インプレッション

ランボルギーニ「アヴェンタドール」(公道試乗編)

初めて公道をドライブ

 約2年ぶりに「アヴェンタドール」に触れるチャンスが訪れた。前回はサーキットのみの試乗(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/20120626_541986.html)だったので、公道をドライブするのは初めてとなる。発売から2年あまり経つとはいえ、街で見かける機会などめったにないアヴェンタドールだが、車両を借り受けた都心のディーラーでは、2014年4月の時点ですでに40台を超えるオーダーがあるそうだ。

 久々に目にした、現実的な風景の中に置かれたアヴェンタドールの姿は、やはり変わらぬ大きなインパクトを持っていた。ランボルギーニの歴代フラグシップモデルが採用している跳ね上げ式のドアも、やはりこうなっているだけでスーパーカーとしての価値ががぜん高まるというものだ。

 それにしても大そうなデザインだなと改めて思う。ボディーに刻まれた無数のパーティングラインまで、このクルマの場合はデザインを構成する要素になっているし、ところどころに設けられたダクトや尖った部分も視覚上のアクセントになっている。鮮烈なグリーンに彩られた車体が、より存在感を際立たせている。タイヤサイズのサイドウォールには、あまり見かけることのないサイズを示す数字が刻まれている。355/25 ZR21という極太のリアタイヤは迫力満点だ。

 前回はサーキットで限界性能を試し、ランボルギーニの固定概念を打ち破る、その現代的に洗練された走りに感銘を受けた。そして今回は、アヴェンタドールが現実的なシチュエーションでどのような世界を体験させてくれるかを試す機会だ。

 車両価格は、2014年4月に消費税が上がったことで4317万3000円となった。とても庶民に手の届く代物ではないし、この業界に身を投じて久しい筆者にとっても、滅多に乗る機会などないのだが、アヴェンタドールがどのような乗り物なのか、記事を読んで少しでも乗った気分を味わっていただければ幸いだ。

アヴェンタドールのボディーサイズは4780×2030×1136mm(全長×全幅×全高)と、低くてワイドなのが特徴。ホイールベースは2700mm。前後重量配分は43:57とややリア寄り
跳ね上げ式のドアを開けたところ
高効率のエアロダイナミクスを身にまとうアヴェンタドールのモノコックは、軽量なカーボンファイバー製を採用。フロントボンネット、前後フェンダー、ドアなどはアルミ製で、乾燥重量は1575kgとした
撮影車のホイールはフロント20インチ(タイヤサイズ:255/30 ZR20)、リア21インチ(タイヤサイズ:355/25 ZR21)で、ピレリのハイパフォーマンスタイヤ「P ZERO」を装着。ブレーキシステムはフロント6ピストン(ローターサイズ:400×38mm)、リア4ピストンキャリパー(ローターサイズ:380×38mm)を採用している
カーボン製の可変リアスポイラーは通常は格納されているが、速度によって立ち上がる構造

特別感に満ちたコクピット

 極端に低いシートポジションを持つコクピットに滑り込むと、なんだか自分がとてつもない力を手に入れたような気分になる。

 2mを超える全幅と、わずか1.1mあまりしかない全高。レザーやカーボンを多用したインテリアの仕立てのよさも印象的で、これまた特別感に満ちている。TFTディスプレイを採用した目の前にあるメーターは先進性を感じさせる。

 センターコンソールにあるボタンを押すと、勇ましいブリッピング音とともに新世代のV12エンジンが目覚める。走り出すと周囲からの視線がものすごい。V12エンジンが奏でる豪快なサウンドに気づいて振り返る人もいる。最近ではフェラーリやポルシェに乗っていても、それほど見られることなどないのだが、アヴェンタドールで感じる視線の熱さはまったく別次元だ。まるで自分が、何かの“主人公”にでもなったかのようだ。見慣れた景色も、このクルマの中から眺めるとまったく違って見える。

 前回はサーキットを全開で走行し、その完成度の高さに舌を巻いたのだが、こうして普通にドライブすると意外なほど乗りやすいことに感心する。むろん視界は良好とはいえないものの、想像していたほどわるくはなくて、市街地をドライブするのもさほど苦にならない。サイドウインドーはより低い位置までえぐられているし、横に張り出した大きなドアミラーも死角をよくカバーしている。後方視界についても、ウインドーの天地方向は短いものの、必要最低限は確保されている。

 地を這うような低さだが、高めの段差を乗り越えなければならない状況でも、車高を調整できるフロントリフティングシステムがあるので問題ない。

レザーやカーボンが多用されたレーシーかつ上質なインテリア。アヴェンタドールのシフト操作は、センターコンソールの後方側にある「R(リバース)」「M(マニュアル)」ボタンおよびパドルシフトで行う。また、センターコンソールに用意されるスイッチで「STRADA」「SPORT」「CORSA」の3モードの走行モードを選択できる

日常性と非日常性の両面を極めた

パワートレーンはV型12気筒DOHC 6.5リッターエンジンと7速ISRと呼ばれるシングルクラッチ・シーケンシャルトランスミッションの組み合わせで、駆動方式は4WDとなる。最高出力は515kW(700PS)/8250rpm、最大トルクは690Nm/5500rpm。最高速は350km/h、0-100km/h加速は2.9秒を実現

 とてつもないスペックを誇るV12エンジンは、もちろん踏み込むとその先に爆発的な世界が待っているのは体験済みだが、4000rpmあたりまでの走りは意外にも控えめ。そんな中でも、背後で奏でる豪快なV12サウンドをずっと楽しめるところもこのクルマならではである。

 7速の「ISR(インディペンデント・シフティング・ロッド)」と呼ばれる2ペダルのAMTはあまり気難しさを感じさせることもなく、その高性能エンジンの実力を引き出してくれる。ドライブセレクトモードの選択によってシフト特性も変わるが、やはり公道を走るには適度にマイルドな標準の「STRADA」モードが適する。

 シャシーの味付けは、ランボルギーニとしての主張からか、あえてスパルタンな雰囲気を確信的に与えたかのようだ。やろうと思えばもっとしなやかなセッティングにできたはずだが、“そんな軟弱な乗り物は好まない”とばかりに、承知の上でひとクセ残したものと思わずにいられない。

 ステアリングにはしっかりとした手応えがあり、やや硬めの足まわりはカーボンボディーによる特有の振動吸収性と減衰感とともに、けっして不快ではない範囲で路面の状況をダイレクトにドライバーに伝えてくる。このあたりは、最近のフェラーリがかなり快適性重視の路線を採っているのとは趣を異にする部分だ。

 通常走行時には4WDであることをほぼ感じることはないが、急加速を試みると、後ろ足で蹴りながら前足で引っ張ることで、踏み込んだ瞬時に踏んだだけ加速してくれる。これには、新たにハルデックス製となった4WDシステムの恩恵があることに違いない。そして高速道路をクルージングするような状況では、極めてフラットで安定感のある走りを披露する。非日常的な世界を味わわせてくれながらも、一方では非常に日常的な安全性を意識した、両面を極めたスーパースポーツであることがうかがえる。

 それにしても、アヴェンタドールのようなクルマがよくぞ存在してくれることと思う。買うのは無理でも、こういうクルマがこの世に存在してくれるだけで嬉しい。夢があっていいではないか。またいつか何かの機会に、ひとときを過ごせることを楽しみにしていよう。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸