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ソフトバンク、鈴鹿サーキットの基地局を強化し通信容量3.6倍に F1日本グランプリ開催時に速度を測ってみた
2024年4月26日 18:13
鈴鹿サーキットで、1年半前の3.6倍という容量を実現したソフトバンクの通信ネットワーク
2024年のF1日本グランプリが4月5日~7日の3日間にわたって鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開催された。2023年の秋開催は3日間合計22万2000人の人出があり大きな話題となったが、2024年はそれを上回る3日間合計22万9000人。本当に数多くの人が、F1という世界的なイベントを楽しんだ。
ちなみに、単日の入場者数は、練習走行日(金曜日)5万人(昨対8000人増)、予選日(土曜日)7万7000人(2000人減)、決勝日(日曜日)10万2000人(1000人増)となっており、土曜日は減ったものの、平日の金曜日は大幅増。春開催になっての春休みが影響しているようで、子供連れの姿を見かけることも多かった。
これだけ人が集まるイベントで問題になるものの一つとして挙げられるのは、スマートフォンの電波状況が悪化することだろう。今やスマホはモータースポーツ観戦に欠かせないもので、ライブタイミングを確認したり、お気に入りのドライバーやチームのSNSを見たり、そして自分で発信したりと、スマホがつながらないことでことによる不便さは説明不要のレベルだ。
そこでこういったイベントでは、回線を提供する携帯キャリア各社は移動基地局というものをイベント会場に派遣する。動く電波塔みたいなもので、人が多そうなところに配置することで、スマホとの回線を確立。一つの基地局に多くの回線が集中しないような配慮を行なっている。
ソフトバンクは、人が集まることの多い鈴鹿サーキット周辺において、基地局のような移動局で回線混雑を避けるのではなく、固定基地局を設置して回線混雑を解決する決断をした。
とくに多くの人が利用し、高速通信の要望が強い5G回線を強化。5Gの基地局の新設および既設基地局の増強工事を実施し、高速・大容量通信が可能なSub6(3.7GHz帯)をはじめとする5Gのネットワークを大幅に強化したという。
さらにこの5Gでは、一人一人に専用の電波を割り当てることで快適なモバイル通信を実現する技術「Massive MIMO(マッシブマイモ)」、スタンドアローン(Stand Alone)方式による「5G SA」も導入し、高品質な通信サービスを年中通して提供するという。
つまり、電波塔をしっかり建てて、ちゃんとつながり、ちゃんと通信できるような環境を整備したと3月28日に発表している。
基地局は、鈴鹿サーキット内に4つ、サーキット外に4つ。さらに稲生駅とゆうえんち駐車場に1つずつの計10か所
今回、記者は鈴鹿F1という鈴鹿サーキットが最も混雑するときに現地を訪れることができたので、実際の使用感などをお伝えしていく。とはいえ、どこに電波塔があるのか分からなかったため、金曜日に鈴鹿サーキットで電波調査を行なっていたソフトバンクの方に案内をしていただいた。
基地局の位置などを教えていただいたのは、ソフトバンク株式会社 エリア建設本部 東海ネットワーク技術部(取材日時点) 伊藤雄治氏と、同 上田祥子氏。普段から東海地区の電波状況を調べており、伊藤氏は昨年秋のF1開催中も計測機器を背負いながら過ごしており、その知見が今回の回線増強につながっている。
まず、基地局だが鈴鹿サーキットの施設内に4か所、施設外に4か所の計8か所を設置。さらにゆうえんちの駐車場地区に1か所、F1などイベントの帰路に混雑状況となっている伊勢鉄道鈴鹿サーキット稲生駅周辺に1か所、計10か所の恒久的施設を設けている。
基地局の数え方としては、近くにある一連の施設を1か所と数えており、アンテナを設置する柱が2つ建っていても1か所と数えている。各種のアンテナ群で送受信を行なっていることになる。
最初に案内していただいたポイントは、鈴鹿サーキットのメインゲート近くにあるアンテナ密集地。ここには、各社の移動基地局が押し寄せていたが、ソフトバンクは移動基地局車を出さず、恒久的なアンテナを設置している。
アンテナ柱は長いものと短いものの2つあり、それに各種のアンテナを取り付け。高い位置に取り付けられている縦長の長方形のものがSub6で、正方形に近いものがマッシブマイモとなるのだろうが、ポイントはつながるかどうか。
この時点でSPEEDTESTアプリを動かしてみたが、速度は下り455Mbps・上り102Mbpsと見たこともないほどの速度が出ている。アンテナを直接見られる位置で、5万人程度(ま、あまり人が見当たらない場所ではあるが)であれば、こんな速度が出るのかと驚いた。
次に案内してもらったのは、GPスクエアから1コーナー側に向かっての橋を過ぎたあたり。ここからはピットビル屋上に設置された巨大モニタ(サーキットビジョン)を見ることができる。「あそこにあります」と教えてくれた先には、その巨大モニタが。鈴鹿のピットビル屋上には3つの巨大モニタが設置されているのだが、1コーナーから見て手前2つの足元には縦長の5Gアンテナが設置されていた。
これは、グランドスタンドのお客さんに向けたアンテナで、いわゆるV1/V2/A1席向けのアンテナになる。収容力の大きいスタンドに向けて手厚く電波を吹いているわけだ。
ちなみにここも基地局的には、2つのモニタで一つの基地局と数えているそうで、基地局の数はアンテナの数で決まるものではない実例になる。
鈴鹿サーキットで収容力の大きなスタンドと言えば、B1/B2/Cスタンドのある1~2コーナーだろう。ここにも基地局を設置。ただし、鈴鹿サーキットの施設内ではなく、施設外アンテナ。B1/B2/Cスタンドの南に位置する場所に基地局が建てられていた。つまり、背中からの電波となるわけだ。
ただ、この基地局をよく見ると、一部のアンテナは鈴鹿サーキット方向の北ではなく南を向いている。これについて確認してみると、「中勢バイパスで通勤する方のため」とのこと。確かに一年を考えると、鈴鹿サーキットの利用者よりも、中勢バイパスの利用者のほうが多いわけで、基地局の位置によって合理的に考えられていることが分かる。
そして、ここでの計測値は513Mbps・102Mbpsとさらに速い値を記録。金曜日ということもあったが、スタンドを十分にカバーするような強さを持っていることを確認できた。上りが102Mbpsとなっているのは、なんとなく上限コントロールを感じるが、実用上まったく問題ない速度であるだろう。
個人的な感覚だが、上り、下りとも安定して20Mbpsほど出ていれば、SNS投稿はもちろん、ビデオ会議もこなすことができる。10Mbpsを切ると怪しくなるため、そういった場合はビデオ会議は音声のみ参加で、傍聴に徹するのがお勧めだ。20Mbps以上出ているソフトバンクであれば、F1でのDAZN視聴も問題ない。実際、記者も歩きながらFP1などを問題なく見ていた。
ただ、問題はもっと人が増える予選日、決勝日でも同様な速度が出るかどうかだろう。
多くの人が訪れた、予選日と決勝日で確認
基地局の位置を把握したところで、土曜日の予選日に臨んだ。予選日はソフトバンクの人と別れ、記者一人でポイントをさまよう。ピットビル側からパドックトンネルを抜けてGPスクエア側に移動すると、そこはもう人、人、人といった具合。日本でのF1人気の高さを感じるとともに、それでも整然と移動する人たちのマナーのよさを感じる。
最も人の密度が高そうな、GPスクエアステージ前に移動。遙か向こうに基地局のアンテナは見えるが、通信にとってつらい状況であるのは間違いない。
SPEEDTESTアプリで計測した結果は、下り112Mbps・上り19.8Mbpsという結果に。このような人の多い状況でも、移動基地局を使わずに下りで100Mbpsを超えている。さすがに上りは19.8Mbpsと20Mbps切りだが、SNS投稿にはまったく問題のない速度。実際に自分にテスト投稿してみたが、とくに待たされることなく投稿できた。
そのほか、B1/B2/Cスタンド裏などにも行ってみたが、こちらは下り247Mbps・上り33.5Mbpsとさらに快適な状況に。下りの落ち込みを求めて歩いてみたが、最低でも140Mbps程度とGPスクエアにあるスタンドエリアよりは快適だった。
この傾向は日曜日の決勝日も変わらず。決勝日は10万2000人という発表だが、決勝日だけあって鈴鹿サーキットの各スタンドにまんべんなく人が入っており、体感密度的には予選日のイベントステージ前が最高だった。決勝日は、下り200Mbps~150Mbps程度・上り33Mbps程度出ており、上りはことごとく33Mbps程度だったため、そういうコントロールがされているようなイメージだった。もちろん33Mbpsも出ていれば、SNS投稿などへの支障はない。
正直、パドック、パドックトンネル、GPスクエアの最終コーナーから1コーナーにかけて、1~2コーナー裏を歩き回った限り、ソフトバンクの電波に不満を感じることはなかった。鈴鹿サーキットで最も人が入るF1日本グランプリでこれだけの能力があれば、これから夏や秋へ向けて行なわれるSUPER GT、鈴鹿8耐などのビッグイベントでも快適に使えることが予想できる。
鈴鹿サーキットは公共交通機関でも行きやすいサーキットのため、帰路はバスの時刻を調べる、近鉄のネットチケットを確保するなど、電波がつながり、速度が出るメリットを多く感じられる場所でもある。そのため、移動基地局で補強した結果ではなく、恒久的な基地局設置で得られた通信環境であるため、今後も便利に利用できることだろう。1年半前に比べ、容量3.6倍というソフトバンクの通信環境を体感してみてほしい。