試乗レポート
トヨタ「ヤリスクロス」の2WDガソリン/ハイブリッドと4WDハイブリッド、シチュエーションごとそれぞれの違いは?
2020年9月22日 10:10
コンパクトクラスのSUV、ハイブリッドとガソリンの2本立て、後輪モーター方式E-Fourの設定、そして適正価格……。どこから見ても売れ筋で負ける気がしない、それが「ヤリスクロス」の出で立ちだ。今回、2WD(FF)の「ハイブリッドZ」(258万4000円)、「G」(202万円)、4WDの「ハイブリッドG」(262万5000円)の3モデルに試乗した。
最初に筆者の結論だが、マルチな性能と高い所有満足度を得たいのであれば、ハイブリッドG(4WD)の一択。その理由は、ハイブリッドシステムによる十二分なパワー、E-Fourの高い実用性(ヤリスクロスの4WDレポートはこちら)、前後重量配分などからくるしっとりとした乗り心地(とても重要!)にある。ここからは、試乗したシチュエーション別にグレードごとの相違点をレポートしていきたい。
市街地でゆったり走らせたら?
軽い身のこなしが光るのはG(ガソリンFF)。アクセル&ブレーキ操作に対してとても従順で、ギヤ機構付きCVTは歩くような微速での速度コントロールも容易。駐車場内での移動や渋滞時などでも運転しやすい。この軽さはヤリスでも好印象だったところで、Car Watchに寄稿した筆者のヤリスの試乗レポートでも紹介している。
ヤリスの同一名称グレードと車両重量を比較すると、ヤリスクロスは120kg重いが、ギヤ機構付きCVTの最終減速比を約14%ローギヤード化してヤリスと同等の走行フィールを達成。ちなみにギヤ機構部の変速比とCVTそのものの変速比はヤリスと同一。
WLTCモードの燃費数値は、車両重量がかさみ、車高が高く前面投影面積が大きくなるヤリスクロスが1.6km/L劣って19.8km/L。試乗時の市街地燃費数値は14.8km/Lと、WLTC市街地モード15.0km/Lとほぼ同等だった。
ヤリス同様に、ヤリスクロスのガソリンモデルにはアイドリングストップ機構は付かない。よって、信号待ちのアイドリング時にはみるみる燃費数値は下がるものの、ひとたび走り出せばぐんぐん上昇し前述の値に落ち着く。
ところで皆さんはアイドリングストップ機構にどんな考えをお持ちだろうか? 筆者の愛車にはアイドリングストップ機構が付くが、3年に1回程度、専用バッテリーの交換を余儀なくされている。その出費は数万円……。果たしてアイドリングストップ機構は必要なのか……。筆者は、自身が納得できる燃費数値(≒CO2排出量の低減)が達成できるのであれば、アイドリングストップ機構がなくてもいいと考えている。専用バッテリーの製造や、使用済みバッテリーのリサイクルにより排出されるCO2は無視できないからだ。
続くハイブリッドZ(FF)。これはとびきり元気がよくて頼もしい。発進時は駆動モーターによる力強さが全面に出て、一連のTHS IIシステム同様に20km/hあたりを過ぎたころからはエンジン出力も加勢する。
ハイブリッド化で重くなったとはいえ重量増はわずか50kg。計測上は大人1名分弱だ。試乗時の市街地燃費数値も良好で26.7km/Lと、WLTC市街地モード29.4km/Lの約90%を記録した。
惜しいのはちょっとしたギャップでも車体の上下動が大きいこと。今回の試乗はすべて筆者のみで行ない、3モデルとも同じ道を、同じ速度で走らせている。とある凹みを50km/hで乗り越えたとする。すると前輪がコツンと、後輪が小さくガツンとシートを通じて身体に衝撃を与えてくる。振幅そのものは大きくなく揺れも一発で収束するのだが、少しでも路面状況がわるくなると他2モデル(ガソリンFFとハイブリッド4WD)との違いが顕著になった。
ちなみにこの衝撃はヤリスではあまり意識することがなかった。「シートは表皮、骨格、バネ、クッション部含めてすべて共通です」(ヤリスクロス内装設計者)だというが、ヒップポイント上昇に伴い、身長に対する適正なドライビングポジション位置がヤリスから変更になっているため、「着座位置の違いから乗り味に変化が生まれたのではないか」(前出の設計者)とのことだった。
その点、ハイブリッドG(4WD)は出力特性と乗り味がうまくバランスしていて、先の凹みを通過した後の体感衝撃値が小さい。正確には前と後ろのサスペンションが見事に連携し、しっかり上下動をいなしているため身体に伝わる衝撃が少ないのだ。今回の3モデルはともに18インチタイヤを(G、ハイブリッドG 4WDはオプション装備として)装着していたことから、この違いは純粋に乗り比べの結果といえる。
ちょっと気になったので車検証でハイブリッドモデル(試乗車)の前/後重量配分を確認してみると、FFが前62.5%/後37.5%であるのに対して、4WDは前57.4%/後42.6%とFFの前軸重量は5%ほど重い。加えてリアサスペンション形式も駆動方式で違っていて、FFがトーションビーム方式であるのに対して、4WDは2リンク式ダブルウイッシュボーン方式。
これは「後輪用のモーターが搭載されることや、同一グレードのガソリンFFモデルに対して130~140kg重くなることに対応するための策」(プラットフォームの開発者談)というが、相乗効果としてゆったりとした乗り味になったようだ。なお、試乗時の市街地燃費数値は22.8km/Lと、WLTC市街地モード26.4km/L(18インチ装着車の値)の約86%を記録した。
高速道路を走らせたら?
燃費数値と動力性能からみると、ハイブリッドZ(FF)の満足度が高い。アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)、車線中央維持機能(LTA)を機能させ80km/hで淡々と走らせた結果、31.8km/LとWLTC高速道路モード26.1km/Lを22%近く上まわる値を記録する。加減速のアクセル操作に対する余裕も大きく、同時に気持ちにもゆとりが出てくる。なお、ヤリスクロスのACCは待望の全車速対応型となり、電動パーキングブレーキとブレーキホールド機能も追加された。
ただ、ヤリスのハイブリッドモデルと比較すると、たとえば60km/hから80km/hへの一般的な加速時であってもややエンジン音が騒がしいか……。THS IIの減速比が13%ほどローギヤードになっていることも要因だろう。ヤリス、ヤリスクロスが搭載する直列3気筒1.5リッターユニットは、ガソリン/ハイブリッド問わず非常に優秀だが、やはり車内透過音に関しては、この先、さらなる一工夫で洗練度合いをグンと高められるように思う。
G(ガソリンFF)は、市街地走行で感じた“軽い身のこなし”そのままといった印象。筆者1人での試乗では、高速道路走行であっても動力性能に不満はなかったが、正直なところハイブリッドモデル以上にエンジンの車内透過音が目立つ。ストレスなくスムーズにエンジンは上昇するし、パワーも十分、振動も少ないのだが、唯一、加速時のエンジン音量だけが筆者には気になった。
一方、燃費数値は抜群にいい。こちらも80km/h(エンジン回転数は2000rpm)で淡々と走らせた結果、画像で確認できるように29.3km/LとWLTC高速道路モード21.1km/L(18インチ装着車の値)を40%近く上まわる値を記録した。
ハイブリッドG(4WD)では、ハイブリッドZの力強さと、Gの優れた燃費数値に加えて、市街地で感じた美点の1つ“しっとりとした乗り味”が高速道路でもしっかり受け継がれていることが分かった。
高速道路での試乗時には横風が強かったが、クルマそのものの高い直進安定性に加えて、ヤリスクロス全車に標準装備となる横風対応制御が加わったS-VSC(車両挙動安定装置)の効果もあり、非常にリラックスした走行が楽しめた。
一人勝ちのようなヤリスクロスだが、3モデルを通じて気になった点もある。それは先進安全技術のうち、車線中央維持機能であるLTAの制御だ。これはヤリスの公道試乗でも報告している部分で、「センタートレース機能」を使っていると高い頻度で発生する。
今回の試乗ルートである都市高速では、車線が複雑に入り組み、ときに破線などが混じる場面があり、そこでは進行すべき方向とは違う側へ一時的にステアリングへのサポートトルクが発生するこがあった。また、カーブ走行時はタイヤ1~2本分、内側へと寄っていく傾向がある。
ただこうした現象に対しては、クルマばかりを責められない。複雑な道路環境のうち、車線の把握は車載の光学式単眼カメラのみで対応しているからだ。都市高速の白線や破線は路面の補修跡に消されてしまったり、そもそも交通量の多さから消えてしまっていたりするところも多い。分かりやすくシステムにとっても酷な状況なのだ。
加えて、新世代TNGAのプラットフォームは素性がよく、微少なステアリング操作に対してちゃんと反応するように作られている。ブレーキシステムにしてもそうだ。いわゆる「走る、曲がる、止まる」の基本性能が高められているからこそ、先のようなセンサーのちょっとした迷いなどもそのまま挙動として現れてしまう。
日本では、2020年4月の道路交通法改正によってSAE自動化レベル3が法的に許された。
高速道路や自動車専用道路の本線上で、60km/h以下での走行時、HDマップが機能している、ドライバーが前を向いていて、いつでもシステムから発せられる運転操作の権限委譲に対応できるなど、いくつもの作動条件がつくものの、世界に先駆けた高いレベルでの運転操作の自動化は素直に歓迎すべきところ。
ただ、それを迎え入れるわれわれドライバーは、システムの物理的な限界点を事前に知っておくべきであって、システム任せの運転操作はあってはならないと筆者は考えている。レベル3の技術を実装したクルマは現時点販売されていないが、2020年度中には国内メーカーから発売されるとも聞く。よってこの先は、人(ドライバー)とクルマ(システム)との協調運転がさらに重要になっていく。
その意味で、前身である自動化レベル2の技術、すなわちACCとLTAの組み合わせは、多くのヤリスクロスのユーザーに使いこなしてもらうことが大切だ。そして、感じたままを自身の言葉でディーラーの担当セールスマンを通じ、作り手であるメーカーへ伝えていただきたいと思う。
最後に、ヤリスクロスの販売面について。どこの国でも株価は世界の景気に影響を受けるというが、クルマの売れ行きも広告にひっぱられることが多い。いや、30年程前まではそうだった、という表現が正確かもしれない。
そうしたなか、ヤリスクロスが展開するTVCMには久々に興味をそそられた。放映中のそれは、サカナクションによる適度なアップテンポの楽曲と、タイポグラフィーを用いた「CROSS for」メッセージを1980~1990年代風の動きのある動画と組み合わせている。
ヤリスクロスのCMに、クルマ全盛期のTVCMがオーバラップした。最近、筆者がユルいブームの1980年代音楽をYouTubeで観ていることもあり、当時のクルマCMがアプリからおすすめされるのだが、改めてそれらを観ると時に抽象的ながら、作り手のメッセージ性は確実に昨今のそれらより強く、そしてクルマが目指した世界観がストレートに伝わってくる。
同じくヤリスクロスのメッセージ性も強い。コンパクトクラス/SUV/ハイブリッドという、いかにも真ん中直球ストレート。価格もToyota Safety Senseの付かない「X Bパッケージ」が179万8000円、サポカー補助金10万円の対象となる「X」でも189万6000円と、諸費用込みで200万円を少し上まわる程度で購入可能。多くの人にとって手が届くと思える価格帯ではないか。
また、月々コミコミ定額でトヨタやレクサスの新車に乗れるKINTO ONEでは、保険・メンテ・税金込みで4万4500円/月(G 2WDの場合。複数の試算条件あり)でオーナーになれる。効率を優先し面倒をきらう現代人にとって、あとは駐車場代とガソリン代を計算すればよいという分かりやすさは大きな追い風だ。
遡ること21年、1999年1月に初代のヤリス(日本名:ヴィッツ)が誕生した。今回のGA-Bプラットフォームと同じく、NCB(ニューセンチュリーベーシックカー)専用のプラットフォームを当時の最先端技術で開発し、21世紀のモビリティをリードするベストパッケージを目指したクルマとして迎え入れられた。
派生車種として、セダンの「プラッツ」、ミニバンの「ファンカーゴ」がデビューする。このファンカーゴの開発には現スープラや86の開発主査である多田哲哉氏が携わる。当時、多田氏に取材を行なった筆者は、妥協のない走行性能と高い積載性(ミニバイクレース用のトランポに使用)に惹かれファンカーゴを購入した。
2020年は2月のヤリスにはじまり、今回のヤリスクロスと続いた。しかし、トヨタのコンパクトクラスはこれで完結ではないようだ。
「新型ヤリスの物語は始まったばかりです。この先も皆さんに興味を抱いていただけるようなモデルを生み出します」(開発者談)という。ヤリス、ヤリスクロスとも魅力あふれるモデルだが、この先に展開が望めるであろう新世代にふさわしい派生モデルの存在にも期待したい。
【お詫びと訂正】記事初出時、編集部が追加したエンジンの写真キャプションに誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。