラックベルト部分の細かな形状などは、それぞれのキャラクターに合わせて設計したもの。比較することで、幅が違うだけではない、細部に渡ってデザインされていることが理解できた。

デザイナーのデスクを再現した。紙への手書きやペンタブレットなど、各デザイナーの好みのツールで仕上げていく
手書きのデザイン画を立体に起こしていく様子
壁にはスケッチが並ぶ

技術進化や社会動向から予測した「Future of Mobility」

「Future of Mobility」では予想される技術的進歩と予測される社会動向やニーズ、デザインの融合を図っているアドバンスデザインを紹介した。2040年を思い描いた「Vision I.RQ」は山岳での遭難救助を想定したもの。燃料電池で走行する下まわりと、その上に載せるキャビンを組み合わせ可能にしたモビリティとなる。

山岳での遭難救助を想定した「Vision I.RQ」。ふそうブラックベルトにはレーダーを埋め込んだデザインとなっている
燃料電池で走行する下まわりに、さまざまなキャビンを組み合わせることができる。燃料電池のパワートレーンも将来想像されるものに沿っている

 さらに、三菱ふそうがドローン分野に進出する予定はないものの、「Vision I.RQ」に搭載するドローン「Heri.Droid」を使ってファースト・エイド・キットを運ぶ場面も展示。未来のレスキューを提案した。

 また、ドローンについては「Heri.Droid」とは別に、新しい浮力を得るプロペラのユニットの形状も提案し、安全面と機能面を両立したドローンを提案した。

「Vision I.RQ」の活躍の様子をイメージ化した。コミック調のものある
「Vision I.RQ」にドローン「Heri.Droid」を搭載したイメージ
「Vision I.RQ」に搭載するドローン「Heri.Droid」
「Vision I.RQ」などの説明
ドローンの展示はほかにもある。新しいプロペラのユニットを提案した展示

VRを使って世界中のデザイナーとコラボする「Remote Collaboration」

「Remote Collaboration」ではVRを使って海外など離れた場所にいるデザイナー同士でデザインを検討する用意が公開された。VR空間ではデザインされたクルマをさまざまな風景に置いて状態を確認することが容易だが、これを離れた場所のコラボレーションにも応用した。

VRを使って離れた場所の人と作業する「Remote Collaboration」。左がドイツ、右が日本という想定。それぞれ相手がVR上に表示されている

 VR空間上に相手の様子も映しだされる。VR上で自分の手を写し、ものに触れたり動かしたりすることができ、慣れればコラボ相手とVR空間上でハイタッチも可能。

ゴーグルを付けてVR空間にいるデザイナー。後方のモニターはゴーグルを付けていないほかのスタッフのためにある

 なお、現在VRによるコラボレーションは、VR設備の整ったデザイン部門のオフィスから行なっている。自宅からのリモートワークでの対応も将来の検討はしているが、VRのための機器の用意や、スムーズにVR空間を動かすためのインターネット回線も必要で、すぐに実現は難しいという。

クレイ職人の重要性は変わらない「Sprit of Craftsmanship」

「Sprit of Craftsmanship」のコーナーではクレイを削る専門のモデラーの仕事を紹介した。デザインの工程は今では最初のイラストからPC上で行なうことが可能だが、工業用粘土を使ったクレイモデルによって実際の3Dに表現、細部を確認する工程の重要性には変化はないという。

「Sprit of Craftsmanship」ではクレイを削る様子を実演
数値制御切削(NC切削)でクレイを削っている
さらにデザイナーが修正を加えていく
数値制御切削(NC切削)で削ったばかりの状態
削った窪み部分が本来の形状になるので、そこまで全体を削っていく

 大型のクレイモデルを作成するときは、数値制御切削(NC切削)で荒削りまで行ない、表面はモデラーが仕上げていく。おおよその形まで機械化できたことでモデラーの仕事は減ることはなく、むしろ、省力化したぶんは、より細部までデザインを突き詰めることに費やしている。その結果、デザインの完成度は以前よりも高められている。

クレイモデルにシートを貼り、実車のイメージに近づける。その上で修正などが発生する
シートを貼り付けていく様子
修正を加えたあとは、3Dスキャナで再度データ化し、再び修正を加えていくことを繰り返していく

 また、工程もクレイモデルを一度削って終わりではなく、できあがった形を見ながらさらに細部を修正、形を表したあとに3Dスキャナで再びデジタル化。数値制御切削(NC切削)で再びクレイモデルの荒削りが行なわれるということを何度も繰り返す。機械化が進んだところは省力化するが、浮いた時間はさらに細部まで作り込むことに費やされるという。

クレイ職人が使う道具
クレイで施策した各アイテム
材質は工業用粘土のほかも使う