試乗レポート

トヨタ「ヤリスクロス」に一般道&高速道路で試乗 シティ派コンパクトSUVの使い勝手、乗り心地、SUV性能を確認

 発売になった「ヤリスクロス」を実際の街に連れ出して乗ってみた。サーキットでは深くは分からない部分、乗り心地や音についてもチェックできる。

 街中で見るヤリスクロスは、意外と大きい。確かに4180mmの全長は短いが、全幅は1765mm、全高は1590mmと「ヤリス」のサイズ(3940×1695×1500mm)よりひとまわり以上大きい。前後オーバーハングと、樹脂製のオーバーフェンダーでさらに大きく見える。塊感のあるヤリス同様にSUVらしいガッチリしたデザインは安定感があり、全高を上げたことで街中でもSUVとしての機動性を感じる。

 試乗車は高速道路を含む公道でハイブリッドの2WD(FF)とE-Four、それにコンベンショナルエンジンの2WD(FF)の3機種を、特設コースではハイブリッドとコンベンショナルの両4WDを試乗して、それぞれの特徴を知ることができた。

撮影車はHYBRID Z(2WD)。価格は258万4000円。ボディカラーはブラスゴールドメタリック。ボディサイズは4180×1765×1590mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2560mm
ガソリンモデルのZ(2WD)。価格は221万円。ボディカラーはブラックマイカ×グレイッシュブルー
Z/HYBRID Zでは切削光輝/センターオーナメント付きの18インチアルミホイールを装着。タイヤはダンロップ製「エナセーブ EC300+」(215/50R18)
最低地上高は170mm
ハイブリッドとE-Fourのエンブレム
ガソリンモデルは最高出力88kW(120PS)/6600rpm、最大トルク145Nm(14.8kgfm)/4800-5200rpmを発生する直列3気筒1.5リッターダイナミックフォースエンジンを搭載し、トランスミッションにはギヤ機構付自動無段変速機の「Direct Shift-CVT」を組み合わせる。WLTCモード燃費は17.4km/L~20.2km/L
ハイブリッドモデルは最高出力67kW(91PS)/5500rpm、最大トルク120Nm(12.2kgfm)/3800-4800rpmを発生する直列3気筒1.5リッターダイナミックフォースエンジンに、リダクション機構付のTHS IIを組み合わせる。フロントモーターは最高出力59kW(80PS)、最大トルク141Nm(14.4kgfm)を発生。4WDはリアに最高出力3.9kW(5.3PS)、最大トルク52Nm(5.3kgfm)を発生するモーターを搭載。WLTCモード燃費は26.0km/L~30.8km/L
インパネ(ガソリンモデル/4WD)
シート。シート表皮は合成皮革+ツイード調ファブリック。パワースライドはワンモーター式となり、スイッチは左から背もたれ、座面高さ、前後移動の3つに分かれる
ステアリング
シフトノブ(ハイブリッドモデル/2WD)
ディーラーオプションのT-Connectナビ
Z/HYBRID Zではカラーヘッドアップディスプレイをオプション設定
ハイブリッドのメーター表示
ガソリンモデルのメーター。走行モードを切り替えるとメーター内の表示も変化する
荷室容量390Lを誇るラゲッジ。Z/HYBRID Z、G/HYBRID GはトヨタのコンパクトSUV初となる4:2:4分割可倒式リアシートを採用。Z/HYBRID Z、G/HYBRID Gは2段階に高さを調節できる6:4分割アジャスタブルデッキボードを備える

3気筒 1.5リッターの軽快な走り

 まずFFのハイブリッドから。プッシュスイッチを入れると一瞬の間があってシステムが起動するのはいつものTHS(トヨタハイブリッドシステム)。大きなディスプレイが見やすく、必要なスイッチは表に出されているのですぐに使える。また、燃費やEV走行比率(時間)がステアリングスイッチで簡単に分かりやく表示され、燃費向上に興味を持ちやすくなりそうだ。

 ドライブポジションはヒップポイントが高く、アップライトのポジションを取り、直前視界に優れているのはSUVの美点だ。

 発進時の滑らかで力強いスタートはヤリス同様でコンパクトカーの領域を超えたもの。動き出してからおよそ20km/hを超えたあたりからエンジン出力も加わって、加速していく。追い越し加速も小気味よく、全開では一瞬の間をおいて力強い加速を見せる。この力強さと3気筒エンジンのコンビネーションは結構好きだ。

 前席の乗り心地では段差乗り越しは突き上げ感が多少あるが、突起乗り下げになるとショックが少なく滑らかだ。突き上げはリアから感じられるものが大きい。バンプストロークの最後でショックを伝えやすくなっているのかもしれない。この感触は高速道路の路面段差でも同様だが、シティユースSUVの性格を考えると全体のまとまりはよいと思う。郊外路の荒れた路面でボディの振動を感じたのも同じ理由と思われる。それでも乗り心地自体はヤリスよりもマイルドに感じられた。

 また後席はクッションストロークはそれほど大きくないが、突き上げ感は意外と小さく、ヒップポイントが高いパノラマシートレイアウトが心地よい。ただシート表皮の張りがあって振動、突き上げなどは伝えやすい。

 リアシートの前後長は抑えられているが、ヘッドクリアランスに余裕があり、斜め後方の広がりも大きい。さらにフロントシート下につま先が余裕で入るので、見た目以上にゆとりがある。大人2人が無理なく座れる空間だ。

 高速道路では全車速対応ACCの使い勝手はよく、前車との追従性は滑らかで実用性が高い。ただレーントレース機能はもう少し感度が鈍い方が使いやすく感じた。この分野での早い技術進化は早晩、これも克服するだろう。

 ハンドリングではステアリングセンターは少し甘いが、操舵感はわるくない。ただし、もう少しステアリングレスポンスが向上するとさらに高いドライバーとの一体感を得られるに違いない。ヤリスよりもゆったりしているが現状でも走りの満足度は大きく、ヤリス兄弟の名に恥じない。

 ノイズに関しては基本的には静粛性に優れているが、高速道路でクルージングした時、路面変化に応じて場合によって大径タイヤのためか(試乗車は215/50R18)少し大きめのパターンノイズが入ってくる。

 また、発進加速ではE-Fourは重量が大きい分、アクセルの踏み量が多く、エンジン回転が上がるため、ノイズが大きく感じられるが、最初のひと掻きを超えると気にならない。

 ハイブリッド E-Fourの重量はFFに対して80kgほど重い。ほぼ後輪荷重で大きくなっているので、上下動はFFよりも前後でバランスが取れており、突き上げ感はあるものの、上下のバウンシングは優れている。

 リアサスペンションはFFのト―ションビームに対して、E-Fourは2リンクのダブルウィッシュボーン。軽快な感じのFFに対して、E-Fourではもう少し動きはマイルドになる。重量増とサスペンション形式の違いは駆動方式以上にヤリスクロスのキャラクターを変えている。

 高速道路での横風に対してはヤリスクロス全車はS-VSCを使った横風制御が導入され、同じ車線を走る他車に比べ、車線維持がしやすかったように思う。とにかく先にヤリスクロスが制御してくれるのでドライバーにはあまり実感がない。

 ハイブリッドバッテリーはリチウムイオンで電気の出し入れが早くなり、モニターを見ていると小まめに電気を回収している。燃費のよさはヤリスの美点の1つだが、ひとまわり大きなヤリスクロスでも受け継いでおり、試乗中、高速道路を含んだ公道でも22km/Lをゆうに超えていた。

 続いてコンベンショナルな1.5リッター 3気筒エンジンのFFに乗る。エンジン始動時は特有の振動と音があるが、透過音についてはもう少し改善幅があるように思う。個人的には3気筒ビートは軽快感があってこれはこれで好ましい。さすがに全開加速ではもう少し抑えたいと思うのも事実なのだが。

 120PSの出力は意外とパワフルでグイグイと力強く走る。ドライブモードのPowerとEcoではかなり差別化されてメリハリが効いている。Powerではアクセルレスポンスもシャープで、低いギヤをキープするので結構スポーティだ。

 ハンドリングもノーズが軽い分、ハンドルを切った時の回頭性も早くフットワークがよい。ハイブリッドとは違った魅力を持っている。ヤリス兄弟らしいドライバーとの一体感のあるSUVの登場である。

シティ派SUVでも高い4WD性能

 では特設コースに移動しよう。こちらではE-Fourとコンベンショナルエンジンの4WDを比較した。コースはスプリットμ路(片側ローラーベアリング路面)のほかに急角度のキャンバーとモーグルが用意されていた。

 E-Fourは駆動モードをダイヤルセレクターでNORMAL、TRAIL、SNOWの3種類から選べる。

E-Fourのモード切替スイッチ

 まずローラーベアリングロードに片側の前後タイヤを乗り入れる。当然NORMALではローラーに乗った側のタイヤが空転してトルクがすべて抜けて立ち往生だ。ではとセンターコンソール上のダイヤルをTRAIL側に回すと、トラクションコントロール解除と共に空転しているタイヤにブレーキ制御が入り、接地している側にトルクが流れて少しのタイムラグでゆっくりとスタックからカバーできた。試しにSNOWにしてみたが、こちらは出力制御をするのみでブレーキまで入らないためスタックからは脱出できない。SNOWモードは雪道などでジワリとトルクをかけてスタートしたい時などに使う。

 続いてコンベンショナルエンジンの4WDでローラーロードに入る。こちらは電子制御トルクカップリングの4WDで、通常はFFで姿勢や路面に応じて後輪に駆動力を分配する。SNOWモードスイッチはダイヤルのマルチテレインセレクトから離れてプッシュスイッチになる。このRAV4譲りのマルチテレインセレクトは、押すとNORMAL、左に回すとMUD&SAND、右に回すとROCK&DIRTと駆動力制御が切り替わる。

ガソリンモデルのマルチテレインセレクトスイッチ

 ローラー路面に片側タイヤが入ると、やはりアクセルを踏んでもトラクションコントロールが効き、力もなく脱出できない。同じく空転しているタイヤからトルクが抜けてしまうのだ。セレクターを右に回したROCK&DIRTでは、トラクションコントロールを解除するとともに空転しているタイヤにブレーキを掛けるので簡単に脱出できる。E-Fourと違うのはエンジン出力を最大に使えるので後輪のトルクが大きく、レスポンスよく脱出できる点だ。

 今度は左に回してMUD&SANDを使ってみる。同じように脱出できるもものの、レスポンスはROCK&DIRTの方が早く、MUD&SANDでは少しタイムラグがありジワリと出る。駆動力制御の仕方が異なり、ジワリとトルクをかけたほうが走りやすいような場面に合わせてのチューニングだ。

片側2輪がローラーに乗り上げるとスタックした状態となるが、モードを切り替えることによって走破できる

 次はモーグルに乗り入れる。かなり前後と左右の勾配があり、アゴを打たないかアプローチアングルが気になるが、最低地上高が170mmと高くフロアを擦ることなく、無理なくよじ登ることができる。もちろん誘導員が前で走行ラインを修正してくれるので走りやすいこともあったが、予想以上に悪路での走破力があるのに驚いた。

 最初のキャンバー路ではE-FourではNORMALでもフロントタイヤが接地しており、最初のこぶは通過。次の対角線に山があるモーグル路ではタイヤが浮いてスタックする。すかさずTRAILモードに入れるとレスポンスが少し遅れて、ゆったりと動き出して無事に通過した。

 おさらいだが、E-FourではTRAILモードだけがブレーキ制御が入り、低いギヤをキープする。また後輪モーターの出力制御は、ブレーキの掴み方がソフトで、レスポンスは鋭くないものの走りやすいモードとして設定されている。速度が上がるとTRAIL制御は解除される。

 一方、コンベエンジン車では同じ状況ではROCK&DIRTモードでE-Fourよりレスポンスが早く脱出するのは一緒で、同じくMUD&SANDでは少しゆっくりと通過した。やはりガソリン車は後輪にもエンジン出力がダイレクトにかかるのが大きい。またROCK&DIRTモードでは25km/hまでは直結モードになるが、それ以上では徐々にFFに戻るという。

 MUD&SANDモードはジワリと路面を掴みながら動くのに適している。ホイールスピンが大きくなって、アクセル開度を大きくするとブレーキ制御が入る。それぞれの目的に応じて制御の仕方が異なっている。

 また今回は試さなかったが、急勾配の下り坂では他社でヒルディセントコントロールと呼んでいるダウンヒルアシストがあり、低車速と姿勢安定性をキープして下り坂を降りられるスイッチが備わる。

 さらに便利機能として、ハイブリッドはメーカーオプションで1500Wまで給電できるコンセントを備えており、災害時に電気を使うことができる。できればこの機能、標準装備にしてほしい。

 ヤリスクロス、シティ派SUVのスタンスは崩さないものの、アウトドアやオフロードでも本気で使えるコンパクトSUVを目指し、それを実現したと思う。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛