【インプレッション・リポート】
セレナS-HYBRID

Text by 岡本幸一郎



 2010年10月に発売され、翌年にミニバン販売台数No.1の座に返り咲いたセレナ(C26型)。そして8月の一部改良で、「セレナS-HYBRID」(2WD)が発売された。S-HYBRIDとは、スマートシンプルハイブリッドを意味する。

 C26型セレナの特徴の1つとして、アイドリングストップからの再始動の際に一般的なセルモーターではなく、オルタネーターによりベルト駆動で再始動させる「ECOモーター」という独自の方式を用いていることが挙げられる。S-HYBRIDは大雑把に言うとその発展形で、回生発電量を増やし、駆動力にも補助的に使えるようECOモーターの容量を大きくするとともに、より多く蓄電できるようサブバッテリーを増設したというものだ。

 ハイブリッドと言うと、バッテリー等を積むために車内や荷室のどこかが狭くなっているものも見受けられるが、セレナS-HYBIRDはシステムがコンパクトなので、すべてがエンジンルーム内に収まっているのが特徴。それ故、セレナの魅力である広い室内空間やシートアレンジ性がまったく犠牲になっていない。3列目後方の床下スペースもそのままだ。

 そして、後述するが他の改良も含め、JC08モード燃費は従来に対して1.0km/L向上し、発売時点でクラスNo.1の低燃費となる15.2km/Lを達成。これによりエコカー減税についても、従来は75%減税だったところ、クラス唯一の100%免税となった。

試乗車はハイウェイスターG S-HYBRID。ボディーサイズは4770×1735×1865mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2860mm。車両重量は1660kg

直列4気筒DOHC 2リッター直噴のMR20DD型エンジン。最高出力108kW(147PS)/5600rpm、最大トルク210Nm(21.4kgm)/4400rpmを発生。JC08モード燃費は15.2km/Lを達成している

重量増でも加速フィールは異なる
 今回の改良における内外装の変更点を挙げると、エクステリアでは「S-HYBRID」を表すバッヂを追加したほか、前後ランプではヘッドライトにブルーインナーレンズを追加し、リアではクリアタイプの高輝度LEDリアコンビランプとハイマウントストップランプを装備。また、ボディーカラーのバリエーションを変更し、「フーガ ハイブリッド」と同じエターナルスノーホワイトや、クリスタルミストを設定した。

 インテリアでは、2列目と3列目の中央席に3点式シートベルトを採用したのが大きな変更点。但し中央席にヘッドレストは与えられなかった。また、メーター内にアイドリングストップや回生、アシスト時など、ハイブリッドシステムが作動した際に点灯する「S-HYBRID」の表示機能が加わった。

 搭載する直列4気筒DOHC 2リッター直噴のMR20DD型エンジンは、2WDで最高出力108kW(147PS)/5600rpm、最大トルク210Nm(21.4kgm)/4400rpmを発生。モーターのスペックは、最高出力1.8kW(2.4PS)、最大トルク53.6Nm(5.5kgm)で、イメージとしてはスターターモーターと大差ない。

 組み合わせるエクストロニックCVTについては、従来よりも変速比をワイドレシオ化し、発進時に素早く加速できるようにするとともに、車速がのったときにはハイギアードにすることで燃費を向上させていると言う。ハイブリッドシステムの搭載や装備の追加等により、車両重量がカタログ記載値で従来比で30kg増となっているにも関わらず、これらの恩恵で加速フィールもいくぶんリニアになっている。また、条件が整うとモーターの出力が駆動力に上乗せされるのだが、それはほんのわずかで体感できるほどではなく、メーターの表示を見る限り、そうなることは滅多にない。

 また、エンジンを停止してEV走行することもない。S-HYBRIDだからといって従来モデルと何か大きな違いがあるわけではなく、運転して「ハイブリッド」であることを実感するシチュエーションはあまりない。

 もともとECOモーターを採用するセレナは、アイドリングストップ時の停止の仕方や再始動が非常にスムーズで、それはもちろんS-HYBRIDでも同様だ。そしてS-HYBRIDでは、よりアイドリングストップする頻度が上がり、長い時間エンジンを停止するようになっていると言う。従来に比べてどのくらい変わったのかは、厳密に比較しないと分からず、試乗時は残暑の厳しい気候でエアコンを強く作動していたため、余計にそうだったと思うのだが、ポテンシャンルとしてはより積極的にアイドリングストップするようになっていることをお伝えしておこう。

 また、タイヤの銘柄が変更となり、指定空気圧が高められた。これにより転がり抵抗が小さくなったことも体感できる。サスペンションのセッティングにまったく変更はなく、路面への当たりにやや固さが感じられるようになったものの、このくらいは許容範囲内で、乗り心地がわるくなったという程ではない。どうしても気になるようなら、空気圧を少し落とせばよいだろう。

S-HYBRIDは「ハイブリッド」なのか?
 とにかく、こうした制御やタイヤの変更の甲斐あって、クラス最高の燃費を実現したわけだが、S-HYBRIDのことを果たしてハイブリッドと呼んでよいものかという声も小さくないようだ。

 確かに、既存の“いわゆるハイブリッド”とは異質のものであることには違いない。しかし、S-HYBRIDは「ハイブリッド」ありきで開発したわけではないと日産の開発陣は述べる。ユーザーにとって本当に有益なことを、なるべく販売価格の上昇を招くことなくやろうとチャレンジした結果の産物であり、それがたまたまハイブリッドと呼べるものに仕上がった、というニュアンスらしい。

 「ハイブリッド」という名称が欲しいがためにやったと受け取られては、日産としては不本意だろう。実際にも燃費は向上し、実質的なユーザー負担も小さくなっているのだから、それでよいのではないかと思う。

 また、後席全席への3点式シートベルトの採用はよしとして、中央席にヘッドレストがないことを指摘する声も聞かれる。確かにあったほうがよいことには違いないが、それについて頭ごなしの言い方をするのはどうかと思う。中央席にあまり人を乗せる機会のないユーザーにとっては、それほど大きな問題ではないだろう。

室内サイズは3060×1480×1380mm(室内長×室内幅×室内高。パノラミックルーフ付きは高さが1340mm)

室内は広く、シートアレンジも豊富
 さて、セレナがこれほど人気を博している最大の要因は、やはり室内の広さだろう。その広さ感をさらに活かす、面積の大きいガラスウインドーにより、どのシートに座っていても大きな開放感を味わうことができる。さらに、セレナならではのスマートマルチセンターシートを活用して、シートアレンジはホンダ「ステップワゴン」やトヨタ「ノア/ヴォクシー」といった競合車と比べても、圧倒的に多い14通りものバリエーションが可能だ。このクルマを手に入れると、いかにも楽しい休日を送れそうな気分になれる。

 また、2列目にはロールサンシェードや両端を倒して頭部をサポートさせることのできるヘッドレストを設定したほか、3列目にはシートのサイズやクッションの厚みを十分に確保した座り心地のよいシートを用意し、跳ね上げた際にもできるだけ低い位置に収まるようにして、開放感を損なわないようにするなどといった心配りも抜かりない。

 走りについても、重心が高く、トレッドが狭く、重量や剛性の面でも不利なことばかりの形であるはずだが、いざドライブすると軽快で運転しやすく、乗り心地もまずまずで、上手くまとめられていると思う。ハイスピードダンピングコントロールショックアブソーバーの採用も効いてか、先代のC25型で気になった突き上げや跳ねもなく、概ね快適に仕上がっている。

 価格は、もともとセレナは競合車に比べて若干高めの設定となっているが、これだけ売れているということは、それを補って余りある魅力をユーザーが感じ取っているからにほかならないだろう。

 そして今回、従来に比べてどうなったかというと、売れ筋のハイウェイスター(2WD)の場合で、電動スライドドアの標準装備化といった装備の向上分を除くと、わずか8400円の上昇にとどまる。加えて、エコカー減税が75%減税から100%免税となったことで、減税額がさらに3万8400円優遇されるため、購入者にとっては実質的に3万円の負担減となるわけだ。

室内の広さに加え、面積の大きいガラスウインドーなどによってどのシートに座っていても大きな開放感を味わうことができる。従来からの特長である広い室内空間やシートアレンジ性はまったく犠牲になってなく、3列目後方の床下スペースも従来モデルと変わりない

ライダー S-HYBRID

 そして、オーテックジャパンが手がけた2モデルについて。

 おなじみライダーは、メッキを多用したグリルをはじめ専用のエクステリアパーツや、専用のシート地やカーボン調のインテリアパネルを与えるなど、精悍な内外装としたモデル。さらに「パフォーマンススペック」には、専用チューンドサスペンションおよびタイヤ&ホイール、パフォーマンスダンパーを与えたほか、ボディー補強を実施。あまり快適性を損なうことなく、ロールを抑えたスポーティな走りを身に着けている。走りにこだわるユーザーに、ぜひオススメしたいモデルだ。

 一方の新しいクロスギアは、エクストレイル譲りの防水シートや、夜にランタン等を吊るすのに重宝するバックドアインナーフック、2列目と3列目のアシストグリップをつないだロングアシストレールなど、アウトドアユースに向けた装備を充実させたモデル。よりアクティブなカーライフを楽しませてくれそうだ。

購入時のデメリットは何もない
 こうしたモデルを展開するセレナS-HYBRID。いわゆるハイブリッドらしさに期待すると物足りないのは否めないが、購入時の負担は前述のとおりだし、実燃費も向上しているだろうから、長く使えばバッテリーの交換があるにせよ、基本的にはデメリットは何もないと考えてよい。さらに魅力的になったと言える。

 ひとまず、来年モデルチェンジしてハイブリッドの追加がウワサされるノア/ヴォクシーや、ハイブリッド開発中との情報も聞かれるステップワゴンの登場まで、セレナの独走が続きそうだ。

 また、セレナS-HYBRIDの発売に合わせて、日産では旧型セレナの認定中古車制度を開始した。修復歴のない、走行5万km以下の個体が認定の対象となり、室内消臭やエアコン洗浄などの特典も付く。これにより良質な中古車を安心して選べるようになったことをお伝えしておこう。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 10月 1日