インプレッション

テスラ「モデル X P100D」(公道試乗)

SUVと電動パワートレーンの親和性

 ピュアEVであることに加え、最先端のADASを全モデルに搭載したテスラ。主力車種である「モデル S」、コンパクトなボディで日本への導入が待たれる「モデル 3」、そしてSUVで3列シート&最大7人乗りの「モデル X」とボディバリエーションが豊富であり、バッテリー容量やモーター数など好みを反映できることから、今や世界中の富裕層から一目置かれる存在になった。

 今回紹介する「モデル X P100D」の特徴は「テスラ×SUV」であること。単に「EV×SUV」という組み合わせではなく、テスラのSUVであることが重要なのだ。デイリーユースを考えた都市型SUVが販売数を伸ばすなか、モデル Xも同様のコンセプトのもと成り立っている。違うのは、これまでの自動車業界から決別したかのような潔さを感じる点だ。クルマそのものがユニークである以上に、Web上の仮想店舗を上手く採り入れた販売スタイルを確立するなど、ユーザーと対面するスタンスは独創的。

 筆者が感心したのはWeb上で好評だという「新車在庫車」の項目。バッテリー容量や主要装備、さらには最短納車日数などが一覧となって表示され、気になるモデルをクリックするとその車両の詳細情報(年式や所在地など)を見ることができる。また、ここで疑問があればチャット機能でその場にいながら解決へ。徹底してシンプルで、すべてがスピーディた。クルマの買い方、そして付き合い方は人それぞれだが、効率よくお気に入りの1台を手に入れる斬新な売り方&買い方であることは間違いない。

 ところで、ここ数年のSUV旋風は強まるばかりだ。スポーツカーを得意とするメーカーでさえ、ラインアップに1つはSUVがある。こうして世界中の自動車メーカーがSUVをリリースする理由は、高めのアイポイントによる運転のしやすさに加え居住性の向上、さらにはロードクリアランスの確保がしやすい構造上の利点があることだ。また、これに4WDを組み合わせることで雪道など悪条件での走破性能を向上させるという、SUVに不可欠な要素を一挙に満足させることができる。結果、こうして得られた高い付加価値によって車両価格を上げやすく、メーカーとしても高い収益を上げやすい。

 一方で、優れた燃費性能を達成するためにもSUV化は必須だ。大きく重いボディを携えていることから一見すると逆行するようだが、高めやすい全高にそのヒントがある。全高を高めに設計できるということは、キャビンの下に位置するボディ下部にバッテリーを搭載するためのスペースを生み出しやすくなる。よって、PHV(プラグインハイブリッド)としての成り立ちにも無理がない。つまり、人気のSUVにはほとんどの車種にPHVのラインアップがあるのは、高い収益と優れた燃費性能を両立させるためだったのだ。

テスラのクロスオーバーSUV「モデル X」。ボディサイズは5037×2070×1680mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2965mm。今回試乗した「P100D」(航続距離542km)の価格は1649万2000円
ダーク調の22インチホイールにピレリのSUV向けタイヤ「スコーピオン ZERO」(タイヤサイズ:285/35 ZR22)を組み合わせる
リアスポイラーはクルマを起動すると自動的にポップアップ

 そうした背景を受け登場したモデル Xだが、当然ながらPHV化されたSUVとは一線を画す乗り味をもっている。最初からバッテリーを搭載することを目的に開発されたシャシーを使用しているためだ。つまり、EVのSUV化にはメリットしかなく、それは具体的に居住性の大幅な向上を意味する。事実、モデル Xのキャビンはともかく開放感が際立ち、ベージュ系統の「タンレザー」や、アイボリーがかった「ウルトラホワイトシート」を選択した場合のそれは格別で、天井部分のガラス製「パノラミック ウインドシールド」と相まって、SUVにありがちな閉塞感はほとんどない。

 その開放感をさらに向上させるのが「ファルコンウィングドア」の採用だ。後部の両側ドアは横開きではなく、写真のように上方へと持ち上がる。持ち上がる角度に連動してドアが中折れするので、横方向への張り出しは通常のヒンジ式ドアよりも少ないから、狭い駐車場でも真価を発揮する。

 最初はエンターテイメントのために採用されたドア形状かと思っていたが、じつは3列目シートへのアクセス性能も劇的に高く、日本の背高ミニバン並とはいかないものの、それでもこのボディ形状からすると想像以上に身体がスッと車内へと吸い込まれていく。この時、スイッチ操作で2列目シートを前方へ移動させることができるのだが、シート全体が前方、かつ前のめりに前転方向へと動いてくれるので、3列目に座った状態から車外へ出る際にも足を投げ出しやすい。なかなかどうして実用性が高かった。

インテリアでは天井部分にガラス製「パノラミック ウインドシールド」を装備し、ベージュ内装と相まって明るく開放的な印象。試乗車は6名乗車仕様だが、5人乗り、7人乗りも選択できる
3列目からの乗降性もなかなか優れたもの

いつでもどこでも500PS

 走行性能はいつもながらに刺激的。モーター駆動の利点はすでに世間に浸透しているが、テスラは年々、というよりオートパイロットを含む車両制御ソフトなど複数のシステムが頻繁にバージョンアップを受けているため、乗る度にクルマとしての動的な質感がグンと向上する。ここも、これまでの自動車業界とは大きく異なる点だ。

 バージョンアップは通信技術を活用し、その多くがすでに販売されたテスラ各車への適応が可能。一部、初期モデルの場合、ADAS関連のバージョンアップなどにはハードウェアの追加が必要になる場合もあるが、PCやスマホのOSをバージョンアップするかのような手軽な操作だけで制御の大部分がリフレッシュされるため、取材の機会にしかステアリングを握らない筆者にとってもそれは魅力的に映る。

 モデル X P100Dの0-100km/h加速はわずか3.1秒。車両重量2468kg(試乗車のスペックシートに記載)の重量級ボディにここまでの加速力が必要か否かは別にして、「燃費だ、エコだ!」というこの御時世だからこそ一度は味わう価値がある。何しろ、いつでもどこでも前後2つのモーターから4つのタイヤを介して500PS以上の駆動力が伝達されるわけで、撮影の合間の瞬間的な加速ですら呆気にとられてしまうほど。試しにクローズドコースで急加速と急減速を繰り返してみたが、3回目でギブアップしてしまった。明らかに生身の人間が陸上で体感できる日常的なGを遙かに超えている……。

 ただ、前述したようにバージョンアップの効果はテキメンで、モデル X P100Dでは前後モーターの協調が相当滑らかになった。以前試乗したモデル Sでは40km/h程度でゆっくり走行させている際に、前後モーターの同調が完全でなく、速度維持のためにそっとアクセルペダルに足をのせただけの状態ではギクシャクしていた(インバーターやモーターの発する高周波音も音域がズレていた)が、今回は完全同調がとれたようで上質さが際立っていた。

 標準装備の空気バネである「スマートエアサスペンション」の効果もあり、乗り味は大らかだ。重い大径タイヤ(フロント265/35 R22、リア285/35 R22)ながら、小さな凹みもちゃんと足を動かしていなすため、突き上げなどはほとんどない。細かく見れば、荒れた路面が続くとエアサス特有のバタツキが顔を出すものの、激しい加速力や4ピストンキャリパーのガツンとくる制動力をも受け止めると考えれば、このセッティングには納得がいく。

 このように、モデル Xは抜群の開放感と3列シートモデルとしての高い実用性、さらには優れた走行性能を持っていることが分かった。車両価格もベーシックモデルの「75D」であれば1115万円と、輸入SUVのラインアップのなかでは十分に検討範囲に入るはずだ。充電環境が自宅やその周辺に整っているのであれば、ぜひとも試乗されることをおすすめする。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学