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トヨタ豊田章男会長に、TCDからモータースポーツ事業を分割し「トヨタ ガズーレーシング ディベロップメント」を設立した意図を聞く
2024年12月9日 11:58
TCDからモータースポーツ事業を分離して、TGR-Dを設立した背景
11月20日、トヨタ自動車の関連会社である「株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント」(以下、TCD)から、モータースポーツ事業を分離し、2024年12月25日に「株式会社トヨタ ガズーレーシング ディベロップメント」(以下、TGR-D)を設立するとの発表があった。
TCDはトヨタに詳しい人であればよく知られている会社なのだが、事業内容としては「国内・海外向け特装車両の企画・開発・生産・販売・アフターサービス」「輸出用日本生産車への用品架装・特装に関わる企画・開発・生産・販売・アフターサービス(補給部品、関連部品・用品の販売・供給)」「モータースポーツ車両の企画・開発・生産・販売」「MODELLISTA・GR PARTS(トヨタ自動車タイアップカスタマイズ商品、トヨタ販売店特別仕様車)などの企画・開発・販売」「トヨタ自動車からの開発受託(新規車両の企画・開発・試作、エンジン設計・評価)」「トヨタハートフルプラザの運営受託(トヨタウェルキャブ<福祉車両>の展示場)」を行なっている。
ものすごくざっくりまとめると、国内ではモデリスタ、海外ではTRDなどで知られるトヨタ車をベースとしたカスタマイズを行なっているほか、スーパーフォーミュラやSUPER GTで走るレーシング車両の開発、さらにハイメディックで知られる救急車や福祉車両店舗の運営まで多岐に行なっている会社になる。
もともと1つの会社で行なっていた事業というより、トヨタテクノクラフト株式会社、株式会社トヨタモデリスタインターナショナル、株式会社ジェータックスの統合により業務内容が広がっていったのが背景にあり、会社統合の流れで大きくなっていった会社である。
それが、モータースポーツ事業については、今後会社分割を行なうという。その背景について、ラリージャパンでトークショーを終えたばかりのトヨタ自動車 代表取締役会長 豊田章男氏に聞く機会があった。ラリージャパンは、豊田市を中心に行なわれたイベントだけあって、豊田章男氏に話を聞く際には、「セリカ、やります」宣言を行なった中嶋裕樹副社長、東崇徳 総務・人事本部長兼Chief Human Resources Officerらトヨタ首脳陣も同席した。
──12月25日に、トヨタカスタマイジング&ディベロップメントからモータースポーツ事業を分離し、トヨタ ガズーレーシング ディベロップメントを設立するとの発表がありました。この背景について教えてください。
豊田章男会長:特装車(カスタマイズカー)ビジネスと用品ビジネスと、モータースポーツでは違うのです。トヨタ自動車もそうですが、「モータースポーツを起点にしたもっといいクルマづくり」といって、例えばルーキーレーシングにエンジニアの派遣も多く行なっています。多いのですが、せっかくモータースポーツの現場に慣れたときに元部署に戻ると、普通の仕事に戻るわけですよ。
普通の仕事とモータースポーツの現場と何が一番違うかというと、クルマを全体で見ているか、部分で見ているか。やはりクルマ会社の場合、全体を見る経験を持った人を育てていかないとマズイと思います。(トヨタ自動車内部において)号口車両(ごうぐちしゃりょう:トヨタ用語で市場に投入した市販車のこと。豊田自動織機時代に、織機購入者ごとに1号口、2号口としていたことに端を発している。ロットとは異なる購入者本位の考え方)で全部を体験するのは、これは大変です。
モータースポーツの人材育成では、(規模がコンパクトなことから)割とできるわけです。しかしながら、「行ったり来たりさせるのはどうなの?」と。ということでTCDのカンパニーもモータースポーツはモータースポーツで、「モータースポーツを起点にしたクルマづくり」のサプライチェーンってあるよね。人材育成もあるよねと。
本人の希望で行ったり来たり(トヨタ自動車とモータースポーツ車両の現場)もあるでしょうけど、本人の希望でずっとこの分野(モータースポーツ分野)でという人の声も聞いてほしいなという流れにつながるといいなと思っています。
あのねぇ、人事部長がいるんでね(トヨタ自動車 東崇徳 総務・人事本部長がラリージャパンの応援のために来ていた)。あの、そっちを意識した会話をしています。谷川さんを向いているんだけど、実はあの2人(人事担当)に言っています(笑)。
──現在、トヨタにはTOYOTA GAZOO Racingというカンパニー組織がありますが、TGR-DとTOYOTA GAZOO Racingの関係はどうなるのですか?
豊田章男会長:おお、それは……(と、横にいたTOYOTA GAZOO Racing カンパニープレジデント 高橋智也氏にふる)。
高橋智也プレジデント:今後、一緒になりたいと思います。今まで、TGR-Dはレース屋さんだったのです。それを「モータースポーツ起点のもっといいクルマづくり」で融合していこうというのが、今回の狙いです。
──そうすると、現在トヨタが開発中の「なんとかGT3」も、そこから開発されてくる感じなのですか?
豊田章男会長:なんとかGT3って何ですか?
──最近よく聞く、V8エンジンを搭載した……。
豊田章男会長:それは、(セリカ、やります宣言を中嶋副社長が行なった)トークショーでも話題は出ませんでしたね。今回、僕は一生懸命ラリーの話題に、トークショーをラリーの話題に一生懸命戻そうとしていたのだが……。
モータースポーツ人材を育てる道筋を
というわけで、話はラリージャパンの話題になっていった。豊田章男会長の話から分かるのは、ある一定期間でジョブローテーションをしていくより、本人の希望によっては専門職として、モータースポーツの現場にいられるようになることはできないだろうかということ。
いろいろな仕事を覚えて人材をゼネラリストして育っていくのも大切だが、ある意味レースカレンダーに縛られ、納期に厳しいモータースポーツの現場でのスペシャリストを育て、それを市販車(トヨタ用語で号口車両)に活かしていく。GRブランドがかかげるモータースポーツに直結した、よりよいクルマ、ルーツを持ったクルマを出していきたいという意志を感じる。
トヨタカスタマイジング&ディベロップメントから、レーシングマシンを製作しているトヨタ ガズーレーシング ディベロップメントを独立した企業として分離する背景には、専門人材を育てていきたいという背景がある。トヨタのクルマづくりは、2011年3月9日に豊田章男社長(当時)が発表した「TNGA(Toyota New Global Architecture)」で劇的に変わった。「もっといいクルマづくりを通じて、豊かな地域社会づくりに貢献し、『いい町・いい社会』の一員として受け入れられる企業市民を目指す」を掲げ、クルマの部品調達から見直し、いいクルマづくりと同時に、しっかり利益の上がるクルマによる商品ラインアップを構築。利益を上げて地域に税金を納めるとともに、その余力が脱炭素に全方位で取り組む「マルチパスウェイ」戦略につながっている。
TGR-Dが加わることによる「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」が何を生み出すのか。トヨタは号口車両に落とし込むことを目的としてモータースポーツ活動を行なっており、いずれ市販車の形で登場することを期待したい。