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トヨタやホンダが出資するモネに、スマホアプリ「MONETアプリ」開発の背景を聞く
2021年6月14日 17:12
トヨタ、ホンダなど日本の自動車メーカーの多くが参画するMONET
新しいモビリティサービスやMaaS(Mobility as a Service)が社会的に注目される中、トヨタ自動車とソフトバンクが共同出資して2019年2月1日に事業開始したのがMONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)。その後、モネには本田技研工業、日野自動車、いすゞ自動車、スズキ、スバル、ダイハツ工業、マツダが資本参加。日本の多くの自動車メーカーが参加して、モビリティの課題解決に取り組んでいる。
そのモネが6月10日に新たに発表したのが、オンデマンドバスやモバイルクリニックを可能とするというスマホアプリ「MONETアプリ」。このMONETアプリでは、地域を切り替えて全国のオンデマンドバスサービスを利用可能であれば見られるようになり、モビリティサービス利用の利便性が上がっているように見える。このMONETアプリについての詳細をMONET Technologies 代表取締役副社長 兼 COO 柴尾嘉秀氏、同 事業推進部 加藤卓己氏、吉田泰基氏の3名にうかがった。
MONETの目指すものは、課題解決と地域活性化
柴尾COOは、モネのミッションについて「自動運転の時代を見据えてモビリティの課題解決」していくことだという。そのため、新しいサービスを提案する際にも、そこには将来の自動運転社会を考えて取り組んでいる。
モネは前述のように2019年2月に事業開始したが、この2年で523の自治体に訪問し、全国89の基礎自治体および北海道、長野県、愛知県、大阪府、鳥取県、佐賀県と連携。いくつかの自治体とは新しいモビリティサービスを開始している。
その大きなものの代表が群馬県富岡市との取り組みで、基幹バス、コミュニティバス、オンデマンドバスといった市内全域のバスを統一。市内全域を走ることができるよう、バスのサイズをトヨタ「ノア」に小型化しオンデマンドバスとした。バス停数は301か所を設定。利用者はオンデマンドバスを呼び、市内の決まったバス停で乗降できる。
長野県伊那市では医療MaaSとしてモバイルクリニックバスを運用。車両には運転手と看護師が乗り、患者の自宅付近まで訪問。バスには医師と会話できる遠隔モニタが設置されており、患者と医師が話をできるほか、医師の指示のもとで問診や診療を行なうことができる。医師同乗ではないため治療はできないが、通院しづらい患者のサポートはできることになる。
もちろん自動運転の実証実験にも取り組んでおり、広島県東広島市ではAutono-MaaSとして自動運転シャトルを運用。実験なので乗務員は乗っているが、往復5kmのコースを走って自治体とともに知見を蓄積している。
柴尾COOは、このような各自治体との2年の取り組みの結果、ワンストップでさまざまなモビリティを提供するスマホアプリ「MONETアプリ」の開発にいたったという。
ワンストップでサービスを提供するMONETアプリ
MONETアプリには、事業者向けと利用者向け2つの側面があるという。モネの特徴として車両情報を「MONET PF(モネ・プラットフォーム)」で一元管理しており、その車両情報を使って運行管理を効率化できる。事業者はその車両情報を使いながら、オンデマンドバスやモバイルクリニック、お得なクーポン情報を提供でき、利用者の利便性アップを図っていける。
このようなサービスを自治体が行なうことについて「民業圧迫?」と思う人もいるだろうが、人口密度の高い都市部はともかく、地方ではバスなどの公共交通機関は市営で行なわれていることが多く、運転手の高齢化や過疎化などで基幹バスの運行がコスト的にも人的リソース的にも難しくなっている。将来的になんらかの取り組みを行なわなければならず、その一つの解決策をモネは提供しているわけだ。
このMONETアプリを事業者が使うことで、クーポン情報の代わりに自治体からのお知らせといった情報も出していくことが可能になり、現在新聞携帯で配布している自治体情報のコストダウンにもつながる。すべての人がスマホを使えるような時代はまだ来ていないが、オンデマンドサービスについては自分の位置情報を伝えることができるスマホを使うのが効率的であるのは間違いなく、いずれはそうした時代になっていく。
利用者にとっても、オンデマンドバスや訪問してくれるモバイルクリニックはありがたく、それがMONETアプリのようにワンストップで提供されるのであればさらによいのは間違いない。
現段階の進行状況を聞いてみると、スマホアプリ「MONETアプリ」を出すと発表したばかりで、リリース日の8月へ向かって利用事業者を募っている状況。とはいえ、すでにモネと一緒になってMaaSを提供している自治体もあるわけで、それらについては順次このアプリにサービスが実装されていくものと思われる。
このオンデマンドアプリの開発を行なっている吉田氏によると、「住民の方々が求められているサービスをひとくくりで提供したい」というのが開発の背景にあり、今後はモバイルクリニックのようなサービスをこのプラットフォームに順次提供できるようにしていくという。
コロナ禍で望まれるモバイルクリニックの発展
コロナ禍の時代において、注目が集まりやすいのはモバイルクリニックのサービスかもしれない。モバイルクリニックなど医療MaaSを担当する加藤氏によると、伊那市でのモバイルクリニック実証で要望の高かった機能として次回の診療予約だという。診療をした際に次の診療日を予約したときに、それを覚えておきたいという要望が強くあるとのこと。MONETアプリでモバイルクリニック実装時には、その機能をユーザーアプリ側で提供していくという。
また、将来的な構想として「例えば患者さまの家族であるとか、関係者のみなさまにも通知できるような機能というのを考えている状況です」とのこと。乳幼児や高齢者などサポートを必要とする患者は多く、それらのニーズに応えていきたいと語る。
このMONETアプリのよいところは、リソースを最適化してモバイルクリニックを行なえること。医師や看護師の少ない地域では医師の移動時間を節約することができ、看護師に対しても効率的な移動ルート、病院の割り当てなどを行なっていける。もちろんかかりつけ医などの制度もあるため、効率化最優先ではないが効率化とパーソナライズを同時にできる可能性を持っているのもスマホアプリならではとなる。
コロナ禍という時代、ワクチン接種の加速化という現状を考えると、このモバイルクリニックでモバイルワクチン接種などはできないのだろうか? それについて聞いてみると、法律などさまざまな問題があり医師が乗っていないと医療行為は行なえないとのこと。現在ワクチンは接種効率を優先して大規模会場や自治体の会場、職域接種で希望者が訪れる形を取っているが、ある程度それが終われば次は個別接種の段階に行く必要がある。そうしたときに、このモバイルクリニックというプラットフォームがあることで自治体の問題解決になるのかもしれない。
ただ、モネとしてはまずはこのMONETアプリを一緒に進めていってくれる事業者、そしてMONET PFを利用してくれる事業者を募集しているとのこと。多くの事業者が参加することで事業者にとっても利用者にとっても有用なサービスとなっていくだろう。