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ル・マン24時間100周年、小林可夢偉選手兼チーム代表が5度目のポールポジションに挑む

小林可夢偉選手兼TOYOTA GAZOO Racing WECチーム代表

 ル・マン24時間100周年のポールポジションを決めるハイパーポールが、日本時間の8日深夜(9日3時)に始まる。ハイパーポールは、前日の予選セッションで16台のうち上位8台が進出可能。予選セッションでは、フェラーリが1-2位を、TOYOTA GAZOO Racingが3-4位を獲得した。

 このハイパーポールに5度目のポールポジション獲得を目指して挑むのが小林可夢偉チーム代表兼選手。小林可夢偉選手は2021年のル・マンウィナーでもあるのだが、2017年に記録した3分14秒791は現在のレイアウトになってからのコースレコードで、ル・マン24時間最速のドライバーとしても知られている。

 そんな小林可夢偉選手に、テストデー後に話を聞くことができた。可夢偉選手はチーム代表でもあるため、話はどうしてもル・マン直前の5月31日に行なわれたWEC CommitteeによるハイパーカーカテゴリのBoP(Balance of Performance)変更についてのものとなった。

WEC Committee Balance of Performance of the Hypercar category

・重量

CADILLAC V-Series.R 1035kg → +11kg → 1046kg
FERRARI 499P 1040kg → +24kg → 1064kg
GLICKENHAUS 007 1030kg → ±0kg → 1030kg
PEUGEOT 9X8 1042kg → ±0kg → 1042kg
PORSCHE 963 1045kg → +3kg → 1048kg
TOYOTA GR010 - Hybrid 1043kg → +37kg → 1080kg
VANWALL Vandervell 1030kg → ±0kg → 1030kg

 キャデラックにはスティントあたり最大エネルギー量が+1MJ、フェラーリには+2MJ、トヨタには+4MJと、ハイブリッド用のエネルギーが用意される。ただ、これはエンジンとの出力バランスの変更となり、トヨタにとってポルシェより軽かった車重がハイパーカークラスで最も重くなるなど、重量面で厳しくなっている。

 小林可夢偉チーム代表は、テストデーの感触を「ちょっと厳しいな」と表現する。その理由としては、やはり37kg重くなったことにより、タイヤへの負荷が増加。タイヤが想定していない重量での走行となっていることを挙げる。

 とくに指摘したのがタイヤの“ガケ”で、コーナリング中にグリップの限界を超えると、いきなり厳しい状況になるという。「コーナリング中にどれだけ力をかけたときにタイヤががまんしてくれるかというカーブ」といい、このカーブの先がガケになっているという。「だからなんとなるだろうと言っても、ぜんぜんなんない。タイヤが、ああ滑りましたって言ったら、まあもう(グリップが)ないですね。うん」と、最高峰クラスのドライバーのみが知る世界を語ってくれた。

 このWEC Committeeのルール変更には、選手としてチーム代表として当然疑問を感じている。このル・マンのためにチームみんなでいいクルマを作ってきたら、ル・マンの直前にルールが変わりハンデが増えた。みんなでがんばっていいクルマを作ったら、直前に厳しい状況になってしまった。

 その状況に対して、「みんなをハッピーにする、ハッピーにしないっていうのはもう無理なんですよね。モータースポーツでは。でも唯一、唯一みんなが納得する、落ち着く部分ていうのは、ルールにのっとってレースをやるっていうことなんです。もし(直前で)ルールを変えるなら、安全性しかないです。唯一ルールを変えるというシチュエーションで何かしらあるとすれば、それ以外は誰も納得しないと思う」(可夢偉代表)と語る。

 スポーツは必ず勝者と敗者が存在し、どれだけ努力しても必ず勝てるというものではない。努力しなければ勝てず、努力しても勝てないこともある。だからこそ、スポーツを見ている人に努力や気持ちが伝わり、大きな感動へとつながっていく。

 モータースポーツは、とくに高度な道具を使うスポーツであり、大人が、大メーカーが本気で取り組んで、それを優れたアスリートが限界で操り、競う。90回を超え、100年に達したル・マンの歴史には、その物語が刻まれている。だからこそ、可夢偉代表はフェアであってほしいと語る。

 可夢偉代表は、このような状況について「ここで、はい分かりましたというわけにはいかない。それだけがんばってくれる人がいて、その結果を得るべきだと思うんですよ。それがやっぱり最終的にスポーツだと思うのです。逆にこういうこと(直前のルール変更)で、よろこぶ人や悲しむ人が変わってしまうのは、スポーツではなくなってしまう」と語り、走行データなどはFIAが全チーム分持っているので、しっかり判断してほしいという。

 ただその上で「始まったらやるしかない。なにをしても。ただ始まってもいない段階であきらめることは、やっぱりそれはダメだなと。ダメというのは自分らがどうこうではなくて、これだけがんばってくれる人がいる。気持ちっていう部分では、やっぱり最後まで戦い続けないと。強いチームはなんなのかという部分だと思うので」と、チーム代表としてみんなの顔になって、最後まで戦っていくという。

 とくに可夢偉代表は、選手でも代表でもあるために決断を行なっていく立場にある。「夜ここで(ル・マンで)決断したことを、夜中にメッセージを送ったら日本側はもう朝。すぐに返事が来るから、だんだんとそっから寝られなくなる。ホテルかえって、まあ4時起きです」と、なかなか激務とのこと。

 ただ、その激務についても「まあ、あの、人生でこういう時間を過ごせるときもなかなかないと思うので。これはこれで、うん。やりきる方が、人生を後悔しないと思いますね。うん」と語ってくれた。

 可夢偉代表は、「ボクだけがんばっているのではない。みんながんばっている」といい、5度目のポールポジション獲得やル・マン24時間の6連覇に挑んでいく。

 この翌日に予選セッションが行なわれ、既報のとおりトヨタは3-4位で2台ともハイパーポールに進出した。ハイパーポールは日本時間の8日深夜(9日3時)に始まるため、残り2時間を切った。

 チーム側から出された小林可夢偉選手の予選セッション後のコメントも掲載しておく。

小林可夢偉(チーム代表 兼 7号車 ドライバー)

 忙しい初日でしたが、練習走行で、2台ともトラブル無く走ることができて良かったと思います。決勝レースへ向けてクルマのバランスは良くなっていますし、今日の我々の目標は、明日のポールポジションを争うために、2台共にハイパーポールへ進出することでした。簡単ではありませんでしたが、なんとか達成できました。正直なところ、現時点で我々にはポールポジションを獲得するために充分な速さがあるかはわかりません。練習走行で一歩一歩着実に進化しているので、更なる改良へ向けハードワークを続けていきます。